開写像定理 (関数解析)のソースを表示

[[関数解析学]]における'''開写像定理'''（かいしゃぞうていり、{{Lang-en|''Open mapping theorem''}}）あるいは'''バナッハ・シャウダーの定理'''（[[ステファン・バナフ|ステファン・バナッハ]]と{{仮リンク|ユリウス・シャウダー|en|Juliusz Schauder}}の名にちなむ）とは、[[バナッハ空間]]の間の[[連続線形作用素]]が[[全射]]であるならば[[開写像と閉写像|開写像]]であるということについて述べた、同分野の基本的な結果の一つである。より正確に言うと {{harv|Rudin|1973|loc=Theorem 2.11}}:

* もし ''X'' と ''Y'' がバナッハ空間で、''A'' : ''X'' → ''Y'' が全射の連続線形作用素であるなら、''A'' は開写像である（すなわち、''U'' が ''X'' の[[開集合]]であるなら、''A''(''U'') は ''Y'' の開集合となる）。

証明には[[ベールの範疇定理]]が用いられる。また ''X'' と ''Y'' が完備であることは、定理の成立において本質的な条件である。実際、上記の主張において ''X'', ''Y'' がバナッハ（完備なノルム空間）であるという仮定を緩めて、いずれかの空間が（完備でない）単なる[[ノルム空間]]であるとするとこの主張は正しくなくなり、対して ''X'' と ''Y'' が（完備だがその距離が必ずしもノルムから導かれるものでない）[[フレシェ空間]]とした場合にはやはり主張が成り立つ。

==帰結==
開写像定理にはいくつかの重要な帰結が存在する:
* ''A'' : ''X'' → ''Y'' がバナッハ空間 ''X'' と ''Y'' の間の[[全単射]]連続線形作用素ならば、[[逆写像|逆作用素]] ''A''<sup>-1</sup> : ''Y'' → ''X'' は連続となる（[[有界逆写像定理]]）。{{harv|Rudin|1973|loc=Corollary 2.12}}
* ''A'' : ''X'' → ''Y'' がバナッハ空間 ''X'' と ''Y'' の間の線形作用素で、''x''<sub>''n''</sub> → 0 かつ ''Ax''<sub>''n''</sub> → ''y'' であるような ''X'' 内の任意の[[点列]] (''x''<sub>''n''</sub>) に対し ''y''  = 0 が成立するならば、''A'' は連続である（[[閉グラフ定理]]）。{{harv|Rudin|1973|loc=Theorem 2.15}}

==証明==
{{nowrap|''A'' : ''X'' → ''Y''}} がバナッハ空間の間の全射連続線形作用素であるときに、''A'' が開写像であることを証明しなければならない。そのためには ''A'' が ''X'' 内の[[単位球体]]を ''Y'' の原点の近傍へと写すことを示せば十分である。

''U'' と ''V'' をそれぞれ ''X'' と ''Y'' に含まれる単位球とする。このとき、''X'' はその単位球と ''k''&nbsp;∈ '''N''' の積 {{nowrap|''kU''}} からなる列の和集合であり、また ''A'' が全射であることから

:<math>Y=A(X)=A\Bigl(\bigcup_{k \in \mathbb{N}} kU\Bigr) = \bigcup_{k \in \mathbb{N}} A(kU) </math>

が成立する。[[ベールのカテゴリー定理]]により、バナッハ空間 ''Y'' は可算個の[[疎集合]]の和集合にはならず、したがって ''A''(''kU'') の[[閉包 (位相空間論)|閉包]]が空でない[[内部 (位相空間論)|内部]]を持つような {{nowrap|''k'' > 0}} が存在することになる。よって、''A''(''kU'') の閉包に含まれるような、中心 ''c''、半径 ''r'' > 0 の開球 ''B''(''c'',&nbsp;''r'') が ''Y'' 内に存在する。もし ''v''&nbsp;∈ ''V'' であるなら {{nowrap|''c'' + ''r'' ''v''}} と ''c'' は ''B''(''c'',&nbsp;''r'') に含まれ、したがってそれらは {{nowrap|''A''(''kU'')}} の[[極限点]]である。加法の連続性により、それらの差分 ''rv'' は {{nowrap|''A''(''k'' ''U'') − ''A''(''k'' ''U'') ⊂ ''A''(2''kU'')}} の極限点となる。''A'' の線形性により、このことは任意の ''v''&nbsp;∈ ''V'' が {{nowrap|''A''(δ<sup>−1</sup>''U'')}} の閉包に含まれることを意味する。ここで δ&nbsp;= {{nowrap|''r'' / (2''k'')}} とする。任意の ''y''&nbsp;∈ ''Y'' および任意の {{nowrap|ε > 0}} に対し、

