辰砂のソースを表示

{{Infobox 鉱物
| 鉱物名 = 辰砂
| 画像 = {{CSS image crop|Image=Cinnabar on Dolomite.jpg|bSize=400|cWidth=340|cHeight=200|oLeft=30|oTop=50|Location=center}}
| 分類 = 硫化鉱物
| 色 = 洋紅色
| 組成 = HgS
| 硬度 = 2 - 2.5
| 比重 = 8.1
| 晶系 = 三方晶系
| 光沢 = 金剛光沢
| 条痕 = 紅色
| 劈開 = 三方向に明瞭
| 蛍光 =
| 断口 =
}}
{{Infobox
|data1={{CSS image crop|Image=Cinnabar-Dolomite-Quartz-278325.jpg|bSize=425|cWidth=340|cHeight=220|oLeft=30|oTop=140|Location=center}}
|data2=[[光沢#金属光沢|金属光沢]]のある辰砂の結晶。<br>[[双晶|貫入双晶]]が見られる。
}}
'''辰砂'''（しんしゃ、{{lang-en|cinnabar}}）は[[硫化水銀(II)|硫化水銀(II) (HgS)]] からなる[[鉱物]]である。別名に'''[[賢者の石]]'''、'''赤色硫化水銀'''、'''丹砂'''、'''朱砂'''、'''水銀朱'''などがある。日本では古来「{{読み仮名|'''丹'''|に}}」と呼ばれた。[[水銀]]の重要な[[鉱石鉱物]]。

== 概要 ==
不透明な赤褐色の塊状、あるいは透明感のある深紅色の菱面体結晶として産出する。『[[周礼|周禮]]』天官冢宰<ref>{{Cite wikisource|title=周禮/天官冢宰|author=周禮|wslanguage=zh}}</ref>の鄭注に「五毒、五藥之有毒者」のひとつにあげられる<ref>[http://www.chs.nihon-u.ac.jp/institute/human/kiyou/74/6.pdf 中国医学・日本漢方における〈毒〉]{{リンク切れ|date=2024年10月}}</ref>など、[[中国]]において古くから知られ、[[錬丹術]]などでの[[水銀]]の精製の他に、赤色（[[朱色]]）の[[顔料]]や[[漢方薬]]の原料として珍重されている。

『[[史記]]』巻128貨殖列伝<ref>{{Cite wikisource|title=史記/卷129|author=司馬遷|wslanguage=zh}}</ref>には、「巴の地方にいた清という名の寡婦は、先祖が丹穴を手に入れたことで、数世代にわたり巨利を得ていた」（而巴寡婦清、其先得丹穴而擅其利數世）と、辰砂の発掘地を見つけた人間が巨利を得た記述がある。

[[中国]]の[[辰州]]（現在の[[湖南省]]近辺）で多く産出したことから、「辰砂」と呼ばれるようになった。日本では[[弥生時代]]から産出が知られ、いわゆる[[魏志倭人伝]]の[[邪馬台国]]にも「其山 丹有」と記述されている。[[古墳]]の内壁や[[石棺]]の彩色や壁画に使用されていた。[[漢方薬]]や[[漆器]]に施す[[朱漆]]や赤色の[[墨]]である[[朱墨]]の原料としても用いられ、古くは[[若杉山辰砂採掘遺跡]]（徳島県阿南市[[水井町]]）、[[伊勢国]][[丹生鉱山|丹生]]（現在の三重県[[多気町]]）、[[大和水銀鉱山]]（奈良県宇陀市菟田野町）、[[吉野川 (奈良県)|吉野川]]上流などが特産地として知られた。[[平安時代]]には既に人造朱の製造法が知られており、[[16世紀]]中期以後、天然・人工の朱が中国から輸入された。現在では大分県、熊本県、奈良県、徳島県、などで産する。

2016年（平成28年）5月、[[日本地質学会]]は47都道府県の「[[県の石]]」を選定し、辰砂を「三重県の鉱物」に選定した<ref>{{Citation|和書|editor=三重県広聴広報課|title=県政だよりみえ 平成28年8月号 (No.385)|publisher=三重県広聴広報課|date=2016-08-07|page=3|accessdate=2024-10-27|url=https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000647140.pdf|url-status=live|format=[[Portable Document Format|PDF]]}}</ref>。

