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超原子価ヨウ素化合物
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[[File:Dess-Martin periodinane.svg|thumb|150px|[[デス・マーチン・ペルヨージナン]]]]'''超原子価ヨウ素化合物'''(ちょうげんしかヨウそかごうぶつ、{{lang-en-short|hypervalent iodine compounds}})は、[[超原子価]][[ヨウ素]]を含む[[化合物]]である。 これらの化合物中のヨウ素[[原子]]は、[[オクテット則]]が要する8個より多くの[[電子]]をもつため、超原子価となっている。ヨウ素が[[塩素]]のような一座配位性の[[電気陰性]]な[[配位子]]と[[錯体]]を形成するとき、[[酸化数]]+3のヨウ素(III) '''λ<sup>3</sup>-ヨーダン'''、もしくは+5のヨウ素(V) '''λ<sup>5</sup>-ヨーダン''' の化合物が生じる。ヨウ素自身は7個の[[価電子]]をもち、λ<sup>3</sup>-ヨーダンではヨウ素を'''デセット''' ({{lang-en-short|decet}}) 構造にする配位子によってさらに電子3個が供与される。λ<sup>5</sup>-ヨーダンは'''ドデセット''' ({{lang-en-short|dodecet}}) 分子である。 [[ヨードベンゼン]]のような通常のヨウ素化合物の価電子数は、予測されたように8である。このような1価のヨウ素化合物から3価や5価の超原子価ヨウ素化合物を得るためには、まず[[酸化]]により2個、もしくは4個の電子を除去し、配位子はそのヨウ素に2対または4対の電子対を供与して[[配位結合]]を形成する必要がある。'''L-I-N''' で、L は供与される電子の数、N は配位子の数を表す。 == ペルヨージナン化合物 == '''ペルヨージナン''' ({{lang-en-short|periodinane}}) は、ヨウ素(V)を含む化合物の慣用名である。超原子価ヨウ素の概念は1969年に J.J. Musher によって確立された。超原子価化合物中の過剰な電子に対応するため、[[電子不足]]化合物で見られる[[三中心二電子結合]]に類似した[[三中心四電子結合]]が導入された。そのような1本の結合がヨウ素(III)化合物に、2本の結合がヨウ素(V)化合物に存在する。 最初の超原子価ヨウ素化合物、[[(ジクロロヨード)ベンゼン]] C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>Cl<sub>2</sub>I は、冷却した[[ヨードベンゼン]]の[[クロロホルム]]溶液に塩素を通じることで、1886年に Conrad Willgerodt によって合成された<ref>C. Willgerodt, Tageblatt der 58. Vers. deutscher Naturforscher u. Aertzte, Strassburg '''1885'''.</ref>。 :<chem>C6H5I + Cl2 -> C6H5ICl2</chem> ジアリールクロロヨーダンのようなλ<sup>3</sup>-ヨーダンは、2対の[[孤立電子対]]と1つの[[フェニル基]]がエカトリアル位、クロロ基と1つのフェニル基がアピカル位を占める[[アピコフィリシティー]]<ref group="注釈">電気陰性な置換基がアピカル位を優先的に占めるという位置選択性。</ref>を示す擬[[三方両錐形]]構造をもつ。[[デス・マーチン・ペルヨージナン]]のようなλ<sup>5</sup>-ヨーダンは、フェニル基がアピカル位、他の4つの[[ヘテロ原子]]が底面を占めた[[四角錐形]]構造をもつ。 [[過酢酸]]や[[酢酸]]と[[ヨードベンゼン]]から'''(ジアセトキシヨード)ベンゼン'''を合成する古典的な製法がある<ref>{{OrgSynth | title = Benzene, iodoso-, diacetate | author = J. G. Sharefkin and H. Saltzman | collvol = 5 | collvolpages = 660 | prep = cv5p0660}}</ref>。 :<chem>C6H5I + CH3COOH-> C6H5I(OOCCH3)2</chem> '''フェニルヨウ素ビス(トリフルオロアセタート)'''、'''PIFA''' または'''[[(ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード)ベンゼン]]'''は、[[トリフルオロ酢酸]]に関連した化合物である。 '''(ジアセトキシヨード)ベンゼン'''、'''PIDA''' は、[[酸化剤]]として使われる有機試薬である。これは[[グリコール]]を開裂させるのに適している。また、遷移金属を用いたC-H活性化反応に広く用いられている<ref>Sharon R. Neufeldt and Melanie S. Sanford Acc. Chem. Res, 2012, 45, 936, DOI: 10.1021/ar300014f</ref>。 このアセタートは水によって[[加水分解]]されて[[ヨードキシベンゼン]] C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>IO<sub>2</sub> を生じる<ref>{{OrgSynth | title = Benzene, iodoxy- | author = J. G. Sharefkin and H. Saltzman| collvol = 5 | collvolpages = 665 | prep = cv5p0665}}</ref>。この化合物は初め Willgerodt により、ヨードシルベンゼンを[[水蒸気蒸留]]する際に起こる[[不均化]]によって合成された。 : 2 PhIO → PhIO<sub>2</sub> + PhI これは酸化剤として知られている。 [[ヨードシルベンゼン]]は、実際は[[化学式]]が (C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>IO)<sub>n</sub> と表される[[ポリマー]]で、[[水酸化ナトリウム]]によって(ジアセトキシヨード)ベンゼンを加水分解することにより調製される<ref>{{OrgSynth | title = Benzene, iodoso- | author = H. Saltzman and J. G. Sharefkin | collvol = 5 | collvolpages = 658 | prep = cv5p0658}}</ref>。