APFSDSのソースを表示
←
APFSDS
ナビゲーションに移動
検索に移動
あなたには「このページの編集」を行う権限がありません。理由は以下の通りです:
この操作は、次のグループに属する利用者のみが実行できます:
登録利用者
。
このページのソースの閲覧やコピーができます。
[[ファイル:Obus-flèche français OFL 120 F1.jpg|thumb|right|250px|APFSDS(弾体+装弾筒)]] [[ファイル:125mm Bm15 APFSDS.JPG|thumb|250px|125mm BM15(新品ではないため、侵徹体の先端が変形している)]] '''APFSDS'''(armor-piercing fin-stabilized discarding sabot)は、[[戦車砲]]などに使用される[[徹甲弾]]で、[[戦車]]などの[[装甲]]を貫くのに特化した[[砲弾]]である。[[日本語]]では'''装弾筒付翼安定徹甲弾'''(そうだんとうつきよくあんていてっこうだん)などと称される。開発当初は[[APDS]](装弾筒付徹甲弾)との対比としてAPDS-FSと呼ばれていた。この呼称も一部の国で使われている。 == 侵徹の物理 == APFSDSは、従来の徹甲弾よりもより高い飛翔速度を持ち、それにより大きな侵徹力を有する砲弾である。1960年代に実用化された。APFSDSの発射時の初速は概して1,500m/s以上であり、第二次世界大戦以前に使用されていた徹甲弾と比較して高速で侵徹が生じる。このような高速度での衝突では、侵徹体先端は塑性変形を生じながら侵徹が生じ、これがAPFSDSの侵徹を特徴づける現象となっている。このような侵徹様式では、侵徹体の先端はマッシュルーム状に広がりながら装甲にめり込み侵入する。侵徹体は塑性変形によって先端から失われてゆくため急速にその長さを失って行き、装甲厚に対して十分な長さが無ければ穴だけが残され、長さがあれば残端が装甲内部に飛び込んで加害する。 このようなAPFSDSの侵徹を表現するモデルは1967年、1966年にTateおよびAlekseevskiiによって独立に提案された<ref>{{Cite web |title=Tate, A. (1 November 1967). Journal of the Mechanics and Physics of Solids. 15 (6): 387–399. |url=https://web.archive.org/web/20120326005503/http://hep.ph.liv.ac.uk/~ibailey/target/shielding/tate_1967.pdf |website=web.archive.org |accessdate=2022-01-28}}</ref><ref>{{Cite book|洋書|title=Terminal Ballistics 3rd edition|date=2020|year=2020|publisher=Springer|author=Zvi Rosenberg, Erez Dekel}}</ref>。侵徹体が消耗する侵徹は、成形炸薬弾の侵徹様式を表現するモデルとして、Mott、Birkhoff、PackおよびEvansによって提案され、TateおよびAlekseevskiiによって装甲の強度および侵徹体の強度を考慮したモデルが提案された。これらのモデルは、侵徹体と装甲の振る舞いを流体力学的に取り扱うことで侵徹先端速度を求めることで、侵徹体の侵徹性能を簡潔に導出している。これらのモデルに基づけば、APFSDSの侵徹性能の上限は装甲の強度に強く依存する一方で侵徹体の強度にあまり依存しない。また、侵徹体長さあたりの侵徹深さは衝突速度に対して上に凸の依存性を示し、上限が存在する。その上限は侵徹体の密度<math>\rho_p</math>と装甲の密度<math>\rho_t</math>の比の平方根<math display="inline">\sqrt{\rho_p/\rho_t}</math>によって定まる {{要出典|範囲=<nowiki>APFSDSの侵徹を説明する際にしばしば「装甲が流体のように振る舞うことで強度を失う」という説明がなされることがあるが、これは誤りである</nowiki>|date=2023年1月}}。({{要出典|範囲=<nowiki>装甲を侵徹する原理は、塑性流動による穿孔、装甲の流動化で説明されることがある。