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雪崩予防柵
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[[ファイル:Stop Avalanche (2181081782).jpg|サムネイル|スイスにある雪崩予防柵(固定柵式)]] '''雪崩予防柵'''(なだれよぼうさく)とは[[雪崩]]の発生する[[斜面]]に設置し、雪崩を未然に防ぐための[[柵]]である。 == 目的 == 斜面上の堆雪は、個々の雪粒や層の間で生じる[[クリープ]]と、雪と地面の境界面で生じるグライド(滑動)の2つの運動が生じる{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=181}}。雪崩予防柵はこれらの運動を阻止して、雪崩を未然に防ぐために設置される{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=181}}。表層雪崩と全層雪崩の両方に対処できる<ref name=":0">{{Cite web |url=https://www.hrr.mlit.go.jp/road/toprunner/pdf/deve02_01.pdf |title=雪崩予防柵 |access-date=2025-01-25 |publisher=国土交通省北陸雪害対策技術センター}}</ref>。 他の雪崩対策と適切に組み合わせることで機能が発揮する場合や、経済的に有利になることが考えられる{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=166}}。例えば、[[雪庇]]の欠落によって雪崩が誘発される場合は[[雪庇予防柵]]と組み合わせる必要があり、また全層雪崩を想定した雪崩予防柵でも階段工・[[防雪林]]・[[雪崩予防杭]]を併用して表層雪崩を減勢させる必要なことがある{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=167}}。 == 構造 == 雪崩予防柵は吊柵式と固定柵式の2種類に大別される<ref name=":1">{{Cite web |url=https://www.shinkokenzai.co.jp/products/slope/related_slope/nadare_fence/ |title=雪崩予防柵 {{!}} 日鉄神鋼建材株式会社 |access-date=2025-01-25 |publisher=日鉄神鋼建材}}</ref>。 固定柵式は柵本体を[[基礎]]に直接固定する<ref name=":1" />。雪を受ける壁材(支持面)と主柱・支柱により柵が形成される<ref name=":0" />。壁材が横方向(水平)のものを「スノーブリッジ型」、縦方向のものを「スノーレーキ型」と呼ぶ<ref name=":0" />。なお、スノーレーキ型はスノーブリッジ型と比べて[[はり部材|梁材]]が必要となる<ref name=":0" />。使用材料は[[鋼|鋼材]]が一般的に用いられ、主柱・支柱にはH形鋼・軽量[[形鋼]]・構造用[[鋼管]]・角鋼管などが用いられる{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=186}}。壁材(支持面)にはプランクシート・トレンチシートに代表される広幅の鋼材か、溝形鋼・H型鋼・角鋼管などの条鋼が用いられることが多い{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=186}}。基礎は[[コンクリート]]の基礎を現地で打設することが多いが、コンクリート打設が困難であるが土の[[せん断]]抵抗が期待できる場合は根かせ式で施工されることもある{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=186}}。 吊柵式は斜面上方に固定されたアンカー部から斜面に沿って[[ロープ]]を吊り下げ、そのロープに柵本体を固定する<ref name=":1" />。急勾配の斜面や土質条件が悪い場合など固定柵式では施工が困難な条件でも適用でき、吊ロープのアンカー基礎工事のみと固定柵式より施工が簡単である<ref name=":1" />。ただし、毎年の降雪前に柵の配置や傾きを調整しなければならず、[[メンテナンス]]のコストが大きい{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=192}}。積雪支持面が柵型(形鋼・鋼管)のものと網型([[金網]]・[[ラス|エキスパンドメタル]])とがある{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=192}}。 == 配置 == 固定柵式と吊柵式とでは設置条件の考え方は同じと考えてよい{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=192}}。 最上段に設置される雪崩予防柵の高さは、雪崩が襲い掛かる領域をカバーできるものにしなければならない{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=182}}。なお、同じく雪崩による被害を予防するための[[雪崩防護柵]]とは柵高の設計法は異なり、予防柵では設計積雪深から決定されるが、防護柵では設計積雪深に加え雪崩層厚もパラメータとなる違いがある{{Sfn|町田誠・早川典生・町田敬|2014|p=337}}。最下段の雪崩予防柵は斜面勾配が30度以下になる所に来るようにする{{Sfn|日本建設機械化協会|2017|p=182}}。 雪崩予防柵の配置とその特徴は以下の通りである{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=183}}。 {| class="wikitable" |+ !配置方法 !地形に対する適合性 !辺縁効果 !単位長あたり雪圧 !設置延長 !小規模の雪崩の漏れ出し !被害の波及 |- |連続 |不良 |両端部のみ |最小 |最長 |なし |波及する |- |断続 |良 |個々に働く |中 |短 |漏れ出すこともある |単体のみに留まる |- |千鳥 |最良 |個々に働く |大 |長 |ほとんどない |単体のみに留まる |} これらを組み合わせた配置も行われることがある{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=183}}。配置方法はそれぞれ一長一短であるため、[[地形]]条件・雪質・経済性などを考慮して検討を進めなければならない{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=183}}。一般的に、自然斜面には千鳥配置、人工法面には連続配置が用いられる{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=182}}。 雪崩予防柵を配置する上で最も注意しなければならないのは、柵を[[等高線]]と平行になるように設置することである{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=183}}。