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{{Otheruses||[[生物学]]分野における'''遷移'''の詳細|遷移 (生物学)}} '''遷移'''(せんい)とは、「うつりかわり」のこと。類義語として「変遷」「推移」などがある。 [[自然科学]]の分野では '''transition''' の訳語であり、一般に、何らかの事象(物)が、ある状態から別の状態へ変化すること。さまざまな分野で使われており、場合によって意味が異なることもある。以下に解説する。 == 物理学や化学における遷移 == [[物理学]]や[[化学]]では、[[物質]]が[[エネルギー]]を吸収(あるいは放出)し、状態が変化することを'''遷移'''、transitionと言う。なお、ある[[相]]から別の相へ変わる[[相転移]] (phase transition) のことを「相遷移」とは言わない。 === 量子論における遷移 === たとえば[[原子]]が光を放出・吸収する場合、原子は光との相互作用によってある[[定常状態]]からエネルギーの違う他の定常状態に[[時間変化]]する。このような状態の変化を'''遷移'''という。量子論での遷移の概念を最初に提唱したのは[[ニールス・ボーア]]である([[ボーアの原子模型]])。そして遷移振幅の確率を計算できる方法は[[ポール・ディラック]]によって構築された<ref>{{Cite book|和書|author=C・ロヴェッリ|authorlink=カルロ・ロヴェッリ|year=2019|title=すごい物理学講義|publisher=河出文庫|page=163}}</ref>。 ==== 遷移確率 ==== ここでは例として[[エネルギー固有状態]]に[[摂動]]が加わったときの遷移確率について考える。[[ハミルトニアン]]の[[固有ベクトル]]([[固有関数]])であるエネルギー固有状態は定常状態であり、系の外部からの[[摂動]]が無ければ系は定常状態にとどまっている。外部からの摂動が加わると、系は新たなハミルトニアンの固有状態になっていないときは[[シュレディンガー方程式]]に従って時間変化し、他の定常状態に遷移する。始状態<math>|i\rangle</math>に摂動が加わってからt秒後の状態を<math>|t\rangle</math>とすると、状態<math>|i\rangle</math>から別の定常状態<math>|f\rangle</math>への'''遷移確率'''は<math>|\langle f|t\rangle|^2</math>で定義され、<math>\langle f|t\rangle</math>は'''遷移振幅'''と呼ばれる。 たとえば摂動が加わってt秒後の系<math>|t\rangle</math>において、摂動を取り除き、間髪入れずにエネルギーの測定をしたとする。このときエネルギーの測定は摂動が加わってない状態で行われている。よってエネルギーの測定値が<math>E_i</math>がである確率は[[ボルンの規則]]より、摂動が無いときのハミルトニアンの<math>E_i</math>に対応する固有ベクトル<math>|E_i\rangle</math>を用いて<math>|\langle E_i|t\rangle|^2</math>と表せる。よってこのとき遷移確率が100%であるということは、最初<math>|i\rangle</math>だった系が、摂動によってt秒後には測定値が100%の確率で<math>E_i</math>が得られる状態<math>|E_i\rangle</math>に行き着いており、他の状態は[[重ね合わせ]]られていないことを意味する。 摂動が加わって十分に時間がたつと、遷移確率は時間tに比例することが多いため、単位時間当たりの遷移確率<math>\lim_{t \to \infty}\frac{d}{dt}|\langle f|t\rangle|^2</math>がよく用いられる。時間依存を考慮した[[散乱理論]]によると、摂動<math>\hat{H}'</math>が与えられて十分に時間が経過したときの単位時間あたりの遷移確率<math>W_{i \rightarrow f}</math>は以下のように表される。 :<math>W_{i \rightarrow f}=\frac{2\pi}{\hbar}|\langle f |\hat{T}|i \rangle |^2\delta(E_f-E_i)</math> ここで<math>\delta(x)</math>はデルタ関数で[[エネルギー保存]]を表す。