</nowiki>|date=2024年2月}}) 1995年、AndersonおよびWalkerは連続体力学的な取り扱いから同じくAPFSDSの侵徹モデルを提案し、従来の徹甲弾とAPFSDSを統一的に取り扱うモデルを提案している<ref>{{Cite journal|last=Anderson Jr.|first=Charles E.|date=2017-10-01|title=Analytical models for penetration mechanics: A Review|url=https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0734743X16310296|journal=International Journal of Impact Engineering|volume=108|pages=3–26|language=en|doi=10.1016/j.ijimpeng.2017.03.018|issn=0734-743X}}</ref>。タングステン合金弾が鋼製装甲板に穿孔する場合では850m/sec以上、鋼製の侵徹体が鋼製装甲板に穿孔する場合では1,100m/sec以上の速度が無いと侵徹体の消耗を伴う侵徹は停止し、侵徹体が消耗しない侵徹様式に移行する。 侵徹は装甲に対してほぼ平行に着弾した場合を除き跳弾を起こすことは無く、滑らすという意味での[[避弾経始]]は殆ど機能しない<ref name="現代戦車砲の主用砲弾 APFSDS">一戸崇雄著 『現代戦車砲の主用砲弾 APFSDS』 「軍事研究」2008年8月号 (株)ジャパン・ミリタリー・レビュー 2008年8月1日発行</ref>。APFSDSが装甲を貫通するためには、着弾時の速度、侵徹体の長さ、座屈しないための靱性、展性の高さの4つが必要である。着弾時の速度が低速であれば従来の徹甲弾より貫徹力が劣る。 == 構造 == {{出典の明記|date=2023-4|section=1}} [[ファイル:Sabot_separating.gif|thumb|right|250px|弾体から装弾筒が分離した瞬間]] [[ファイル:SubCalibreGrenade.png|thumb|250px|APFSDS弾の構造図。1.装弾筒 2.弾体 3.スリッピング・バンド]] APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)は、細長い棒状の侵徹体と[[風防]]、安定翼、[[軽金属]]の装弾筒、曳光筒で構成される。ライフル砲から発射する際にはスリッピング・バンドが加わる。 ; 侵徹体 : 侵徹体は棒状に加工された[[タングステン]]合金や[[劣化ウラン]]合金などの[[重金属]]で構成される。中央部側面に装弾筒が噛み合うための刻みが入れられている。 : APFSDSの侵徹体の特徴として、従来のAP、APDSと比較して細長いことが挙げられる。質量が同じであっても、細長ければ侵徹体長さをより大きくできるために、敵の[[装甲|装甲板]]に対する貫徹力が高まる。加えて、正面面積が小さいために飛翔時の空気抵抗が少なく、飛翔時の減速を小さくできるために、着弾時の速度を大きくできる。そのため、貫徹力が高まると共に飛翔時間が短く、また、低伸弾道となるので命中率も高められる。一方、侵徹体を細くしすぎると、命中時の衝撃に耐え切れずに破砕してしまったり、装弾筒離脱時に歪んで飛翔方向が狂ったり、[[爆発反応装甲]]によって容易に破砕されるといった不利な点が生じるために、侵徹体には強度が求められる。 : 細長さは、長さ(Length)/ 直径(Diameter)の値、LD比(L/D)で表される。APFSDSのLD比は増加を続けており、1970年代には15程度であったが、1990年代にはL/D比が30に達するものが現れている。このような高L/D比化の背景には、より高強度・高靭性な侵徹体材料の開発がある<ref>{{Cite web |url=http://longrods.ch/downloads/2001%20Kinetic%20Enercy%20Projectiles-Development%20History,State%20of%20the%20art,%20Trends.pdf |title=W. Lanz, W. Odermatt, G. Weihrauch: Kinetic energy projectiles: development history, state of the art, trends |accessdate=2022/03/06 |publisher=http://www.longrods.ch/}}</ref>。 ; 風防 : 風防は[[アルミニウム合金]]で作られ、飛翔時の空気抵抗を小さくし、着弾時に潰れながら侵徹体と目標の装甲板との間で衝撃を緩和して侵徹体の[[破砕]]を防ぐ。APFSDS弾は跳弾しにくい弾種であるが、浅い角度で目標装甲板に入射すれば跳弾となる事があるため、風防の柔らかいアルミが装甲に固着することで跳弾を防ぐ機能も担っている。 : 風防の先端が[[超音速]]飛翔時の空気の断熱圧縮による高温で溶けるのを防ぐために先端にチップと呼ばれる小さな部品を付けるものもある。 ; 装弾筒 : 発射時のガス圧のほとんどは装弾筒(Sabot、サボットあるいはセイボー)が受けて[[砲弾]]を加速させる。装弾筒は極めて短時間の内に大きな力を受けて主要な質量を占める侵徹体へ力を伝えるために、[[銃砲身|砲身]]内では両者は固く結合している必要があるが、砲口から出た後では装弾筒は空気抵抗によって侵徹体から素早く、かつ均等に3つか4つに分かれて分離する必要がある。装弾筒によって発射装薬により生まれた[[運動エネルギー]]が重い侵徹体に集中して与えられ、中心の細長い侵徹体部分だけが飛翔することで空気抵抗を極限まで減らすことができる。 : {{独自研究範囲|date=2023-4|昨今の[[戦車砲]]に[[マズルブレーキ]]が見られないのは、射撃時の反動よりも射撃精度を重視するためであり、分離した装弾筒が引っ掛かるのを防ぐためというのは、よく見られる誤った見解である}}。実際、APFSDSを発射可能な砲を搭載した、[[チェンタウロ戦闘偵察車]]や[[AMX-10RC]]といった車両は、車体側で射撃の反動を抑えることが難しいため、マズルブレーキを装着している。 ; 安定翼 : 侵徹体の尾部に付いた安定翼で弾道の安定を図っているが、横風の影響を受けやすい欠点があり、また、安定翼の加工誤差により砲弾ごとに弾道のバラツキが生じる。弾道の安定のために旋動は必要なので、ライフリングによる高速回転を相殺する工夫をした上で、安定翼によって毎秒数回転から数十回転程度の弱い回転を与えるようになっている。 ; 曳光筒 : 安定翼の尾部中央に小さな曳光筒が埋め込まれており、飛翔中に発火することで[[砲撃]]者が自ら放った砲弾の弾着が確認しやすいようになっている<ref name="現代戦車砲の主用砲弾 APFSDS"/>。 ; スリッピング・バンド : APFSDSは[[ライフリング]]によって毎秒数百回転という高速回転をさせると弾道が不安定になる。そのためライフリングの無い[[滑腔砲]]からの発射が理想であるが、現在では[[ナイロン]]などの[[高分子]]素材により、ライフリングによる回転を低減するスリッピング・バンド(スリップリング)の装着により通常の[[ライフル砲]]でも安定した発射が可能である。 == 材質 == 侵徹体の材質としては[[タングステン]]合金が使用されることが多く、一部には[[劣化ウラン]]合金が使用されている。 ; タングステン合金 : 初期の砲弾では、タングステン合金の強度が不十分で単体で侵徹体を構成することができず、密度は劣るが靭性の高い[[マルエージング鋼]]製の保持筒(鞘、弾殻)にタングステン合金を詰めた構造になっていた。その分密度が落ちて貫通力が劣った。その後[[1970年代]]に[[イスラエル]]が独自の技術でタングステン合金単体(モノブロック構造)の弾体を開発し、実戦で[[T-72]]を撃破した事から世界の軍事関係者の注目を受け、[[北大西洋条約機構|NATO]]軍でも[[ライセンス生産]]されている。 : タングステンを90-93%程度の主体として、[[ニッケル]]と[[鉄]]を加え、更に[[コバルト]]、[[銅]]、[[クロム]]、[[銀]]が添加されているものもある。[[密度]]:17.1-17.5g/cm<sup>3</sup> [[衝撃波速度]]:6.0kg/sec(タングステン単体、粒子速度1.5km/sec) [[衝撃インピーダンス]]:約105(密度×衝撃波速度)[[引張強さ]]と[[伸び]]:1,200[[ニュートン (単位)|N]]/mm<sup>2</sup>以上で10%程。 ; 劣化ウラン合金 : [[アメリカ合衆国|アメリカ]]や[[ロシア]]などの一部の国では、タングステンより容易に入手できる劣化ウラン(Depleted uranium)合金を侵徹体に用いているが、重金属としての毒性や残留[[放射能]]が、戦闘員や現地住民に健康被害を及ぼしているとする意見もある([[湾岸戦争症候群]]を参照)。