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{{標準模型}} '''量子色力学'''(りょうしいろりきがく、{{Lang-en|quantum chromodynamics}}、略称: QCD)とは、[[素粒子物理学]]において、[[特殊ユニタリ群#SU(3)|SU(3)]]ゲージ対称性に基づき、[[強い相互作用]]を記述する[[場の量子論]]である。 == 色 == [[ファイル:量子色力学-01.svg|サムネイル|右|陽子と中性子の量子色力学]] [[クォークモデル|クォーク]]と[[グルーオン]]は、[[カラーチャージ]]と呼ばれる[[量子数]]を持つ。カラーチャージは、[[光の三原色]]からの類推により「赤」、「緑」、「青」と呼ばれることがある<ref>単なる類推であり、現実の色とは全く関係無い。現実に存在する色は、[[ヒト]]が[[目]]という[[器官]]で感知できる[[可視光線]]の波長に由来する。原色が3であるのは、ヒトの目の[[網膜]]の[[錐体細胞]]が3タイプ存在する事に由来するのであり、純粋な物理学上の法則に由来する訳ではない。</ref>。 カラーチャージを持たない状態は「白色」であるとも呼ばれる。これは SU(3) [[リー代数]]の表現を分かりやすい言葉で表したものである。クォークは SU(3) の基本表現 '''3'''(三重項)を作り、反クォークは基本表現 '''{{overline|3}}'''(反三重項)をなす。'''{{overline|3}}''' は「色」の類推で言えば「補色」に対応している。グルーオンは随伴表現 '''8'''(八重項)で、「色」と「補色」を共に持つ8つの状態がある('''3''' × '''{{overline|3}}''' から、「白色」(一重項)となる組み合わせが取り除かれる)。 カラーチャージは[[グルーオン]]と呼ぶ[[ゲージ粒子]]を交換することでやり取りされ、これが[[強い相互作用]]の源になっている。この相互作用はカラーチャージ間の距離が小さくなる(交換される運動量が高くなる)と弱くなるという、[[漸近的自由性]]を示す。逆に距離が大きくなると相互作用が強まり一定の力に近づく。この結果クォークを単体で取り出すことはできない。これは、現実に観測される[[ハドロン]]の状態は「白色」に限られるという、[[クォークの閉じ込め]]現象を説明する。 「白色」状態を作るには、三原色を持つ[[クォークモデル|クォーク]]と「補色」となるカラーチャージをもつ反粒子とでペアを作る([[中間子|メソン]])か、3つのクォークについて3つの三原色を重ねて「白色」となるようにトリオを作る([[バリオン]])かが考えられる。SU(3) の表現論の言葉で言えば、 :'''3''' × '''{{overline|3}}''' = '''1''' + '''8''' :'''3''' × '''3''' × '''3''' = '''1''' + '''8''' + '''8''' + '''10''' に現れる '''1''' がそれぞれメソンとバリオンに対応している。グルーオンのみからも「白色」の状態を作ることができる。そのような粒子は[[グルーボール]]と呼ばれる。最も簡単なグルーボールをSU(3) の表現論の言葉で言えば、 :'''8''' × '''8''' = '''1''' + '''8''' + '''8''' + '''10''' + '''{{overline|10}}''' + '''27''' に現れる'''1'''が対応している。また、これらの他に「白色」となる状態の可能性もあり、それらはエキゾチックであると呼ばれる。2003年に報道された[[ペンタクォーク]]や[[テトラクォーク]]はエキゾチックな粒子([[エキゾチックハドロン]])の例である。 テトラクォークをSU(3) の表現論の言葉で言えば、 :'''3''' × '''3''' × '''{{overline|3}}''' × '''{{overline|3}}''' = '''1''' + '''8''' + '''8''' + '''{{overline|10}}''' + '''8''' + '''10''' + '''1''' + '''8''' + '''27''' に現れる'''1'''が対応している。 カラーチャージを持つことは、強い相互作用をするということと同じことである。それゆえ、[[電子]]や[[ニュートリノ]]などの[[レプトン (素粒子)|レプトン]]や[[電磁相互作用]]のゲージ粒子である[[光子]]はカラーチャージを持っていない。 == 歴史 == 強い相互作用の現代的イメージの起源はクォーク模型である。