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775年の宇宙線飛来
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<!--この記事は2013年6月6日放送の[[コズミックフロント]]を元に記載しています。もっとまともな出典があれば、追記をお願いします。--> 本記事、'''775年の宇宙線飛来'''(775ねんのうちゅうせんひらい)では西暦[[774年]]または[[775年]]に[[宇宙線]]が大量に飛来した事象について扱う。各地で、[[放射性炭素年代測定]]に用いられる{{Chem|link=炭素14|14|C}}濃度にスパイク状の上昇が見られることがその大きな証拠であり、他の年代に起こった事象も含め'''{{Chem|14|C}}スパイク'''とも呼ばれる<ref>{{Cite journal|和書|author=門叶冬樹|date=2020年10月|title=放射性炭素{{chem|14|C}}を用いた加速器質量 分析(AMS)研究の新しい展開|url=https://www.nagase-landauer.co.jp/nl_letter/pdf/31/no514.pdf|journal=NLだより|issue=No.514|page=1|publisher=長瀬ランダウア株式会社|format=PDF}}</ref><ref>{{Cite web|和書|title=(特集)科研費取得教員の声-最新型AMS装置の高精度化による単年14Cスパイク年代決定法の研究-(研究代表者:門叶 冬樹 教授) |url=https://www.sci.yamagata-u.ac.jp/news/detail/447/ |website=山形大学理学部・大学院理工学研究科 |access-date=2022-07-31 |language=ja |date=2020-05-22}}</ref>。 == 発見 == 2012年に[[名古屋大学]][[太陽地球環境研究所]]の研究チームが[[屋久杉]]の[[年輪]]を検査した結果、西暦775年にあたる年輪から[[炭素14]]や[[ベリリウム10]]などの[[放射性物質]]の割合が過去3000年間の間に最も高くなることを発見した<ref name="nagoya.21860">{{Cite journal|和書|author=三宅芙沙, 増田公明, 箱崎真隆, 中村俊夫, 門叶冬樹, 加藤和浩, 木村勝彦, 光谷拓実 |title=樹木年輪に刻まれた突発的宇宙線イベント |journal=名古屋大学加速器質量分析計業績報告書 |publisher=名古屋大学年代測定資料研究センター |year=2014 |month=mar |volume=25 |pages=137-143 |naid=120005603717 |doi=10.18999/sumrua.25.137 |url=https://doi.org/10.18999/sumrua.25.137}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author=三宅芙沙, 増田公明 |title=屋久杉に刻まれた宇宙現象 : 西暦774-775年,993-994年の宇宙線強度異常(最近の研究から) |journal=日本物理学会誌 |ISSN=0029-0181 |publisher=日本物理学会 |year=2014 |volume=69 |issue=2 |pages=93-97 |naid=110009804901 |doi=10.11316/butsuri.69.2_93 |url=https://doi.org/10.11316/butsuri.69.2_93}}</ref><ref name=astroarts>{{cite news|title=8世紀、地球はガンマ線バーストにさらされた?|url=https://www.astroarts.co.jp/news/2013/01/24grb/index-j.shtml|work=AstroArts|date=2013-01-24|accessdate=2016-02-11}}</ref>。これらの放射性物質は宇宙から降り注ぐ宇宙線 <chem>{\it{n}}</chem> が大気中の[[窒素]](N) と衝突して生じる。 例えば 炭素14({{sup|14}}C)の生成反応式は、 :<chem>{\it{n}} + {^{14}_{7}{N}} -> {^{14}_{6}{C}} + \it{p}</chem> で、 これにより、775年頃に地球に宇宙線が大量に飛来していたことが明らかになった。この研究結果は2012年6月に[[ネイチャー|Nature]]に掲載された<ref>{{Cite journal|last=Lovett|first=Richard A.|date=2012-06-03|title=Mysterious radiation burst recorded in tree rings|url=https://www.nature.com/articles/nature.2012.10768|journal=Nature|language=en|doi=10.1038/nature.2012.10768|issn=1476-4687}}</ref><ref>[https://www.nature.com/articles/nature11123 A signature of comic-ray increase in AD 774-775 from tree rings in Japan.] Nature volume 486, pages240–242(2012)</ref>。 