陰関数のソースを表示

{{Calculus |Differential}}
[[数学]]の特に[[解析学]]における'''陰函数'''（いんかんすう、{{lang-en-short|''implicit function''}}; '''陰伏函数'''）は、'''陰伏方程式'''すなわち適当な[[多変数函数]]（しばしば[[多変数多項式]]）{{mvar|R}} によって {{math|1=''R''(''x''{{ind|1}}, …, ''x{{ind|n}}'') = 0}} の形に表される[[多項関係|関係]]によって（その函数の[[引数]]のうちの一つの[[変数 (数学)|変数]]の{{仮リンク|値 (数学)|en|value (mathematics)|label=値}}を残りの変数に関係付けることによって）陰伏的 (implicitly) に定義される[[函数]]を言う<ref name=Chiang>{{cite book |last=Chiang |first=Alpha C. |title=Fundamental Methods of Mathematical Economics |location= |publisher=McGraw-Hill |edition=Third |year=1984 |isbn= }}</ref>{{rp|204–206}}。

例えば、[[単位円]]を定める陰伏方程式は {{math|1=''x''{{exp|2}} + ''y''{{exp|2}} &minus; 1 = 0}} であり、このときの {{mvar|y}} に対する陰函数 {{math|1=''y'' = ''f''(''x'')}} は、{{math|1=''x''{{exp|2}} + (''f''(''x'')){{exp|2}} &minus; 1 = 0}} によって陰伏的に定められる。この陰伏方程式が、{{mvar|''x''}} の連続函数として {{mvar|f}} を定めるのは {{math|&minus;1 ≤ ''x'' ≤ 1}} に対してのみ、かつ函数の値として非負の値のみ（あるいは非正の値のみ）を取るものとしたときである（非負または非正の二つの連続な枝がある）。[[陰函数定理]]はこのような関係がいつ陰伏函数を定義するのかという[[十分条件]]を与えるものである。

{{mvar|R}} が[[多変数多項式]]であるときの {{math|1=''R''(''x''{{ind|1}}, …, ''x{{ind|n}}'') = 0}} なる形の関係に対して、この関係を満足する変数の値の組全体の成す集合を、{{math|1=''n'' = 2}} のときは[[陰伏曲線]]、{{math|1=''n'' = 3}} のときは'''{{ill2|陰伏曲面|en|Implicit surface}}'''と呼ぶ。このような陰伏方程式は[[代数幾何学]]の基盤であり、古典的な代数幾何学では多項式の零点を記述する陰伏方程式からなる連立方程式の解を研究する。そのような[[零点集合]]は[[アフィン代数的集合]]と呼ばれる。

微分方程式の解は一般には陰函数の形で得られる<ref>{{cite book |last=Kaplan |first= |title=Advanced Calculus |location= |publisher= |year= |isbn= }}</ref>。

== 例 ==
=== 逆函数 ===
よくある種類の陰函数は[[逆函数]]である。函数 {{mvar|f}} の逆函数は、{{mvar|f}} の独立変数と従属変数の役割を入れ替えると得られる。つまり、{{mvar|f}} が {{mvar|x}} の函数であるとき、{{mvar|f}} の逆函数 {{math|''f''{{exp|&minus;1}}}} は、{{mvar|x}} を {{mvar|y}} の式として方程式 {{math|1=''y'' = ''f''(''x'')}} を解くことで与えられ、その解が {{math|1=''x'' = ''f''{{exp|&minus;1}}(''y'')}} である。別な言い方をすると、陰伏方程式 {{math|1=''R''(''x'', ''y'') = ''y'' &minus; ''f''(''x'') = 0}} を {{mvar|x}} について解いたものが逆函数である。例えば[[ランベルトのオメガ函数]]は、陰伏方程式 {{math|1=''y'' &minus; ''xe''{{exp|''x''}} = 0}} を {{mvar|x}} について解いた陰伏函数（つまり {{mvar|y}} の逆函数）として与えられる。

