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{{出典の明記|date=2012年10月}} [[写真]]技術において'''露出'''(ろしゅつ、{{lang-en|exposure}})ないし'''露光'''(ろこう)とは、[[写真フィルム|フィルム]]、[[乾板]]などの感光材料や[[CCDイメージセンサ|CCD]]、[[CMOS]]などの[[固体撮像素子]]を、[[レンズ]]を通した[[光]]にさらすこと(現在の[[カメラ]]では通常[[シャッター (カメラ)|シャッター]]の開閉により、これを行う)。またはカメラのレンズを通過してくる光の総量や、画像そのものの明るさのことをいい、これらはレンズの絞り([[F値]])と露光時間([[シャッター速度]])及び[[フィルム感度]]の組み合わせによって決まる。 また、フィルムに記録された画像を[[印画紙]]にプリントするために、引き伸ばし機などを使って印画紙に像を焼き付けることもさす。撮影時のことを'''露出'''、プリント時のことを'''露光'''と呼んで区別することもある。 == 露出値 == [[File:Exposure Value.svg|thumb|right|220px|露出計で得たEV値から適切なシャッター速度と絞り値の組み合わせを見つけるためのダイアグラム]] [[絞り_(光学)|絞り]]値([[F値]])と[[露光時間]](シャッター速度)によって決まる露出の度合いを表すために、'''露出値'''と呼ばれる数値が用いられる。露出値は、通常、[[:en:Exposure value|Exposure Value]]の略である'''EV'''で表記される。 絞り値がF1、露光時間が1秒のときの露出値をEV0と定義し、露光時間が半分になるか、絞り値が<math>\sqrt{2}</math>(約1.4)倍になるかして届く光量が半分になるごとにEV値は1大きくなる。露出値が同じならば、同じ被写体を同じ光線状況で撮影したときフィルム等にあたる光の量は同じになるが、絞り値と露光時間の組み合わせは色々と考えられ一意に定まらない。 例えばF2.8-1/500秒、F4-1/250秒、F5.6-1/125秒の組み合わせからは同一の露出値(12EV)が得られる。これを'''相反則'''の原理という。(絞り値が1/1.4になり光の量が半分になるたびに、シャッター速度が2倍になり打ち消しあって同じ露光量となる) ただし、露出値は同じでも[[被写界深度]](絞り値が大きいほど、深くなる)や[[シャッター速度#ブレ|ブレ]]の量(シャッター速度が遅いほど大きくなる)などは組み合わせ方によって変化する。 また、[[シャッター速度#長時間露光|長時間露光]]を行うとフィルムでは相反則の原則が崩れ、露出アンダーになったりカラーバランスが崩れることがある。これを'''相反則不軌'''といい、[[夜景]]や[[天体写真]]などでは問題となる。 被写体の明るさと、使用するフィルム等の感度によって適正なEV値が決まる(適正露出)。適正なEV値を決めるために[[露出計]]が用いられる。[[AEカメラ]](自動露出カメラ)では内蔵の[[TTL露出計|TTL(Through the Lens)露出計]]が作動する。 露出値を簡易に計算するために、絞り値、シャッター速度に対してそれぞれAv値、Tv値という数値を対応させて計算する方法が存在し、これを'''アペックスシステム'''という。アペックスシステムを利用するとEV値はAv値とTv値の和という形で表すことが可能である。絞り値をA、シャッター速度をTとして :<math>\mathit{AV} = \log_2 A^2 = 2\,\log_2 A</math> (''[[F値#標準的なF値表示|aperture value]]'') :<math>\mathit{TV} = \log_2 \frac1T = -\log_2 T</math> (''time value'') となり :<math>\mathit{EV} = \mathit{AV} + \mathit{TV}</math> (''exposure value'') 上記の式をまとめると露出値は以下の数式で表される。 :<math>\mathit{EV} = \log_2 A^2 - \log_2 T</math> 露出値とシャッター速度・絞り値の関係は図示したようになる。 