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'''超酸化物'''(ちょうさんかぶつ、{{lang-en|superoxide}})とは、'''スーパーオキシド[[イオン (化学)|アニオン]]'''([[化学式]]: {{Chem|O|2|-}})を含む[[化学物質]]の総称である。自然界では[[酸素分子]]({{Chem|O|2}})の一電子還元により広範囲に生成している点が重要であり<ref>{{cite journal|year=2014|title=Superoxide chemistry|url=http://accessscience.com/content/superoxide-chemistry/669650|ref=harv|first1=Donald T.|last1=Sawyer|doi=10.1036/1097-8542.669650}}</ref>、1つの[[不対電子]]を持つ。スーパーオキシドアニオンは、二酸素と同様に[[ラジカル (化学)|フリーラジカル]]であり、[[常磁性]]を有する。一般に[[活性酸素]]と呼ばれる化学種の一種である。 [[ファイル:superoxide.svg|thumb|right|150px|[[ルイス構造式|ルイス式]]で表したスーパーオキシドアニオン。それぞれの[[酸素]]原子に存在する、6つの外殻電子を黒点で表している。周りにある電子対は2つの酸素原子に共有され、左上には[[不対電子]]があり、(イオン化の時に)付加した電子による負電荷は赤点で表す。]] == 生成、基本的な反応、構造 == 超酸化物の酸素原子はそれぞれ[[酸化数]]が−1/2である。{{Chem|O|2|-}}のO–O結合距離は{{Val|1.33|ul=Å}}であり、それに対して、{{Chem|O|2}}では{{Val|1.21|e=|u=Å}}、{{Chem|O|2|2-}}では{{Val|1.49|u=Å}}である。 {{Chem|O|2}}とアルカリ金属とを直接反応させることで、[[超酸化セシウム]]({{Chem|CsO|2}})、[[超酸化ルビジウム]]({{Chem|RbO|2}})、[[超酸化カリウム]]({{Chem|KO|2}})、[[超酸化ナトリウム]]({{Chem|NaO|2}})が生成する<ref>{{Cite book|title=Inorganic Chemistry|date=|year=2001|publisher=Academic Press|ISBN=0-12-352651-5|location=San Diego|author1=Holleman, A. F.|author2=Wiberg, E.}}</ref>。{{Val|500|ul=degC}}、{{Val|300|ul=気圧}}以下の条件下では[[過酸化ナトリウム]]({{Chem|Na|2|O|2}})が生成するので超酸化ナトリウム({{Chem|NaO|2}})を生成するには500 {{℃}}、300気圧の高温高圧が必要である。[[マグネシウム|Mg]]、[[カルシウム|Ca]]、[[ストロンチウム|Sr]]、[[バリウム|Ba]]など[[アルカリ土類金属]]が酸素と反応した場合は相当する過酸化物塩が主生成物となり、副生成物(すなわち不純物)として相当する超酸化物塩が含まれる。 超酸化カリウムは{{Chem|O|2|-}}試剤として通常採用される試薬である。純度は{{Val|96|e=|u=%|p=~}}であり不純物としては過酸化カリウムを含む<ref name="Cotton,Wilkinson,Adv.InorganicChem.6th">{{Cite book|author=|title=Advanced Inorganic Chemistry|edition=6th|date=|year=1999|publisher=John wiley & sons,inc|ISBN=0-471-19957-5|pages=461–462|author1=F.A.Cotton|author2=G.Wilkinson|author3=C.A.Murillo|author4=M.Bochmann}}</ref>。 還元の過程では結合次数は{{Chem|O|2}}の2、{{Chem|O|2|-}}の1.5、{{Chem|O|2|2-}}の1へと変化する。 超酸化物と[[第1族元素|アルカリ金属]]との[[塩 (化学)|塩]]は橙〜黄色の結晶で乾燥状態では極めて安定である。しかし水に溶かすと、{{Chem|O|2|-}}は速やかに[[不均化]]する<ref name="Cotton,Wilkinson,Adv.InorganicChem.6th"/>。 : <chem>2O2^- + H2O -> O2(g) + HO2^- + OH^-</chem> : <chem>2HO2^- -> O2(g) + 2OH^-</chem> (律速) この反応において {{Chem|O|2|-}}は強い[[酸と塩基|ブレンステッド塩基]]として作用し、最初は[[共役酸]]の{{Chem|HO|2}}([[ヒドロペルオキシルラジカル]])が生成する。しかしその{{pKa}}は4.88であるため、中性条件の[[水素イオン指数|pH]] 7では超酸化物の大部分は{{Chem|O|2|-}}イオンとして存在する。 固体の塩も加熱により分解する。 : <chem>2NaO2 -> Na2O2 + O2(g)</chem> この反応は[[スペースシャトル]]や[[潜水艦]]で使用される[[化学酸素発生装置]]で超酸化カリウムが酸素源として利用される原理となっている。あるいは超酸化物は[[消防隊員]]の[[酸素タンク]]の酸素源としても既に利用されている例がある。下記の反応のように閉鎖系で二酸化炭素の回収剤としても利用される<ref name="Cotton,Wilkinson,Adv.InorganicChem.6th"/>。 : <chem>4MO2(s) + 2CO2(g) -> 2M2CO3 + 3O2(g)</chem> 溶液下の{{Chem|O|2|-}}の反応性が詳しく研究されるようになるのは、{{Chem|O|2|-}}の酵素反応を[[ESR分光計]]で追跡したのが始まりである([[#生体における超酸化物|生体における超酸化物]]の節で詳しく説明する)。 水溶液中では{{Chem|O|2|-}}は不安定であるが、[[DMSO]]溶液中で、[[相間移動触媒]]の16-C-6で超酸化カリウムを可溶化した場合は安定化され溶媒との反応は遅い。また超酸化カリウムを炭酸ビステトラメチルアンモニウム({{Chem|(Me|4|N)|2|CO|3}})とを[[メタセシス]]すると、純度{{Val|93|e=|u=%|p=~}}で超酸化テトラメチルアンモニウム({{Chem|Me|4|NO|2}})が得られ、これは[[アセトニトリル]]のような非プロトン溶媒に溶解する。 水溶液中で、用時調整で純度が高い{{Chem|O|2|-}}を発生させるには、{{Chem|O|2}}のパルス放射線分解や過酸化水素水溶液の光分解が知られている。非水溶液での用時調整では分子酸素の電気化学還元や塩基による過酸化水素の分解が知られている<ref>{{Cite journal|和書|year=2004|title=|journal=防菌防黴|volume=32|issue=2|page=|pages=79–86}}</ref>。そしてDMSO溶液では酸素飽和下に塩基性[[アニリン]]による生成反応も知られている<ref name="Cotton,Wilkinson,Adv.InorganicChem.6th"/>。 : <chem>2PhNH2 + 2OH^- + 3O2 -> 2O2^- + PhN=NPh + H2O2 + 2H2O</chem> 非水溶液下では{{Chem|O|2|-}}は[[ハロゲン化アルキル|アルキルハライド]]等に対する[[求核剤|求核的反応]]や、[[有機化合物]]に対して一電子[[酸化剤]]として反応が知られている。そして{{Chem|Cu|2+}}など幾つかのと錯体を形成する<ref name="Cotton,Wilkinson,Adv.InorganicChem.6th"/>。 == 生体における超酸化物 == {{参照方法|date=2016年10月|section=1}} 生体中に発生したスーパーオキシドアニオンは、[[スーパーオキシドディスムターゼ]](SOD)と呼ばれる[[酸化還元酵素]]で二段階の一電子[[酸化還元反応|酸化還元]]を経て[[過酸化水素]]に変化する<ref>{{cite journal|year=1995|title=Imidazolate-bridged dicopper(II) and copper-zinc complexes of a macrobicyclic ligand (cryptand). A possible model for the chemistry of Cu-Zn superoxide dismutase|url=https://doi.org/10.1021/ja00112a009|journal=Journal of the American Chemical Society|volume=117|issue=7|pages=1965–1973|ref=harv|first1=Jean-Louis|last1=Pierre|first2=Pierre|last2=Chautemps|first3=Sidi|last3=Refaif|first4=Claude|last4=Beguin|first5=Abdelilah|last5=El marzouki|first6=Guy|last6=Serratrice|first7=Eric|last7=Saint-aman|first8=Paul|last8=Rey|doi=10.1021/ja00112a009}}</ref>。 : <chem>2O2^- + 2H^+ -> O2 + H2O2</chem> この過酸化水素はさらに[[カタラーゼ]]や[[ペルオキシダーゼ]]で無害化される。 また、生体における超酸化物は[[毒|毒性]]を示し、[[免疫系]]では侵入した[[微生物]]を殺すのに採用されている。[[食細胞]]では、超酸化物は[[酵素]]の[[NADPHオキシダーゼ]]により大量に生成され、酸素依存性の侵入[[病原体]]の[[殺菌]]機構の一部として働いている{{疑問点|date=2016年10月|title=「酸素依存性」は病原体と殺菌機構のどちらにかかるのでしょう?}}。NADPHオキシダーゼ遺伝子の[[突然変異]]は容易に[[感染]]する特徴をもつ[[慢性肉芽腫症]]と呼ばれる免疫不全症候群を引き起こす。一方、病原菌のSOD遺伝子を[[遺伝子ノックアウト|ノックアウト]]すると[[病原性]]を失う。 