劣化ウラン合金には、侵徹時の穿孔過程で先端外縁部が断熱せん断により早期に脱落するために先鋭化する「セルフ・シャープニング効果」(Self sharpening effect)によって、1600m/s程度以下の速度域ではタングステン合金に比べて穿孔が小さく侵徹のエネルギーが深さ方向に有効に働いてより厚い装甲板を貫けるという特性がある(タングステン合金においても、バインダーを劣化ウランや金属ガラスとすることで断熱せん断を生じるようになり、セルフ・シャープニング効果を生じることが報告されている<ref>{{Cite journal|last=Conner|first=R. D|last2=Dandliker|first2=R. B|last3=Scruggs|first3=V|last4=Johnson|first4=W. L|date=2000-05-01|title=Dynamic deformation behavior of tungsten-fiber/metallic–glass matrix composites|url=https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0734743X99001761|journal=International Journal of Impact Engineering|volume=24|issue=5|pages=435–444|language=en|doi=10.1016/S0734-743X(99)00176-1|issn=0734-743X}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Magness|first=Lee|date=2001-06-20|title=Advanced Penetrator Materials|url=https://apps.dtic.mil/sti/citations/ADA393800|language=en}}</ref>。2001年に[[ダイキン]]によりバインダーとして金属ガラスを用いたセルフ・シャープニング現象の発生技術およびその製造方法が特許出願されている<ref>{{Cite web|和書|title=高速飛翔体及びその製造方法, 特願2001-231208 |url=https://www.j-platpat.inpit.go.jp/?uri=/c1800/PU/JP-2003-042700/50B3611637A13BD51F359CDE98235C3C60ADF1D2ECDBF6463E9AFF1030EBA212/11/ja |website=www.j-platpat.inpit.go.jp |accessdate=2022-03-03}} </ref>)。また、[[装甲|装甲板]]を貫徹した後、破砕あるいは微細化した破片が運動エネルギーの熱変換によって熔融・焼夷効果を発生させる特性(詳しくは[[劣化ウラン弾]]を参照のこと)もあり、この点でも敵の無力化に有効だとされる。 : 劣化ウランを主体として、0.75%程度の[[チタン]]が加えられる。密度:18.5g/cm<sup>3</sup>以上 [[衝撃波速度]]:4.9kg/sec(チタン0.6%、粒子速度1.5km/sec) [[衝撃インピーダンス]]:約91(密度×衝撃波速度)[[引張強さ]]と[[伸び]]:700[[ニュートン (単位)|N]]/mm<sup>2</sup>で12%以上<ref name="現代戦車砲の主用砲弾 APFSDS"/>。 == 貫徹力 == [[ファイル:Japanese APFSDS.jpg|thumb|right|250px|[[陸上自衛隊広報センター]]に展示される[[10式戦車]]で使用されるAPFSDS弾(手前)]] [[装甲]]を貫く力は、[[装甲#均質圧延鋼装甲|均質圧延鋼装甲]]('''RHA''':Rolled Homogeneous Armor)を貫ける厚さで表現される。RHA自身は[[21世紀]]の現在では古い装甲技術であるが、各[[兵器]]メーカーが既に良く知り尽くした素材であるために[[貫徹力]]を単純に比較するには適している。120mm[[滑腔砲]]で使用されるAPFSDSは、500-1,000mm程度のRHAを貫くことが可能となっている。 APFSDSの侵徹性能は密度に強く依存するため、鋼製の侵徹体は同じ長さのタングステン合金、劣化ウラン製の侵徹体と比較して、1/2程度の貫徹力である。