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{{DISPLAYTITLE:S<sub>N</sub>1反応}} '''S<sub>N</sub>1反応'''(エスエヌワンはんのう)とは、[[有機化学]]における[[置換反応]]の一種である。"S<sub>N</sub>" は[[求核置換反応]](nucleophilic substitution)であることを示し、"1" は[[律速段階]]が[[分子度#1分子反応|単分子反応]]であることを示している<ref>L. G. Wade, Jr., ''Organic Chemistry'', 第6版., [[ピアソン (企業)|ピアソン]]/{{仮リンク|プレンティス・ホール|en|Prentice Hall}}, アメリカ[[ニュージャージー州]]、{{仮リンク|アッパー・サドル・リバー|en|Upper Saddle River}},2005年</ref><ref>{{cite book |first=J. |last=March |title=Advanced Organic Chemistry |edition=4th |publisher=Wiley |location=ニューヨーク |year=1992 |isbn=0-471-60180-2 }}</ref>。したがって、[[反応速度式]]は[[求電子剤]]の濃度の1乗、[[求核剤]]の濃度の0乗に比例した式になる。これは求核剤がカルボカチオン[[反応中間体|中間体]]に比べて過剰にある場合でも成り立つが、この場合反応速度式は{{仮リンク|定常状態 (化学)|en|Steady state (chemistry)|label=定常状態速度論}}を用いてより正確に記述することができる。反応には[[カルボカチオン]]中間体が関わっており、二級や三級の[[ハロゲン化アルキル]]が[[強塩基]]下または[[強酸]]下で第二級ないし第三級の[[アルコール]]と反応する際に観察される。一級のハロゲン化アルキルについては代わりに[[SN2反応|S<sub>N</sub>2反応]]が起きる。[[無機化学]]では、S<sub>N</sub>1反応は「{{仮リンク|解離性置換反応|en|Dissociative substitution}}」としばしば呼ばれる。解離の経路については{{仮リンク|シス効果|en|cis effect}}によって記述される。S<sub>N</sub>1反応の[[反応機構]]は[[クリストファー・ケルク・インゴールド]]らによって1940年に提唱された<ref>{{Cite journal | vauthors =Bateman LC, Church MG, Hughes ED, Ingold CK, Taher NA | doi = 10.1039/JR9400000979 | title = 188. Mechanism of substitution at a saturated carbon atom. Part XXIII. A kinetic demonstration of the unimolecular solvolysis of alkyl halides. (Section E) a general discussion | year = 1940 | journal = [[Journal of the Chemical Society]] (改訂版) | pages = 979}}</ref>。 この反応はS<sub>N</sub>2反応ほど求核剤の強さに依存しない。 == 反応機構 == S<sub>N</sub>1反応の一つに[[2-ブロモ-2-メチルプロパン|臭化''tert''-ブチル]]の[[加水分解]]によって[[Tert-ブチルアルコール|''tert''-ブチルアルコール]]をつくる反応がある。 :[[ファイル:ReakcjaSn1hydrolizabromkutertbutylowego.svg|tert-臭化ブチルと水の反応式]] このS<sub>N</sub>1反応は次の3つの段階からなる。 # [[脱離基]]([[臭化物]]イオン)が[[炭素]]原子から離れ、[[Tert-ブチル基|''tert''-ブチル基]]の[[カルボカチオン]]ができる。この反応は最も[[反応速度]]が遅く、[[可逆反応]]である<ref>{{Cite journal | title = Nature of Dynamic Processes Associated with the SN1 Reaction Mechanism | author = Peters, K. S. | journal = [[Chemical Reviews]] | year = 2007 | volume = 107 | issue = 3 | pages = 859–873 | doi = 10.1021/cr068021k | pmid = 17319730}}</ref>。ただし、イオン化より溶媒との反応の方が遅い場合も報告されている<ref>峯岸信也、Robert Loos、小林進 二郎、Herbert Mayr, 「[https://doi.org/10.11494/kisoyuki.17.0.36.0 SN1反応の完全なエネルギープロファイル]」『基礎有機化学討論会要旨集(基礎有機化学連合討論会予稿集)』 17(0), 36-36, 2004 、基礎有機化学会(第17回基礎有機化学連合討論会)</ref>。 #: [[ファイル:Sn1pierwszyetapreakcjipowstaniekarbokationu.svg|S<sub>N</sub>1反応の[[反応機構]]。脱離とカルボカチオンの生成]] #:[[ファイル:Nucleophilic attack of oxonium ion.gif|thumb|カルボカチオンと求核剤の結合]] # [[求核剤|求核攻撃]]: 求核剤がカルボカチオンと反応する。[[求核剤]]が中性分子(つまり[[溶媒]])なら、反応完了のため第三段階が必要となる。溶媒が水なら、中間体は[[ヒドロニウム|オキソニウムイオン]]となる。この反応は速く進む。 #:[[ファイル:NS1 reaction part2 recombination carbocation nucleophile.svg|カルボカチオンと求核剤の結合]] # [[脱プロトン化]]: 水が[[塩基]]として働いて[[プロトン化]]された求核剤からプロトンが脱離し、[[アルコール]]と[[ヒドロニウム]]イオンが生成する。 #: [[ファイル:NS1 reaction part3 proton transfer forming alcohol.svg|プロトンが転移し、アルコールが生成する]] == 反応が起こる対象 == S<sub>N</sub>1反応は中心の炭素にかさ高い[[置換基]]が結合していて[[立体障害]]のためS<sub>N</sub>2反応が起こりにくい時に起きやすい。さらに、かさ高い置換基によって{{仮リンク|立体ひずみ|en|Van der Waals strain}}が小さくなり、カルボカチオンの生成速度が大きくなる。生成したカルボカチオンは[[誘起効果]]<small>([[:en:Inductive effect|英語版]])</small>と[[アルキル基]]の[[超共役]]によって安定化される。[[ハモンドの仮説]]ではこれによってカルボカチオンの生成がさらに加速するとされている。ゆえに、S<sub>N</sub>1反応は[[炭素-炭素結合|三級の炭素]]が反応する場合に優先的に起こり、二級の炭素が弱い[[求核剤]]と反応する場合も起きる。 S<sub>N</sub>1反応が優先して起こる反応の例として、濃[[塩酸]]を使って[[ジオール]]の[[ヒドロキシ基]]を[[塩素]]原子に変えて2,5-ジクロロ-2,5-ジメチルヘキサンを合成する反応がある<ref>{{cite journal | last1 = Wagner | first1 = Carl E. | last2 = Marshall | first2 = Pamela A. | year = 2010 | title = Synthesis of 2,5-Dichloro-2,5-dimethylhexane by an SN1 Reaction | url = | journal = [[Journal of Chemical Education|J. Chem. Educ.]] | volume = 87 | issue = 1| pages = 81–83 | doi = 10.1021/ed8000057 }}</ref>。 :[[File:SN1reactionWagner2009.svg|S<sub>N</sub>1反応を用いた2,5-ジクロロ-2,5-ジメチルヘキサンの合成]] α位とβ位で置換が起こり、S<sub>N</sub>2反応ではなくS<sub>N</sub>1反応が起こる。 == 立体化学 == 反応の律速段階で生成するカルボカチオン中間体はsp<sup>2</sup>[[混成軌道]]を形成し、三角形の平面形[[分子構造]]をとる。これにより分子を平面上の上下どちらから攻撃するかにより二通りの求核攻撃が可能になる。もし平面の上下で反応性に違いがない場合、2つの反応は等確率で起こり、反応が起こったのが[[キラル中心|不斉炭素]]なら[[ラセミ体]]が生成する<ref>Sorrell, Thomas N. "Organic Chemistry, 2nd Edition" University Science Books, 2006</ref>。これは下のS-3-クロロ-3-メチルヘキサンが[[ヨウ化物]]イオンとS<sub>N</sub>1反応を起こして3-ヨード-3-メチルヘキサンになることで示される。 [[ファイル:SN1Stereochemistry.png|center|600px|S<sub>N</sub>1反応でラセミ体が生成する例]] しかし、脱離基がカルボカチオンの近くにとどまり、求核攻撃を妨げる場合は一方の[[エナンチオマー]]が優先して生成する。 この反応機構は、求核剤が必ず脱離基の反対側から結合するという[[立体選択性|立体選択的]]なS<sub>N</sub>2反応のメカニズムとは対照的である。 == 副反応 == [[脱離反応]]と[[転位反応|カルボカチオンの転位]]という2つの{{仮リンク|副反応 (化学)|en|Side reaction|label=副反応}}が起こることが多い。反応が高温で進む場合([[エントロピー]]が増加しやすい場合) [[脱離反応#E1反応(1分子脱離反応)|E1反応]]が優先し、[[アルケン]]が生成する。