2の平方根のソースを表示

{{出典の明記|date=2018-07}}
[[画像:Square root of 2 triangle.png|thumb|240px|'''2 の正の平方根''' (<math>\sqrt{2}</math>) は、[[隣辺]]の長さが {{math|1}} の[[直角二等辺三角形]]の[[斜辺]]の長さである。]]
'''2 の平方根'''（にのへいほうこん、{{lang-en-short|square root of two}}）とは、[[自乗|平方]]して {{math|2}} になる[[無理数]]のことである。すなわち、
:<math>r^2 = r \times r = 2</math>
を満たす実数 {{mvar|r}} のことである。

== 概説 ==
2の平方根は、[[#無理数であることの証明|後述する]]ように[[無理数]]である。2 の平方根は、人類の歴史において極めて初期の段階で発見されており、おそらく最初に知られた無理数であると考えられている。[[幾何学]]的には、1辺の長さが {{math|1}} の[[正方形]]の[[対角線]]の長さに相当する。

{{math|2}} の平方根には[[正の数と負の数|正負]]の 2 つがある。その内正である方を
:<math>\sqrt{2}</math>
と書き、「ルート 2」と読む<ref group="注">[[冪根]]は[[平方根]]に限らないため、「平方（2乗）」を意味する「スクウェア」をつけた「スクウェア・ルート 2」の方が正しいが、[[立方根]]（3乗根）などと特に区別する必要がない場合には、「スクウェア」の部分は省略されることが多い。</ref>。またこのとき、負の平方根は
:<math>-\sqrt{2}</math>
と書き表すことができる<ref group="注">{{math|&minus;{{sqrt|2}}}} が {{math|''r''&thinsp;{{sup|2}} {{=}} 2}}（あるいは {{math|''r''&thinsp;{{sup|2}} &minus; 2 {{=}} 0}}）の根であることは、負の数同士の積がそれらの[[絶対値]]の積に等しいことから示される。</ref>。

<math>\sqrt{2}</math> は無理数であるから、その小数部分は循環しない<ref group="注">循環小数は[[有理数]]である。</ref>。<math>\sqrt{2}</math> の小数点以下 98 桁までは以下の通りである<ref>{{OEIS|id=A002193}} 2018年7月4日閲覧</ref>。
: <math>\sqrt{2}</math> = 1.414213 562373 095048 801688 724209 698078 569671 875376 948073 176679 737990 732478 462107 038850 387534 327641 57…
上記の最初の数桁を、語呂合わせで「[[語呂合わせ#数学・科学|一夜一夜に人見頃（ひと よ ひと よ に ひと み ご ろ）]]」などと覚える記憶法がしばしば用いられている。

== 性質 ==
*<math>\sqrt{2}</math> は[[代数的整数]]である。<math>\sqrt{2}</math> の有理数体 <math>\mathbb Q</math> 上の[[既約多項式]]は {{math|''x''{{sup|2}} &minus; 2}} である。
*<math>\sqrt{2}</math> の[[近似値]]として {{math|{{sfrac|99|70}} ({{=}} {{val|1.41428571}}…)}} が挙げられる。
**分母・分子が2桁以内のものではこれが <math>\sqrt{2}</math> に最も近い<ref>{{Cite book|和書 |author=小島寛之|authorlink=小島寛之 |date=1989-09-14 |title=解法のスーパーテクニック |publisher=[[東京出版]] |page=91 |isbn=978-4924544253}}</ref>。
*<math>\sqrt{2}</math> の[[連分数|連分数展開]]は
:<math>\sqrt{2}=1+\cfrac{1}{2+\cfrac{1}{2+\cfrac{1}{2+\cfrac{1}{2+\cfrac{1}{2+\cfrac{1}{2+\cfrac{1}{\ddots}}}}}}}</math>
となる。これはしばしば {{math|[1; 2, 2, 2,...]}} と表記される。連分数展開を途中で打ち切ることで、<math>\sqrt{2}</math> の近似値を計算することができる。
{|class="wikitable" style="margin:0 auto; text-align:right"
|+連分数展開による近似
!計算回数!!近似値!!誤差 (%) 
!計算回数!!近似値!!誤差 (%)
|-
|style="text-align:center"|0||{{math|1}}||{{math|&minus;30}} 
|style="text-align:center"|7||{{math|'''1.414 21'''6}}||{{math|1.50{{e|&minus;4}}}}
|-
|style="text-align:center"|1||{{math|'''1'''.5}}||{{math|6.1}} 
|style="text-align:center"|8||{{math|'''1.414 213''' 2}}||{{math|&minus;2.58{{e|&minus;5}}}}
|-
|style="text-align:center"|2||{{math|'''1.4'''}}||{{math|&minus;1.0}}
|style="text-align:center"|9||{{math|'''1.414 213''' 6}}||{{math|4.42{{e|&minus;6}}}}
|-
|style="text-align:center"|3||{{math|'''1.4'''2}}||{{math|0.17}}
|style="text-align:center"|10||{{math|'''1.414 213 5'''5}}||{{math|&minus;7.59{{e|&minus;7}}}}
|-
|style="text-align:center"|4||{{math|'''1.41'''3 8}}||{{math|&minus;0.03}}
|style="text-align:center"|11||{{math|'''1.414 213 56'''4}}||{{math|1.30{{e|&minus;7}}}}
|-
|style="text-align:center"|5||{{math|'''1.414 2'''9}}||{{math|5.10{{e|&minus;3}}}} 
|style="text-align:center"|12||{{math|'''1.414 213 562''' 1}}||{{math|&minus;2.23{{e|&minus;8}}}}
|-
|style="text-align:center"|6||{{math|'''1.414 2'''0}}||{{math|&minus;8.75{{e|&minus;4}}}}
|style="text-align:center"|13||{{math|'''1.414 213 562''' 43}}||{{math|3.83{{e|&minus;9}}}}
|}

