音響パワーのソースを表示

'''音響パワー'''（おんきょうパワー、{{lang-en-short|sound power}}<ref name="JIS Z 8000-8:2014、6頁">{{Cite jis|Z|8000-8|2014|name=量及び単位－第 8 部：音|page=6}}</ref><!--←この出典として参照されるJISは{{Oldid|101021254}}に付された、英語表記を示すためのものであり、以下の定義文とは無関係。-->）とは、音場内のある面を単位時間に通過する[[音響エネルギー]]である{{Sfnp|『新版 音響用語辞典』|2003|p=51|loc=「音響パワー」}}{{Sfnp|阪上『建築音響』|2019|p=11}}。指定された面に垂直な方向の体積速度{{efn|振動している面上にとられた微小部分の面積とその面に垂直な粒子速度成分との積を、振動面全体にわたって積分したもの{{Sfnp|『新版 音響用語辞典』|2003|p=220|loc=「体積速度」}}。}}と[[音圧]]の同相成分の積の時間平均値で与えられる{{Sfnp|『新版 音響用語辞典』|2003|p=51|loc=「音響パワー」}}<ref name="JIS音響パワー">「音響エネルギー束，面積要素を通過する音響パワー」対象とする面を通過する瞬時音圧と体積速度の同相成分の積の時間平均値。（{{lang-en-short|sound energy flux, sound power through a surface element}}）{{harv|JIS Z 8106:2000}}</ref>。パワーすなわち[[仕事率]]である。[[SI単位]]は[W]（[[ワット (単位)|ワット]]＝<nowiki>[</nowiki>[[ジュール|J]]/[[秒|s]]]）。'''音響エネルギー束'''（{{lang-en-short|sound energy flux|links=no}}）ともいう<ref name="electropedia 801-21-37">{{cite web|title=IEC 60050 - International Electrotechnical Vocabulary - Details for IEV number 801-21-37: "sound energy flux"|url=https://www.electropedia.org/iev/iev.nsf/display?openform&ievref=801-21-37|website=electropedia.org|accessdate=2025-01-19}}</ref>{{efn|「音響エネルギー束」(sound energy flux)を見出しに掲げる『理工学辞典』においても、「ある面を単位面積に通る音響エネルギー。音響パワーともいう」とし、これをベクトル量としては説明していない<ref>{{harvp|『理工学辞典』|1996|p=217|loc=「音響エネルギー束」}}</ref>。ベクトル量となるのは「[[音響エネルギー束密度]]」である{{Sfnp|『新版 音響用語辞典』|2003|p=47|loc=「音響インテンシティ」}}。}}。

単位時間に音源が放射する音響エネルギーの総和を'''音響出力'''（おんきょうしゅつりょく、{{lang-en-short|sound power of a source}}）といい、音源を囲む閉曲面を単位時間に通過する音響エネルギー、すなわち音源を囲む閉曲面を通過する音響パワーに等しい<ref name="理工学辞典:音響出力">{{harvp|『理工学辞典』|1996|p=217|loc=「音響出力」}}</ref>。そのため、音響パワーの語を音響出力と同義に使う場合もある。

== 算出 ==
音響パワー <math>W</math> <nowiki>[</nowiki>[[ワット|W]]] は、音場内のある点の単位面積を単位時間に通過する音響エネルギーである{{Sfnp|『新版 音響用語辞典』|2003|p=47|loc=「音響インテンシティ」}}、'''音響インテンシティ'''（'''[[音の強さ]]'''） <math>\boldsymbol{I}</math> を、有限のある面について、面と垂直な方向の[[単位ベクトル]]との[[内積]]を積算した量であり、
{{indent|<math>
W = \int \boldsymbol{I} \cdot d\boldsymbol{S}
</math>}}
で表される。（なお、音源を取り囲む閉曲面を通過する音響パワーを[[#音響出力|音響出力]]と呼ぶ{{Sfnp|阪上『建築音響』|2019|p=11}}。）