超酸化物は、[[ミトコンドリア]]([[複合体I|Complex I]] および [[複合体III|Complex III]])をはじめ[[細胞呼吸|呼吸代謝]]に関与する多くの酵素から副生成物として生じており、代表としては[[キサンチンオキシターゼ]]が知られている。 超酸化物が毒性を示すので、酸素が存在する全ての[[細胞小器官]]の近傍には、超酸化物[[代謝]]酵素、スーパーオキシドディスムターゼなどさまざまな[[アイソザイム]]が含まれている。SODは極めて効果的な酵素で、倍の速度で超酸化物を消失させ拡散させることができる{{疑問点|date=2016年10月|title=何の倍でしょう?}}。他の[[タンパク質]](例:[[ヘモグロビン]])では超酸化物を生成あるいは作用させる両方の働きをする上にSOD類似作用としては弱い。[[細菌]]から[[ハツカネズミ|マウス]]までに対して、SOD遺伝子をノックアウトすると[[細胞|細胞組織]]の有害な[[遺伝形質]]となり、生体における超酸化物の毒性機構の重要な手掛かりが得られる。 [[ミトコンドリア]]および[[細胞質]]の両方でSODを欠く[[酵母]]は、空気中では全く増殖しない。しかし、[[嫌気的]]条件下の[[培養]]では全く影響を受けない。細胞質のSODを欠く場合は突然変異や遺伝子の不安定化が増大する。ミトコンドリアのSOD([[MnSOD]])を欠くマウスは、神経変性、[[心筋症]]、乳酸[[アシドーシスとアルカローシス|アシドーシス]]で生後21日で死亡した。細胞質のSOD(CuZnSOD)を欠くマウスは生存するが、複数の病変を示し、生存期間の短縮、[[肝癌]]、[[筋萎縮症]]、[[白内障]]、胸腺萎縮、[[溶血性貧血]]、メスの早期[[月経|閉経]]などが増加した。 超酸化物は多くの[[病気|疾病]]の原因に関与していると推定されている([[放射線障害]]や酸素過剰症については強い[[根拠に基づく医療|根拠]]がある)。そして、恐らくは、酸化による細胞への障害を通じて[[加齢]]にも関与していると推定されている。 特定の環境条件下では超酸化物の作用による病変は強く現れる。実際、マウスや[[ラット]]ではCuZnSODあるいはMnSODの過剰発現は[[脳卒中]]や[[心臓発作]]の抵抗性を増す。一方。超酸化物の加齢における役割は現在のところ未解明である。CuZnSODを遺伝子ノックアウトした[[モデル生物]](酵母、[[ショウジョウバエ]]、マウス)では生存期間の短縮と老化の兆候([[白内障]]、[[筋萎縮]]、[[黄斑変性症]]、[[胸腺萎縮]])の加速が見られた。それに対して、CuZnSOD量を増やした場合は(恐らくはショウジョウバエの場合を除き)一貫した生存期間の延長は見られなかった。最も一般的な見解によると、(超酸化物に起因して、導かれる様々な要因による)酸化による障害は寿命を制限するいくつかの要因の1つであると考えられている。 人体からスーパーオキシドアニオンを除去するには[[ビタミンC]]、[[ポリフェノール]]などが有効とされている。 === O<sub>2</sub><sup>-</sup>捕捉剤 === 生体内でスーパーオキシドアニオンを[[捕捉剤|捕捉]]する[[抗酸化物質]]の一覧<ref>{{cite book |和書 |title=活性酸素 |author=大阪武雄 |coauthors = 日本化学会 |publisher=丸善 |year=1999 |page=p.27 |isbn=4-621-04634-9 }}</ref> * [[スーパーオキシドディスムターゼ]] * [[アスコルビン酸]] * [[ビリルビン]] == 出典・脚注 == {{reflist}} == 関連文献 == * {{cite journal|year=1969|title=Superoxide Dismutase: AN ENZYMIC FUNCTION FOR ERYTHROCUPREIN (HEMOCUPREIN)|url=http://www.jbc.org/content/244/22/6049.abstract|journal=Journal of Biological Chemistry|volume=244|issue=22|pages=6049–6055|ref=harv|first1=Joe M.|last1=Mccord|first2=Irwin|last2=Fridovich}} * {{cite journal|author=|date=1995年12月|title=Dilated cardiomyopathy and neonatal lethality in mutant mice lacking manganese superoxide dismutase|url=https://doi.org/10.1038/ng1295-376|journal=Nat Genet|volume=11|issue=4|page=|pages=376–381|ref=harv|pmid=7493016|first1=Yibing|last1=Li|first2=Ting-Ting|last2=Huang|first3=Elaine J.|last3=Carlson|first4=Simon|last4=Melov|first5=Philip C.|last5=Ursell|first6=Jean L.|last6=Olson|first7=Linda J.