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{{DISPLAYTITLE:''n''-ブチルリチウム}} {{chembox |化合物名=''n''-ブチルリチウム | 出典 = ''Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis''; Vol. 1, pp. 899–907. | ImageName = ''n''-ブチルリチウムの3D棒球モデル | ImageFileL1 = N-butyllithium-tetramer-3D-balls.png | ImageCaptionL1 = ''n''-ブチルリチウム4量体 | ImageFileR1 = Butyllithium-hexamer-from-xtal-3D-balls-A.png | ImageCaptionR1 = ''n''-ブチルリチウム6量体 | ImageFile2 = Butyllithium-hexamer-from-xtal-3D-balls-C.png | ImageCaption2 =''n''-ブチルリチウム6量体中のブチル基とリチウムとの間の非局在化結合 | IUPAC名 = butyllithium, tetra-μ<sub>3</sub>-butyl-tetralithium | 別称 = NBL, BuLi,<br />1-lithiobutane | Section1 = {{Chembox Identifiers | SMILES = CCCC[Li] | ChemSpiderID = 10254339 | InChI = 1/C4H9.Li/c1-3-4-2;/h1,3-4H2,2H3;/rC4H9Li/c1-2-3-4-5/h2-4H2,1H3 | InChIKey = MZRVEZGGRBJDDB-NESCHKHYAE | StdInChI = 1S/C4H9.Li/c1-3-4-2;/h1,3-4H2,2H3; | StdInChIKey = MZRVEZGGRBJDDB-UHFFFAOYSA-N | CAS番号 = 109-72-8 | 日化辞番号 = J370K | JGlobalID = 200907048859068700 | PubChem = 61028 }} | Section2 = {{Chembox Properties |C=4|H=9|Li=1 | 外観 = 黄褐色の液体<br />通常は溶液で用いる | 密度 = 0.765 g/cm³(液体、25 ℃) | 溶解度 = 激しく反応する | 溶媒1 = シクロヘキサン | 溶解度1 = 可溶 | 溶媒2 = ジエチルエーテル | 溶解度2 = 可溶 | 融点 = −76 °C | 沸点 = 分解<br />80 - 90 °C (0.0001 [[mmHg]]) | pKa = > 35 }} | Section3 = {{Chembox Structure | MolShape = 四量体(溶液中) | Dipole = 0.97 [[デバイ|D]] }} | Section7 = {{Chembox Hazards | ExternalMSDS = | MainHazards = 空気中で発火<br />腐食性の[[水酸化リチウム|LiOH]]へと分解 }} | Section8 = {{Chembox Related | OtherCations = | Function = [[有機リチウム化合物]] | OtherFunctn = [[sec-ブチルリチウム|''sec''-ブチルリチウム]]<br />[[Tert-ブチルリチウム|''tert''-ブチルリチウム]]<br />[[ヘキシルリチウム]]<br />[[メチルリチウム]] | OtherCpds = [[水酸化リチウム]] }} }} '''''n''-ブチルリチウム'''({{lang-en-short|''n''-butyllithium}})は有機合成上で重要な[[有機リチウム化合物]]である。'''''n''-BuLi'''と略記される。[[ポリブタジエン]]や[[スチレン・ブタジエンゴム]]などを得るアニオン重合の[[開始剤]]として広く用いられている。[[有機合成化学]]においては[[塩基|強塩基]]、プロトン引き抜き剤やリチオ化剤として広く用いられている。''n''-ブチルリチウムを含む有機リチウム化合物全体の、世界での年間生産量及び消費量は約1,800トンと見積もられている。 == 性質 == [[File:Glasbottles containing Butyllithium, Buli.jpg|200px|right|thumb|ガラス瓶に入ったブチルリチウム溶液]] ブチルリチウム及びその溶液は発火性を持つため、空気へ晒さないよう注意しなければならない。水と激しく反応して[[ブタン]]と[[水酸化リチウム]]を与える。 : <chem>C4H9Li\ + H2O -> C4H10\ + LiOH</chem> 二酸化炭素 (<chem>CO2</chem>) とも反応し、吉草酸リチウムを生成する。 : <chem>C4H9Li\ + CO2 -> C4H9CO2Li</chem> 炭素とリチウムの[[電気陰性度]]が大きく異なるため、炭素−リチウム結合は非常に大きく分極しているが、イオン性結合ではない(電気陰性度: C = 2.55, Li = 0.98)。電荷分離の正確な状態は知られていないが、55–90% と推測されている。