さて、ベクトル量である <math>\boldsymbol{I}</math> の大きさ <math>I</math> [W/m<sup>2</sup>]は、媒質中の単位体積に含まれる音波のエネルギーであるエネルギー密度''E'' (=''p''<sup>2</sup>/ρ''c''<sup>2</sup>)から、[[音圧]]（実効音圧）''p'' [Pa]、媒質の密度ρ [kg/m<sup>3</sup>]、媒質中の音波の伝搬速度（[[音速]]） ''c'' [m/s]を用いて、
{{indent|<math>
I = c E = \frac{p^2}{\rho c}  
</math>}}
と表される<ref>{{harvp|『理工学辞典』|1996|p=217|loc=「音響エネルギー密度」「音響エネルギー密度レベル」}}</ref>。

よって、密度 ''ρ'' の[[媒質]]中の[[平面波]]または[[球面波]]について、伝搬速度 ''c''、面積 ''A''、実効音圧 ''p'' ときの音響パワー ''W'' は、次式で与えられる。
{{indent|<math>
W = \frac{p^2}{\rho c} A\mathrm{cos}\theta 
</math>}}
ここで、<math>\theta</math> は音の伝搬方向と面に垂直な方向のなす角度であり、伝搬方向に直交する面のとき<math>\theta = 0^\circ</math>となり、<math>\cos \theta = 1</math>となる。

例えば、常温の[[空気]]中（''ρ''=1.2 kg/m<sup>2</sup>,''c''=343 m/s ）にて[[音圧レベル]]が85 [[デシベル|dB]]、すなわち音圧0.356 [[パスカル (単位)|Pa]]の音の音響パワーは、音の伝搬方向に直交する単位面積 ''A''=1m<sup>2</sup> あたり 0.3 mW となる。

== 粒子速度（または体積速度）による定義 ==
音響パワーは、音響インテンシティと同様、音圧 <math>p</math> と粒子速度 <math>\boldsymbol{u}</math> により記載される<ref>Landau & Lifshitz, "Fluid Mechanics", Course of Theoretical Physics, Vol. 6</ref>。
: <math>
W = \int (p\boldsymbol{u}) \cdot \mathrm{d}\boldsymbol{S}
</math>
これは、指定された面に垂直な方向の体積速度（振動している面上にとられた微小部分の面積とその面に垂直な粒子速度成分との積 <math>\boldsymbol{u} \cdot d\boldsymbol{S}</math> を、振動面全体にわたって積分したもの<ref>「体積速度」表面に垂直な粒子速度成分とその微小面積との積の振動面にわたる積分（{{lang-en-short|volume velocity}}）{{harv|JIS Z 8106:2000}}</ref>）と音圧 <math>p</math> の同相成分の積を表している。

このように物理的には、音響パワーの瞬時値を求めることが可能であるが、音圧で実効音圧をとるのと同様に、時間平均（ある時間についてやりとりされるエネルギーをその時間で除した値）をとる<ref name="JIS音響パワー"/>。

== 音響出力 ==
機器やスピーカなどの音源が単位時間に出す音響エネルギーの総量を'''音響出力'''（おんきょうしゅつりょく、{{lang-en-short|sound power of a source}}）といい、音源を囲む閉曲面を単位時間に通過する音響エネルギー、すなわち音源を囲む閉曲面<math>\boldsymbol{S}</math>を通過する音響パワーに等しい<ref name="理工学辞典:音響出力"/>。

{{indent|<math>
W = \oint_{S} \boldsymbol{I} \cdot d\boldsymbol{S}
</math>}}

そのため、音響パワーの語を音響出力と同義に使う場合もある。JIS（[[日本産業規格]]）では、音源の音響エネルギーについては、「音源の音響出力」「音源の音響パワー」と「音源」の語を付して定義する<ref name="JIS音響出力">「音源の音響出力、音源の音響パワー」ある時間の長さで、指定された周波数帯域の音源が放射する全音響エネルギーをその時間で除した値。（{{lang-en-short|sound power of a source}}）{{harv|JIS Z 8106:2000}}</ref>。音声源から放出される量については「音声パワー」とされることがある<ref name="JIS音声パワー">「瞬時音声パワー」音声源から放射される単位時間当たりの瞬時音響エネルギー。（{{lang-en-short|instantaneous speech power}}）{{harv|JIS Z 8106:2000}}</ref>。