また、[[ドイツ]]の老木の年輪や[[南極]]の氷からも同じ頃、放射性物質が急増していることが判明している<ref name="calender">[https://enigma-calender.blogspot.com/2014/03/AD-775.html?m=1 西暦775年のミステリー・世界中の歴史書に記されていた「空に浮かぶ赤い十字架」の謎~その時宇宙では何が起こったのか?{{出典無効|date=2022-07-31|title=参照文献のない匿名個人ブログ}}]</ref>。 == 記録 == 宇宙線は肉眼では観測できないので、宇宙線を直接観測したという記録は当然、存在しない。しかし、世界中の文献に宇宙線をもたらすきっかけとなった現象が記されている。その中で、[[イギリス]]の『[[アングロサクソン年代記]]』には「'''西暦774年に、空に[[赤|赤い]][[十字架]]と見事な[[ヘビ|大蛇]]が現れた'''」という記述がある<ref name=astroarts/><ref name=calender/>。 また、[[ドイツ]]にある修道書を調べた結果、「'''西暦776年に、[[教会]]の上を燃え盛る2枚の[[楯]]が動いていくのを目撃した'''」という記述があり、さらに、当時の[[中華人民共和国|中国]]([[唐]])の天体観測を記録した『[[新唐書]]』には「'''西暦767年の7月頃に、太陽の脇に[[青|青色]]と[[赤|赤色]]をした気<ref group="注釈" name="注釈1">ここでいう「気」とは「もや」のような物体を指す。</ref>が現れた'''」と記されている<ref name=calender/>。 同時期の[[日本]]の記録では、『[[続日本紀]]』の[[神護景雲]]元年(767年)8月[[癸巳]]の日に改元の理由として「'''今年の[[6月16日]][[申|申時]]'''(※午後4時頃)'''に[[南東|東南]]のすみにあたりて、いと奇く異に麗き雲七色相交て立登てあり'''」とする。また、[[宝亀]]3年(772年)の6月[[乙丑]]の日には「'''[[虹]]有り。日を繞る'''」とあり、3日後の[[戊辰]]の日には「'''往往に京師に[[隕石]]あり'''」と記録されている。 == 考えられる原因 == 宇宙線の割合や先述の文献の記述から以下の3つの説が考えられている。 === 太陽活動説 === 775年頃に巨大な[[太陽フレア]]が発生し、そのときに放出された[[宇宙線]]が原因であるという説。先述のドイツの修道書に記述されていた「燃え盛る2枚の楯」とアングロサクソン年代記に記されていた「見事な大蛇」、新唐書に記されていた「気」は太陽フレアによって発生した[[オーロラ (代表的なトピック)|オーロラ]]である可能性がある。しかし、そのためにはこれまで観測された最大の太陽フレア[[1859年の太陽嵐|キャリントンフレア]]の10倍という規模の太陽フレアが発生しなければいけない<ref name=calender/>。[[年輪]][[セルロース]]中の放射性炭素の増加と同時に、[[氷床コア]]で大気中の[[ベリリウムの同位体|放射性ベリリウム]]の増加、そして放射性炭素と放射性ベリリウムが高緯度ほど増加することが報告されていることから、2019年時点では[[太陽エネルギー粒子線|太陽高エネルギー粒子]](SEP)の短期的な増大が由来という説が優勢とされる。ただし、このSEPイベントが太陽フレアによるかどうかははっきりしていない<ref>{{Cite journal|和書|author=三宅芙沙 |title=EUREKA 地球の宇宙線起源同位体に記録された過去の極端太陽イベント |journal=天文月報 |ISSN=0374-2466 |publisher=日本天文学会 |year=2020 |month=apr |volume=113 |issue=4 |pages=208-216 |naid=40022196561 |url=https://www.asj.or.jp/jp/activities/geppou/item/735a5ebda80ada05e2b5e16813c5aff0afc063d6.pdf |format=PDF |accessdate=2021-12-24}}</ref>。 === 超新星爆発説 === 地球のすぐ近傍で、[[超新星爆発]]が発生し、それによって誕生した宇宙線が原因であるという説である。この場合、[[アングロサクソン年代記]]に記された「赤い十字架」は超新星爆発が肉眼で観測されたものではという指摘がなされている<ref name=calender/>。実際、十字架が出現した日、天気は曇り空で超新星爆発の光が十字架のように見えた可能性がある。しかし、仮にこの説が正しい場合、[[超新星残骸]]が見つからないという疑問点が残った<ref name=astroarts/><ref name=calender/>。 === ガンマ線バースト説 === [[天文学]]の分野で知られている中で最も[[光度 (天文学)|光度]]の高い[[物理現象]]である[[ガンマ線バースト]]が[[銀河系]]で発生し、それによって発生した宇宙線が原因であるという説<ref name=calender/>。