=== 代数函数 ===
{{main|代数函数}}
[[代数函数]]は係数がそれ自身多項式であるような多項式方程式を満足する函数である。例えば一変数 {{mvar|x}} に関する代数函数は、陰伏方程式
: <math>a_n(x)y^n+a_{n-1}(x)y^{n-1}+\dotsb+a_0(x)=0</math>
を {{mvar|y}} について解くことで与えられる。ここで、各係数 {{math|''a{{ind|i}}''(''x'')}} は {{mvar|x}} の多項式である。代数函数は[[解析学]]および[[代数幾何学]]において重要な役割を果たす。代数函数の簡単な例は、単位円の方程式 {{math|1=''x''{{exp|2}} + ''y''{{exp|2}} &minus;1 = 0}} を {{mvar|y}} について解いた {{math|1=''y'' = &plusmn;{{sqrt|1 &minus; ''x''{{exp|2}}}}}} である。

ただし、この陽に表された解を特定することをせずとも、この単位円の陰伏的な解に言及することは可能である。例えば {{mvar|y}} に関する[[二次方程式|二次]]、[[三次方程式|三次]]および[[四次方程式]]に対しては同様に陽に表された解を求めることができるが、例えば
: <math> y^5 + 2y^4 -7y^3 + 3y^2 -6y - x = 0</math>
のような[[五次方程式|五次]]あるいはより高次の方程式においては、一般には解を陽にすることはできない。それにもかかわらず、陰伏多価函数 {{mvar|g}} を含む陰伏解 {{math|1=''y'' = ''g''(''x'')}} に関して考えることができる。

== 注意 ==
単位円の方程式の場合を一つの特徴的な例として、必ずしも任意の方程式 {{math|1=''R''(''x'', ''y'') = 0}} が一価函数のグラフを導くわけではないことに注意すべきである。あるいは {{mvar|C}} が[[三次多項式]]でそのグラフに「起伏」がある（つまり極大値と極小値を持つ）ようなものとしたとき、方程式 {{math|1=''x'' − ''C''(''y'') = 0}} の陰伏的に定義する函数もそのような例を与える。したがって、陰函数が「真の」（つまり一価の）函数となるためには、陰伏方程式のグラフの一部分に話を限る必要があることがわかる。陰函数は、{{mvar|x}}-軸のある部分に「ズームイン」して、函数の不都合な枝を「取り払って」しまった後でのみ、真の函数を得ることに成功するということがしばしばある。そうすれば、{{mvar|y}} を表す方程式を他の変数の陰函数として書くことができる。

定義方程式 {{math|1=''R''(''x'', ''y'') = 0}} が他の[[病的な (数学)|病的な]]性質を持つこともある。例えば、垂直線の方程式 {{math|1=''x'' = 0}} は {{mvar|y}} について解くことで与えられる函数 {{math|''f''(''x'')}} というものを導くことは全くない。このような問題を避ける目的で、許される方程式の種類や[[定義域]]に様々な制約条件を課すことが頻繁に行われる。[[陰函数定理]]はこのような病的な性質の種類を扱う一様な方法を提供する。

== 陰函数微分 ==
[[微分積分学]]において'''陰函数微分法''' (''implicit differentiation'') と呼ばれる手法は、[[連鎖律]]を用いて陰伏的に定義された函数を微分する。<ref>{{PlanetMath|urlname=ImplicitDifferentiation|title=implicit differentiation}}</ref>

陰伏函数 {{math|''y''(''x'')}} を微分するに際して、定義方程式 {{math|1=''R''(''x'', ''y'') = 0}} を {{mvar|y}} について陽に解いてからそれを微分するということは、一般には可能でない。その代わり、{{math|''R''(''x'', ''y'')}} を {{mvar|x}} および {{mvar|y}} に関して微分して、それから {{math|''{{fraction|dy|dx}}''}} に関する一次方程式を解いて {{mvar|x}} および {{mvar|y}} の式として陽に書かれた導函数を得るということができる。方程式が陽に解けるという場合であってさえも、陰函数微分で得られる式は、一般により単純で扱いが容易である。

{{math theorem|name=陰函数微分の一般公式 
|1= {{math|1=''R''(''x'', ''y'') = 0}} のとき、陰伏函数 {{math|''y''(''x'')}} の導函数は
: <math>\frac{dy}{dx} = -\frac{\partial R/ \partial x}{\partial R / \partial y} = -\frac {R_x}{R_y}</math>
で与えられる<ref name="Stewart1998">{{cite book
  | last = Stewart
  | first = James
  | title = Calculus Concepts And Contexts
  | publisher = Brooks/Cole Publishing Company
  | year = 1998
  | isbn = 0-534-34330-9}}</ref>{{rp|§ 11.5}}。ここに、{{mvar|R{{msub|x}}}} および {{mvar|R{{msub|y}}}} はそれぞれ {{mvar|R}} の {{mvar|x}} および {{mvar|y}} に関する微分を表す。}}
上記の公式は、{{mvar|1=''R''(''x'', ''y'') = 0}} の両辺の（{{mvar|x}} に関する）[[全微分]]を得るために[[連鎖律|多変数の連鎖律]]を適用すれば、
: <math>\frac{\partial R}{\partial x} \frac{dx}{dx} + \frac{\partial R}{\partial y} \frac{dy}{dx} = 0</math>
となることから導かれる。