== 利用 ==
=== 水銀の精製 ===
辰砂を空気中で 400&ndash;600 [[セルシウス度|°C]] に加熱すると、水銀蒸気と亜硫酸ガス（[[二酸化硫黄]]）が生じる。この水銀蒸気を冷却凝縮させることで水銀を精製する。古代から水銀製錬の原理は変わっておらず、時代を経て[[レトルト]]炉や[[重油]]を用いた[[ロータリーキルン]]炉に変更していったが、これらは主として生産能力と従事者の安全性{{efn2|かつては生産効率の悪い製錬所では炉や煙道から水銀蒸気が漏出しており、この水銀蒸気を労働者が吸引して[[水銀中毒|無機水銀中毒]]に罹る事が多かった。このため、設備の密閉を強化し、水銀蒸気の漏出を防ぐ事が安全対策であり、また水銀の実収率の向上につながった。}}に関する改良であった。炉から放出された水銀蒸気を含むガスは[[脱硫装置]]を経て、「コンデンサー」と呼ばれる冷却・凝集装置に集められる。コンデンサーは、[[黒鉛]]製のパイプを楯状に複数立てた、上の穴が開けられていない煙突のような独特の構造であり、ガスはここに滞留して温度が低下していくうちにガス中に含まれている水銀が液化し、パイプの内側に付着する。定期的にパイプ内部には水が通されており、水によって「洗い流される」形で底部に落とされる。また、同時に「スート」と呼ばれる、水銀及び不純物を含む塵も回収され、こちらからも水銀が採取される。回収された水銀は、水と分離した後に[[濾過]]および[[硫酸]]や[[硝酸]]による洗浄を経て、粗製水銀として製品化される。水銀及び有害成分を除去されたガスは煙突を通って大気に放出された。水銀鉱山や製錬所にはこのコンデンサーが必ず立てられており、シンボル的存在となっていた。

硫化水銀(II) + [[酸素]] → 水銀 + 二酸化硫黄
:<chem>HgS + O2 -> Hg + SO2</chem>

ただし、現在の日本では水銀及びその化合物は、全量廃乾電池などの[[リサイクル]]（および外国からの金属水銀の輸入）で賄われており、鉱石からの製錬は行われていない。

=== 漢方薬 ===
[[伝統中国医学]]では「朱砂」や「丹砂」等と呼び、[[鎮静]]、[[催眠]]を目的として、現在でも使用されている。[[有機水銀]]や水に易溶な水銀化合物に比べて、辰砂のような水に難溶な化合物は[[毒性]]が低いと考えられている。秦の[[始皇帝]]は辰砂を[[賢者の石]]だと信じて[[不老不死]]を実現しようと摂取し続けたことで[[水銀中毒]]で死亡したとも言われている。

辰砂を含む代表的な処方には「朱砂安神丸」等がある。

=== その他 ===
押印用[[朱肉]]の色素としても用いられる。

なお、陶芸で用いられる'''辰砂釉'''は、この辰砂と同じく美しい赤色を発色する[[釉薬]]だが、水銀ではなく[[銅]]を含んだ釉薬を用い、還元焼成したものである。

== 硫化水銀 ==
'''硫化水銀'''には、赤色の辰砂と黒色の黒辰砂とが天然に存在するが、いずれも'''硫化水銀(II)''' (HgS) である。'''黒辰砂'''（くろしんしゃ、metacinnabar）の化学組成は同じ HgS だが、結晶構造が異なる。辰砂を 344 ℃に加熱すると黒辰砂が生成し、温度が下がると辰砂に戻る。黒辰砂よりも高温の条件では[[ハイパー辰砂]]<ref>[https://www.mindat.org/min-1994.html Hypercinnabar], ''mindat.org''</ref>（Hypercinnabar）という希産鉱物となる。

また硫化水銀には、[[酸化数]]の異なる黒色の'''硫化水銀(I)''' ({{chem|Hg|2|S}}) も存在するが不安定で、速やかに単体水銀と硫化水銀(II) に[[不均化]]する。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
'''注釈'''
{{Notelist2}}
'''出典'''
{{Reflist}}

== 参考文献 ==
* [[松原聰]] 『フィールドベスト図鑑15 日本の鉱物』 [[学研ホールディングス|学習研究社]]、2003年、{{ISBN2|4-05-402013-5}}。
* [[国立天文台]]編 『[[理科年表]] 平成19年』 [[丸善]]、2006年、ISBN 4-621-07763-5。
* [[小葉田淳]] 「朱」『[[日本史大事典]] 第3巻』 [[平凡社]]、1993年、ISBN 4-582-13103-4。

== 関連項目 ==
* [[鉱物]] - [[硫化鉱物]]
* [[鉱物の一覧]]
* [[鉱石鉱物]]
* [[水銀]] - [[自然水銀]]
* [[朱座]]
* [[竜血]]
* [[道教]] - 道教では、仙人になる為の秘薬として丹砂が重要な鉱物に挙げられている。
* [[仙人]]
* [[赤備え]] - 甲冑を赤に染色する際に使用された。
* [[スサノオ]] - {{読み仮名|朱砂|スサ}}の[[音韻]]が使用されている神話上の人物。

== 外部リンク ==
{{Commons|ページ名=Category:Cinnabar|タイトル=辰砂|追加1=Category:Metacinnabar|タイトル1=黒辰砂}}
* [https://www.mindat.org/min-1052.html Cinnabar]、[https://www.mindat.org/min-2670.html Metacinnabar] (mindat.org)
* [https://www.webmineral.com/data/Cinnabar.shtml Cinnabar Mineral Data]、[https://www.webmineral.com/data/Metacinnabar.shtml Metacinnabar Mineral Data] (webmineral.com)

{{Normdaten}}

{{DEFAULTSORT:しんしや}}
[[Category:硫化鉱物]]
[[Category:無機顔料]]
[[Category:水銀の化合物]]
[[Category:三重県の象徴]]