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{{脚注の不足|date=2022年7月}} '''量子状態'''(りょうしじょうたい、{{Lang-en-short|quantum state}}<ref>{{Cite book|和書 |author=文部省|authorlink=文部省 |coauthors = [[日本物理学会]]編 |title = 学術用語集 物理学編 |url = http://sciterm.nii.ac.jp/cgi-bin/reference.cgi |year = 1990 |publisher = [[培風館]] |isbn = 4-563-02195-4 |page = }}</ref>)とは、[[量子論]]で記述される[[系 (自然科学)|系]](量子系)に関する情報のことである。 これは系の[[物理量]]([[オブザーバブル|可観測量]]、[[オブザーバブル]])を測定したとき、その測定値のバラつき具合を表す確率によって定義される。 以下に述べるように、量子状態には、[[量子状態#純粋状態|純粋状態]]と[[量子状態#混合状態|混合状態]]とがある。 == 定義 == 量子論では、全く同じように系を準備して、その系について全く同じように物理量(オブザーバブル)を[[測定]]しても、測定をするたびに、異なった測定値が得られうる。このことは、「(原理的には)物理量が定まっている」とする[[古典論]]とは明らかに異なる。よって古典論のように、物理量の一つの測定値から状態を定義(規定)するということができない。 そこで物理量 <math>A \ </math> の測定を行うことを考える。測定したい系を数多く用意して、充分多くの回数だけ測定を行うと、ある測定値 <math>a_0 \ </math> が出現する頻度がある一定値に収束することが知られている。それをすべての測定値 <math>a_0, a_1,\ldots</math> について調べることで、どのように測定値がバラつくかを表す[[確率分布]] <math>P ( a ) \ </math> が得られる。 このことからも分かる通り、実は量子論において定まっているのは、測定によって得られる物理量ではなく、この「物理量がどのようにバラつくかを表す[[確率分布]]」なのである。 よって量子論では、量子状態の定義もこの「測定値の確率分布」を使う。量子論における'''状態'''とは「各物理量 <math>A,B,\ldots</math> について、それを測定した時に得る測定値の確率分布 <math>P(a),P(b),\ldots</math>を与えるもの」を指す。 == 定式化 == 上記のような事情から、量子論における「状態」や「物理量」を数式で表現するためには、少し工夫が必要である。 しかし、正しい「物理量の測定値の[[確率分布]] <math>{P(a)} \ </math>」が得られるような方法ならば、どんなものであっても構わない。これまで定式化の方法として「演算子形式」や「[[経路積分]]形式」などが作られている。これらは見かけ上はずいぶん異なって見えるが、得られる物理量の測定値の確率分布 <math>{P(a)} \ </math> は同じなので、どれも等価な理論である。 以下では、その中でも最も一般的な「演算子形式」での定式化の方法について述べる。 なお、演算子形式の量子論では「複素[[ヒルベルト空間]]」と呼ばれる抽象的な空間を考えるが、その理由は「そうすればうまく自然を記述できたから」と言うよりほかない。もっと具体的なものを使って、正しい <math>{P(a)} \ </math> を求めることができる方法が存在するかもしれないが、これまでのところ見つかっていない。 == 純粋状態 == '''純粋状態''' とは、標語的に言い表せば、扱う系について原理的に可能な限りの情報が既に得られている場合の状態であり、以下に示す '''状態[[数ベクトル空間|ベクトル]]''' によって表現されるものを言う。 純粋状態は、ある[[ヒルベルト空間]] <math>\mathcal{H}</math> の[[規格化]]された[[射線]](原点から伸びる、位置ベクトルのようなものを想像していただきたい)<math>e^{i\theta}|\psi\rangle</math> で表される。これは、自身との内積<math>(|\psi\rangle)^\dagger|\psi\rangle=\langle\psi|\psi\rangle</math>が次の規格化条件、 {{Indent|<math>\langle\psi|\psi\rangle = 1</math>}} を満たす。 