それにもかかわらず、ブチルリチウムはしばしばブチルアニオンとリチウムイオンのように振る舞うと考えられることがある(下図参照)。 [[ファイル:N-butyllithium-ionic-skeletal.png|150px|n-ブチルリチウムのイオンモデル]] しかしながらこのモデルは、''n''-BuLiがイオン性ではないという点で厳密には正しくない。固体状態ではもちろん、溶液中においても''n''-BuLiは炭素−リチウム結合を持つ他の有機リチウム化合物と同じように[[クラスター (物質科学)|クラスター]]を形成している。''n''-BuLiの場合、[[ジエチルエーテル]]中では4量体を、[[シクロヘキサン]]中では6量体を形成している。炭素−リチウム相互作用は2中心2電子結合ではない。4量体クラスターではリチウムとCH<sub>2</sub>Rが立方体の頂点に交互に配置されている。等価な表現としてLi<sub>4</sub>と[CH<sub>2</sub>R]<sub>4</sub>とがそれぞれ四面体をなし互いに交差しているとも表せる。このような固体状態での構造は、非極性溶媒中でも維持されている。4量体リチウムクラスターの周りにある[[電子不足]]の多くの炭素鎖は、[[四中心二電子結合|4中心2電子結合]]によりリチウムを安定化している。リチウムが非占有軌道を使って多くの炭素鎖に配位するという性質と同じく、''n''-BuLiは溶液中で他のσドナーに配位可能である。 == 生産 == 標準的な生産法は[[臭化ブチル]]や[[塩化ブチル]]と金属[[リチウム]]とを反応させるというものである。 : <chem>2Li\ + C4H9X -> C4H9Li\ + LiX</chem> {{Indent|ただし X <nowiki>=</nowiki> Cl, Br}} この反応は金属リチウム中に 1% の[[ナトリウム]]を入れておくことで加速される。この反応では[[ベンゼン]]、シクロヘキサン、ジエチルエーテルなどが溶媒として用いられる。臭化ブチルが前駆体となった場合、反応物は[[臭化リチウム]]とブチルリチウムが混在してクラスターを形成した、一様な溶液となる。一方[[塩化リチウム]]との錯形成能は比較的弱いため、塩化ブチルとリチウムの反応では塩化リチウムの[[沈殿]]が生成する。 == 反応 == === ハロゲン - リチウム交換反応 === ''n''-BuLiは[[ハロゲン化アルキル]]や[[ハロゲン化アリール]]などの有機ハロゲン化物、特に臭化物と交換反応を起こし、新たな有機リチウム化合物を生成する。 : <chem>C4H9Li\ + RBr -> C4H9Br\ + RLi</chem> このようにして生成した有機リチウム化合物 (RLi) は通常単離されることなく用いられる。RLiは求核性のある炭素原子を持つこととなる。これらの反応はエーテル系溶媒中、−78 ℃で行われることが多い。 === トランスメタル化反応 === 似たような反応として、2つの有機金属化合物がその金属を交換する[[トランスメタル化|トランスメタル化反応]]が挙げられる。このような反応の例として多く挙げられるのはリチウムと[[スズ]]の交換反応である。 : <chem>C4H9Li\ + Me3SnAr -> C4H9SnMe3\ + LiAr</chem> {{Indent|ただし Ar: アリール基(芳香族置換基)、Me: メチル基}} === リチオ化 === ''n''-BuLiの最も特徴的な性質の1つは、その塩基性である。[[Tert-ブチルリチウム|''tert''-ブチルリチウム]] (''t''-BuLi) と [[Sec-ブチルリチウム|''sec''-ブチルリチウム]] (''s''-BuLi) はより強い塩基として用いられる。''n''-BuLiは、電子の[[非局在化]]により[[共役塩基]]が多少安定化されている[[炭化水素]]の[[水素原子]]を引き抜くことができる。[[アセチレン]] (''H''−C≡C−R) やメチルホスフィン (''H''−CH<sub>2</sub>PR<sub>2</sub>)、[[フェロセン]] (''H''−C<sub>5</sub>H<sub>4</sub>) などがその例として挙げられる。ブタンの安定性と揮発性から、この[[脱水素化]]反応は便利であると言える。''n''-BuLiの速度論的な塩基性は反応溶媒に依存する。 : <chem>LiC4H9\ + R-H\ \leftrightarrows\ C4H10\ + R-Li</chem> [[テトラメチルエチレンジアミン]] (TMEDA) や[[DABCO]]といったリチウムイオンへの配位能を持つ化合物は炭素-リチウム結合を分極させ、リチオ化を促進する。このような添加剤はリチオ化された化合物を単離するのに有用である。有名な例としてジリチオフェロセンが挙げられる。 : <chem>Fe(C5H5)2\ + 2LiC4H9\ + 2TMEDA -> C4H10\ + Fe(C5H4Li)2(TMEDA)2</chem> === THFの分解 === [[テトラヒドロフラン]](THF)はブチルリチウムによって分解する。特にTMEDAの存在下では、THFの酸素に隣接する4つのプロトンのうちの一つを引き抜く。この過程は、ブチルリチウムが消費されて[[ブタン]]になり、逆向きの[[環化付加反応]]を引き起こして[[アセトアルデヒド]]の[[エノラート]]と[[エチレン]]を与える。そのため、THF溶液中でのn-ブチルリチウムの反応は[[ドライアイス]]/[[アセトン]]の冷却バスで-78 ℃のような極低温で行うことが多いが、0℃や-20℃で行うことも可能である。 === アルデヒドやケトンの生成 === ''n''-BuLiを含む有機リチウム化合物は特定のアルデヒドやケトンの生成にも用いられる。1つの例として、有機リチウム化合物と2置換アミドとの反応が挙げられる。 : <chem>R^{1}Li\ + R^{2}CONMe2 -> LiNMe2\ + R^{2}C(O)R^{1}</chem> === アルケン合成 === 有機リチウム化合物は[[アルケン]]の生成にも用いられる。加熱するとβ水素脱離を起こし、アルケンと[[水素化リチウム]]を生成する。 : <chem>C4H9Li -> LiH\ + CH3CH2CH=CH2</chem> == 用途 == ブチルリチウムの最大の用途は上述のようにアニオン重合における重合開始剤である。特に近年はエコタイヤ向けの溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(Solution styrene-butadiene rubber、S-SBR)向けの重合開始剤としての需要が増加している<ref>”溶液重合ゴムのイノベーション“ <nowiki>https://arc.asahi-kasei.co.jp/report/arc_report/pdf/rs-989.pdf</nowiki></ref>。 プロトン引き抜き剤として医薬や農薬、また様々なファインケミカル製品の製造に利用されている。一般的には極低温反応装置が必要であるが、近年は[[マイクロリアクター]]の利用により極低温を回避した反応例も増加している。 最近増加している用途は半導体ケミカルである。モリブデンアミド、ジルコニウムアミドやハフニウムアミドなどALD (原子層堆積)用の金属モノマーがHigh-K材料の高比誘電率膜の素材として用いられており、これらの合成にブチルリチウムが使用されている。 == 安全性 == ブチルリチウムは空気と水に非常に敏感であり、空気に晒すとしばしば発火する。取り扱う際には不活性ガス下で、活性を落とさないように保存、取扱を行わなければいけない。 == 参考文献 == * [http://www.chemexper.com/chemicals/supplier/cas/109-72-8.html ChemExper Chemical Directory] * 岡野一哉 (2016). “ブチルリチウム”. ''有機合成化学協会誌'' '''74''' (4): 374–377. https://doi.org/10.5059/yukigoseikyokaishi.74.374 * [http://www.fmclithium.com/products/products_p.asp FMC Lithium manufacturer's product sheets] * [http://environmentalchemistry.com/yogi/chemicals/cn/Butyllithium.html Environmental Chemistry directory] * Weissenbacher, Anderson, Ishikawa, ''Organometallics'', July 1998, p681.7002, Chemicals Economics Handbook SRI International * [http://www.epa.gov/chemrtk/butylith/c13633.pdf HPV test plan, submitted by FMC Lithium to EPA] * Ovaska, T. V. ''e-EROS Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis'' "n-butyllithium." Wiley and sons. 2006. DOI: [https://doi.org/10.1002/047084289X.rb395] * Elschenbroich, C.; Salzer, A. ''Organometallics: a Concise Introduction'' 1st ed. 1989: VHC publishers, New York. * Greenwood, N. N.; Earnshaw, A. ''Chemistry of the Elements'', 2nd ed. 1997: Butterworth-Heinemann, Boston. * Brandsma, L.; Verkraijsse, H. D. "Preparative Polar Organometallic Chemistry I"; Springer-Verlag: Berlin, 1987. == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} {{Reflist}} == 関連項目 == *[[Sec-ブチルリチウム|''sec''-ブチルリチウム]] *[[Tert-ブチルリチウム|''tert''-ブチルリチウム]] *[[メチルリチウム]] *[[フェニルリチウム]] *[[グリニャール試薬]]:有機マグネシウム試薬 {{DEFAULTSORT:nふちるりちうむ}} [[Category:有機リチウム化合物]] [[Category:有機反応試剤]] [[Category:塩基]] [[Category:第3類危険物]]
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