また、劣化ウラン製の侵徹体は、1,600m/s程度の速度域ではセルフシャープニング効果によってタングステン合金製侵徹体より10%ほど貫徹力に勝る<ref name=":0">{{Cite journal|last=Keele|first=Michael J.|last2=Rapacki|first2=Edward J.|last3=Bruchey|first3=William J.|date=1991-05-01|title=High Velocity Performance of a Uranium Alloy Long Rod Penetrator|url=https://apps.dtic.mil/sti/citations/ADA236191|language=en}}</ref>。一方、劣化ウランとタングステン合金の密度は同等であるため、より高速度域では両者の貫徹力は同等となる<ref name=":0" />。 [[APFSDS#侵徹の物理|侵徹の物理]]で述べたように、APFSDSのような侵徹体が消耗する侵徹では、侵徹深さは衝突速度に対して上限が存在する。そのため、APFSDSにおいては、運動エネルギーあたりの侵徹深さを最大化するという観点では、高速度化は必ずしも最適ではなく、最適な速度が存在する<ref name=":1">{{Cite web |url=http://www.longrods.ch/optv.php |title=Optimum Velocity - Long Rod Penetrators |accessdate=2022/03/06 |publisher=W. Odermatt}}</ref>。Odermattは、運動エネルギーおよびL/D比を一定とした時の侵徹深さの衝突速度依存性を計算した<ref name=":1" /><ref group="注釈">運動エネルギー<math display="inline">KE</math>は侵徹体重量<math>m</math>、衝突速度<math>V</math>を用いて、<math display="inline">KE = \frac{1}{2}mV^2</math>と表される。侵徹体の形状を円柱と考え、侵徹体長さを<math display="inline">L</math>、侵徹体径を<math display="inline">D</math>、侵徹体材質の密度を<math>\rho</math>と置くと、運動エネルギーは<blockquote><math>KE = \frac 1 2 mV^2=\frac{1}{2}\frac{\pi}{4}\rho LD^2V^2=\frac{\pi}{8C^2}\rho L^3 V^2 </math></blockquote>と書ける。ここでL/D比を<math>C</math>とし、<math display="inline">D=\frac L C</math>の関係を用いた。今、運動エネルギーとL/D比は一定としているため、侵徹体長さは衝突速度から <blockquote><math>L = \left(\frac{8}{\pi}\frac{C^2}{\rho V^2} KE \right)^{1/3} </math></blockquote>と定められる。上式から、運動エネルギー、L/D比一定の条件では侵徹体長さと衝突速度はトレードオフの関係にある。 [[APFSDS#侵徹の物理|侵徹の物理]]で述べたように侵徹深さは<math>L</math>に比例し、<math>V</math>に対して上に凸の関数であるため、衝突速度の増加と共に侵徹体長さ当たりの侵徹深さの増加は小さくなる一方で侵徹体長さが短くなる。そのため、KE一定の条件下ではある衝突速度で侵徹深さは最大値を示す。劣化ウラン弾では、セルフシャープニング効果によって低速度域での侵徹能力がタングステン合金に対して優位であるために、より低速度域で侵徹体長さ当たりの侵徹深さの増加が小さくなる。そのため、タングステン合金製侵徹体と比較して低速で侵徹深さが最大となる。</ref>。その結果に基づけば、現用弾では1,500m/sec前後で着弾するが、将来高速弾が実現してもタングステン弾芯の場合2,000m/s程度で穿孔の効率は最大となり、侵徹深さは徐々に小さくなってゆく。劣化ウランの場合は1,600m/s強で穿孔の効率が最大となり、それ以上の速度域ではタングステン同様侵徹深さは小さくなる<ref name="現代戦車砲の主用砲弾 APFSDS" /><ref name=":1" />。 21世紀の現在、[[戦車]]が対戦車用として使用する[[砲弾]]はほとんどがAPFSDSである。