また、被写体の輝度値(BV)、フィルムの感度値(SV)を次のように定義すると :<math>\mathit{BV} = \log_2 (B/(N*K))</math>(''luminance value'' aka ''brightness value'') :<math>\mathit{SV} = \log_2 (N*Sx)</math> (''speed value'' aka ''[[ISO感度#表記の対応表|sensitivity value]]'') :ここで、Bは輝度 cd/㎡、SxはISO感度、N≒0.3、Kは反射露出計の校正定数(11.4前後) :<math>\mathit{EV} = \mathit{BV} + \mathit{SV}</math> となる。 以上より次の関係が得られる :<math>\mathit{EV} = \mathit{AV} + \mathit{TV} = \mathit{BV} + \mathit{SV}</math> == いわゆる「段」について == 「EV値の変化量」を写真界の慣例で'''段'''と呼ぶ。例えば、「1段絞る」というときは、必ずしもカメラレンズの絞り目盛で一刻み絞ることを意味するのではなく<ref>現在の絞りの刻みは1EVおきとは限らない。</ref>、1EV分絞る(光量を少なくする)ことを意味する。仮にF5.6をF6.3(中間絞り)にまで絞っても「1段絞った」とはいわない。F5.6を1段絞るとはF8に絞ること、つまり絞りを通過する光の量が半分になる(F値が<math>\sqrt{2}</math>(約1.4)倍になる)ように絞ることをいうのが慣例である。 同様に「シャッター速度を1段分上げる」などというときも1EVに相当する変化(シャッター速度が倍、つまり露光時間が半分になる)をいう。また例えば[[レンズフィルター#NDフィルター|NDフィルター]]の効果を「2段分」というときは2EV分の減光効果があることを意味する。 デジタルカメラでは絞りやシャッター速度の中間値も数字として表示されるが、機械式時代からの慣習で、半段、半絞り、1/3段、1/3絞りという表現も使われている。 == 適正露出と露出アンダー、オーバー == 撮影された写真が人間から見て自然な明るさ・[[色彩]]で表現される露出を'''適正露出'''という。適正露出以下の露出で撮影された写真は'''露出アンダー'''(英:Underexposure あるいは単に「アンダー」)といい不自然に暗く写る。逆に適正露出以上の露出で撮影された写真は'''露出オーバー'''(英:Overexposure あるいは単に「オーバー」)といい、不自然に明るく写る。アンダーやオーバーの写真は露出の失敗として一般に嫌われる傾向があるが、意図的に表現の手段としてこれを利用する撮影者もいる。意図的に露出アンダー気味に撮影された写真を'''ローキー'''(英:Low key)、オーバー気味に撮影されたものを'''ハイキー'''(英:High key)という。ローキーの写真では重厚感が、ハイキーの写真では軽快感やさわやかな感じが表現されるといわれる。 == 白とびと黒つぶれ == [[File:Blown-out highlights.jpg|thumb|right|220px|白とびの起こった写真。下の写真の赤で示された部分が、上の写真で白とびしている部分である。]] また非常に明暗の差のある被写体のもとで、強い光のあたっている部分(ハイライト)が極端に露出オーバーとなり諧調([[グラデーション]])の情報を失って真っ白になることを'''白とび'''(英:blown-out highlightsやflared highlightsまたは[[:w:en:Clipping (photography)|clipped whites]])という。また同様に光が不十分な部分(シャドー)が極端に露出アンダーとなり諧調を失って真っ黒になることを'''黒つぶれ'''(英:blocked up shadowsまたはclipped blacksなど)という。一般的なデジタルカメラの場合、赤(R)、緑(G)、青(B)の三原色について、それぞれ256段の階調の組み合わせで色や明るさを表現するが、三色ですべて255を超える明るさになると白とびが起こる。また、3色で0を下回ると黒つぶれを起こす。白とび、黒つぶれが起きても撮影後に[[写真編集|レタッチ]]でいずれも回復することができるが、極端な白とび、黒つぶれは修復ができない。 特定のフィルムや撮像素子において、白とびと黒つぶれが起こる限界の露出の幅の大きさを[[ラティチュード]]あるいは[[ダイナミックレンジ]]という(フィルムではラティチュード、デジタルではダイナミックレンジという場合が多い)。ラティチュード、あるいはダイナミックレンジの幅が広いほど白とび・黒つぶれは起こりにくい。 [[ネガフィルム]]は[[ダイナミックレンジ]]が広い(10~11EV)。