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{{参照方法|date=2013年6月}} '''錯体'''(さくたい、{{lang-en|complex}})もしくは'''錯塩'''(さくえん、{{lang-en|complex salt}})とは、広義には、[[配位結合]]や[[水素結合]]によって形成された[[分子]]の総称である。狭義には、[[金属]]と非金属の[[原子]]が結合した構造を持つ[[化合物]](金属錯体)を指す。この非金属原子は[[配位子]]である。[[ヘモグロビン]]や[[クロロフィル]]など生理的に重要な金属[[キレート]]化合物も錯体である。また、中心金属の[[酸化数]]と配位子の[[電荷]]が打ち消しあっていない[[イオン (化学)|イオン]]性の錯体は'''錯イオン'''とも呼ばれる。 金属錯体は、[[有機化合物]]・[[無機化合物]]のどちらとも異なる多くの特徴的性質を示すため、現在でも非常に盛んな研究が行われている物質群である。 == 名前について == 錯体の「錯」とは「複数の物が交じる」等の意味がある。 一方、英語では complex というが、これは2種類以上の混ざりものという意味があり、例えばポリマーに酸化物を練り込んだものもcomplexである。錯体がcomplexと呼ばれるのは、配位子と金属イオンとの「混ざりもの」であったからであるが、錯体は「純物質」であり、明確に区別したい場合には「配位化合物」「錯化合物」と呼ぶ場合もある。この英語訳は coordination compound である。 錯体は、歴史的には大きなイオンとして研究が進んだ。そのため、昔は「錯塩」と呼んだが、中性の配位化合物についても研究が進み、現在では錯体と呼ぶのが一般的である。 == 性質 == よく研究されるのは、光([[吸光]]・[[発光]])、[[酸化還元|電気]]、[[磁性|磁気]]、[[触媒]]などの特性である。近年ではこれらの性質を複合した機能錯体(例えば、光電子移動・光磁性制御・電気化学触媒など)の研究も盛んである。 === 構造的特性 === 金属錯体の中心原子は、2から12程度までの多様な[[配位数]]をとる。特に、配位数4の際にとる四面体型錯体や、配位数6の際の八面体型錯体の例など、高い対称性を示すことが多い。 === 分光学的特性 === 多くの金属錯体は特有の美しい色を持つ。これは金属原子のd軌道が配位によって分裂し、このエネルギー差が可視光領域の光エネルギーと一致するためである(詳しくは[[結晶場理論]]および[[配位子場理論]]を参照)。またこの色は金属の[[価数]]や配位環境を反映して様々な色に変化する。 ある種の金属錯体は、配位環境によって、[[光学活性体]]となり、[[キラリティー|キラル]]な化合物となる。 === 構造 === 錯体は特有の色を持つことが多いため、反応の進行は[[紫外・可視・近赤外分光法|UV-Vis スペクトル]]で確認することが多い。厳密な錯体の[[構造決定]]は通常[[X線回折|X線構造解析]]によって行われる。また、必要に応じて[[赤外分光法]] (IR) や[[核磁気共鳴]] (NMR)、[[電子スピン共鳴]] (ESR) なども利用される。 === 幾何異性体 === [MX<sub>4</sub>Y<sub>2</sub>]構造の[[正八面体|八面体]]型六配位錯体および[MX<sub>3</sub>Y<sub>3</sub>]構造の[[平面]][[四角形]]型六配位錯体はそれぞれ[[幾何異性体]]が発生する。[MX<sub>4</sub>Y<sub>2</sub>]構造において、Y配位子が背中合わせの方向に配位していれば''trans''体、隣り合って配位していれば''cis''体となる。[MX<sub>3</sub>Y<sub>3</sub>]構造において、同じ3個の配位子が八面体の一つの面を占有していれば''facial''または''fac''体、中心金属イオンを含む一つの面を占有していれば''meridional''または''mer''体と呼ぶ。 <div align="center"> <gallery> File:Cis-dichlorotetraamminecobalt(III).png|''cis'' -[CoCl<sub>2</sub>(NH<sub>3</sub>)<sub>4</sub>]<sup>+</sup> File:Trans-dichlorotetraamminecobalt(III).png|''trans'' -[CoCl<sub>2</sub>(NH<sub>3</sub>)<sub>4</sub>]<sup>+</sup> File:Fac-trichlorotriamminecobalt(III).png|''fac'' -[CoCl<sub>3</sub>(NH<sub>3</sub>)<sub>3</sub>] File:Mer-trichlorotriamminecobalt(III).png|''mer'' -[CoCl<sub>3</sub>(NH<sub>3</sub>)<sub>3</sub>] </gallery> </div> === 光学異性体 === 二座配位子を2個以上もつ六配位錯体には[[光学異性体]]が発生する。二座配位子によるねじれが左回りのものはΛ(ラムダ)、右回りのものはΔ(デルタ)体と呼ぶ。 <div align="center"> <gallery> File:Delta-tris(oxalato)ferrate(III)-3D-balls.png|Λ-[Fe(ox)<sub>3</sub>]<sup>3−</sup> File:Lambda-tris(oxalato)ferrate(III)-3D-balls.png|Δ-[Fe(ox)<sub>3</sub>]<sup>3−</sup> File:Delta-cis-dichlorobis(ethylenediamine)cobalt(III).png|Λ-''cis'' -[CoCl<sub>2</sub>(en)<sub>2</sub>]<sup>+</sup> File:Lambda-cis-dichlorobis(ethylenediamine)cobalt(III).png|Δ-''cis'' -[CoCl<sub>2</sub>(en)<sub>2</sub>]<sup>+</sup> </gallery> </div> == 錯生成反応 == 錯生成反応とは、錯体を生成する反応の総称である。 === 金属錯体の生成反応 === 水溶液中の金属イオン(金属塩)は周囲に過剰に存在する水と配位結合し、水和金属イオンM(H<sub>2</sub>O)<sub>''x''</sub><sup>''n''+</sup>として存在している。これは、金属は水に放られると正イオンに[[電離]]し、周囲の水の[[孤立電子対]]がこれを中和しようとするためである。これが配位結合であり、この場合の配位子は水となる。配位子は水に限らず、正イオンを中和する能力のある原子、すなわち、陰イオンや[[ルイス塩基]]を指す。よって、もし水溶液中に水以外の配位子が存在していた場合、その溶液には水の替わりにその配位子と結合している金属イオンもある。 多くの場合、新しい金属錯体は、金属塩と配位子の組み合わせから発見される。金属塩は[[典型金属]]・[[遷移金属]]を問わずあらゆる種類が用いられる。配位子も多様なものが用いられるが、特に[[ポルフィリン]]を用いた例が極めて多い。 == 機能 == [[有機化学]]の分野で錯体は化学反応を制御または促進させる[[触媒]]として非常によく用いられている。また、[[生体]]中に存在する[[酵素]]の[[活性中心]]には[[アミノ酸]]に取り囲まれた金属錯体が存在し、重要な役割を果たしている([[赤血球]]中の[[ヘモグロビン]]など)。また[[シスプラチン]]は[[デオキシリボ核酸|DNA]]に強く配位することによって[[抗癌剤]]として作用する。 色素増感型の[[太陽電池]]における光吸収層、すなわち[[色素]]として、[[ルテニウム]]の[[ビピリジン]]錯体(またはその[[誘導体]])が主に用いられている。 == 超分子 == 古典的な錯体とは若干異なる、[[超分子]]と呼ばれる物質群が[[ナノテクノロジー]]の材料のひとつとして注目されている。 == 主な錯体 == * アクア錯体 ([[水和物]]) - [[水]] <chem>H2O</chem> が配位子となるもの。 * カルボニル錯体 - [[一酸化炭素]] <chem>CO</chem> が配位子となるもの。[[金属カルボニル]]も参照。 * アンミン錯体 - [[アンモニア]] <chem>NH3</chem> が配位子となるもの。テトラアンミン銅錯体 <chem>[Cu(NH3)4]^2+</chem> など * シアノ錯体 - [[シアン化物|シアン化物イオン]] <chem>CN-</chem> が配位子となるもの。ヘキサシアニド鉄錯体 <chem>[Fe(CN)6]^4-</chem>, <chem>[Fe(CN)6]^3-</chem> など * ハロゲノ錯体 - [[ハロゲン化物|ハロゲン化物イオン]]が配位子となるもの。