自然斜面では地表の凹凸により一直線に揃えることは不可能で、無理に一直線に揃えた場合は柵に作用する荷重が斜めから作用し、柵そのものが倒壊するおそれがある{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=183}}。 === 柵間隔 === 雪崩予防柵の列間隔は一般に下式より求められる{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=183}}。なお、この式で得られる値は許容最大列間隔と考えてよく、人工法面などに設置する場合は小段を利用して設置することが望ましいのでこの値以下の間隔で設置されることになる{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=183}}。スイスで考えられた式をそのまま導入したため、雪質がほぼ同じの[[北海道]]では問題なく導入できても、[[本州]]の特に多雪湿雪の地域ではそのまま用いることは適さないという批判もある{{Sfn|松田宏・本間信一|2018|p=333}}。 <math>L = f_L \cdot H</math> <math>f_L = \frac{2 tan \psi}{tan \psi - tan \varphi}</math> <math>L</math>:列間斜距離、<math>H</math>:積雪深、<math>\psi</math>:斜面角度、<math>f_L</math>:距離係数、<math>\varphi</math>:雪と地面の[[摩擦]]角(<math>0.5 \leqq tan \varphi \leqq0.6</math>) 水平間隔は想定されるのが表層雪崩と全層雪崩とで異なり、表層雪崩で2 m、全層雪崩で6 m(いずれも斜面角度が40度程度)と異なる{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=183}}。 == 設計 == 雪崩予防柵の設計は以下の順番に行われる{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=186}}。 # 高さの決定 # 柵面の傾きの決定 # 格点の条件の決定 # 荷重の算定 # 壁材(支持面)の設計 # 支柱の角度と取り付け位置の決定 # 主柱の設計 # 支柱の設計 # 基礎の設計 <!-- 設計にあたっては、斜面[[雪圧]]・[[スノープリズム]]・[[辺縁効果]]による荷重を考慮し、さらにバーの設計にあたっては斜面雪圧の値を地面から柵高の1/4までの間に作用させる{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|pp=186-187}}。 --> == 施工 == 固定柵の一般的な施工の流れは、コンクリート基礎を設置した後、柵の組立・設置を行う{{Sfn|国土交通省総合政策局建設施工企画課|2007|p=43}}。 吊柵の一般的な施工の流れは、アンカーを打ち込んだ後、アンカーと組み立てた柵を[[ワイヤーロープ]]で連結して設置する{{Sfn|国土交通省総合政策局建設施工企画課|2007|p=43}}。アンカーの施工方法は岩盤用の樹脂アンカーと土中用のパイプアンカーによる施工方法がある{{Sfn|国土交通省総合政策局建設施工企画課|2007|p=43}}。 いずれの構造も[[トラッククレーン]]を用いた施工が多い{{Sfn|国土交通省総合政策局建設施工企画課|2007|p=43}}。 == 沿革 == 雪崩予防柵は日本でも最も古くから用いられた雪崩防護施設である{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=181}}。[[スイス]]では雪崩対策の分野では最も重要な施設と認識され、[[1955年]]には雪崩予防柵の仕様書を発行している{{Sfn|日本建設機械化協会|1988|p=181}}。 [[新潟県]][[南魚沼郡]][[湯沢町]]の[[国道17号]]の例では、1960年代から1970年代にかけて雪崩予防柵の設置が始まり{{Sfn|町田誠・早川典生・町田敬|2014|p=338}}、その柵高が1980年代から1990年代中頃にかけて大きくなっている{{Sfn|町田誠・早川典生・町田敬|2014|p=339}}。理由として、仕様書類で想定された雪圧が改訂されるにつれて大きめに見積もられるようになったからと考えられる{{Sfn|町田誠・早川典生・町田敬|2014|p=341}}。その結果、施工技術の進歩を相まって従い基礎の大型化を招き、山の[[自然破壊]]が懸念される{{Sfn|町田誠・早川典生・町田敬|2014|p=341}}。 == 脚注 == {{Reflist}} == 参考文献 == * {{Cite book|和書 |title=新編 防雪工学ハンドブック |date=1988-03-29 |publisher=森北出版 |isbn=4-627-48081-4 |edition=改定版 |author=日本建設機械化協会 |ref=harv}} * {{Cite journal|和書|author=国土交通省総合政策局建設施工企画課|month=12|year=2007|title=雪崩発生予防柵設置工|url=https://kenmane.kensetsu-plaza.com/bookpdf/43/ti2_01.pdf|journal=建設マネジメント技術|pages=42-45|publisher=経済調査会|format=PDF}} * {{Cite journal|和書|author=町田誠・早川典生・町田敬|month=04|year=2014|title=防雪施設の規模の変遷についての一考察 ─国道17号湯沢地区に建設された雪崩予防柵と雪崩防護柵のデータから─|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/seppyo/76/5/76_333/_pdf/-char/ja|journal=雪氷|volume=76|issue=5|pages=333-344|publisher=日本雪氷学会|format=PDF|ref=harv}} * {{Cite journal|和書|author=松田宏・本間信一|month=07|year=2018|title=雪崩予防柵の列間斜距離の考察|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/seppyo/80/4/80_327/_pdf|journal=雪氷|volume=80|issue=4|pages=327-334|publisher=日本雪氷学会|format=PDF|ref=harv}} == 関連項目 == * [[覆道]] - 雪崩を予防してスノーシェッドが設置されることがある {{Normdaten}} {{デフォルトソート:なたれよほうさく}} [[Category:雪崩]] [[Category:防災施設]] [[Category:柵]]
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