=== 音響パワーレベル ===
{{also|音圧#音圧と音圧レベル}}
'''音響パワーレベル'''（おんきょうパワーレベル、{{lang-en-short| sound power level of a source}}）あるいは'''音響出力レベル'''は、音響出力（音源の音響パワー）の[[レベル表現|レベル表示]]であり{{Sfnp|『新版 音響用語辞典』|2003|p=51|loc=「音響パワーレベル」}}、すなわち与えられる基準値の比の[[対数]]。通常、対数の底を10とした[[常用対数]]を10倍し、[[デシベル]] [dB]を単位として表す。

すなわち、音響パワー''W''[W]をデシベルとして表す音響パワーレベル<math>L_W</math> [dB]は、
{{indent|<math>L_W=10 \log_{10}\frac{W}{W_0} </math> [dB]}}
と定義される。ここで、基準となる音響パワー''W<sub>0</sub>''は、特に指定のない限り、 1 pW（＝10<sup>-12</sup> [W]）である<ref name="JIS音響パワーレベル">「音響パワーレベル」ある音響パワーの基準の音響パワーに対する比の対数。比の10を底とする対数（常用対数）をとり10倍すれば、音響パワーレベルはデシベルで表される。単位記号は、dB。（備考）特に指定がない限り，基準の音響パワーは，1pW。（{{lang-en-short|sound power level}}）{{harv|JIS Z 8106:2000}}</ref>。

=== 音量 ===
'''音量'''（おんりょう、{{lang-en-short|[[:en:volume|volume]]}}）は、[[音響機器]]での出力の大きさ（ボリューム）を指して、オーディオ界で使用される{{sfnp|『新版 音響用語辞典』|2003|p=60|loc=「音量」}}。また一般的には、音の知覚的属性の1つである「[[音の大きさ]]」<ref>
{{cite|和書|title=大辞林|volume=CD-ROM版|year=1992|editor=[[松村明]]|publisher=[[三省堂]]|chapter=音量}}
</ref>や、高い音は細く、低い音は太く聞こえるという音の持つ空間的な広がり感を示す「音の太さ」（{{lang-en-short|auditory volume}}）<ref>
{{cite|和書|title=新訂　標準音楽辞典 第2版|year=2008|publisher=音楽之友社|isbn=978-4-276-00007-0|volume=上巻|page=285|chapter=音の太さ}}
</ref>を指すこともある{{sfnp|『新版 音響用語辞典』|2003|p=60|loc=「音量」}}。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist}}

== 参考文献 ==
*{{Cite jis|Z|8106|2000|name=音響用語|ref={{SfnRef|JIS Z 8106:2000|}} }} （{{cite|和書|author=日本産業規格|authorlink=日本産業規格|title=JIS Z 8106:2000（音響用語）|url=https://kikakurui.com/z8/Z8106-2000-01.html}}）
*{{cite|和書|author=阪上公博|title=建築音響|year=2019|publisher=コロナ社|isbn=978-4-339-01363-4|ref={{SfnRef|阪上『建築音響』|2019}} }}
*{{cite|和書|editor=日本音響学会|title=新版 音響用語辞典|year=2003|publisher=コロナ社|isbn=4-339-00755-2|ref={{SfnRef|『新版 音響用語辞典』|2003}} }}
*{{cite|和書|editor=東京理科大学理工学辞典編集委員会|publisher=[[日刊工業新聞社]]|title=理工学辞典|year=1996|isbn=4-526-03824-5|ref={{SfnRef|『理工学辞典』|1996}} }}

== 関連項目 ==
* [[音圧]]
* [[音圧レベル]]
* [[音の強さ]]
* [[放射束]]
* [[エネルギー流束]]

{{DEFAULTSORT:おんきようぱわあ}}
[[Category:音]]
[[Category:音響学]]
[[Category:音響工学]]
[[Category:物理量]]
[[Category:率・割合]]
[[Category:仕事率]]
[[Category:密度]]
[[Category:ベクトル解析]]