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'''近交係数'''(きんこうけいすう、{{en|inbreeding coefficient}})は、[[近親交配]](近交)の度合いを表す数値である。近交係数は、ある[[個体]]の持つ2つの[[相同遺伝子]]が、[[最も近い共通祖先|共通祖先]]が持っていた同じ遺伝子に由来する[[ホモ接合]]となる[[確率]]と定義される。なお、個体に発現した[[形質]]は考慮に入れず、[[事前確率]]だけで算出する。[[性染色体]]上の遺伝子や[[劣性遺伝|劣性]][[致死遺伝子]]なども考慮に入れない。'''固定指数''' ({{en|fixation index}}) とも呼び、それを略して ''F'' または ''f'' で表され、'''F値'''ともいう。 近交係数は生まれる[[子供]]の特性だが、それを[[夫婦]]の間(あるいは任意の個体間)の関係と捉えた場合は、'''親縁係数'''(coefficient of [kinship, parentage or consanguinity])または'''共祖係数'''(coancestry)と呼ぶ。つまり、ある2個体の親縁係数は、その間にできる子供の近交係数である。ただし、厳密に呼び分けないこともある。 近親度を表す類似の概念に'''[[血縁係数]]'''(coefficient of relationship)または'''[[血縁度]]'''(relatedness)があり、rで表記される。血縁係数rは親縁係数Fから計算できる。 ==歴史== [[1921年]]、[[シューアル・ライト]]により導入された。当時の定義は厳密には現在と異なり、[[受精|結合]]する[[配偶子]]間の遺伝的な[[相関]]と定義されていた。[[1948年]]、[[ギュスターヴ・マレコ]]が現在の定義を与えた。 == 血縁係数 == [[血縁係数]]はライトが考案した近親度を表す別の尺度であり、近交(親縁)係数Fと血縁係数rの変換は :<math>r_{ij} = \frac{2F_{ij}}{\sqrt{1+F_{i}}\sqrt{1+F_{j}}}</math> となる。 ==値== ===簡単な例=== [[2倍体]]の[[有性生殖]]の場合 {|class="wikitable" !親等|| ''F'' ||r|| [[続柄]]の例 |- | align="center" | || ≧1/2 || || [[近交系]] |- | align="center" | 0 || 1/2 || 1 || [[一卵性双生児]]、[[クローン]] |- | align="center" | 1 || 1/4 || 1/2 || [[親子]] |- | align="center" | 2 || 1/4 || 1/2 || [[兄弟姉妹]](全兄弟) |- | align="center" | 2 || 1/8 || 1/4 || 片親違いの兄弟姉妹(半兄弟) |- | align="center" | 2 || 1/8 || 1/4 || [[祖父母]]と[[孫]] |- | align="center" | 3 || 1/8 || 1/4 || [[おじ]]と[[姪]]・[[おば]]と[[甥]] |- | align="center" | 3 || 1/16 || 1/8 || 曽祖父母と曽孫 |- | align="center" | 4 || 1/16 || 1/8 || 大おじと大姪・大おばと大甥 |- | align="center" | 4 || 1/16 || 1/8 || [[いとこ]] |- | align="center" | 4 || 1/32 || 1/16 || 高祖父母と玄孫 |- | align="center" | 5 || 1/32 || 1/16 ||[[いとこ半]] |- | align="center" | 6 || 1/64 || 1/32 || [[はとこ]] |- | align="center" | 〜∞ || 〜0 || 〜0 || 他人 |} 特記ない限り、兄弟姉妹関係は全て[[両親]]どちらも同じとする。また[[養子縁組]]・[[婚姻]]などによる義理の家族関係は除外する。 厳密には、近親交配でなくても ''F'' は0でない小さな値を持つ。[[人類]]のような大きな集団では他人間の ''F'' は非常に小さいが、[[実験動物]]や[[栽培品種]]のような近親交配の進んだ集団では、近縁でない個体間の ''F'' も無視できない。極端な場合は ''F'' ≧ 1/2 となり、近交系と呼ばれる。 ===計算法=== 共通祖先が1人しかいない単純な続柄の間の ''F'' は、''F'' = 1 / 2{{sup|''n'' + 1}} と表される。''n'' は、夫婦の間の[[親等]]である。つまり、共通祖先から ''n''{{sub|1}} 代後の子孫と ''n''{{sub|2}} 代後の子孫の間では、''n'' = ''n''{{sub|1}} + ''n''{{sub|2}} である。 共通祖先が複数いる場合は、それぞれの共通祖先について計算した ''F'' を足し合わせて[[総和]]を得る。(両親が同じ)兄弟姉妹やその子孫も、共通祖先が父と母の2人いるのでこの加算をする。したがって、''F'' = 1 / 2{{sup|''n'' + 1}} + 1 / 2{{sup|''n'' + 1}} = 1 / 2{{sup|''n''}} と倍になる。 共通祖先の ''F'' (''F''{{sub|''A''}} とする) が 0 でない場合は、その[[ホモ接合型]]を受け継ぐ可能性があるので、1 + ''F''{{sub|''A''}} をかける。 以上を数式で表すと、以下のようになる。 :<math> F = \sum_A { { 1 + F_A } \over { 2 ^ {n + 1} } } </math> ==ホモ接合の増加== ===ハーディー・ワインベルクの法則との関係=== 近交係数を考慮すれば、2つの[[対立遺伝子]]のホモ接合の割合は、[[ハーディー・ワインベルクの法則]]で示される ''p''{{sup|2}} と ''q''{{sup|2}} より ''pqF'' ずつ増加する(''p'' と ''q'' は2つの対立遺伝子の割合)。[[ヘテロ接合]]の割合は 2''pq'' より 2''pqF'' 減少する、つまり、1 - ''F'' 倍に減る。 === 遺伝病の増加 === 一部の[[遺伝病]]、特に、致死性遺伝病のほとんどは、ホモ接合で発現する劣性遺伝病である。したがって、''F'' が高くホモ接合の割合が増えると、発症の確率が増える。その増加分は ''F'' に比例する。 ==関連項目== * [[血縁]] * [[いとこ婚]] * [[ハプロタイプ]] * [[近親交配]] * [[最も近い共通祖先]] {{DEFAULTSORT:きんこうけいすう}} [[Category:集団遺伝学]]
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