同じ対戦車用の[[弾薬]]には[[成形炸薬弾]](HEAT)があるが、対戦車用の砲弾として戦車砲に使用されることはあまりない。HEATは標準的な装甲板に対する侵徹力といった数値上はAPFSDSと同等の威力を示すが、現在の戦車に多く使われる[[装甲#複合装甲|複合装甲]]に対してはAPFSDSに比べて大きく劣るためである。 {|class="sortable wikitable" |+主要諸元表 |- !正式名 !口径<br/>[mm] !L/D比 !侵徹体材料 !砲口初速<br/>[m/秒] !侵徹力 [mm]<br/><small>([[装甲#均質圧延鋼装甲|RHA]]換算、距離2,000m、撃角0度)</small> !原開発国 !就役年 |- |BM-6 |115 |5 |[[鋼鉄]] |1,615 |236([[115mm滑腔砲|U-5砲]]) |{{RUS}}<br/>([[ソビエト連邦]]) |[[1961年]] |- |M735 |105 |10 |[[タングステン]]合金・鋼鉄 |1,501 |318([[ロイヤル・オードナンス L7|L7砲]]) |{{USA}} |[[1970年代]]中盤 |- |DM23<br/>(M-111) |105 |10 |タングステン合金 |1,455 |342(L7砲) |{{ISR}} |[[1978年]] |- |DM33<br/>(M-413) |105 |20 |タングステン合金 |1,465 |413(L7砲; 推定) |{{GER}} |[[1987年]]([[北大西洋条約機構|NATO]]) |- |[[DM33]]<br/>(M-413) |120 |20 |タングステン合金 |1,650 |460([[ラインメタル 120 mm L44|L44砲]]) |{{GER}} | |- |M464 |76 |15 |タングステン合金 |1,433 |230([[M41軽戦車|M32砲]]) |{{USA}} |[[1980年代]]後半 |- |3BM48 |125 |22 |[[劣化ウラン]] |1,700 |600([[2A46 125mm滑腔砲|2A46砲]]) |{{RUS}} |[[1991年]] |- |[[M829 (砲弾)|M829A2]] |120 |18 |劣化ウラン |1,750 |700(L44砲) |{{USA}} |[[1993年]] |- |APFSDS-T Mk II |40 |n/a |タングステン合金 |1,500 |135※1,000m([[ボフォース 70口径40mm機関砲|L70砲]]) |{{CHE}} |[[2001年]] |- |DM53 |120 |30 |タングステン合金 |1,650 |650(L44砲)<br/>810(L55砲) |{{GER}} |[[2001年]] |- |M690A1 |90 |n/a |タングステン合金 |1,345 |300以上 |{{BEL}} |[[2002年]] |- |M1060A3 |105 |29 |タングステン合金 |1,560 |460(L7砲) |{{BEL}} |[[2004年]] |- |3BM69 |125 |n/a |劣化ウラン |2,050 |1,000 (2A82砲) |{{RUS}} |[[2005年]] |} == 加害 == ; 飛散物 : 侵徹体が[[装甲|装甲板]]を貫徹すると、侵徹体と装甲板の高温溶融物と侵徹体の残余、装甲板内側の破砕片が装甲板内部空間に飛散する。これらは装甲板の厚みに関わり無く、侵徹孔を中心とした約60度の範囲に飛散するといわれている。[[劣化ウラン]]弾では焼夷効果によって更に高温化した飛散物が生じる。APFSDSの加害は主にこの飛散物によってもたらされる運動量と高熱で作られる。 ; 衝撃波 : APFSDSのみならず運動エネルギー弾や[[粘着榴弾]]が[[戦車]]などの硬い装甲にぶつかれば、大きな[[衝撃波]]が生じ、装甲内側金属の飛散、搭載装置の破壊、搭乗員への肉体的・精神的被害を与える。現代型の戦車では装甲内側に[[ケブラー]]などの内張り([[装甲#飛散防止内張り|スポール・ライナー]])を設けることにより飛散物を受け止める、あるいは貫通しても飛散物の角度を小さくする工夫がなされている<ref name="現代戦車砲の主用砲弾 APFSDS"/>。 == 歴史 == [[ファイル:Type93 105mmAPDSFS.JPG|thumb|right|250px|[[陸上自衛隊]]の105mm装弾筒付翼安定徹甲弾]] [[1961年]]、[[ソビエト連邦軍]]で世界初の115mmのAPFSDS実用弾であるBM-3の運用が開始された。