ただし、このベクトルのとり方については、上記の規格化条件さえ満たせばよく、<math>|\psi\rangle</math> と <math>e^{i\theta}|\psi\rangle</math> は、したがって一つの同じ純粋状態を表す。ここで、[[位相因子]]<math>e^{i\theta}</math>はベクトル全体にかかっている限り物理的に意味を持たず、複数のベクトルの[[重ね合わせ]]る際に位相'''差'''のみが意味を持つ。このような <math>|\psi\rangle</math> を '''状態ベクトル''' と呼ぶ。また特別に、ある物理量が確定値をとる状態を、[[固有状態]]といい、このとき状態ベクトルはその物理量(演算子)に対する[[固有ベクトル]]になっている。たとえば、状態 <math>|\psi\rangle</math> がエネルギー固有値 <math>E</math> のエネルギー固有状態([[ハミルトニアン]] <math>H</math> の固有ベクトル)であったときには、 :<math>H|\psi\rangle=E|\psi\rangle</math> と表す。 === 位相因子 === 2つの量子状態 <math>|\alpha\rangle</math> 、 <math>|\beta\rangle</math> の[[重ね合わせ]](Superposition)で新しい量子状態を作ることができる。 :<math>c_\alpha|\alpha\rang+c_\beta|\beta\rang</math> この新しい状態は、複素数<math>c_\alpha</math>と<math>c_\beta</math>の振幅と位相([[複素数の偏角|偏角]])に依存する。つまり例えば、 <math>|\psi\rang</math> と <math>e^{i\theta}|\psi\rang</math> (<small>''θ''は実数</small>)、 <math>|\phi\rang</math> と <math>e^{i\theta}|\phi\rang</math> (<small>''θ''は実数</small>)が同じ量子状態であったとしても、<math>|\phi\rang+|\psi\rang</math> と<math>|\phi\rang+e^{i\theta}|\psi\rang</math> は(一般的に)同じ量子状態ではなく、入れ換えることはできない。しかし<math>|\phi\rang+|\psi\rang</math> と <math>e^{i\theta}(|\phi\rang+|\psi\rang)</math> は同じ量子状態となる。このことを指して、「絶対的 (global) 」な位相は物理的な意味を持たないが、「相対的 (relative)」な位相は物理的な意味をもつ、と言われることがある。 たとえば[[二重スリット実験]]における[[光子|フォトン]]の状態は、左側のスリットを通った状態と右側のスリットを通った状態という2つの異なる状態の重ね合わせとなる。この2つの状態の相対位相は、2つのスリットからの距離に依存する。位相に依存して、干渉が起きる場所と起きない場所が生じ、その結果として干渉縞ができる。波における[[コヒーレンス]]との類似性から、重ね合わされた状態はコヒーレント重ね合わせ状態とも呼ばれる。 また[[ラビ振動]]では、シュレーディンガー方程式により相対位相が時間変化する。その結果、重ね合わせられた状態は2つの状態間を振動する。 == 混合状態 == '''混合状態''' とは、すべての[[オブザーバブル|物理量]] <math>A</math> について、その測定値([[固有値]])に対する[[確率分布]] <math>P ( a ) </math> が、純粋状態 <math>|\psi_1\rangle, |\psi_2\rangle, \ldots</math> における物理量 <math>A</math> の測定値に対する確率分布 <math>P_1 ( a ), P_2 ( a ), \ldots</math> に、重み <math>p_1, p_2, \ldots</math> をつけて平均したものとして表せるような状態のことである。 {{Indent|<math> P ( a ) \ = \sum_k p_k P_k ( a ) \ ( 0 < p_k < 1, \sum_k p_k \, = 1 ).</math>}} <math>P ( a )</math> は <math>P_1 ( a ), P_2 ( a ), \ldots</math> を[[確率]] <math>p_1, p_2, \ldots</math> で{{仮リンク|混合分布|label=混合した分布|en|Mixture distribution}}となっており、 複数の確率分布を[[重み付き平均]]した形である。 <!-- 混合状態における測定値の確率分布は純粋状態での確率分布たちを[[重み付き平均]]したものとなっており、 --> また、任意の物理量の[[期待値]]についても同様の重み付き平均となる。 これは状態ベクトルの量子論的な[[重ね合わせ]]とは異なる。 <!-- 量子論的な状態の[[重ね合わせ]]では[[干渉_(物理学)#量子干渉|干渉]]が起こるため、確率分布自体は重ね合わせでは表されないが([[二重スリット実験]])、混合状態においては、[←不正確] 古典論と同様に、確率分布の重ね合わせが成り立つ(量子的な重ね合わせではない)。 --> <!-- [[系 (自然科学)|系]]についての知識・情報 複数の純粋状態を統計的に混ぜた は混合状態と考えることができる。 ただし、実質的に同一の混合状態でも 複数の純粋状態の混合として分解する方法は一意ではない。 --> 一般に、混合状態は状態ベクトルではなく'''「密度演算子」''' <math>\hat{\rho}</math> を用いて表す。 === 密度演算子 === {{Main|密度行列}} 混合状態において、{{mvar|k}} 番目の状態が確率(重み)<math>p_k</math> で混ざっているとき、 {{Indent|<math> \hat{\rho} = \sum_k p_k | \psi_k \rangle \langle \psi_k | </math>}} で定義される演算子 <math>\hat{\rho}</math> を '''密度演算子''' と言う。'''[[密度行列]]''' <math>\mathbf{\rho}</math> は、密度演算子を[[行列表示]]したものである。 密度演算子 <math>\hat{\rho}</math> は以下の性質を満たす。 * <math>\hat{\rho}</math> は[[エルミート演算子]] * 任意の <math>|\phi\rangle\in\mathcal{H}</math> に対し、<math>0\leq\langle\phi|\hat{\rho}|\phi\rangle</math> **([[ヒルベルト空間]]上のすべての状態ベクトルについて、それとそれに密度演算子を作用させた状態との内積は負にならない:確率はゼロまたは正) * <math>\mathrm{Tr} \{\mathbf{\rho} \} = 1</math> **(密度行列の[[跡_(線型代数学)|トレース(対角和)]]は1になる:全事象の起こる確率は1) * <math>\mathrm{Tr} \{\mathbf{\rho}^2\} = \sum_k p_k^2 \leq 1</math> **(密度行列の二乗のトレースは1以下になる。特に、等号が成り立つ場合、純粋状態を表す) == 物理量の測定 == {{main|オブザーバブル}} 演算子形式では、物理量は[[エルミート演算子]]で表される。物理量 <math>A \ </math> の測定値は測定ごとにバラつくが、得られる測定値はエルミート演算子 <math>\hat{A} \ </math> の[[固有値]] <math>a_1, a_2, \ldots </math>に限られると仮定する。そして、その確率分布 <math> P(a_n)</math> は定まっており、 :<math> P(a) = \left\| |a\rangle\langle a | \psi \rangle \right\|^2=\langle a|\langle\psi|a\rangle\langle a|\psi\rangle|a\rangle=|\langle a|\psi\rangle|^2=|\psi(a)|^2</math> によって求められるとする([[ボルンの規則]])。 == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} {{Reflist}} == 参考文献 == * {{Cite book|和書|author=清水明|year=2004|title=新版 量子論の基礎―その本質のやさしい理解のために―|publisher=[[サイエンス社]]|id=ISBN 4-7819-1062-9}} == 関連項目 == <!-- {{Commonscat|Quantum state}} --> * [[量子力学]] * [[ブラ-ケット記法]] {{量子力学}} {{量子コンピュータ}} {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:りようししようたい}} [[Category:量子力学]]
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