これに比べて[[リバーサルフィルム]]や[[デジタルカメラ]]は狭く(5~6EV)、白とび・黒つぶれを起こしやすい。最近の[[デジタルカメラ]]の中には、白とびや黒つぶれを警告する機能、あるいはダイナミックレンジを拡大して白とび・黒つぶれを緩和する機能を持つものも現れている。デジタルでは数枚の露出の異なる写真を合成してダイナミックレンジを拡大する[[ハイダイナミックレンジ合成|HDR]]という手法も用いられる。通常、ソフトを使ってパソコン上で行うが、カメラ内で自動的に合成する機種も現れている。 == 自動露出 == {{See also|AEカメラ}} 現在は[[カメラ|フィルムカメラ]]にしろ、[[デジタルカメラ]]にしろ、[[AEカメラ|自動露出]](AE)の機能を備えているものが大部分である。ある程度以上のレベルのカメラでは、自動露出のモードには'''シャッター速度優先モード'''(または'''Tvモード'''、'''Sモード''')、'''絞り優先モード'''(または'''Avモード'''、'''Aモード''')、'''プログラムモード'''(または'''Pモード''')などがあり、そのほかに手動露出(マニュアルモード、'''Mモード''')や[[バルブ]](シャッター開放=シャッターを押し続ける限り露出が続くモード。実際にはレリーズによって操作することが多い。'''Bモード''')などの露出方法が選択できるものがある。 シャッター速度を主にコントロールして撮影する場合は「シャッター速度優先モード」が便利であり、その場合は適正露出に応じた絞り値が自動的に選択される。また、[[被写界深度]]をコントロールして[[パンフォーカス]]や[[ボケ (写真)|ボケ表現]]で撮影したい場合は「絞り優先モード」が便利である。このモードでは絞りを決定すると、適正露出になるシャッター速度が自動的に選択される。「プログラムモード」はシャッター速度、絞りともカメラ任せにするモードで、初心者の撮影や[[シャッターチャンス]]が死命を制する[[スナップ写真]]などに適している。 フィルムカメラではISO感度はフィルムを交換するか、増感または減感現像をしない限り変更できなかったが、デジタルカメラでは撮影の都度、感度を変更できるものもある。また機種によっては任意の絞りとシャッター速度を決定すると、自動的に適正な感度を選択してくれるモード('''TAvモード''')を持つものも出てきている。ただ、一般に高感度になるほど[[ノイズ]]が発生し、画質が低下する傾向があるので注意を要する。高感度ノイズを軽減する機能がついたデジタルカメラも現れている。 == 自動露出の限界 == [[File:Mt.Hokendake without Exposure Compensation.jpg|thumb|right|220px|露出補正せずに自動露出(スポット[[測光]])で撮影した雪山。露出アンダーになっている。]] [[File:Mt.Hokendake with +2EV Exposure Compensation.jpg|thumb|right|220px|+2EVの露出補正を加えて撮影した同所。上の写真に比べて自然な露出となっている。]] 条件によっては自動露出機能のもとでも適正な露出が得られないことがある。 自動露出はカメラ内の[[TTL露出計|TTL(Through The Lens)露出計]]の測定によって適正露出を割り出している。TTL露出計は反射光式、すなわち一旦ものに当たって反射した光を測定するタイプの露出計である。この露出計は反射率18%を適正露出の基準としている。18%[[グレー]]の反射板を自動露出で撮影すると、常に適正露出となるように設計されている。この数字は色々な反射率を持つ色の混ざった被写体の平均的な反射率が18%であるところからきている。[[赤]]や[[緑]]などの反射率は18%前後であるといわれている。<ref>小林義明『適正露出の考え方』「NCフォトシリーズ6露出を極める」日本カメラ社 35ページ</ref> しかし、被写体の反射率が18%からかけ離れているときはどうであろうか?例えば[[白]]の反射率は例えば[[雪]]の場合60%から72%ぐらいである。<ref>鈴木一雄『露出の極意 「スポット測光術」のすべて』日本写真企画。</ref>このような被写体に対すると、露出計は光量が実際よりも多い(反射率72%と仮定すると18%の4倍=2EV分の光量)と判断し、実際よりも暗く写そうとする。その結果、自動露出で白っぽいものを撮ると露出アンダーとなる。また、[[黄色]]や[[オレンジ色]]は白ほどではないが18%より反射率が高く、自動露出では露出アンダーになりがちである。右側の上の写真は真っ白な雪の部分を[[AEカメラ#スポット測光|スポット測光]]して撮影したものである。