BM-3は[[超硬合金#タングステンカーバイド|タングステンカーバイド]]製の侵徹体を持つ4kgの飛翔体が[[T-62]][[戦車]]では[[砲口初速]]:1,615m/secで発射された。[[1962年]]にはBM-6が登場した。BM-6は加工の容易な鋼鉄製となり砲口初速:1,615m/secで[[装甲#均質圧延鋼装甲|RHA]]換算で236mm(距離2,000m)の侵徹力を備えていたが、有効射程は1,600mであった。 [[1970年代]]中頃、[[アメリカ合衆国|米国]]の[[M60パットン|M60戦車]]などの105mm砲用のM735というAPFSDS砲弾が登場した。M735は[[タングステン]]合金・鋼鉄製の侵徹体を含む3.7kgの飛翔体が砲口初速:1,501m/secで発射され、318mm(距離2,000m)の侵徹力を備えていた。これはタングステン合金を鋼鉄の鞘で包んだものであった。 このときはまだ[[ライフリング]]付き[[銃砲身|砲身]]で使用されていた。[[滑腔砲]]は[[1977年]]9月に[[西ドイツ]]の[[レオパルト2]]戦車で登場した120mm滑腔砲が西側で最初であった。 [[1978年]]9月に、米国はM735の侵徹体のタングステン合金を劣化ウラニウム合金に置き換えたM735A1という砲弾の生産を開始した。[[1979年]]4月には劣化ウラニウム合金を鋼鉄で包まずに、現代のAPFSDSと同様のモノブロック構造のM774の生産を開始し、M735シリーズを置き換えた。 [[イスラエル]]は1978年にM-111というAPFSDS弾を実用化した。M-111はタングステン合金製モノブロックの侵徹体を含む飛翔体が砲口初速:1,455m/secで発射され、342mm(距離2,000m)の侵徹力を備えていた。[[レバノン]]での戦闘で[[T-72]]を撃破して高い評価を得たM-111は[[北大西洋条約機構|NATO]]で選定試験を受け、西ドイツのディール社が[[ライセンス生産]]することで、DM23 105mm APFSDS弾として販売された。 1977年にDM13が運用開始された。DM13はL/D比約12であった。 [[1987年]]頃にはDM33が運用開始された。これもイスラエルがM-111の後継として開発したM-413をNATOで採用した物で、L/D比約20で460mm(距離2,000m)の侵徹力を備えていた。 [[2004年]]頃にDM53が運用開始された。DM53はL/D比約30で610mm(距離2,000m)の侵徹力を備えていた。 [[日本]]でもM735が導入され、[[1984年]]からは国内の[[ダイキン工業]]で[[ライセンス生産]]が行なわれた。[[1991年]]からは同社でラインメタル社製DM33 120mm弾のライセンス生産を行ない、'''JM33'''と命名して[[90式戦車]]の[[主砲]]弾とした。[[1994年]]からは同じくダイキンで105mm APFSDS弾の独自開発による量産が行なわれている。[[10式戦車]]用の120mm APFSDS弾の国内開発も行なわれ<ref name="現代戦車砲の主用砲弾 APFSDS"/>、'''10式120mm装弾筒付翼安定徹甲弾'''として配備が進められている。この[[弾丸]]のL/D比は約30とDM53に匹敵する値を示している[https://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/materials/kanshi-koritsu/sonota/pdf/05/01.pdf]。 == 価格比較 == {| class="sortable wikitable" style="text-align:center" |+ APFSDSの価格比較<ref name="現代戦車砲の主用砲弾 APFSDS"/> ! 弾薬名 !! 素材 !! 単価 !! 購入数 !! 購入国 !! 製造国 !! 製造企業 !! 購入年 !! 