低温では、S<sub>N</sub>1反応とE1反応は競合し、片方だけを起こすのは難しい。低温であっても、多少のアルケンが生成する。[[水酸化物]]イオンや[[メトキシド]]イオンなどの強塩基求核剤を用いてS<sub>N</sub>1反応を起こすと、[[脱離反応#E2反応(2分子脱離反応)|E2反応]]が起こり、アルケンが生成する。E2反応は溶液が加熱された場合に起こりやすい。また、カルボカチオンがより安定な位置に転移した場合、その転移した位置で反応した生成物が得られる。 == 溶媒効果 == {{see also|溶媒効果}} S<sub>N</sub>1反応では律速段階で不安定なカルボカチオンを生成するため、この生成を促進する物質は反応全体を加速させることになる。普通は、[[溶媒]]には[[極性]]があり (イオン性の中間体を安定に存在させるため)、[[プロトン性溶媒|プロトン性]]のもの(脱離基を[[溶媒和]]させるため)を用いる。典型的なプロトン性極性溶媒には水やアルコールがあり、これらは求核剤として加溶媒分解も起こす。 '''Yスケール'''はある溶媒における[[加溶媒分解]]の反応[[速度定数]]('''k''')と標準溶媒(体積比で[[エタノール]]80%/[[水]]20%の混合物)における反応[[速度定数]]('''k<sub>0</sub>''')の比をとって対数にしたものであり、以下の式で表される。 :<math> \log { \left ( \frac{k}{k_0} \right ) } = mY \,</math> ここで'''m''' は反応物定数([[tert-ブチルクロリド|''tert''-塩化ブチル]]ならm = 1)であり、'''Y'''は溶媒パラメータである<ref>{{cite journal | title = The Correlation of Solvolysis Rates |author1={{仮リンク|エルンスト・グルンワルト|en|Ernest Grunwald}} |author2={{仮リンク|ソウル・ウィンスタイン|en|Saul Winstein}} |name-list-style=amp | journal = [[米国化学会誌]] | year = 1948 | volume = 70 | issue = 2 | pages = 846 | doi = 10.1021/ja01182a117 }}</ref>。例えば100%エタノールなら、Y = -2.3、50%エタノール-水溶液ならY = +1.65、15%エタノールならY = +3.2となる<ref>{{cite journal | title = Correlation of Solvolysis Rates. III.1 t-Butyl Chloride in a Wide Range of Solvent Mixtures |author1=Arnold H. Fainberg |author2=S. Winstein |name-list-style=amp | journal = [[米国化学会誌]] | year = 1956 | pages = 2770 | volume = 78 | issue = 12 | doi = 10.1021/ja01593a033 }}</ref>。{{仮リンク|グルンワルト・ウィンスタイン方程式|en|Grunwald–Winstein equation}}も参照のこと。 == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} {{Reflist}} == 参考文献 == * Electrophilic Bimolecular Substitution as an Alternative to Nucleophilic Monomolecular Substitution in Inorganic and Organic Chemistry / N.S.Imyanitov. J. Gen. Chem. USSR (Engl. Transl.) '''1990'''; 60 (3); 417-419. * Unimolecular Nucleophilic Substitution does not Exist! / N.S.Imyanitov. [http://sciteclibrary.ru/eng/catalog/pages/9330.html SciTecLibrary] == 関連項目 == * [[求核アシル置換反応]] * [[SN2反応|S<sub>N</sub>2反応]] == 外部リンク == * [http://www.chemhelper.com/sn1.html Diagrams]: {{仮リンク|フロストバーグ州立大学|en|Frostburg State University}} * [http://www.usm.maine.edu/~newton/Chy251_253/Lectures/Sn1/Sn1FS.html Exercise]:[[メイン大学]] {{反応機構}} {{DEFAULTSORT:Sn1はんのう}} [[Category:置換反応]]
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