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{{otheruses|[[化学反応]]における還元|[[計算複雑性理論]]における還元(帰着・変換)|還元 (計算複雑性理論)}} {{See Wiktionary}} {{出典の明記|date=2015年7月}} '''還元'''(かんげん、{{lang-en-short|reduction}})とは、対象とする物質が[[電子]]を受け取る[[化学反応]]のこと。または、原子の[[酸化数]]が小さくなる化学反応のこと。具体的には、物質から[[酸素]]が奪われる反応、あるいは、物質が[[水素]]と化合する反応等が相当する。 目的化学物質を還元するために使用する試薬、原料を還元剤と呼ぶ。一般的に還元剤と呼ばれる物質はあるが、反応における還元と[[酸化]]との役割は物質間で相対的であるため、実際に還元剤として働くかどうかは、反応させる相手の物質による。 還元反応が工業的に用いられる例としては、[[製鉄]](原料の[[酸化鉄]]を還元して[[鉄]]にする)などを始めとする金属の[[製錬]]が挙げられる。また、[[有機合成化学]]においても、多くの種類の還元反応が工業規模で実施されている。 == 有機化学における還元 == === 水素化=== 水素ガスを還元剤として用いる還元反応を'''水素化'''<ref>{{lang-en|links=no|hydrogenations}}</ref>あるいは'''水素添加'''(略して水添)という。通常、[[触媒]]を必要とするので、接触水素化と呼ばれることも多い。触媒が系に溶解する均一系の反応と触媒が系に溶解しない不均一系の反応に大別される。 不均一系の水素化では主に[[ニッケル]]、[[銅]]-[[酸化クロム]]、[[ルテニウム]]、[[パラジウム]]、[[ロジウム]]、[[プラチナ|白金]]などの金属の微粉末、もしくはそれらを[[活性炭]]、[[酸化アルミニウム|酸化アルミ二]]ウムの不溶性の担体に吸着させたものが触媒として用いられる。 *C=C二重結合、C≡C三重結合をC-C単結合へ水素化するにはニッケル、ルテニウム、パラジウム、白金がよく用いられる。これらの中からの選択は基質に存在する他の官能基への選択性を考慮して選択される。[[アダムス触媒]]と呼ばれる酸化白金PtO<sub>2</sub>のような強力な触媒が使用されることもある。 *C≡C三重結合をC=C二重結合に部分還元するには、パラジウムを被毒して活性を低下させた[[リンドラー触媒]]がしばしば使用される。このとき、シス体のアルケンが選択的に得られる。 *[[芳香族化合物]]を水素化して飽和の環に還元するにはルテニウムやロジウムがしばしば使用される。特にロジウムは水素圧が低くても芳香環を還元することができる。ルテニウムは硫黄化合物による被毒を受けないのでチオフェン環の水素化にも利用できる。 *[[アルデヒド]]および[[ケトン]]のC=O二重結合([[カルボニル基]])をCH-OH([[アルコール]])へ還元するにはニッケル、銅、ルテニウム、白金が良く用いられる。銅-酸化クロム触媒はC=C二重結合よりもカルボニル基を選択的に還元できる傾向があるが、この目的にはヒドリド還元のほうがすぐれている。 *[[エステル]]のカルボニル基を還元するには、銅-酸化クロム触媒が使用されるが高温、高圧の条件が必要となる。 *[[ベンジル基]]アルコールやベンジルエーテルのC-O単結合を加水素分解するには[[パラジウム]]触媒がよく用いられる。この方法は有機合成においてアルコールをベンジル保護した後、脱保護するのに用いられる常法である。 *炭素-[[硫黄]]結合を加水素分解するにはニッケル-[[アルミニウム]]合金をアルカリで溶解させて調製する[[ラネー合金]]触媒が用いられる。この反応はアルミニウムの溶解の際にニッケルへ吸着された水素による水素化反応である。カルボニル基を[[チオアセタール]]とした後に、この方法を使用するとメチレン基に還元できる。この反応は中性に近い条件で進行し、[[クレメンゼン還元]](強酸性下で行われる)、[[ウォルフ・キッシュナー還元]](強塩基性下で行われる)の条件では不安定な物質にも適用できる。 均一系の水素化では[[ホスフィン]][[配位子]]を持つルテニウムやロジウムなどの遷移金属錯体が触媒として使用される。不斉水素化はキラルなホスフィン(代表としては[[BINAP]])を配位子としたこの種の触媒で行われる。 *[[ウィルキンソン触媒]] (Wilkinson's complex):RhCl(PPh<sub>3</sub>)<sub>3</sub>で低圧でC=C二重結合を水素化することができる。 記事:[[水素化]] も参照のこと。 === ヒドリド還元 === 金属あるいは半金属の水素化物やその錯化合物([[アート錯体]])を還元剤として用いる還元反応である。 記事 [[ヒドリド還元]]に詳しい。 *[[ジボラン]](B<sub>2</sub>H<sub>6</sub>)は、[[アルデヒド]]や[[ケトン]]をアルコールに還元できるほか、[[カルボン酸]]もアルコールに還元することができる。 *[[水素化ホウ素ナトリウム]](NaBH<sub>4</sub>)は、アルコールやアルカリ性の水を溶媒として使用できる還元剤。[[アルデヒド]]や[[ケトン]]をアルコールに還元する。[[エステル]]は加熱したり、[[テトラヒドロフラン]]などを溶媒に使用するとアルコールに還元される。また、α,β-不飽和カルボニル化合物は 1,4-還元された後、カルボニル基も還元されて飽和のアルコールとなる。しかし[[セリウム]]塩を添加すると、1,2-還元が起こりアリルアルコールを生成するようになる。 *[[シアノ水素化ホウ素ナトリウム]](NaBH<sub>3</sub>CN)は、水素化ホウ素ナトリウムよりも還元力が低いが、酸性の水中での安定性が良い。アルカリ性水溶液では不安定な[[イミン]]を[[アミン]]に還元するのに利用される。 *[[水素化トリエチルホウ素リチウム]](LiBH(C<sub>2</sub>H<sub>5</sub>)<sub>3</sub>)は、'''Super Hydride'''という商標を持つ還元剤で市販されており、知られているヒドリド還元剤の中では特に強力な還元力を持つ。立体障害を受けているハロゲン化アルキルの還元などに使用される。 *[[水素化トリ(sec-ブチル)ホウ素リチウム]](LiBH(sec-C<sub>4</sub>H<sub>9</sub>)<sub>3</sub>)および[[水素化トリ(sec-ブチル)ホウ素カリウム]](KBH(sec-C<sub>4</sub>H<sub>9</sub>)<sub>3</sub>)は、それぞれ'''L-Selectride'''、'''K-Selectride'''の商標を持つ還元剤である。立体的にかさ高い還元剤なので水素化ホウ素ナトリウムによる還元とは[[立体選択性]]が変化することがある。 *[[水素化ジイソブチルアルミニウム]](DIBAL-H)は、ルイス酸性を有する還元剤で、アルデヒドやケトン、エステルをアルコールに還元できるほか、[[アセタール]]を分解して[[エーテル (化学)|エーテル]]にしたり、[[エポキシド]]を級数の多い側で開環させてアルコールにする。[[ニトリル]]は[[イミン]]に還元され、加水分解するとアルデヒドになる。また低温で反応を行うとエステルをアルデヒドに部分還元することができる場合もある。 *[[水素化アルミニウムリチウム]](LAH)(LiAlH<sub>4</sub>)は、強力な還元剤でアルデヒドやケトン、カルボン酸、エステルをアルコールへ還元する。ニトリルやアミドはアミンへ還元される。またハロゲン原子も水素に置換される。エポキシドを級数の少ない側で開環させてアルコールにする。α,β-不飽和カルボニル化合物の還元は1,2-還元が優先しアリルアルコールを生成する。水と接触したり、120℃以上に加熱すると激しく分解して発火することがある。反応はよく乾燥した[[ジエチルエーテル]]やテトラヒドロフランを溶媒として行う。 *[[水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム]]は、'''Red-Al'''という商標を持つ還元剤でLAHと同じような還元力を持つ。高温にしても比較的安定であり、発火の危険性が小さい利点がある。 *[[水素化トリブチルスズ]]((n-C<sub>4</sub>H<sub>9</sub>)<sub>3</sub>SnH)は、ルイス酸の存在下では[[水素化ジイソブチルアルミニウム]]と同様の還元作用を示すが、ラジカル的な還元剤として有用である。光照射や[[アゾビスイソブチロニトリル]](AIBN)のようなラジカル開始剤などによりトリブチルスズラジカルが発生し、それによってハロゲン化アルキルや硫黄化合物などからハロゲンや硫黄官能基が引き抜かれ、発生したラジカルが水素化トリブチルスズから水素を引き抜いて還元される。 === 金属還元 === 単体の金属を還元剤に用いる還元で、以下の例を除くと、もっぱら[[ニトロ基]]など還元されやすい官能基を還元する場合に利用するが、被毒触媒を用いた水素化反応での置換が可能。 代表的な反応は酸性溶液下での金属[[スズ]]を用いた[[ニトロ基]]のアミノ化反応。 ==== クレメンゼン還元==== '''クレメンゼン還元'''<ref>{{lang-en|links=no|Clemmensen reduction}}</ref>とは[[ケトン]]や[[アルデヒド]]の[[カルボニル基]]を還元して[[メチレン基]]にする還元反応であり、[[亜鉛]][[アマルガム]]を用いて[[塩酸]]などの中で反応させると発生する。記事:[[クレメンゼン還元]] を参照。 ==== バーチ還元==== '''バーチ還元'''<ref>{{lang-en|links=no|Birch reductions}}</ref>とは[[アルカリ金属]]を液体[[アンモニア]]に溶解して得られる[[溶媒和電子]]による還元のことである。ベンゼン環はシクロヘキサジエンに還元される。