備考 |- | 120mmDM53 || タングステン合金 || 36万円 || 27,000 || 独 || 独 || [[ラインメタル]] || 2001 || |- | 120mmDM43(OFL120F1) || タングステン合金 || 43万円 || 5,000 || 仏 || 仏 || GIAT*1 || 2001 | style="text-align:left" | <small>*1:Rheinmetallと共同開発</small> |- | 120mmKWE-A1(120mmDM43相当) || タングステン合金 || 63万円 || 10,040 || エジプト || 米 || GDOTS || 2003 || |- | 120mmJM33 || タングステン合金 || 95万円 || ━ || 日 || 日 || [[ダイキン工業|ダイキン]]*2 || 1999 | style="text-align:left" | <small>*2:Rheinmetallからのライセンス</small> |- | 120mmM829E3 || 劣化ウラン合金 || 57万円*3 || 25,400 || 米 || 米 || Aliant Techsystems || ━ | style="text-align:left" | <small>*3:目標価格</small> |- | 105mmAPDSFS<br/>とTPDS || タングステン合金 || 54万円*4 || 7,600 || 豪 || 加 || SNC TEC || 2003 | style="text-align:left" | <small>*4:APDSFSと練習弾の平均価格</small> |- | 105mm93式 || タングステン合金 || 55万円 || ━ || 日 || 日 || ダイキン || 1999 || |- | 105mmM735 || タングステン合金 || 28万円 || ━ || 日 || 日 || ダイキン*5 || 1999 | style="text-align:left" |<small>*5:米国からのライセンス、旧式のダブルブロック構造</small> |} == TPFSDS == TPFSDSは、[[陸上自衛隊]]の[[日本]]国内での演習場では狭すぎてAPFSDSの実弾演習が行えないため開発された訓練弾である。 [[タングステン]]弾体と同じ飛翔特性を示すが、目標命中、若しくは一定距離を飛翔すると弾体が3分割(正確には5分割)し、急激に減速することで狭い演習場での実弾演習を可能としている。 == その他 == 孔口付近に出た液状金属に安定翼が衝突するために、被弾した[[装甲]]表面には穴の周囲に十字などのAPFSDS特有のマークが残る。 == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} === 注釈 === <references group="注釈" /> === 出典 === <references/> [[Category:砲弾]]
このページで使用されているテンプレート:
テンプレート:BEL
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:CHE
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:Cite book
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:Cite journal
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:Cite web
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:GER
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:ISR
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:RUS
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:USA
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:出典の明記
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:独自研究範囲
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:脚注ヘルプ
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:要出典
(
ソースを閲覧
)
APFSDS
に戻る。
ナビゲーション メニュー
個人用ツール
ログイン
名前空間
ページ
議論
日本語
表示
閲覧
ソースを閲覧
履歴表示
その他
検索
案内
メインページ
最近の更新
おまかせ表示
MediaWiki についてのヘルプ
特別ページ
ツール
リンク元
関連ページの更新状況
ページ情報