|last7=Noble|first8=Midori P.|last8=Yoshimura|first9=Christoph|last9=Berger|first10=Pak H.|last10=Chan|first11=Douglas C.|last11=Wallace|first12=Charles J.|last12=Epstein|doi=10.1038/ng1295-376}} * {{cite journal|author=|date=2004年11月8日|title=CuZnSOD deficiency leads to persistent and widespread oxidative damage and hepatocarcinogenesis later in life|url=https://doi.org/10.1038/sj.onc.1208207|journal=Oncogene|volume=24|issue=3|page=|pages=367–380|ref=harv|pmid=15531919|issn=0950-9232|first1=Sailaja|last1=Elchuri|first2=Terry D.|last2=Oberley|first3=Wenbo|last3=Qi|first4=Richard S.|last4=Eisenstein|first5=L.|last5=Jackson roberts|first6=Holly|last6=Van remmen|first7=Charles J.|last7=Epstein|first8=Ting-Ting|last8=Huang}} * {{cite journal|author=|year=2006|title=Absence of CuZn superoxide dismutase leads to elevated oxidative stress and acceleration of age-dependent skeletal muscle atrophy|url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0891584906000906|journal=Free Radical Biology and Medicine|volume=40|issue=11|page=|pages=1993–2004|ref=harv|pmid=16716900|issn=0891-5849|first1=Florian L.|last1=Muller|first2=Wook|last2=Song|first3=Yuhong|last3=Liu|first4=Asish|last4=Chaudhuri|first5=Sandra|last5=Pieke-dahl|first6=Randy|last6=Strong|first7=Ting-Ting|last7=Huang|first8=Charles J.|last8=Epstein|first9=L. Jackson Roberts|last9=Ii|first10=Marie|last10=Csete|first11=John A.|last11=Faulkner|first12=Holly Van|last12=Remmen|doi=10.1016/j.freeradbiomed.2006.01.036}} * {{cite journal|author=|year=2007|title=Trends in oxidative aging theories|url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0891584907002481|journal=Free Radical Biology and Medicine|volume=43|issue=4|page=|pages=477–503|ref=harv|pmid=17640558|issn=0891-5849|first1=Florian L.|last1=Muller|first2=Michael S.|last2=Lustgarten|first3=Youngmok|last3=Jang|first4=Arlan|last4=Richardson|first5=Holly Van|last5=Remmen|doi=10.1016/j.freeradbiomed.2007.03.034}} * {{Cite book|author=|title=Chemistry: the Central Science|date=|year=|publisher=|author1=Theodore Brown|author2=H. Eugene LeMay|author3=Bruce E. Bursten}} == 関連項目 == * [[オゾン化物]] ({{Chem|O|3|-}}) * [[過酸化物]] ({{Chem|O|2|2-}}) * [[酸化物]] ({{Chem|O|2-}}) * [[ジオキシゲニル]] ({{Chem|O|2|+}}) {{DEFAULTSORT:ちようさんかふつ}} [[Category:超酸化物|*]] [[Category:免疫系]] [[Category:フリーラジカル]]
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