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量子ポイントコンタクト
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'''量子ポイントコンタクト'''(りょうしポイントコンタクト、QPC)とは大きな[[導体]]の間に挟まれた狭いくびれで、幅が[[電子]][[波長]]([[ナノメートル|nm]] から [[マイクロメートル|μm]] )と同程度であるものを言う。 量子ポイントコンタクトはオランダのグループ(Van Wees他)ならびにイギリスのグループ(Wharam他)によって独立に実現された(1988年)。 ==作製法== 量子ポイントコンタクトを作製する方法は様々である。 [[ブレークジャンクション]]法を例にとると、導体を千切れる寸前まで引き伸ばせば破断点にポイントコンタクトが形成される。 それと比較すると、[[ヒ化ガリウム|GaAs]]/[[AlGaAs]][[ヘテロ接合 (半導体)|ヘテロ構造]]などで実現される[[二次元電子ガス]](2DEG)を利用する方法はより構造制御が容易である。 特定の場所にゲート電圧をかけることにより、二次元面内の電子ガスを局所的に[[空乏層|空乏化]]させることができるので、多様な構造の伝導領域が得られる。[[量子ドット]]やポイントコンタクトはその一例である。 このほか、[[走査型トンネル顕微鏡]]の[[探針]]を導体[[表面]]に近づけることでもポイントコンタクトが得られる。 == 特性 == 量子ポイントコンタクトは伝導に垂直な方向に狭くなっているため、 運動する電子にとっては[[電気抵抗]]として働く。 ポイントコンタクトの両端に[[電圧]]<math>V</math>をかけたときに流れる[[電流]]の大きさは、コンタクトの[[コンダクタンス]]を<math>G</math>として<math>I=GV</math>である。 この式は[[巨視的]]な[[抵抗器|抵抗]]における[[オームの法則]]に似ているが、サイズが微小で[[量子力学]]的な扱いを要するため、本質的に異なるものである。 低温・低電圧の極限では、伝導に寄与する電子の[[エネルギー]]・[[運動量]]・[[波数]]は一定値を取る。その値はそれぞれ[[フェルミエネルギー]]・[[フェルミ面|フェルミ運動量]]・フェルミ波数と呼ばれる。 量子ポイントコンタクトの中では横方向の閉じ込めが起きているため、[[導波管]]と同様に横方向の運動が量子化される。 そのため、電子波がコンタクトを通過できるのは自身と正の[[干渉 (物理学)|干渉]]を起こす場合に限られるのだが、 この条件を満たすモードの数<math>N</math>はくびれの横幅から決まる。 一つのモード(横方向の運動の[[量子状態]])が運ぶ電流は、フェルミ準位における速度と[[状態密度]]の積に比例する。 この二つの量はモードごとに異なっているが、積はモードの種類に依存しない。 結果としてそれぞれのモードからのコンダクタンスへの寄与は等しくなり、[[スピン角運動量|スピン]]一方向あたり<math>G_Q=e^2/h</math>である。モード全体では :<math> G=N G_Q </math>. となる。 上の結果は原理的なものである。コンダクタンスは任意の値を取ることができず、[[電気素量]]<math>e</math>と[[プランク定数]]<math>h</math>で表される[[コンダクタンス量子]]<math>G_Q=2e^2/h</math>の[[整数]]倍の値しか許されないのである。 整数<math>N</math>はポイントコンタクトの横幅によって決まる値で、幅を電子波長の二倍で割ったものとおおよそ等しい。 GaAs/AlGaAsヘテロ構造では、ゲート電圧によって幅を制御することができる。幅を広げれば伝導に寄与するモード(チャネルとも言う)の数が増加するので、コンダクタンスは階段状に変化する。 そのステップ高さは<math>G_Q</math>で与えられる。 量子ポイントコンタクトに外部[[磁場]]をかけると、スピン[[縮退]]が解けてコンダクタンスに半整数のステップが出現するようになる。 また関与するモードの数<math>N</math>が減少する。 磁場を大きくすると、<math>N</math>がくびれの幅に依存しなくなる。これは[[量子ホール効果]]の理論から導かれる。 量子ポイントコンタクトに関して、<math>0.7G_Q</math>の位置に余分なプラトーが出現するという未解決の問題があり、0.7構造と呼ばれて興味を集めている。 == 応用 == [[メゾスコピック領域|メゾスコピック]]伝導の基礎研究以外にも、量子ポイントコンタクトはきわめて[[感度 (計測機器)|感度]]の高い[[電荷]]検出素子として有用である。 例えば他の電子の存在により近傍の[[電位]]がゆらぐと、空乏化領域の境界が移動する。ポイントコンタクトのコンダクタンスはくびれ部分の幅に強く依存するため、コンタクトを流れる電流はその影響を受ける。 この方法で単一の電子を検出することもできる。 固体[[量子コンピュータ|量子計算]]の分野では、[[量子ビット]]の状態の読み出しに応用することが考えられる。 == 関連項目 == * [[量子力学]] * [[物性物理]] * [[量子井戸]] * [[量子細線]] == 参考文献 == * {{cite journal | author=H. van Houten and C.W.J. Beenakker | year=1996 | title='''Quantum point contacts''' | journal=Physics Today | volume=49 | issue=7 | pages=22–27 | url= https://arxiv.org/abs/cond-mat/0512609 }} * {{cite journal | author=C.W.J.Beenakker and H. van Houten | year=1991 | title='''Quantum Transport in Semiconductor Nanostructures''' | journal=Solid State Physics | volume=44 | url= https://arxiv.org/abs/cond-mat/0412664 }} * {{cite journal | author=B.J. van Wees et al. | year=1988 | title='''Quantized conductance of point contacts in a two-dimensional electron gas''' | journal=Physical Review Letters | volume=60 | pages=848–850 }} * {{cite journal | author=D.A. Wharam et al. | year=1988 | title='''One-dimensional transport and the quantization of the ballistic resistance''' | journal=J. Phys. C | volume=21 | pages=L209 }} * {{cite journal | author=J.M. Elzerman et al. | year=2003 | title='''Few-electron quantum dot circuit with integrated charge read out''' | journal=Physical Review B | volume=67 | pages=161308 }} * {{cite journal | author=K. J. Thomas et al. | year=1996 | title='''Possible spin polarization in a one-dimensional electron gas''' | journal=Physical Review Letters | volume=77 | pages=135 }} * {{cite journal | author=Nicolás Agraït, Alfredo Levy Yeyati, Jan M. van Ruitenbeek | year=2003 | title='''Quantum properties of atomic-sized conductors''' | journal=Physics Reports | volume=377 | pages=81 }} {{DEFAULTSORT:りようしほいんとこんたくと}} [[Category:量子力学]] [[Category:ナノテクノロジー]] [[Category:固体物理学]]
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