<math>\hat{T}</math>は摂動<math>\hat{H}'</math>に対応した[[T行列]]である。 一般的には摂動が小さいとして、[[摂動論]]によって求められた遷移確率を用いることが多い。この場合、T行列要素は次のように摂動展開される。 :<math> \langle f |\hat{T}|i \rangle = \langle f |\hat{H}'|i \rangle + \sum_n \frac{\langle f |\hat{H}'|n \rangle \langle n |\hat{H}'|i \rangle}{E_i - E_n}</math> ::<math>+ \sum_{n_1,n_2} \frac{\langle f |\hat{H}'|n_2 \rangle \langle n_2 |\hat{H}'|n_1 \rangle \langle n_1 |\hat{H}'|i \rangle}{(E_i - E_{n_2})(E_i - E_{n_1})} + \cdots </math> ::<math>+ \sum_{n_1,n_2,\cdots n_m} \frac{\langle f |\hat{H}'|n_m \rangle \cdots \langle n_2 |\hat{H}'|n_1 \rangle \langle n_1 |\hat{H}'|i \rangle}{(E_i - E_{n_m})\cdots (E_i - E_{n_2})(E_i - E_{n_1})} + \cdots </math> 摂動の一次の範囲まで(一次の[[ボルン近似]])では、遷移確率は次のように与えられる([[フェルミの黄金律]])。 :<math>W_{i \rightarrow f}=\frac{2\pi}{\hbar}|\langle f |\hat{H}'|i \rangle |^2\delta(E_f-E_i)</math> 一次の摂動が[[選択律]]などで禁止されている場合や[[光散乱]]などを扱う場合には、より高次の摂動を計算しなければならない。二次の摂動まで含めた場合は、<math>i \rightarrow f</math>の遷移は仮想的な中間状態<math>n</math>を経由する。この中間状態ではエネルギーが保存されなくてよいが、<math>E_n \backsimeq E_i</math>の状態が主要になる。この二次の摂動まで含めた場合の遷移確率は次のように与えられる。 :<math>W_{i \rightarrow f}=\frac{2\pi}{\hbar}\Bigg|\langle f |\hat{H}'|i \rangle +\sum_n \frac{\langle f |\hat{H}'|n \rangle\langle n |\hat{H}'|i \rangle}{E_i - E_n}\Bigg|^2\delta(E_f-E_i)</math> ==== 具体例 ==== *[[電子遷移]]:[[電子]]がある[[電子軌道|軌道]]から別の[[電子軌道|軌道]]へ飛び移ること、あるいは[[価電子帯]]の頂上から[[伝導帯]]の底へ電子が飛び移ること。 *[[振動遷移]]・[[回転遷移]]:分子の振動や回転の状態が変化すること。 これらの遷移は、[[ヤブロンスキー図]]などを用いて表現される。 == 流体力学における遷移 == [[流体力学]]では、[[層流]]から[[乱流]]に流れの状態が変化することを層流から乱流に"遷移"するという。 == 群集生態学における遷移 == [[群集生態学]]では、ある基質上の[[生物群集]]が時間的経過にそって、一定の不可逆な[[種組成]]の変化をしめす場合にこの言葉を使う。特に、[[植物群集]]を中心にした遷移は、[[生態系]]の発達にも関わって重要である。 {{Main|遷移 (生物学)}} == 情報工学における遷移 == [[オートマトン]]理論として知られている[[情報工学]]の一分野では、遷移とはシステムの状態が変化することを意味する。[[有限オートマトン]]は矢印付きの弧でその遷移を表す一方、[[ペトリネット]]は特別なノードの要素として表す。[[状態遷移表]]、[[状態遷移図]]も参照されたい。 == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} {{Reflist}} {{sci-stub}} {{DEFAULTSORT:せんい}} [[Category:物理化学の現象]] [[Category:システム]]
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