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[[量子化学]]において、'''重なり積分'''(かさなりせきぶん、{{lang-en-short|overlap integral}})とは[[原子軌道]]の[[積]]を含む[[関数 (数学)|関数]]の[[積分]]である。 == 概要 == [[分子]]や[[固体]]のなかの[[電子]]の状態を表す[[波動関数]]を、[[規格化]]された原子軌道関数を素材として作ることが多い。このとき波動関数を用いて[[エネルギー]]などの[[物理量]]を計算するためには、原子軌道の積を含む関数の積分(分子積分)が必要になる.分子積分のなかで最もよく現れる積分は、原子Aに中心をもつ原子軌道関数<math>\chi_A(\mathbf{r})</math>と原子Bに中心をもつ原子軌道関数<math>\chi_B(\mathbf{r})</math>に関する積分 :<math>S=\int\chi^*_A(\mathbf{r})\chi_B(\mathbf{r})d\tau</math> である。<math>\chi_A</math>と<math>\chi_B</math>が全く重ならないときは<math>S=0</math>で、完全に重なるときは<math>S=1</math>である。<math>S</math>は0と1の間の大きさをもつ量で、<math>\chi_A</math>と<math>\chi_B</math>の重なりの程度を表すと考えられるので'''重なり積分'''(または'''重畳積分''')という。 [[化学反応]]を説明する[[電子対理論]]においては、重なり積分が大きいほど安定な[[電子対]]を作りやすいといわれている。一方、大きな分子を扱うときなどで、化学結合を作っていない原子軌道の重なり積分を省略することもしばしば行われる。このような取り扱いの当否は議論の余地のあるところであるが、実験結果を理論的に説明するという意味では都合の良いことも多い。化学結合を説明した草分けの[[ヴァルター・ハイトラー|ハイトラー]]、[[フリッツ・ロンドン|ロンドン]]、[[杉浦義勝]]の論文では、<math>S^2</math>のことを<math>S</math>と書いてあるので注意を要する。重なり積分は原子核内における[[核子]]の波動関数についても原子と同じように用いられる。 ==重なり行列== '''重なり行列'''({{lang-en-short|overlap matrix}})は、[[量子化学]]において使われる[[正方行列]]である。分子の電子構造計算において用いられる原子軌道[[基底関数系 (化学)|基底関数系]]といった[[量子力学|量子]]系の一連の[[基底 (線型代数学)|基底ベクトル]]の相互関係を記述するために用いられる。具体的には、もしベクトルが互いに[[直交]]しているとすると、重なり行列は[[対角行列]]となる。加えて、もし基底ベクトルが[[正規直交系]]を形成するとすると、重なり行列は[[単位行列]]となる。重なり行列は常に''n''×''n''行列(''n''は用いられる基底関数の数)である。これは[[グラム行列]]の一種である。 一般に、個々の重なり行列要素は1つの重なり積分として定義される。 :<math>S_{jk} = \langle b_j | b_k \rangle = \int \Psi_j^* \Psi_k \, d\tau</math> 上式において、 :<math>\left |b_j \right \rangle</math>は、''j''番目の基底[[ブラ-ケット記法|ケット]]([[空間ベクトル|ベクトル]])、 :<math>\Psi_j</math>は、<math>\Psi_j(x)=\left \langle x | b_j \right \rangle</math>と定義される''j''番目の[[波動関数]]である。 具体的には、基底系が正規化されると(直交である必要はない)、対角要素はあらゆる点で等しく1となり、非対角要素の大きさは、[[コーシー=シュワルツの不等式]]の通り基底系において一次従属がある時かつその時に限り、1以下となる。さらに、この行列は常に[[行列の定値性|正定値行列]]である。すなわち、固有値は全て厳密に正の値となる。 == 参考文献 == * 『物理学辞典』 培風館、1984年 ==関連項目== *[[ローターン方程式]] *[[ハートリー-フォック方程式]] {{DEFAULTSORT:かさなりせきふん}} [[Category:量子化学]]
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