== 陰函数定理 ==
{{main|陰函数定理}}
[[Image:Implicit circle.svg|thumb|right|200px|単位円は {{math|1=''x''{{exp|2}} + ''y''{{exp|2}} = 1}} を満足する点 {{math|(''x'', ''y'')}} 全体の成す集合として陰に定義することができる。点 {{math|A}} の周りで {{mvar|y}} は函数 {{math|''y''(''x'')}} として、具体的には {{math|1=''g''{{ind|1}}(''x'') = {{sqrt|1 &minus; ''x''{{exp|2}}}}}} として表される。[[接線]]が垂直となる点 {{math|B}} の周りではそのような函数は存在しない。]]

{{math|''R''(''x'', ''y'')}} が {{math|'''R'''{{msup|2}}}} 内の[[滑らかな多様体|滑らかな]][[部分多様体]] {{mvar|M}} によって与えられ、この部分多様体の点 {{math|(''a'', ''b'')}} がその点における[[接空間]]が垂直でない（つまり {{math| ∂''R''/∂''y'' ≠ 0}}）ならば、{{mvar|M}} は点 {{math|(''a'', ''b'')}} の十分小さな[[近傍 (位相空間論)|近傍]]において、{{mvar|f}} が[[滑らかな函数]]となるような{{仮リンク|パラメータ付け|en|parametrization|label=媒介表示}} {{math|(''x'', ''f''(''x''))}} によって与えられることが示せる。

より俗な言い方をすれば、考えているグラフの接線が垂直でない限り、陰函数は存在して微分することができるということである。方程式
: <math>R(x,y) = 0</math>
が与えられている標準的な場合において、{{mvar|R}} に関する条件は[[偏微分]]の意味で確認することができる<ref name="Stewart1998"/>{{rp|§ 11.5}}。

== 関連項目 ==
* [[函数方程式]]
* [[等位集合]]
** [[等高線]]
** {{仮リンク|等位面|en|Isosurface}}
* [[対数微分法]]
* [[Polygonizer]]

== 参考文献 ==
{{Reflist}}
*{{cite book
 | last=Rudin
 | first=Walter
 | authorlink=Walter Rudin
 | title=Principles of Mathematical Analysis
 | publisher=[[McGraw-Hill]]
 | year=1976
 | isbn=0-07-054235-X}}
*{{cite book
 | last=Spivak
 | first=Michael
 | authorlink=Michael Spivak
 | title=[[Calculus on Manifolds (書籍)|Calculus on Manifolds]]
 | publisher=[[HarperCollins]]
 | year=1965
 | isbn=0-8053-9021-9}}
*{{cite book
 | last=Warner
 | first=Frank
 | title=Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups
 | publisher=[[Springer Science+Business Media|Springer]]
 | year=1983
 | isbn=0-387-90894-3}}
* {{cite book
|last1      = Krantz
|first1     = Steven G. 
|last2      = Parks
|first2     = Harold R. 
|year       = 2002
|title      = The implicit function theorem: history, theory, and applications
|url        = {{google books|7QqickY0yh8C|plainurl=yes}}
|publisher  = Birkhäuser
|isbn       = 0-8176-4285-4
|mr         = 1894435
|zbl        = 1012.58003 
|ref        = harv
}}

== 外部リンク ==
* {{高校数学の美しい物語|1070|陰関数と陽関数の意味と違いについて}}
* {{MathWorld|urlname=ImplicitFunction|title=Implicit Function}}
* {{ProofWiki|urlname=Definition:Implicit_Function|title=Definition:Implicit Function}}
* {{SpringerEOM|urlname=Implicit_function|title=Implicit function|author= Kudryavtsev, L.D.}}

{{DEFAULTSORT:いんかんすう}}
[[Category:微分法]]
[[Category:多変数微分積分学]]
[[Category:多様体論]]
[[Category:数学に関する記事]]