1964年、[[マレー・ゲルマン|ゲルマン]]<ref name="Gell-Man1964"> {{cite journal |author=M. Gell-Mann |title=A Schematic Model of Baryons and Mesons |journal=[[Physics Letters]] |volume=8 |issue=3 |pages=214–215 |year=1964 |doi=10.1016/S0031-9163(64)92001-3 }}</ref>と[[ジョージ・ツワイク|ツワイク]]<ref name="Zweig1964a"> {{cite journal |author=G. Zweig |title=An SU(3) Model for Strong Interaction Symmetry and its Breaking |journal=CERN Report No.8182/TH.401 |url=http://cdsweb.cern.ch/record/352337/files/CM-P00042883.pdf |year=1964 }}</ref><ref name="Zweig1964b"> {{cite journal |author=G. Zweig |title=An SU(3) Model for Strong Interaction Symmetry and its Breaking: II |journal=CERN Report No.8419/TH.412 |url=http://lib-www.lanl.gov/la-pubs/00323548.pdf |year=1964 }}</ref>によりクォークが導入された。その後、クォークの束縛状態であるハドロンの[[パウリの排他原理|パウリ統計]]の問題から“新しい”[[自由度]]、カラーがハン、[[南部陽一郎|南部]]<ref> {{cite journal |author=M.Y. Han, Y. Nambu |year=1965 |title=Three-Triplet Model with Double SU(3) Symmetry |journal=[[Physical Review]] |volume=139 |pages=B1006 |doi=10.1103/PhysRev.139.B1006 }}</ref>、グリーンバーグにより提唱された。一方で、QCDの理論的基礎は1954年に発表されていた、[[楊振寧|ヤン]]と[[ロバート・ミルズ|ミルズ]]による[[ヤン=ミルズ理論|非可換ゲージ理論]]<ref name=ym> {{Citation |first1=C. N. |last1=Yang |first2=R. |last2=Mills |year=1954 |title=Conservation of Isotopic Spin and Isotopic Gauge Invariance |journal=[[Physical Review]] |volume=96 |issue=1 |pages=191–195 |doi=10.1103/PhysRev.96.191 }}</ref>である。しかし、この理論は質量ゼロのベクトル粒子(つまり、長距離相互作用する粒子)<ref>なお、この粒子(グルーオンそのものである)が観測されない理由は、やはり[[クォークの閉じ込め]]による。電気的に中性な光子と異なり、グルーオンは色価を持つ。</ref>をふくみ、1fm以下のスケールの現象の記述を目指す理論としては不満足なものだった。さらにこの当時は非可換ゲージ理論の[[繰り込み]]可能性は証明されていなかった。そして、南部は[[カイラル対称性]]やその[[自発的対称性の破れ|自発的破れ]]などを提唱し、1970年代に入ると、非可換ゲージ理論の繰り込み可能性<ref> {{cite journal |author='t Hooft, G. |year=1971 |title=Renormalization of massless Yang-Mills fields |journal=[[Nuclear Physics B]] |volume=33 |pages=173–177 |doi=10.1016/0550-3213(71)90395-6 }}</ref><ref> {{cite journal |author='t Hooft, G. |year=1971 |title=Renormalizable Lagrangians for massive Yang-Mills fields |journal=[[Nuclear Physics B]] |volume=35 |pages=167–448 |doi=10.1016/0550-3213(71)90139-8 }}</ref>や漸近的自由性<ref> {{cite journal |author=D.J. Gross, F. Wilczek |year=1973 |title=Ultraviolet behavior of non-abeilan gauge theories |journal=[[Physical Review]] |volume=30 |pages=1343–1346 |doi=10.1103/PhysRevLett.30.1343 }}</ref><ref> {{cite journal |author=H.D. Politzer |year=1973 |title=Reliable perturbative results for strong interactions |journal=[[Physical Review Letters]] |volume=30 |issue= |pages=1346–1349 |doi=10.1103/PhysRevLett.30.1346 }}</ref>がようやく証明され、QCDは脚光を浴びるようになる。 