ガンマ線バーストなら、短期間に大量に発生した宇宙線を説明できる。しかし、そのためには地球から3000から12000[[光年]]離れた位置でガンマ線バーストが発生しなければいけない<ref name=astroarts/><ref>{{cite web|url=https://www.ras.org.uk/news-and-press/224-news-2013/2215-did-an-8th-century-gamma-ray-burst-irradiate-the-earth|title=Did an 8th century gamma ray burst irradiate the Earth?|work=News&Press|date=2013-01-21|accessdate=2016-02-12}}</ref>。ガンマ線バーストは1つの銀河では数万年から数千万年に1度しか発生しない非常に珍しい現象であり、それが775年頃に我々の[[銀河系]]内で起きたとは考えにくい<ref name=calender/>。 == 類似例 == 2012年に名古屋大学太陽地球環境研究所が報告した際には西暦774-775年の事例と同様に、[[年輪]][[セルロース|セルロースの]][[放射性炭素年代測定]]によって西暦[[993年|993]]-[[994年]]、[[紀元前7世紀|紀元前660年]]以前、[[紀元前33世紀|紀元前3371-3372年]]、[[紀元前5千年紀|紀元前5480年]]にも短期的な宇宙線強度の増大が起きていたことが推察されていた<ref>{{cite journal|和書|author=笹公和 |date=2020-11-30 |url=https://tchou.tomonaga.tsukuba.ac.jp/events/20/201130/10.pdf |format=PDF |title=宇宙線生成核種分析による宇宙線イベントの研究 |publisher=筑波大学 |journal=2020年11月30日宇宙史センター成果報告&交流会 |accessdate=2021-12-24}}</ref>。この報告がきっかけとなって年輪に含まれる{{Chem|14|C}}スパイクと太陽活動との関係性が世界中で研究されるようになり、2024年までには疑いようのない宇宙線の痕跡として西暦774年、西暦993年、紀元前660年、紀元前5259年、紀元前7176年の5件が特定されたほか、他にもいくつかの年代の事案が後述の複数の放射性同位体による突き合わせ確認待ちとなっている<ref>{{Cite journal |last=Panyushkina |first=Irina P. |last2=Jull |first2=A. J. Timothy |last3=Molnár |first3=Mihaly |last4=Varga |first4=Tamás |last5=Kontul’ |first5=Ivan |last6=Hantemirov |first6=Rashit |last7=Kukarskih |first7=Vladymir |last8=Sljusarenko |first8=Igor |last9=Myglan |first9=Vladymir |last10=Livina |first10=Valerie |date=2024-08-23 |title=The timing of the ca-660 BCE Miyake solar-proton event constrained to between 664 and 663 BCE |url=https://www.nature.com/articles/s43247-024-01618-x |journal=Communications Earth & Environment |language=en |volume=5 |issue=1 |pages=1–9 |doi=10.1038/s43247-024-01618-x |issn=2662-4435|pmc=11343717 }}</ref>。<br> このような経緯から、年輪の中の[[炭素14]]や[[ベリリウム10]]、極地の氷床コアに含まれる[[塩素の同位体|塩素36]]の急上昇から発見された過去の強力な宇宙線飛来の事例を、発見者である名古屋大学太陽地球環境研究所の三宅芙沙の名にちなんで[[:w:Miyake_event|三宅イベント]]([[英語|英]]: Miyake event、Miyake solar-proton event)と呼ぶ。 == 脚注 == === 注釈 === <references group="注釈"> </references> === 出典 === {{Reflist}} == 関連項目 == * [[775年]] * [[宇宙線]] * [[ガンマ線バースト]] * [[放射性物質]] * [[放射性炭素年代測定]] {{デフォルトソート:775ねんのうちゆうせんひらい}} [[Category:775年|うちゆうせんひらい]] [[Category:樹木学]] [[Category:放射線]] [[Category:天文学史]] [[Category:磁気嵐]] [[Category:天文学に関する記事]] [[Category:8世紀の災害]]
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