:<math>\|x\|< \delta^{-1} \|y\| </math>{{pad|2.5em}}および{{pad|2.5em}}<math>\|y - Ax\|< \varepsilon \quad (1) </math>

を満たすような、ある ''x''&nbsp;∈ ''X'' が存在する。{{nowrap|''y'' ∈ ''δ'' ''V''}} を固定する（ここで δ''V'' は球体 ''V'' の境界ではなく、''V'' を係数 δ により拡大した球を意味する）。(1) により、{{nowrap|‖''x'' <sub>1</sub>‖&nbsp;< 1 かつ ‖''y'' − ''A'' ''x'' <sub>1</sub>‖&nbsp;< δ/ 2}} を満たすような  {{nowrap|''x'' <sub>1</sub>}} が存在する。点列 {''x''<sub>''n''</sub>} を次のような方法で帰納的に定義する。

:<math>\|x_{n}\|< 2^{-(n-1)} </math>{{pad|2.5em}}および{{pad|2.5em}}<math>\|y - A(x_1+x_2+ \cdots +x_n)\| < \delta 2^{-n}\quad (2) </math>

とすると、(1) により

:<math>\|x_{n+1}\|< 2^{-n} </math> {{pad|2.5em}}および{{pad|2.5em}} <math>\|y - A(x_1+x_2+ \cdots +x_n) - A(x_{n+1})\| < \delta 2^{-(n+1)}</math>

であるような {{nowrap|''x'' <sub>''n''+1</sub>}} を選ぶことが出来る。したがって、(2) は  {{nowrap|''x'' <sub>''n''+1</sub>}} に対して満たされることになる。今

:<math>\ s_n=x_1+x_2+ \cdots + x_n </math>

とする。(2) の初めの不等式から、{''s''<sub>''n''</sub>} は[[コーシー列]]であることが分かり、''X'' が完備であることから、''s''<sub>''n''</sub> はある  {{nowrap|''x'' ∈ ''X''}} へと収束する。(2) より、点列  {{nowrap|''As''<sub>''n''</sub>}} は ''y'' へと向かい、したがって ''A'' の連続性により {{nowrap|''Ax'' {{=}} ''y''}} となる。また

:<math>\|x\|=\lim_{n \to \infty} \|s_n\| \leq \sum_{n=1}^\infty \|x_n\| < 2 </math>

が得られる。これは全ての {{nowrap|''y'' ∈ δ''V''}} は {{nowrap|''A''(2''U'')}} に属すること、あるいは同じ意味で、''X'' の単位球の像 ''A''(''U'') は ''Y'' の開球 {{nowrap|(δ/2)''V''}} を含むということを示している。したがって、''A''(''U'') は  ''Y'' における 0 の近傍であるため、証明は完成される。

==一般化==
''X''  あるいは ''Y''  の局所凸性は証明において本質的ではなく、完備性が本質である: この定理は  ''X'' および ''Y'' が[[F-空間]]である場合にも同様に成り立つ。さらに、この定理はベールのカテゴリー定理とも、次のような形で組み合わされる {{harv|Rudin|loc=Theorem 2.11}}:

* ''X'' をF-空間とし、''Y'' を[[位相ベクトル空間]]とする。もし  {{nowrap|''A'' : ''X'' → ''Y''}} が連続線形作用素であるなら、''A''(''X'') は ''Y'' 内の{{仮リンク|第一類集合|en|meager set}}（やせた集合、meager set）であるか、''A''(''X'')&nbsp;= ''Y'' である。後者の場合、''A'' は開写像であり ''Y'' もF-空間となる。

さらに、後者の場合、''N'' を ''A'' の[[核 (代数学)|核]]として

:<math>X\to X/N \overset{\alpha}{{}\to{}} Y</math>

なる形の ''A'' の標準的な分解が存在する。ここで {{nowrap|''X''&nbsp;/ ''N''}} は、''X'' の閉部分空間 ''N'' による[[商空間 (線形代数)|商空間]]（これもやはりF-空間）で、商写像 {{nowrap|''X'' → ''X''&nbsp;/ ''N''}} は開であり、写像 α は位相ベクトル空間の同型である。{{harv|Dieudonné|loc=12.16.8}}

==参考文献==
* {{citation|first=Walter|last=Rudin|authorlink=ウォルター・ルーディン|title=Functional Analysis|publisher=McGraw-Hill|year=1973|isbn=0-07-054236-8}}
* {{citation|first=Jean|last=Dieudonné|authorlink=ジャン・デュドネ|title=Treatise on Analysis, Volume II|publisher=Academic Press|year=1970}}

{{Functional Analysis}}
{{DEFAULTSORT:かいしやそうていり}}
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