K·p摂動論のソースを表示

{{翻訳直後|1=[https://en.wikipedia.org/w/index.php?title=K%C2%B7p_perturbation_theory&oldid=925818050 英語版 "K·p perturbation theory" 14:34, 12 Nov 2019 (UTC)]|date=2019年12月}}
{{小文字}}
{{電子構造論}}
[[固体物理学]]において'''k&middot;p[[摂動論]]'''とは、結晶の[[バンド構造]]（特に[[有効質量]]）や光学特性を計算するための半経験的な近似法のこと<ref name=Yu2.6>{{cite book|author1=P. Yu|author2=M. Cardona|date=May 31, 2005|title=Fundamentals of Semiconductors: Physics and Materials Properties|url=https://books.google.com/books?id=W9pdJZoAeyEC&pg=PA244&dq=isbn=3540254706#PPA68,M1|edition=3rd|page=Section 2.6, pp. 68 ''ff''|nopp=yes|publisher=[[Springer (publisher)|Springer]]|ncid=BA72466800|oclc=493401130|asin=3540254706|isbn=3-540-25470-6}}</ref><ref name=Kittel>{{cite book|author=C. Kittel|date=April 2, 1987|title=Quantum Theory of Solids|edition=Second Revised Printing|pages=186–190|ncid=BA00863135|oclc=799575187|asin=0471624128|isbn=0-471-62412-8|publisher=[[John Wiley & Sons|Wiley]]|location=New York}}</ref><ref name=Harrison>{{cite book|author=W. P. Harrison|date=July 1, 1989|origyear=1980|title=Electronic Structure and the Properties of Solids|edition=Reprint|pages=158 ''ff''|publisher=[[Dover Publications]]|ncid=BB10007652|oclc=940657385|asin=0486660214|isbn=0-486-66021-4}}</ref>。k&middot;p摂動論は特に{{仮リンク|ラッティンジャー-コーン模型|en|Luttinger–Kohn model}}やケイン模型で用いられる。

==背景と導出==
{{see also|ブロッホの定理}}
（[[一電子近似]]における）[[量子力学]]によると、任意の固体の準自由[[電子]]は、固体中の電子の[[シュレーディンガー方程式]]は、次の定常[[シュレーディンガー方程式]]の固有状態である[[波動関数]]により描写される。
:<math>\left(\frac{p^2}{2m}+V\right)\psi=E\psi</math>
ここで'''p'''は量子力学の[[運動量演算子]]、''V''は[[電位|ポテンシャル]]、''m''は真空での電子の質量である（この方程式は[[スピン軌道相互作用|スピン軌道効果]]を無視している。以下参照）。

[[結晶]]固体においては、''V''は[[結晶格子]]と同じ周期性を持つ[[周期関数]]である。[[ブロッホの定理]]はこの微分方程式の解が次のように書けることを示している。
:<math>\psi_{n,\mathbf{k}}(\mathbf{x}) = e^{i\mathbf{k}\cdot\mathbf{x}} u_{n,\mathbf{k}}(\mathbf{x})</math>
ここで'''k'''はベクトル（波数ベクトルと呼ばれる）、''n''は離散インデックス（[[バンド構造|バンド]]インデックスと呼ばれる）、''u''<sub>''n'','''k'''</sub>は結晶格子と同じ周期性を持つ関数である。

任意の''n''において、関係する状態は[[バンド構造|バンド]]と呼ばれる。それぞれにバンドにおいて、波数ベクトル'''k'''と状態のエネルギー''E''<sub>''n'','''k'''</sub>の間に[[分散関係|バンド分散]]と呼ばれる関係がある。この分散の計算はk·p摂動論の主な適用の1つである。

===摂動論===
周期関数''u''<sub>''n'','''k'''</sub>は次のシュレーディンガータイプの方程式（単純に、ブロッホタイプの波動関数によるシュレーディンガー方程式の直接展開）を満たす<ref name=Yu2.6/>。
:<math>H_{\mathbf{k}} u_{n,\mathbf{k}}=E_{n,\mathbf{k}}u_{n,\mathbf{k}}</math>
ここで[[ハミルトニアン]]は 
:<math>H_{\mathbf{k}} = \frac{p^2}{2m} + \frac{\hbar \mathbf{k}\cdot\mathbf{p}}{m} + \frac{\hbar^2 k^2}{2m}  + V </math>
'''k'''は[[長さの逆数]]の次元を持つ3つの実数で構成されるベクトルであり、'''p'''は演算子のベクトルであることに留意。明確にするために
:<math>\mathbf{k}\cdot\mathbf{p} = k_x (-i\hbar \frac{\partial}{\partial x}) + k_y (-i\hbar \frac{\partial}{\partial y}) + k_z (-i\hbar \frac{\partial}{\partial z})</math>
いずれにせよ、このハミルトニアンを2つの項の合計として書くと
:<math>H=H_0+H_{\mathbf{k}}', \;\; H_0 = \frac{p^2}{2m}+V, \;\; H_{\mathbf{k}}' = \frac{\hbar^2 k^2}{2m} + \frac{\hbar \mathbf{k}\cdot\mathbf{p}}{m}</math>
これは摂動論の基礎である。非摂動ハミルトニアンは''H''<sub>0</sub>であり、実際には'''k'''&nbsp;=&nbsp;0（つまり[[ガンマ点]]）における正確なハミルトニアンに等しくなる。摂動は項<math>H_{\mathbf{k}}'</math>である。結果の解析は'''k·p'''に比例する項であるため「'''k·p'''摂動論」と呼ばれる。この解析の結果は'''k'''&nbsp;=&nbsp;0でのエネルギーと波動関数における''E''<sub>''n''、'''k'''</sub>、''u''<sub>''n'','''k'''</sub>の式である。

