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'''SAF2002'''とは、[[白田佳子]]の提唱する[[倒産]]判別[[分析]]モデルであり、'Simple Analysis of Failure 2002'の略である。以前のモデルは、単に'''SAF'''と呼ばれており、そこでは提唱者の名前である''''Shirata''' Analysis of Failure'も含意していると考えられる。 '''SAF2002'''は、わずか4つのパラメータを持つ重回帰式であるが、判別力の高さが検証され実務の世界では、一般化しているといえよう。結果、四季報などにも採用された実績がある。また企業評価モデルとして学位論文などにも引用されている<ref>[https://ito1973.blogspot.com/2012/03/saf2002cd-rom.html 『SAF2002の四季報CD-ROM条件式』]</ref> <ref>[http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00035/2011/66-06/66-06-0313.pdf 「大手建設企業の工種的差異による経営状況指標分析の試み」]</ref>。また近年の中東では、'''SAF2002'''モデルをOhlson Model(オルソンモデル)と対比した論文等が発表されているJouzbarkand et al.(2012) <ref> Jouzbarkand M, V. Aghajani, M.Khodadadi and F. Sameni (2012), Creation Bankruptcy Prediction Model with Using Ohlson Model and Shirata Model. International Proceedings of Economics DevelopmentV54.1:1-5. </ref> 、Jouzbarkand et al.(2013) <ref> Jouzbarkand M., F. S. Keivani, M. Khodadadi and S. R. S. N. Fahim and V Aghajani (2013), The Creation Of bankruptcy prediction model with using Ohlson and Shirata models. Journal of Basic and Applied Scientific Research 3(1):89-93. </ref> 、Abbaskhani(2012)<ref> Abbaskhani H. (2012), The Comparative Studying of Shirata Bankruptcy Forecasting Model with Iran’s Business Low, Journal of Basic and Applied Scientific Research 2(6): 6227-6234. </ref> 、 Ghodrati & Moghaddam (2012) <ref> Ghodrati Hassan & Amir Hadi Manavi Moghaddam (2012), A Study of the Accuracy of Bankruptcy Prediction Models: Altman, shirata, Ohlson, Zmijewsky, CA Score, fulmer, Springate, Farajzadeh Genetic, and McKee Genetic Models for the Companies of Stock Exchange of Tehran. American Journal of Scientific Research: 55-67. </ref>。 さらに'''SAF2002'''モデルは、国内での学術論文や、ディスカッションペーパーにおいて企業評価モデルの代替として引用されている <ref>[http://www.econ.tohoku.ac.jp/e-dbase/dp/tmarg/tmarg90.pdf「機会主義的な実体的裁量行動が将来の業績に与える影響に関する実証分析」Discussion Paper No. 90] </ref> <ref>[https://www.mof.go.jp/pri/research/discussion_paper/ron196.pdf 「日本企業の負債政策と税制」PRI Discussion Paper Series (No.09A-06)] </ref>。また、2021年3月にはコロナウィールス蔓延による経済が下火になる中、SAF2002モデルを用いて分析されたコロナ不況における倒産危機ランキングが東洋経済社より公表されている<ref>{{Cite web|和書|title=倒産危険度ランキング504社 {{!}} 危険水域企業はここだ!|url=https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26366|website=週刊東洋経済プラス|accessdate=2021-03-08|language=ja|first=藤原|last=宏成}}</ref>。 == モデルの概要 == '''SAF2002'''は、以下の重回帰判別式であらわされる。 :<math>SAF2002 = 0.01036X_1 + 0.02682X_2 - 0.06610X_3 - 0.02368X_4 + 0.70773</math> ここで、 {| class="wikitable" |- !<math>X_1</math> ||利益剰余金合計 <math>/</math> 総資産 <math>\times</math> 100 || 総資本留保利益率 |- !<math>X_2</math> ||税引前当期利益 <math>/</math> 総資本 <math>\times</math> 100 || 総資本税引前当期利益率 |- !<math>X_3</math> ||棚卸資産 <math>\times</math> 12 <math>/</math> 売上高 || 棚卸資産回転期間 |- !<math>X_4</math> ||<math>(</math>支払利息<math>+</math>社債利息<math>+</math>手形売却損 <math>)</math> <math>/</math> 売上高 <math>\times</math> 100 || 売上高金利負担率 |} である。 