実際に非常に露出アンダーとなっている。(最近の[[AEカメラ#多分割測光|多分割測光]]ではこれほど極端なアンダーにはならない。) また、[[黒]]の反射率はおよそ3%といわれる。<ref>谷口泉『デジタル撮影の適正露出と色彩調整』日本カメラ社 30ページ。</ref>黒っぽい、反射率が18%より低い色が画面の多くを占める場合、露出計は光が足りないと判断し、カメラは絞りを過剰に開いたり、[[シャッター速度]]を遅くしたりするなどして、露出オーバーに写してしまうのである。 == 露出補正 == このような場合に対応するため、カメラによっては'''露出補正機能'''がついているものがある。自動露出でオーバーになる場合はマイナスに、アンダーになる場合はプラスに露出補正することにより、適正露出が得られる。右下の写真は上と同じ雪山に+2.0EVの露出補正をかけて撮影しなおしたものである。上の写真より自然な露出となっている。 また、白とび・黒つぶれを抑えたり、意図的にハイキー、ローキーの写真を撮ろうとする場合も、露出補正機能が役立つ。 機種によっては1EV刻み、1/2EV刻み、あるいは1/3EV刻みなどの細かい露出補正できるものがある。シャッター優先AEの場合は絞りが、絞り優先AEの場合はシャッター速度が変化するのが通例である。TAvモードでは[[ISO感度]]が変化する。 危険分散のため、何枚か同じ被写体を露出を変化させて撮る人もいる。これを'''段階露出'''、'''ブラケティング'''、また通称「バラシ撮り」ともいう。 また、カメラによっては自動的に段階露出の撮影を行う'''[[オートブラケット機構]]'''を持つ機種もある。撮影されたものの中から、自分の表現意図にもっとも合致する写真を選べばよいのである。 実際の被写体は色々な色のものが混在しており、フィルムカメラ、特に[[リバーサルフィルム|リバーサル]]の場合、露出補正には高度な経験と技術を要したが、デジタルカメラでは、撮った直後に液晶画面で確認したり、あるいは、[[ライブビュー]]機能で事前に確かめたりすることができるようになったので、露出補正は格段と容易になった。 == 符号化露光 == 時間変数tに沿った符号化は符号化露光と呼ばれる<ref>日浦慎作、「[https://doi.org/10.3169/itej.63.274 2-1. コンピュテーショナルフォトグラフィ 演算を前提とした画像の獲得]」 『映像情報メディア学会誌』 63巻 3号 2009年 p.274-278, {{doi|10.3169/itej.63.274}}</ref>。この手法を用いるとぼけた画像から[[画像処理]]により鮮明な画像を得られる<ref>Raskar, Ramesh, Amit Agrawal, and Jack Tumblin. "[http://www.comp.nus.edu.sg/~brown/IIIT/CodedExpousreSIGGRAPH06.pdf Coded exposure photography: motion deblurring using fluttered shutter.]" ACM Transactions on Graphics (TOG). Vol.25. No.3. ACM, 2006.</ref><ref>西一樹、「[https://doi.org/10.3169/itej.67.655 3 符号化露光法と超解像]」 『映像情報メディア学会誌』 67巻 8号 2013年 p.655-660, {{doi|10.3169/itej.67.655}}</ref><ref>Ramesh Raskar. 「[https://doi.org/10.3169/itej.62.1952 Less is More Coded Computational Photography(符号化された写真からシーン情報を復元する計算機写真術)]」 『映像情報メディア学会誌』 62巻 12号 2008年 p.1952-1958, {{doi|10.3169/itej.62.1952}}</ref>。 == 脚注 == {{Reflist}} == 関連項目 == {{Commonscat|Exposure}} * [[絞り (光学)]] * [[シャッター速度]] * [[AEカメラ]] * [[ライトバリュー]] {{写真}} {{DEFAULTSORT:ろしゆつ}} [[Category:光学]] [[Category:写真の技法]] [[Category:撮影技術]] [[Category:カメラ]]
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