摂動項<math>H_{\mathbf{k}}'</math>は'''k'''が0に近づくにつれて徐々に小さくなることに注意。よって、k·p摂動論は小さい'''k'''の値に対して最も正確である。しかし、摂動展開に項が十分含まれている場合、理論が[[ブリルアンゾーン]]全体の'''k'''の値に対してかなり正確になることがある。

===非縮退バンドの式===

'''k'''&nbsp;=&nbsp;0で[[極値]]をとり、[[スピン軌道相互作用]]がない非縮退バンド（'''k'''&nbsp;=&nbsp;0で他のバンドとは異なるエネルギーを持つバンド）に対して、'''k''·''p'''摂動論の結果は、（最小の非自明な次数まで）<ref name=Yu2.6/>
:<math>u_{n,\mathbf{k}} = u_{n,0}+\frac{\hbar}{m}\sum_{n' \neq n}\frac{\langle u_{n,0} | \mathbf{k}\cdot\mathbf{p} | u_{n',0} \rangle}{E_{n,0}-E_{n',0}} u_{n',0}</math>
:<math>E_{n,\mathbf{k}} = E_{n,0}+\frac{\hbar^2 k^2}{2m} + \frac{\hbar^2}{m^2} \sum_{n'\neq n} \frac{|\langle u_{n,0} | \mathbf{k}\cdot\mathbf{p} | u_{n',0} \rangle |^2}{E_{n,0}-E_{n',0}}</math>
となる。
'''k'''は（複雑な線形演算子のベクトルではなく）実数のベクトルであるため、これらの式の行列要素は次のように書き換えられる。
:<math>\langle u_{n,0} | \mathbf{k}\cdot\mathbf{p} | u_{n',0} \rangle = \mathbf{k} \cdot \langle u_{n,0} | \mathbf{p} | u_{n',0} \rangle</math>
したがって、いくつかの未知のパラメータ''E''<sub>''n'',0</sub> and <math>\langle u_{n,0} | \mathbf{p} | u_{n',0} \rangle</math>のみを用いて任意の'''k'''でエネルギーを計算できる。後者は「光学行列要素」と呼ばれ、[[遷移双極子モーメント#運動量の観点から|遷移双極子モーメント]]と密接に関係している。これらのパラメータは普通実験データから推測される。

実際には、''n''の合計は最も近い1もしくは2のバンドのみが含まれることがしばしばである（これらは（分母により）最も重要となる傾向がある）。しかし、特に大きい'''k'''で精度を上げるには、上で説明したものよりも多くのバンドを含める必要がある。

====有効質量====
{{main|有効質量}}
上記のエネルギー分散関係の式を用いて、半導体の伝導帯の有効質量に対する簡易化した式を出すことができる<ref name=Harrison/>。伝導帯のときの分散関係を近似するには、エネルギー''E<sub>n0</sub>''を最小伝導帯エネルギー''E<sub>c0</sub>''として、分母のエネルギー差が最小となる価電子帯の最大値に近いエネルギーを持つ項のみを合計に含める（これらの項は合計に対する最大の寄与である）。この分母はバンドギャップ''E<sub>g</sub>''として近似され、次のエネルギー式になる。
:<math>E_c(\boldsymbol k ) \approx E_{c0} +\frac{(\hbar k)^2}{2m} +\frac{\hbar ^2}{{E_g}m^2}\sum_n  {|\langle u_{c,0}|\mathbf{k}\cdot\mathbf{p}| u_{n,0} \rangle |^2}  </math>
方向ℓの有効質量は
:<math> \frac{1} {{m}_{\ell}} = {{1} \over {\hbar^2}} \sum_{ m} \cdot {{\partial^{2} E_{c} (\boldsymbol{k})} \over {\partial k_{\ell} \partial k_ m}} \approx \frac{1}{m}+\frac{2}{E_gm^2}\sum_{m,\ n} {\langle u_{c,0}|p_{\ell}| u_{n,0} \rangle }{\langle u_{n,0}|p_{m}| u_{c,0} \rangle }  </math>
となる。行列要素の詳細を無視すると、重要な結果は有効質量が最小のバンドギャップで変化し、ギャップが0になると有効質量が0になることである<ref name=Harrison/>。[[直接遷移|直接ギャップ]]半導体の行列要素の有用な近似は次の通り<ref name=DirectGap>A ''direct gap'' semiconductor is one where the valence band maximum and conduction band minimum occur at the same position in '''k'''-space, usually the so-called Γ-point where '''k''' = 0.</ref>。
:<math>\frac{2}{E_gm^2}\sum_{m,\ n} {|\langle u_{c,0}|p_{\ell}| u_{n,0} \rangle |}{|\langle u_{c,0}|p_{m}| u_{n,0} \rangle |} \approx 20\mathrm{eV} \frac{1}{mE_{g}} \ , </math>
これはほとんどのIV族、III-V族、II-VI族半導体に約15%以内で適合する<ref name=Table2.22>See [https://books.google.com/books?id=W9pdJZoAeyEC&pg=PA244&dq=isbn:3540254706#PPA71,M1 Table 2.22] in Yu & Cardona, ''op. cit.''</ref>。