== 歴史 ==
[[バビロニア数学|バビロニア]]の[[粘土板]] YBC 7289（[[紀元前]]2000 - 1650年頃）に、{{math|2}} の平方根の近似が[[六十進法]]で 4 桁の精度で与えられている。
:<math>1+\frac{24}{60} +\frac{51}{60^2} +\frac{10}{60^3} =1.41421\overline{296}</math>
これは[[十進法]]では 6 桁の近似精度である。古い時代のうちで精度の高い近似としてほかに、[[インドの数学|古代インドの数学者]]によるものが知られており、[[シュルバ・スートラ]]（紀元前800 - 200年頃）では、{{math|2}} の平方根が「''基準の長さ ({{math|{{=}} 1}}) からその三分の一だけ増やし、さらにこの三分の一のそのまた四分の一から、この四分の一の三十四分の一だけ取り去ったものを加える'' 」として与えられている。これはつまり、
:<math>1+\frac{1}{3} +\frac{1}{3\cdot 4} -\frac{1}{3\cdot 4\cdot 34} =\frac{577}{408} \approx 1.414215686</math>
を与えていることになる。

無理数は[[ピタゴラス教団]]の[[ヒッパソス|メタポンタムのヒッパソス]]によって発見されたとされている。通説では、ヒッパソスが無理数を発見したのは {{math|2}} の平方根を[[分数]]として表そうと試みていたときであり、彼は {{math|2}} の平方根の無理性の（おそらく幾何学的な）証明を与えたといわれている。ところがピタゴラスは（有理）数の絶対性を信じていたため無理数の存在を受け入れることができなかった。ピタゴラスたちはこのような数を｢アロゴン(Alogon，口にできない)｣とよんで研究対象から除外し，そのことを教団外の人たちには秘密にしていたといわれている。<ref>{{Cite book|和書|title=Newton別冊　数学の世界[増補第3版]|date=2019年11月5日|year=2019|publisher=ニュートンプレス|page=69}}</ref>ピタゴラスは[[論理学|論理]]的に無理数の非存在を示すことはできなかったが、その信念から無理数の存在を受け入れることができず、ヒッパソスを溺死の刑に処したとされている。

== 無理数であることの証明 ==
=== 有理根定理を用いた方法 ===
<math>\sqrt{2}</math> の有理数体 <math>\mathbb Q</math> 上の[[既約多項式]] {{math|''P''(''x'') {{=}} ''x''{{sup|2}} &minus; 2}} を用いる。{{math|''P''(''x'')}} は有理根をもつと仮定する。それを {{math|''x'' {{=}} ''{{sfrac|p|q}}''}}（{{mvar|p}}, {{mvar|q}} を[[互いに素 (整数論)|互いに素]]な整数）と表すと、[[有理根定理]]より、{{mvar|p}} は定数項 {{math|&minus;2}} の約数、{{mvar|q}} は最高次係数 {{math|1}} の約数である。ゆえに {{math|''P''(''x'')}} の根 <math>\sqrt{2}</math> は[[整数]]または[[無理数]]である。{{math|2}} は[[平方数]]でないから、<math>\sqrt{2}</math> は整数ではない。ゆえに、<math>\sqrt{2}</math> は無理数である。■