テトラクロリド鉄錯体 <chem>[FeCl4]-</chem> など * ヒドロキシ錯体 - [[水酸化物イオン]] <chem>OH-</chem> が配位子となるもの。アルミン酸 <chem>[Al(OH)4]-</chem> (または <chem>[Al(OH)4(H2O)2]-</chem>)など == 顔料 == {{See also|顔料}} 一部の錯体はその鮮明な色と高い耐久性から、[[顔料]]として使用される。特に[[フタロシアニン]]は応用分野での消費量が多く、大量に生産されている。 [[File:Phthalocyanine Blue BN.png|class=skin-invert-image|thumb|right|200px|フタロシアニンの銅錯体<br>銅フタロシアニンブルー<br>Pigment Blue 15]] [[File:Phthalocyanine Green G.png|class=skin-invert-image|thumb|right|200px|フタロシアニンの銅錯体<br>高塩素化銅フタロシアニングリーン<br>Pigment Green 7]] === 銅フタロシアニン === {{Main|フタロシアニン}} フタロシアニンは、4つの[[フタル酸]]イミドが[[窒素]][[原子]]で架橋された構造をもつ[[環状化合物]]。[[ポルフィリン]]と類似の構造を持つ。フタロシアニンの銅錯体は顔料として使用される。 ただし、無金属フタロシアニンも顔料として使用される。銅フタロシアニンブルーよりも緑味の顔料であるが、可視領域の長波長側の反射が大きく、幾分不鮮明である。 === 金属錯体顔料 === {{See also|アゾメチン}} 金属錯体顔料は、顔料としての性能を有する金属錯体を指す。ただし、フタロシアニンを除いたものを指す場合が多い。顔料の分野では、シッフ塩基の[[誘導体]]、特に[[イミン]]を分子構造中に有する顔料をアゾメチン顔料と呼ぶことから、フタロシアニンを除いたシッフ塩基の[[誘導体]]、特に[[イミン]]を分子構造中に有する金属錯体顔料はアゾメチン顔料とも呼ばれる。高い透明性と濃色と淡色の色差が特徴であるが、彩度の低さなどから市場性が限定的であり、比較的短期間で生産が終了したものもある。 == 鉱物 == [[鉱物]]として自然界に存在する錯体化合物の組成を持つ鉱物は非常に珍しい。発見されている錯体の鉱物は[[アンミン石]] (Ammineite・[CuCl<sub>2</sub>(NH<sub>3</sub>)<sub>2</sub>]) と[[ヨアネウム石]] (Joanneumite・Cu(C<sub>3</sub>N<sub>3</sub>O<sub>3</sub>H<sub>2</sub>)<sub>2</sub>(NH<sub>3</sub>)<sub>2</sub>) の2種類のみ知られている。このうちのアンミン石は、初めて発見されたアンミン錯体の鉱物である事に因んだ命名である<ref>[https://www.mindat.org/min-38895.html Ammineite ''mindat.org'']</ref><ref>[https://www.mindat.org/min-42755.html Joanneumite ''mindat.rog'']</ref>。 == 参考文献 == {{Reflist}} * 『絵具の科学』 ホルベイン工業技術部編 中央公論美術出版社 1994/5(新装普及版) ISBN 480550286X * 『絵具材料ハンドブック』 ホルベイン工業技術部編 中央公論美術出版社 1997/4(新装普及版) ISBN 4805502878 * 『顔料の事典』 伊藤 征司郎(編集) 朝倉書店 2000/10 ISBN 4254252439 ISBN 978-4254252439 * 『有機顔料ハンドブック』 橋本勲 カラーオフィス 2006/5 == 関連項目 == {{Commons|Category:Coordination compounds}} * [[キレート]] * [[錯体化学]] * [[群論]] * [[ヤーン・テラー効果]] * [[集積型金属錯体]] * [[配位高分子]] * [[電荷移動錯体]] * [[アーヴィング・ウィリアムス系列]] * [[ステンレスソープ]] {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:さくたいかかく}} [[Category:錯体化学|*]] [[Category:配位化合物|*]] [[Category:無機化学]]
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