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{{No footnotes|date=2023年9月}} '''連続体仮説'''(れんぞくたいかせつ、Continuum hypothesis, CH)とは、可算濃度と[[連続体 (集合論)|連続体]]濃度の間には他の[[濃度 (数学)|濃度]]が存在しないとする仮説。[[19世紀]]に[[ゲオルク・カントール]]によって提唱された。現在の[[数学]]で用いられる標準的な枠組みのもとでは「連続体仮説は証明も反証もできない命題である」ということが明確に証明されている。 == 発想 == 1個よりも多い最小の個数は2個である。2個よりも大きい最小の個数は3個である。このように、有限の個数に対しては1を足すことでそれ自身よりも大きい最小の個数を得ることができる。では無限の個数に対してはどうであろうか。[[自然数]]や[[実数]]は無限個存在する。これらの個数は異なるはずであるが、個数という呼び方をする限りいずれも「無限」である。これに対して、有限集合の場合の要素数の概念を無限集合にまで拡張した「集合の濃度」(二つの集合間に一対一対応が存在するとき二つの集合の濃度は等しいとする)を考えることにより2つの無限は区別される(詳細は[[濃度 (数学)|濃度]]を参照)。無限集合の濃度(無限の個数)で最も小さいものは可算濃度(自然数全体の集合の濃度)である。しかし、可算濃度の無限集合に要素を1つ追加した集合もやはり可算濃度であり、有限集合の場合のように新しい濃度にはならない。可算濃度の無限集合同士の合併集合も可算濃度である。しかし、実数全体の集合は可算濃度ではないことが示された。そこで次に、可算濃度よりも大きい最小の濃度は[[連続体濃度]](実数の集合の濃度)であろうと考えられた、これが連続体仮説である。 == 連続体仮説の表現 == 自然数より真に大きく、実数より真に小さいサイズの集合がない、ということを連続体仮説は述べている。もう少し正確には連続体仮説は「自然数を含むような任意の実数の部分集合は、実数との間に[[全単射]]が存在するか、自然数との間に全単射が存在するかのいずれかである」とも言い表せる。 自然数の全体を '''N''' と書き、そこにふくまれる自然数の個数(濃度)を'''可算濃度''' <math>\aleph_0</math>(アレフ・ヌル)と呼ぶ(「[[可算]]」とは「数えられる」の意。可付番濃度とも言う)。また、実数の全体を '''R''' と書き、そこに含まれる実数の個数を[[連続体濃度]] <math>\aleph</math> と書く。さらに集合 ''M'' の濃度を card ''M'' で表すことにすれば、連続体仮説は {{Indent|<math>\aleph_0 < \mbox{card}\,\Omega < \aleph</math>}} なる[[集合]] Ω が存在しないという主張であると言い表される。また '''N''' の[[冪集合]]の濃度 {{Indent|<math>\mathfrak{P}(\aleph_0)</math>}} については、これが[[連続体濃度]]に等しいということが証明されているから、[[アレフ数]]の概念を用いると連続体仮説は、[[公理|公理系]] ZFC (詳細は[[公理的集合論]]を参照)のもとで {{Indent|<math>\mathfrak{P}(\aleph_0)=\aleph_1=\aleph</math>}} が成立すること、と言い表すこともできる。 == 連続体仮説の公理性 == 現代数学では標準的な枠組みとして [[ツェルメロ=フレンケル集合論|ツェルメロ-フレンケルの公理系]] ZF や ZF に[[選択公理]]を加えた公理系である ZFC を基礎に理論構築がなされているが、ZF や ZFC と連続体仮説は独立である。つまり ZF や ZFC に連続体仮説を付け加えた公理系も、連続体仮説の否定を付け加えた公理系も、無矛盾である。連続体仮説は ZF や ZFC においては[[真]]としても[[偽]]としてもよいともいえる。 [[クルト・ゲーデル]]は、連続体仮説は偽であると強く主張したことで知られている。彼の見方では、連続体仮説の独立性の証明は ZFC に欠点があることを示しており、もっとよい公理系を選べば連続体仮説が偽であることが証明できると考えたのである。その立場を強固に推し進めた最後の論文は、学会誌には掲載されずに返還されてしまった。