この証明は <math>\sqrt{2}</math> に限らず一般化して、平方数でない[[自然数]]の平方根の無理性を示すことにも使える。

=== 背理法 ===
[[背理法]]（[[無限降下法]]）を用いた証明を以下に示す。

<math>\sqrt{2}</math> が[[有理数]]であると仮定すると、<math>\sqrt{2}</math> は既約分数<ref group="注">これ以上[[約分]]できない分数のことである。</ref>で表すことができる。すなわち、[[互いに素 (整数論)|互いに素]]である（[[公約数]]を {{math|1}} 以外に持たない）[[整数]] {{mvar|M}}, {{mvar|N}} を用いて
{{NumBlk|:|<math>\sqrt{2} =\frac{M}{N}</math>|{{equationRef|1}}}}
と表せる。{{equationNote|1|(1)}} の両辺を2乗し分母を払うと
{{NumBlk|:|<math>2N^2 = M^2.</math>|{{equationRef|2}}}}
{{equationNote|2|(2)}} から {{math|''M''{{sup|2}}}} は[[偶数]]であり、ここから {{mvar|M}} は偶数であることを示すことができる<ref group="注" name="even">[[ユークリッドの補題]]を認めれば明らかである（{{math|''a''{{sup|2}} {{=}} ''a''&thinsp;×&thinsp;''a''}} が偶数ならば {{mvar|a}} も偶数である。）が、[[対偶 (論理学)|対偶]]命題（{{mvar|M}}が[[奇数]]ならば{{math|''M''{{sup|2}}}} は奇数）が真であることが導かれる。</ref>。したがって {{mvar|M}} は整数 {{mvar|m}} を用いて以下のように表すことができる。
{{NumBlk|:|<math>M = 2m.</math>|{{equationRef|3}}}}
{{equationNote|3|(3)}} を {{equationNote|2|(2)}} の式に代入して整理すると以下の関係を得る。
{{NumBlk|:|<math>N^2 = 2m^2.</math>|{{equationRef|4}}}}
{{equationNote|4|(4)}} より {{math|''N''{{sup|2}}}} は偶数なので、{{mvar|N}} も偶数である<ref group="注" name="even" />。以上より、{{mvar|M}}, {{mvar|N}} ともに偶数であることが示されたが、これは {{mvar|M}}, {{mvar|N}} が互いに素であるという仮定に矛盾する。ゆえに、<math>\sqrt{2}</math> は[[無理数]]であることが示された。■

無限降下法を意識した証明だと、{{mvar|m}}, {{mvar|n}} が {{mvar|M}}, {{mvar|N}} と同様に偶数であるといえ、{{equationNote|1|(1)}} の右辺が何回でも {{math|2}} で約分できることになり、矛盾となる。

=== 素因数分解の一意性を用いた方法 ===
[[算術の基本定理|素因数分解の一意性]]（{{math|1}} より大きな整数の[[素因数分解]]は、[[素数]]の積の順序を除いて一意である）ことを利用する。
# <math>\sqrt{2}</math> が有理数であると仮定する。<math>\sqrt{2}=\frac{a}{b}</math> （{{mvar|a}}, {{mvar|b}}は[[互いに素 (整数論)|互いに素]]な整数）と表す。（このような分数を既約分数と呼ぶ）。
# {{math|2}} は平方数でないため、分母 {{mvar|b}} は {{math|1}} ではない。
# {{mvar|a, b}} は互いに素なので、{{mvar|b}} を割り切り {{mvar|a}} を割り切れない素数 {{mvar|p}} が存在する。
# {{mvar|a}} の平方 {{math|''a''{{sup|2}}}} の素因数分解は {{mvar|a}} の素因数をそれぞれ[[自乗|二乗]]したものになる。
# 従って素因数の一意性から {{math|''p''{{sup|2}}}} は {{math|''a''{{sup|2}}}} を割り切れない。
# <math>\frac{a^2}{b^2}</math> は既約分数であり整数ではない。
# よって <math>\sqrt{2}</math> は有理数ではない。
この証明はある整数の {{mvar|k}} 乗でない整数の {{mvar|k}} 乗根が無理数である証明に拡張できる。