この単純な近似とは対照的に、価電子帯エネルギーの場合、スピン軌道相互作用を導入する必要があり（以下参照）、さらに多くのバンドをそれぞれ考慮する必要がある。計算はYu and [[Manuel Cardona|Cardona]]で提供される<ref name=valence>See Yu & Cardona, ''op. cit.'' pp. 75–82</ref>。価電子帯では動くキャリアは[[正孔]]である。重いものと軽いものの2つのタイプの正孔があり、異方性の質量を持つ。

===スピン軌道相互作用の''k''·''p''モデル===

[[スピン軌道相互作用]]を含めると、''u''のシュレーディンガー方程式は<ref name=Kittel/>
:<math>H_{\mathbf{k}} u_{n,\mathbf{k}}=E_{n,\mathbf{k}}u_{n,\mathbf{k}}</math>
ここで<ref name="Evan O. Kane 1957 249">{{cite journal
 |author=Evan O. Kane
 |year=1957
 |title=Band Structure of Indium Antimonide
 |journal=[[Journal of Physics and Chemistry of Solids]]
 |volume=1 |pages=249
 |doi=10.1016/0022-3697(57)90013-6
|bibcode = 1957JPCS....1..249K }}</ref>
:<math>H_{\mathbf{k}} = \frac{p^2}{2m} + \frac{\hbar}{m}\mathbf{k}\cdot\mathbf{p} + \frac{\hbar^2 k^2}{2m}  + V + \frac{\hbar}{4 m^2 c^2} (\nabla V \times (\mathbf{p}+\hbar\mathbf{k}))\cdot \vec \sigma </math>
ここで<math>\vec \sigma=(\sigma_x,\sigma_y,\sigma_z)</math>は3つの[[パウリ行列]]からなるベクトルである。このハミルトニアンは、上記同種の摂動論解析の対象となる。

===縮退の場合の計算===
縮退もしくはほとんど縮退したバンド、特に[[ヒ化ガリウム]]などの特定の材料の[[価電子帯]]では、縮退摂動論の方法で方程式を解析することができる<ref name=Yu2.6/><ref name=Kittel/>。この種のモデルには{{仮リンク|ラッティンジャー-コーン模型|en|Luttinger–Kohn model}}<ref>
{{cite journal
 |author=J. M. Luttinger, W. Kohn
 |year=1955
 |title=Motion of Electrons and Holes in Perturbed Periodic Fields
 |journal=[[Physical Review]]
 |volume=97 |issue= |pages=869
 |doi=10.1103/PhysRev.97.869
|bibcode = 1955PhRv...97..869L }}</ref>やケイン模型も含まれる<ref name="Evan O. Kane 1957 249"/>。

一般的に、有効ハミルトニアン<math>H^{\rm{eff}}</math>を導入し、一次まででこの行列要素は
:<math>H^{\rm{eff}}_{\mathbf{k},mn}=\langle u_{m,0}|H_0|u_{n,0}\rangle + \mathbf{k}\cdot \langle u_{m,0}|\nabla _\mathbf{k} H_\mathbf{k}'|u_{n,0}\rangle</math>
と表される。
これを解くと、波動関数とエネルギーバンドが得られる。

==関連項目==
{{Col-begin}}
{{Col-1-of-2}}
'''バンド構造'''
* [[バンド構造]]
* [[ほとんど自由な電子]]
* [[クローニッヒ・ペニーのモデル]]
'''バンド特性'''
* [[バンドギャップ]]
* [[有効質量]]
* [[状態密度]]
* [[フェルミ面]]
{{Col-2-of-2}}
'''波動関数'''
* [[ワニエ関数]]
* [[ブロッホ関数]]
'''基礎理論'''
* [[コーン–シャム方程式]]
* [[局所密度近似]]
{{col-end}}

==引用・参考文献==
{{reflist}}

{{DEFAULTSORT:kpせつとうろん}}
[[Category:バンド計算]]