ヨードシルベンゼンは優れた酸素原子供与体として、典型元素化合物やアルケンの酸化反応、および他の三価の超原子価ヨウ素化合物の合成前駆体として広く用いられているほか、生物有機化学の分野でも酸化酵素の反応機構研究に用いられている。 デス・マーチン・ペルヨージナンは、すでに存在する別の強力な酸化剤[[2-ヨードキシ安息香酸]](IBX)を改良したものである。IBXは[[2-ヨード安息香酸]]と[[臭素酸カリウム]]、[[硫酸]]から合成される<ref>{{OrgSynth | title = 1,2-Benziodoxol-3(1H)-one, 1,1,1-tris(acetyloxy)-1,1-dihydro- | author = Robert K. Boeckman, Jr., Pengcheng Shao, and Joseph J. Mullins| collvol = 10 | collvolpages = 696 | prep = v77p0141}}</ref>。IBXはほとんどの溶剤に不溶性なのに対して、IBXと[[無水酢酸]]から合成されるデス・マーチン・ペルヨージナンは典型的な有機溶媒に対して溶解性が高い。 デス・マーチン・ペルヨージナンによる酸化機構は通常、[[配位子交換反応]]とその後の[[還元的脱離]]からなる<ref>Daniel B. Dess, J. C. Martin, J. Am. Chem. Soc. 1991, 113, 7277</ref>。 == ジアリールヨードニウム塩 == '''ジアリールヨードニウム塩''' ({{lang-en-short|diaryliodonium salt}}) は [Ar-I<sup>+</sup>-Ar]X<sup>-</sup> のタイプの[[塩 (化学)|塩]]である<ref>''Diaryliodonium Salts: A Journey from Obscurity to Fame'' Eleanor A. Merritt and Berit Olofsson [[Angew. Chem. Int. Ed.]] '''2009''', 48 {{DOI|10.1002/anie.200904689}}</ref>。この塩の名称は紛らわしく、[[IUPAC]] はジアリール-λ<sup>3</sup>-ヨーダンという名称を推奨している。このような化合物は1894年に初めて合成された('''マイヤー・ハートマン反応''')<ref>C. Hartmann, V. Meyer, Ber. Dtsch. Chem. Ges. 1894, 27, 426.</ref>。対イオンの[[ハロゲン化物]]イオンにより、ジアリールヨードニウム塩はあまり[[有機溶媒]]に対する可溶性をもたない。しかし、[[トリフラート]]や[[テトラフルオロホウ酸]]塩とすることで溶解性を改善できる。 ジアリールヨードニウム塩は多くの方法で合成することができる。1つの合成法は、まずヨウ化アリールをアリールヨウ素(III)化合物 (ArIO, ArIO2) に酸化し、次にアレーン([[芳香族求電子置換反応]])、[[アリールスタンナン]]または[[アリールシラン]]と配位子交換する方法である。また、前もって準備しておいた[[ヨウ素酸]]、硫酸ヨードシル、ヨードシルトリフラートのような超原子価ヨウ素化合物から合成する方法がある。 ジアリールヨードニウム塩は、配位子の1つを交換しているヨウ素を[[求核剤]]として反応し、配位子による置換、または還元的脱離によって置換アレーン ArNu とヨードベンゼン ArI を形成する。 また、ジアリールヨードニウム塩は[[金属]] M と反応して[[中間体]] ArMX を経由する[[クロスカップリング反応]]を起こす。 == ペルヨージナンの利用 == 超原子価ヨウ素化合物は、主に多くの[[重金属]]ベースの有毒な試薬を置き換える酸化剤として利用される<ref>''Hypervalent iodine(V) reagents in organic synthesis'' Uladzimir Ladziata and Viktor V. Zhdankin [[Arkivoc]] 05-1784CR pp 26-58 '''2006''' [http://www.arkat-usa.org/ark/journal/2006/I09_General/1784/06-1784CR%20as%20published%20mainmanuscript.pdf Article]</ref>。 現在の研究では、炭素-ヘテロ原子結合および炭素-炭素結合形成反応における利用に焦点が当てられている。そのような研究の1つに、[[トリフルオロエタノール]]中の触媒量のヨウ化アリールによる、[[アルコキシヒドロキシルアミン]]の[[アニソール]]基への分子内C-Nカップリングがある<ref>{{cite journal|last1=Dohi|first1=Toshifumi|last2=Maruyama|first2=Akinobu|last3=Minamitsuji|first3=Yutaka|last4=Takenaga|first4=Naoko|last5=Kita|first5=Yasuyuki|title=First hypervalent iodine(iii)-catalyzed C–N bond forming reaction: catalytic spirocyclization of amides to N-fused spirolactams|journal=Chem. Commun.|issue=12|year=2007|pages=1224–1226|issn=1359-7345|doi=10.1039/B616510A}}</ref>。 [[File:HypervalentIodineCNbondFormation.png|center|400px|C-N結合形成反応を触媒する超原子価ヨウ素(III)]] この反応において中間体 A として示されるヒドロキシヨーダンは、ヒドロキシルアミン基を順番に[[ナイトレニウムイオン]] B に変換する[[犠牲触媒]] [[mCPBA]] を伴うヨウ化アリールの酸化によって生じる。このナイトレニウムイオンは、[[エノン]]基と[[ラクタム]]を形成している芳香環への[[イプソ付加]]における[[求電子剤]]である。 == 注釈 == {{Reflist|group="注釈"}} == 出典 == {{Reflist}} == 外部リンク == * [https://www.organic-chemistry.org/Highlights/2005/25May.shtm Hypervalent Iodine Chemistry] {{DEFAULTSORT:ちようけんしかようそかこうふつ}} [[Category:超原子価ヨウ素化合物|*]]
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