[[電子供与基]]がある場合には 1,4-シクロヘキサジエンが、[[電子求引基]]がある場合には 2,5-シクロヘキサジエンが得られる。α,β-不飽和ケトンは 1,4-還元が起こり C=C二重結合だけが部分還元される。 C≡C三重結合は[[トランス (化学)]]型の C=C二重結合へと部分還元される。 また、ベンジルエーテルやベンジルチオエーテルは C-O結合、C-S結合が還元される。記事:[[バーチ還元]] を参照。 === メールワイン・ポンドルフ・バーレー還元=== '''メールワイン・ポンドルフ・バーレー還元'''<ref>{{lang-en|links=no|Meerwein-Ponndorf-Verley reduction}}</ref>とは[[トリイソプロポキシアルミニウム]] (''i''-PrO)<sub>3</sub>Al) を触媒として[[イソプロピルアルコール]]を還元剤兼溶媒として使用する還元反応である。 イソプロピルアルコールであることは必須ではなく反応温度を高くすることが必要な場合はシクロヘキサノールなどの他のアルコールも使用される。 この反応は平衡反応であるので反応を完結させるには大過剰の還元剤を使用する、生成したケトンを系外に留出させるなどの方法で平衡を生成系側へ移動させる必要がある。記事:[[メールワイン・ポンドルフ・バーレー還元]]に詳しい。 === ウォルフ・キッシュナー還元 === '''ウォルフ・キッシュナー還元'''<ref>{{lang-en|links=no|Wolff-Kishner reduction}}</ref>とは[[ケトン]]や[[アルデヒド]]の[[カルボニル基]]を還元して[[アルキレン基|メチレン基]]にする還元反応で、[[ヒドラジン]]と[[水酸化カリウム]]を用いて[[アルコール]][[溶媒]]下で反応させると発生する。副産物として[[窒素]]分子と[[水]]が発生する。記事:[[ウォルフ・キッシュナー還元]] を参照。 :<math>\rm RCOR' + NH_2NH_2 \longrightarrow RCH_2R' + N_2 + H_2O</math> == 金属精錬における還元 == 鉄や銅など近世以前に発見され今日でも汎用される金属を[[製錬]]する場合、[[鉱石]]中に存在する金属酸化物あるいは硫化物を還元し単体金属にするのに溶鉱炉中で炭素を用いて還元する方法が広く用いられる。 [[アルミニウム]]あるいは[[アルカリ金属]]等、酸化され易い金属を炭素を用いて溶鉱炉で還元することは非常に困難である。この様な場合は溶融塩を[[電気分解]]することで単体金属を得ることができる。 あるいは金属酸化物を還元する方法として[[テルミット法]]が利用される場合もある。 == 生体における還元 == 生体内では[[酵素]]反応により還元反応が進行することが知られている。ほとんどの還元酵素は[[ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド]] (NAD) あるいは[[フラビンアデニンジヌクレオチド]] (FAD) を水素供与体(還元剤)として利用する。 ==還元剤の例== * [[シュウ酸]] : H<sub>2</sub>C<sub>2</sub>O<sub>4</sub> → 2CO<sub>2</sub> + 2H<sup>+</sup> + 2e<sup>-</sup> * [[水素]] : H<sub>2</sub> → 2H<sup>+</sup> + 2e<sup>-</sup> * [[塩化スズ(II)]] : Sn<sup>2+</sup> → Sn<sup>4+</sup> + 2e<sup>-</sup> * [[硫化水素]];H<sub>2</sub>S : H<sub>2</sub>S → S + 2H<sup>+</sup> + 2e<sup>-</sup> * [[ヨウ化カリウム]] : 2I<sup>-</sup> → I<sub>2</sub> + 2e<sup>-</sup> * [[硫酸鉄(II)]] : Fe<sup>2+</sup> → Fe<sup>3+</sup> + e<sup>-</sup> * [[二酸化硫黄]](酸化剤にもなる) : SO<sub>2</sub> + 2H<sub>2</sub>O → SO<sub>4</sub><sup>2-</sup> + 4H<sup>+</sup> + 2e<sup>-</sup> * [[過酸化水素]](酸化剤にもなる) : H<sub>2</sub>O<sub>2</sub> → O<sub>2</sub> + 2H<sup>+</sup> + 2e<sup>-</sup> ==脚注== <references/> == 関連項目 == *[[酸化還元反応]] *[[酸化]] {{Normdaten}} [[Category:有機化学|かんけん]] [[Category:物理化学|かんけん]] [[Category:化学反応|かんけん]] [[es:Reducción]]
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