多くの集合論の専門家は、連続体仮説は偽であると考えているか、または真偽に対して中立的な立場を取っている。 [[ヒュー・ウッディン]]のように連続体仮説が偽であるとする専門家のうちには、「自然な仮定」を加えて構築される数学モデルでは[[連続体濃度]]が <math>\aleph_2</math> に一致するといった形で定式化を試みる動きもある。 == 歴史 == この仮説は 19 世紀に集合論の創始者、[[ゲオルク・カントール]]によって提出された。彼自身この解決に熱心に取り組んだことが知られている。可算濃度より[[連続体濃度]]の方が大きいことは、[[カントールの対角線論法]]によって証明されている。カントールは当初、連続体仮説も証明することはそれほど難しくないと考えていたが、遂に証明することはできなかった。 [[1900年]]、パリで開かれた国際数学者会議において[[ダフィット・ヒルベルト]]は彼の有名な[[ヒルベルトの23の問題| 23 の問題]]の第一番にこの連続体仮説を取り上げた。その後、[[1940年]]に[[クルト・ゲーデル]]は任意の ZF のモデルにおいて[[構成可能集合]]全体のクラス ''L'' が連続体仮説をみたすことを証明し、「ZFC からは連続体仮説の否定は証明できない」ことを示した。さらに[[1963年]]、[[ポール・コーエン (数学者)|ポール・コーエン]]は[[強制法]]と呼ばれる新しい手法を用いて「ZFC から連続体仮説を証明することは出来ない」ことを示した。これらの結果から ZFC に連続体仮説を加えても、またはその否定を加えても矛盾は発生しないこと、つまり連続体仮説の ZFC からの独立性が示され、連続体仮説は解決を見た(これらの結果は全て ZF の無矛盾性を仮定している)。コーエンはこの業績により、1966 年に[[フィールズ賞]]を受賞している。 == 一般連続体仮説 == 連続体仮説を、可算濃度と[[連続体濃度]]だけではなく、ある集合の濃度と、その[[冪集合]]の濃度に対して拡張したものを、'''一般連続体仮説''' (GCH) と呼ぶ。即ち、無限集合 ''X'' に対し、 {{Indent|<math>\mbox{card}\,X < \mbox{card}\,\Omega < \mbox{card}\,\mathfrak{P}(X)</math>}} を満たすような Ω が存在しないという仮説のことである。冪集合の方が必ず大きくなることも、カントールの対角線論法によって証明できる。一般連続体仮説も、その名の通り、仮説として認識され、ZFC からの独立性が証明されている。 一般連続体仮説を肯定したとして、Ωに対し、連続体の中で最大元を持つ半順序集合をとる。 その集合とある冪集合の濃度の間には、他の濃度は存在しないことがいえるから、アレフ数の定義より、 {{Indent|<math>\mbox{card}\,X = \aleph_{\alpha} \ \Longrightarrow \ \mbox{card}\,\mathfrak{P}(X) = \aleph_{\alpha+1}</math>}} が言える。ここで、<math>\mbox{card}\,\mathfrak{P}(X) = 2^{{\rm card}\,X}</math> であるから、 {{Indent|<math>\aleph_{\alpha+1} = 2^{\aleph_{\alpha}}</math>}} が成り立つ。 == イーストンの定理 == 選択公理を仮定している場合、濃度は'''基数'''、すなわちその濃度を持つ最小の[[順序数]]で記述されることが多い。これ以降、この慣習を採用することにする。 一般連続体仮説が ZF から独立しているのはすでに述べた通りであるが、{{仮リンク|ウィリアム・B・イーストン|en|William Bigelow Easton}}はその事実を拡張し、ZFC のモデルにおける[[共終数#正則基数|正則基数]]の冪集合の濃度は以下の2つの条件以外の制限を受けないことを証明した({{仮リンク|イーストンの定理|en|Easton's theorem}})。 * <math>\kappa\leq\lambda</math> ならば <math>2^\kappa\leq 2^\lambda</math> * <math>\mbox{cf}(2^\kappa)>\kappa</math>([[ケーニヒの定理 (集合論)|ケーニヒの定理]]) ここで、<math>\kappa</math> および <math>\lambda</math> は任意の正則基数、<math>2^\kappa</math> は <math>\kappa</math> の冪集合の基数、<math>\mbox{cf}(\kappa)</math> は <math>\kappa</math> の[[共終数]]とする。 彼の証明は、無限にたくさんの強制法を同時に行うものであり、その手法は現在でも盛んに応用されている。 == 特異基数問題 == 正則基数の冪集合の基数に関しては[[イーストンの定理]]によって整合性が証明されたわけであるが、[[共終数#特異基数|特異基数]]の冪集合の基数は未だにはっきりとわかっていない。 その原因の1つは、[[シルバーの定理]]が示している通り、特異基数の冪集合の濃度がそれより小さい正則基数の濃度に大きく影響されるからである。 この分野で重要な結果としては{{仮リンク|メナヘム・マジドール|en|Menachem Magidor}}(マギドー)による[[マギドーの定理]]が挙げられる。 == pcf 理論 == 正則基数の冪集合の濃度が強制法で非常に自由に動かせることから、特異基数の冪集合の濃度に関しても同様なことが言えるのではないかと予想されていた。 それを覆したのが[[サハロン・シェラハ]](シェラー)の{{仮リンク|pcf理論|en|PCF theory}}である。例えば、次の定理は pcf 理論の成果である: * 全ての自然数 ''n'' に対して、<math>2^{\aleph_n}<\aleph_\omega</math> が成り立っているとき、<math>2^{\aleph_\omega}\leq\aleph_{\omega_4}</math> 。 == 参考文献 == *{{Cite book|last=Gödel|first=Kurt|authorlink=クルト・ゲーデル|date=1940-9-1|title=The Consistency of the Continuum Hypothesis|series=Annals of Mathematics Sutdies|volume=3|publisher=Princeton University Press|isbn=0-691-07927-7 |url=http://press.princeton.edu/titles/1034.html}} **{{Cite book|和書|author=クルト・ゲーデル|authorlink=クルト・ゲーデル|others=[[近藤洋逸]]訳|year=1946|month=4|title=数学基礎論 撰出公理及び一般連続仮説の集合論公理との無矛盾性|publisher=伊藤書店}} *{{Cite book|和書|author=P・J・コーヘン|authorlink=ポール・コーエン (数学者)|others=[[近藤基吉]]・[[坂井秀寿]]・[[沢口昭聿]]訳|year=1990|month=10|title=連続体仮説|publisher=[[東京図書]]|isbn=4-489-00339-0|ref=コーヘン1990}} == 関連項目 == * [[ヒルベルトの23の問題]] * [[数学上の未解決問題]] - 近年“解かれた”問題として。 * [[ルーディ・ラッカー]] - 数学者、SF作家。連続体仮説をテーマとして『ホワイト・ライト』というSF小説を書いた。 == 外部リンク == *{{Kotobank|連続体問題}} *{{Kotobank|連続体仮説}} *{{MathWorld|title=Continuum Hypothesis|urlname=ContinuumHypothesis|author=Matthew Szudzik}} *{{SEP|continuum-hypothesis|The Continuum Hypothesis}} {{集合論}} {{Hilbert's problems}} {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:れんそくたいかせつ}} [[Category:集合論]] [[Category:無限]] [[Category:ヒルベルトの23の問題]] [[Category:ゲオルク・カントール]] [[Category:数学に関する記事]]
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