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'''D線'''(Dせん)とは[[ナトリウム]]原子の発光[[スペクトル]]に見られる強い二重線のことをいう。<ref name=":0">{{Cite book |和書|title=岩波 理化学辞典 第5版|date=1998-02-20|year=1998|publisher=岩波書店}}</ref> 波長の長い方をD<sub>1</sub>線、短い方をD<sub>2</sub>線と呼ぶ。それぞれ589.592424(3)nm、588.995024(3)nmの波長をもち、黄色の光に対応する。<ref name=":1">{{Cite web|url=https://www.nist.gov/pml/atomic-spectroscopy-databases|title=Atomic Spectroscopy Databases {{!}} NIST|accessdate=2020年6月13日|publisher=}}</ref> == 発見 == 1814年に[[ヨゼフ・フォン・フラウンホーファー|ヨゼフ・フォン・フランホーファー]](1787-1826)は、[[プリズム]]を用いてナトリウムを含む炎が放出する光のスペクトルを調べ、鋭い二重線を観測した。その後、彼は太陽光のスペクトルを調べて700本の垂直線を観測し、そのうちの強い8本の暗線に暗赤色の位置のAから紫色の位置のHまでアルファベットの記号をつけた。黄色の位置のDは二重線で、ナトリウムの二重線と同じ位置に観測された。これらの暗線はのちに[[フラウンホーファー線|フランホーファー線]]と呼ばれるようになった。 スペクトルとフランホーファー線の関係性は、主に[[ロベルト・ブンゼン]](1811-99)と[[グスタフ・キルヒホフ|グスタフ・キルヒホッフ]](1824-87)の貢献により説明された。彼らは、気体は放出した光と同じ波長の光を吸収すると解釈し、太陽の大気に含まれるナトリウムの気体が太陽光からナトリウム固有の波長の光を吸収して暗線ができるとした。<ref name=":2">{{Cite book |和書|title=元素大百科事典|date=2007-11|year=2007|publisher=朝倉書店}}</ref> == 原理 == D線はナトリウムの[[基底状態]](1s)<sup>2</sup>(2s)<sup>2</sup>(2p)<sup>6</sup>(3s)<sup>1</sup>と[[励起状態]](1s)<sup>2</sup>(2s)<sup>2</sup>(2p)<sup>6</sup>(3p)<sup>1</sup>の間での電子の[[遷移]]に伴う光の吸収、放出によるものである。それぞれの状態において全[[軌道角運動量]]量子数Lと全[[スピン量子数]]Sの値は、 基底状態:L=0、S=1/2 励起状態:L=1、S=1/2 である。 [[LS結合]]により、[[全角運動量量子数]]Jは、J=<math>|</math>L<math>-</math>S<math>|</math>、<math>|</math>L<math>-</math>S<math>|</math><math>+</math>1、…、L<math>+</math>Sと表されるので、Jの値は 基底状態:J=1/2 励起状態:J=1/2、3/2 である。 [[フントの規則]]により、励起状態においてJ=1/2の[[準位]]の方がJ=3/2の準位よりもエネルギーが小さいので、その結果二重のスペクトル線が観測される。 [[スピン軌道相互作用]]による[[ハミルトニアン]]H<sub>SO</sub>は、全軌道角運動量'''L'''と全[[スピン角運動量]]'''S'''を用いて、 H<sub>so</sub>=A '''L'''<math>\cdot</math>'''S <sub> </sub>'''と表すことができる。ただしAはスピン軌道相互作用定数である。 スピン軌道相互作用定数は[[原子番号]]の4乗に比例し、ナトリウムのような小さい原子においては、スピン軌道相互作用のエネルギーは[[摂動]]論により見積もることができる。ナトリウムの励起状態について一次の摂動について考えると、 E<sub>so</sub>(J,L,S)=<math>\langle</math>J,L,S<math>|</math>H<sub>so</sub><math>|</math>J,L,S<math>\rangle</math> と書ける。 H<sub>so</sub>=A<sub>3p</sub> '''L'''<math>\cdot</math>'''S'''=A<sub>3p</sub><math>\cdot</math>1/2('''J'''<sup>2</sup><math>-</math>'''L'''<sup>2</sup><math>-</math>'''S'''<sup>2</sup>) であるので、 E<sub>so</sub>(J,L,S)=A<sub>3p</sub><math>\cdot</math>1/2<math>\{</math>J(J<math>+</math>1)<math>-</math>L(L<math>+</math>1)<math>-</math>S(S<math>+</math>1)<math>\}</math>ħ<sup>2</sup> となる。以上より、 E<sub>so</sub>(1/2,1,1/2)=<math>-</math>A<sub>3p</sub> ħ<sup>2</sup> E<sub>so</sub>(3/2,1,1/2)=1/2<math>\cdot</math>A<sub>3p</sub> ħ<sup>2</sup> となるので、D線間のエネルギー差は3/2<math>\cdot</math>A<sub>3p</sub> ħ<sup>2</sup> と見積もることができる。 エネルギー差の実験値は、 10<sup>7</sup>/588.995904nm<math>-</math>10<sup>7</sup>/589.592424nm=17.2cm<sup>−1 </sup>であるので、 3/2<math>\cdot</math>A<sub>3p</sub> ħ<sup>2</sup> =17.2cm<sup>−1</sup> となる。<ref name=":3">{{Cite book|title=Atkins' Physical Chemistry (11th edition)|date=2017-12-27|year=2017|publisher=Oxford University Press}}</ref> == 応用 == * [[ナトリウムランプ]] * [[旋光|旋光度]]測定<ref name=":4">{{Cite web|和書|url=https://www.jasco.co.jp/jpn/technique/internet-seminar/cdord/cd6.html|title=ORD・CDの基礎(6) 旋光計の光源と特徴 {{!}} 日本分光株式会社|accessdate=2020-06-13}}</ref> == 脚注 == <references /> == 参考文献 == * ''岩波 理化学辞典 第5版''. 岩波書店. (1998年2月20日) * Atomic Spectroscopy Databases | NIST https://www.nist.gov/pml/atomic-spectroscopy-databases * ''元素大百科事典''. 朝倉書店. (2007年11月) * ''Atkins' Physical Chemistry (11th edition)''.Oxford University Press. (2017年12月27日) * ORD・CDの基礎(6) 旋光計の光源と特徴 | 日本分光株式会社 https://www.jasco.co.jp/jpn/technique/internet-seminar/cdord/cd6.html<nowiki/>4 == 外部リンク == * {{Kotobank}} {{DEFAULTSORT:ていいせん}} [[Category:光]]
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