また、このモデルの倒産判別点は、''0.68''とされているが、近年は企業の財務数値が改善したこともあり、上場企業、非上場企業とも敷値は若干高くなる傾向にある<ref name="#1">「AI技術による倒産予知モデルx企業格付け」P.148</ref>。 == モデルの理論的背景 == 倒産判別モデルは、[[:en:Edward Altman|アルトマン(E. I. Altman)]]の1968年に発表された研究が嚆矢とされ、このモデルは今日ではアルトマンのZ値と呼ばれている。アルトマンのZ値もSAF2002と同様の重回帰モデルであり、変数選択に当たっては正準判別分析を用いている。アルトマン以降今日まで、日米の倒産判別モデルに関する研究成果は数多く発表されている。モデルは、重回帰式にとどまらず、ロジスティック回帰、ノンパラメトリック、カタストロフィーさらにはブラックショールズモデルなど様々なものが提案されている。 しかし、アルトマンをはじめとするすべてのモデルに共通する欠点は、サンプル数の不足にある。アルトマン自身のモデルでは、倒産・非倒産をあわせて66件のデータからモデルが構築されている。一般的に大量の倒産データの入手はきわめて困難とされている。 一方、SAF2002は、サンプル数のオーダを一挙に2桁程度上げ、9,638件のデータを利用している。このことから実証的には様々な結果を得ることができたと考えられる。 第1に、SAF2002での変数選択では、重回帰判別、正準判別のような線形判別だけではなく、ノンパラメトリックな判別法、また[[Decision Tree]]のような人工知能系の変数選択手法を組み合わせている。これは、サンプル数の多さがこのような多様な手法を可能にしていると考えられる。 第2に、モデル構築の過程ではロジスティック回帰を含む多様な非線形モデルとの判別力比較がなされており、それらのいずれも重回帰モデルを凌ぐことがないという点が明らかにされている。非線形モデルは、局所的には高い適合性を示しても多様な局面での適合性を持たないという非線形モデルならではの問題点を明らかにしている。とりわけ2値ロジスティック回帰は元来、倒産・非倒産のような2値モデルを想定したモデルであるが、SAF2002との判別力の差は事実上無いという検証結果が提示されている。 アルトマンのZ値は今日の米国でも高く評価され、また実際に利用されているが、なぜ40年も前のモデルが現代の企業にも適合的であるかについては、アルトマン自身も明らかにできなかった理論的な問題である。SAF2002の研究は、また同時にアルトマンに対する理論的根拠を与えている。 == 実用性 == 2008年7月にアルトマンは、Z値に基づいて5年以内のGMとフォードの倒産確率は46%程度との見解を示し、それは2009年に入って現実に近づいた。アルトマンはそれ以前にも米国の航空会社の倒産予測を的中させている。 SAF2002ではさらに的確な予測を行った例がある。 1999年の旧SAFモデルでは、倒産企業との比較のために選ばれた1996年度の優良企業として選定した企業の中でソニーと日立だけがなぜかSAF値が芳しいものではなかった。これは当初、SAF値が倒産判別のためのモデルであり、優良企業に対しては若干の問題があるものと認識されたが、現実には、1999年に日立は赤字企業に転落し、ソニーもまもなく業績不振をささやかれるようになった。 SAF2002での分析においては、2005年におけるトヨタ自動車は、優良企業ベスト100にも入らなかった。これも当初は、当時の経済情勢から考えて日本の企業には優良企業がたくさんあるのだという解釈がなされたが、2008年に同社は赤字に転落した。 これらの結果から判断すれば、SAF2002は企業格付けにも十分な実効性のあるモデルであると考えられる。なお、ネット上の多くの投資サイトや、学術論文において引用されているだけでなく<ref>[http://www.econ.tohoku.ac.jp/e-dbase/dp/tmarg/tmarg90.pdf「機会主義的な実体的裁量行動が将来の業績に与える影響に関する実証分析」Discussion Paper No. 90]</ref>、 財務省財務総合政策研究所研究員によるディスカッションレポート等にも引用されている<ref>[https://www.mof.go.jp/pri/research/discussion_paper/ron196.pdf 「日本企業の負債政策と税制」PRI Discussion Paper Series (No.09A-06)]</ref>。 なお、SAF2002モデルが当初開発された2000年から直近の2016年までの間のSAF値の閾値の全格付けの変動については、新刊本に明細が記載されている<ref name="#1"/>。 SAF2002に基づく格付け基準は以下のように定義されている。 {| class="wikitable" style="background-color:#fff" |+ !S&P<br /> 格付け!!SAF<br />格付け !! SAF2002 |- |AAA||AA||1.53900 以上 |- |AA+ |rowspan="3" |A |rowspan="3" |1.53900未満~1.18717以上 |- |AA |- |AA- |- |A+ |rowspan="3" |BB |rowspan="3" |1.18717未満~0.75261以上 |- |A |- |A- |- |BBB+ |rowspan="3" |B |rowspan="3" |0.752611未満~0.41490以上 |- |BBB |- |BBB- |- |||C ||0.41490 未満 |} == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} <references/> == 参考文献 == *白田佳子 AI技術による倒産予知モデルX企業格付け 税務経理協会 2019 ISBN 978-4419-06598-0 *白田佳子 企業倒産予知情報の形成―会計理論と統計技術の応用 中央経済社 1999 ISBN 978-4-502-35033-7 *白田佳子 企業倒産予知モデル 中央経済社 2003 ISBN 978-4-502-36630-7 *白田佳子 倒産予知の実務―リスク管理のための財務分析 日本経済新聞社 2003 ISBN 978-4-532-31099-8 *白田佳子 倒産予知モデルによる格付けの実務 中央経済社 2008 ISBN 978-4-502-39780-6 *E.I.アルトマン 現代大企業の倒産---その原因と予知モデルの包括的研究 文眞堂 1992 ISBN 978-4-8309-4100-9 *「倒産したらどうなる?どうする?」別冊宝島1629号(宝島社) [[Category:指標]] [[Category:財務分析]]
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