漸近的自由性により、高エネルギーでは相互作用が弱くなり摂動論による計算が可能となるのに対し、低エネルギーでは相互作用が強くなり摂動論が破綻するため、この理論の基本粒子であるクォークやグルーオンが単体で観測できない問題([[クォークの閉じ込め]])に関する解析は困難であったが、1974年に[[ケネス・ウィルソン]]により提案された[[格子ゲージ理論]]を用いた定式化<ref>{{cite journal | author=Kenneth G. Wilson | year= 1974 | journal=[[Physical Review D]] | volume=10 | issue=8 | page=2445-2459 | title=Confinement of quarks | doi=10.1103/PhysRevD.10.2445}}</ref>により、強結合領域における計算が原理的に可能となった。その後、コンピュータの発展により[[モンテカルロ法]]による数値シミュレーションが可能となり、クォークの閉じ込めの説明や様々なハドロンの質量の計算がなされている<ref> {{Cite book|author=青木慎也|title=格子上の場の理論|publisher=丸善出版|year=2005|id=ISBN 978-4621062432}} </ref>。 == 定式化 == 量子色力学(以下、QCDと表記)はゲージ群 SU(3) に基づく[[ヤン=ミルズ理論]]である。[[カラーチャージ|カラー]] SU(3) の電荷を持つディラック場([[クォーク]])同士の相互作用を媒介する[[ゲージ場]]は[[グルーオン]]である。 グルーオンと相互作用するディラック場についてのQCD[[ラグランジアン密度]]は以下のように記述される。 {{Indent| <math>\mathcal{L}_\text{QCD} =\sum_\psi \left( i\bar\psi^j \gamma^\mu (\mathcal{D}_\mu\psi)_j -m_\psi\bar\psi^j \psi_j \right) -\frac{1}{4}G^a_{\mu\nu} G^{a\mu\nu}</math> }} ここで、ディラック場 <math>\psi_j</math> はカラーの添え字 <math>i=1,2,3</math> を持ち、その[[ヤン=ミルズ理論#共変微分|共変微分]]は {{Indent| <math>(\mathcal{D}_\mu\psi)_j =\partial_\mu\psi_j -ig_s G^a_\mu [T^a]_j{}^k \psi_k</math> }} である。 g<sub>s</sub> は強い相互作用の[[結合定数 (物理学)|ゲージ結合定数]]で、T<sup>a</sup>(a=1,...,8) は SU(3) の[[生成子]]である。 <math>G^a_\mu</math> はSU(3)<sub>c</sub> のゲージ場、即ちグルーオンである。 ゲージ場の強度は {{Indent| <math>G^a_{\mu\nu} =\partial_\mu G^a_\nu -\partial_\nu G^a_\mu +g_s f^{abc} G^b_\mu G^c_\nu</math> }} となる。 ここで f<sup>abc</sup> は SU(3) の[[構造定数 (数学)|構造定数]]である。 ラグランジアンに {{Indent| <math>\mathcal{L}'_\text{QCD} =\mathcal{L}_\text{QCD} +\frac{g_s^2 \theta}{16\pi^2} G^a_{\mu\nu} \tilde{G}^{a\mu\nu}</math> }} という変換を施しても運動方程式は変化しない。 ここで <math>\tilde{G}^{a\mu\nu} =\epsilon^{\mu\nu\rho\sigma} G^a_{\rho\sigma}</math> である。 ==脚注== {{reflist}} == 関連項目 == {{Commons-inline}} * [[ハドロン]] - [[クォーク]]によって構成される粒子 ** [[メソン]] - クォークと反クォークのペアからなるハドロン ** [[バリオン]] - クォーク3個からなるハドロン ** [[ペンタクォーク]] - クォーク、反クォーク合わせて5個からなるハドロン ** [[テトラクォーク]] - クォーク、反クォーク合わせて4個からなるハドロン * [[アクシオン]] * [[繰り込み群]] * [[ヤン=ミルズ理論]] * [[ヤン-ミルズ方程式と質量ギャップ問題]] * [[格子ゲージ理論]] {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:りようしいろりきかく}} [[Category:量子色力学|*]] [[Category:素粒子物理学]] [[Category:標準模型]] [[Category:南部陽一郎]]
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