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'''SIRモデル'''(エスアイアールモデル)は、[[感染症]]の短期的な流行過程を[[決定論]]的に記述する古典的な[[モデル方程式]]である。名称は[[数理モデル|モデル]]が対象とする、感受性保持者([[wikt:susceptible|'''S'''usceptible]])、感染者([[wikt:infected|'''I'''nfected]])、免疫保持者([[wikt:recovered|'''R'''ecovered]]、あるいは隔離者 [[wikt:removed|'''R'''emoved]])の頭文字にちなむ。原型となるモデルは、{{仮リンク|ウィリアム・オグルヴィ・カーマック|en|William Ogilvy Kermack|label=W・O・カーマック}}と{{仮リンク|アンダーソン・グレイ・マッケンドリック|en|Anderson Gray McKendrick|label=A・G・マッケンドリック}}の1927年の論文で提案された<ref>{{cite journal|author=W. O. Kermack and A. G. McKendrick|title=A Contribution to the Mathematical Theory of Epidemics|journal=Proc. Roy. Soc. of London. Series A|volume= 115|issue=772|year= 1927|pages=700-721|doi=10.1098/rspa.1927.0118}} {{JFM|53.0517.01}}</ref>。単純なSIRモデルであっても、1905–06年の[[ボンベイ]]における[[ペスト]]流行のデータをうまく再現することが知られている。 == 概要 == [[Image:Sirsys-p9.png|thumb|right|300px|SIRモデルの解の挙動例。縦軸は人数、横軸は時間で、青=S, 緑=I, 赤=Rである。]] [[Image:StatespaceSI-p9.png|thumb|right|300px|SIRモデルの[[相平面]]上の[[軌道 (力学系)|軌道]] (S, I)。簡単のため {{math|''ρ'' {{=}} ''γ''/''β''}} とおくと、{{math|''I'' + ''S'' − ''ρ'' ln ''S'' {{=}} const.}} が成り立ち、{{mvar|I}} は {{math|''S'' {{=}} ''ρ''}} のとき[[最大値]] {{math|''I''{{sub|max}} {{=}} ''I''{{sub|0}} + ''S''{{sub|0}} − ''ρ'' ln ''S''{{sub|0}} − ''ρ'' + ''ρ'' ln ''ρ''}} をとる。]] [[File:Simple SIR model.svg|thumb|right|300px|感染人口密度 {{math|''I''/''N''}} の時間変化と {{math|''βN''/''γ''}} の値の関係。]] SIRモデルにおいて、全人口は感受性保持者・感染者・免疫保持者の3つへ分割され、感受性保持者Sは感受性保持者Sと感染者Iの積に比例して定率で感染者Iに移行し、感染者Iは定率で免疫保持者Rに移行する(感染期間は[[指数分布]]に従う)と仮定される。この[[時間発展]]を非線形[[常微分方程式]]で記述される連続[[力学系]]として表せば、 :<math> \begin{align} \frac{dS}{dt}(t) & = -\beta S(t) I(t) \\ \frac{dI}{dt}(t) & = \beta S(t) I(t) - \gamma I(t) \\ \frac{dR}{dt}(t) & = \gamma I(t) \end{align} </math> となる。ただし、{{math|''β'' > 0}} は感染率、{{math|''γ'' > 0}} は回復率(隔離率)を表す(逆数 {{math|1/''γ''}} は平均感染期間を表す)。これを[[フローチャート]]で :{{border|color=black|width=1.5px|<math>\ \mathrm{S}\ </math>}}<math>\overset{\beta I}{\longrightarrow}</math>{{border|color=black|width=1.5px|<math>\ \,\mathrm{I}\ \,</math>}}<math>\overset{\gamma}{\longrightarrow}</math>{{border|color=black|width=1.5px|<math>\ \mathrm{R}\ </math>}} のように表すこともある。 上記の3式の和を取れば、 :<math> \frac{d}{dt}\big(S(t)+I(t)+R(t)\big)=0 </math> であり、これは総人口 {{math|''N''(''t'') {{=}} ''S''(''t'') + ''I''(''t'') + ''R''(''t'')}} が一定値をとる保存則(閉鎖人口の仮定) :<math> S(t)+I(t)+R(t)=\mathrm{const.} </math> に対応している。この保存則により、本質的に2変数の方程式である<ref>さらに、変数変換 {{math|''s'' {{=}} ''S''/''N''}}, {{math|''i'' {{=}} ''I''/''N''}}, {{math|''τ'' {{=}} ''γt''}} により[[無次元化]]することで、本質的に係数の個数は1つに減らすことができる。無次元化された方程式は[[無次元量]] {{math|''βN''/''γ''}} の値にのみ依存する。</ref>。 簡単のため[[初期値]]を {{math|''I''{{sub|0}} {{=}} ''I''(0) > 0}}, {{math|''S''{{sub|0}} {{=}} ''S''(0) > 0}} とおくと :<math> \frac{dI}{dt}(0) = I_0(\beta S_0 - \gamma) > 0 </math> のとき、すなわち :<math> \mathcal R_0 = \beta S_0/\gamma > 1 </math> のとき流行が発生する(閾値現象)。この[[無次元量]] {{math|{{mathcal|''R''}}{{sub|0}}}} は[[基本再生産数]]と呼ばれる。上のような最も単純なモデルでは <math> \textstyle \lim_{t \to \infty} I(t) = 0 </math> が成り立ち、[[エンデミック]]な[[定常状態]]や周期的な流行といった現象は説明できない。 == 派生モデル == SIRモデルにおいて、出生・死亡などによる人口変動を考慮したモデルや、[[マスター方程式]]による確率的モデルが存在する。また、免疫獲得を考慮しない[[SISモデル]]や潜伏期間を考慮した[[SEIRモデル]]など色々な[[疫学における区画モデル|区画モデル]]が知られている。他にも、感染年齢を考慮した[[偏微分方程式]]によるモデル([[カーマック・マッケンドリック理論]])がある。 == 脚注 == <references/> == 参考文献 == * {{cite book|和書|author=佐藤總夫|title=自然の数理と社会の数理 2|publisher=日本評論社|year=1984|isbn=978-4535603028}} * {{cite book|和書|author=稲葉寿|title=感染症の数理モデル|publisher=培風館|year=2008|isbn=978-4563011376}} ** {{citation|author=観音幸雄|title=稲葉寿編著, 感染症の数理モデル, 培風館, 2008年|journal=応用数理|volume=19|issue=2|pages=126–127|year=2009|doi=10.11540/bjsiam.19.2_126}}(書評) == 関連項目 == * [[疫学における区画モデル]] * [[カーマック・マッケンドリック理論]] * [[SEIRモデル]] * [[基本再生産数]] {{math|{{mathcal|''R''}}{{sub|0}}}} * {{仮リンク|リード=フロストのモデル|en|Reed-Frost model}} {{DEFAULTSORT:えすあいあるもてる}} [[Category:疫学]] [[Category:数理生物学]] [[Category:種類別のモデル]] [[Category:数学に関する記事]]
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