=== 背理法を使わない方法 ===
背理法を用いずに証明することができる。ただし、その構想には、背理法による証明過程における、矛盾の発生した点から論理を始めるという点で、直観的ではなく、きわめて形式的である。

平方数の各素因数の個数は偶数個であることと、[[算術の基本定理|素因数分解の一意性]]を用いる。

任意の自然数 {{math2|''m'', ''n''}} に対して、{{math2|''m''{{sup|2}}, 2''n''{{sup|2}}}} の素因数 {{math|2}} の個数はそれぞれ偶数、奇数である。

ゆえに、<u>素因数分解の一意性により、</u>{{math2|''m''{{sup|2}} ≠ 2''n''{{sup|2}}}}

∴ <math>\sqrt{2} \ne \frac{m}{n}</math> 

{{math2|''m'', ''n''}} の任意性より、{{sqrt|2}} は無理数である。■

== 日常生活における2の平方根 ==
[[画像:Silvermean.gif|thumb|白銀長方形（縦 : 横 = {{math|1 : {{sqrt|2}}}}）]]
{{See also|白銀比}}
{{math|1}} : <math>\sqrt{2}</math>（およそ {{math|5 : 7}}）の比率は[[紙の寸法|用紙サイズ]]（A3 や A4 など）に採用されている（[[ISO 216]] で標準化されている）他、建物などに使われる。一辺と他辺がこの比となる長方形は、'''白銀長方形''' ({{en|silver rectangle}})、または'''ルート長方形'''と呼ばれる。

この比が用紙サイズとして用いられている理由は、用紙を長手方向に半分にしたときに元と[[図形の相似|相似]]の形状となるため、大きな用紙を切るだけで規格に適合した小さな用紙が得られるためである。この融通性は実用上非常に都合が良い（用紙の縦、横の長さの値は {{math|74, 105, 148, 210, 297}} など公比を {{math|{{sqrt|2}}}} とする[[等比数列]]としている）。

また、日本建築におけるモジュールの1つとして {{math|2}} の平方根が用いられていると考えられる。例として[[法隆寺]]の五重塔を上から見た投影平面図における辺（短辺と長辺）の関係が挙げられる。大工道具の[[指矩]]（さしがね）の裏面には裏目として角目と呼ばれる目盛（<math>\sqrt{2}</math> を掛けたもの）が刻まれているものもある。この利用方法として、丸太から最大の方形角材を製材するときの寸法採りに用いられる。方法として丸太の直径を {{math|1.414}} 倍目盛にて計測し、求めた値の裏面に当たる値が最大方形の 1 辺の長さとなる（直角二等辺三角形での辺長関係 = {{math|1 : 1 : <math>\sqrt{2}</math>}}）。

== {{math|{{sqrt|2}}}} の小数表示の求め方 ==
{{math|{{sqrt|2}}}} の小数表示の求め方として、素朴に求めるには、2×100ⁿに近い[[平方数]]を探すという方法がある。例えば、200は196(=14²)に近いため10√2=√200≒√196=14より√2≒1.4など。また、2=100/50≒100/49=(10/7)²から√2≒10/7=1.428571...のような2に近い平方数/平方数を探す方法もある。より効率を追究した方法として、[[開平法]]がある。これは一般の[[位取り記数法]]表示でも可能である。

== 脚注 ==
=== 出典 ===
{{Reflist}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注"}}

== 関連項目 ==
*[[冪根]]
*[[平方根]]
*[[3の平方根]]
*[[5の平方根]]
*[[6の平方根]]
*[[7の平方根]]
*[[10の平方根]]
*[[白銀比]]
*[[2の立方根]]

== 外部リンク ==
*[https://apod.nasa.gov/htmltest/gifcity/sqrt2.1mil 2の平方根の近似値]（100万桁）2008年7月12日閲覧

{{代数的数}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:2にのへいほうこん}}
[[Category:2 (数字)]]
[[Category:代数的数]]
[[Category:無理数]]
[[Category:ピタゴラスの定理]]
[[Category:数学に関する記事|/2にのへいほうこん]]