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{{DISPLAYTITLE:S<sub>N</sub>2反応}} [[ファイル:SN2-MeSH-MeI-montage-3D-balls.png|thumb|right|[[メタンチオール|CH<sub>3</sub>SH]]と[[ヨードメタン|CH<sub>3</sub>I]]のS<sub>N</sub>2反応の[[球棒モデル]]表現]] [[ファイル:SN2 Intermediate.png|thumb|right|S<sub>N</sub>2反応の遷移状態]] '''S<sub>N</sub>2反応'''(エスエヌツーはんのう)は[[有機化学]]で一般的な[[反応機構]]の一つである。この[[化学反応|反応]]では、結合が1本切れ、それに合わせて結合が1本生成する。S<sub>N</sub>2反応は[[求核置換反応]]である。"S<sub>N</sub>" は[[求核置換反応]]であることを示し、"2" は[[律速段階]]<small>([[:en:rate-determining step|英語版]])</small>が[[反応分子数|2分子反応]]であることを示している。そのほかの主な求核置換反応として[[SN1反応|S<sub>N</sub>1反応]]がある<ref>{{McMurry3rd|page=458}}</ref>。 また、「2分子求核置換反応」とも呼ばれる。無機反応の場合は{{仮リンク|結合性置換反応|en|associative substitution}}あるいは交換機構 (interchange mechanism) とも呼ばれる。 == 反応機構 == この反応は[[脂肪族化合物]]の[[混成軌道|sp<sup>3</sup>]]炭素に[[電気陰性度]]の大きい安定な[[脱離基]](Xとする。[[ハロゲン化物|ハロゲン]]であることが多い)が結合している場合に起こりやすい。C–X結合が切れ、新たに[[求核剤]](YまたはNuと表記される)との結合C–YないしC–Nuが同時に生成する。このとき炭素原子は求核攻撃を受けて[[配位数|五配位]]の[[遷移状態]]となっており、sp<sup>2</sup>混成軌道を作っている。求核剤は、自身の[[非共有電子対]]の軌道とC–X結合の[[反結合性軌道|反結合性]]軌道[[σ軌道|σ*]]の重なりが最大となる、脱離基と180°反対側から炭素を攻撃するため、脱離基は求核剤と反対側から押し出され、求核剤が結合した炭素を中心として[[点対称]]となる[[四面体形]]化合物が生成する。 [[基質 (化学)|基質]]が[[キラリティー|キラル]]だった場合、[[立体配置]]([[立体化学]])が反転する。これは[[ヴァルデン反転]]と呼ばれる。 S<sub>N</sub>2反応の例として、[[臭化物|Br<sup>−</sup>]](求核剤)が[[クロロエタン]]([[求電子剤]])と反応して[[ブロモエタン]]ができ、[[塩化物]]イオンが脱離する反応がある。 [[ファイル:Sn2EtCl+bromide.png|thumb|center|340px|クロロエタンと臭化物イオンのS<sub>N</sub>2反応]] S<sub>N</sub>2反応は基質において反応する炭素の周囲に[[置換基]]による[[立体障害]]がない時に起きる。ゆえに、この[[化学反応|反応]]は立体障害の少ない[[炭素-炭素結合|一級の炭素]]上で起きることが多い。中心となる炭素が三級であるなど、脱離基周辺の置換基が立体的に混み合っている場合は、S<sub>N</sub>2反応ではなく[[一分子求核置換反応|S<sub>N</sub>1反応]]が起きやすい(三級の炭素の方が[[カルボカチオン]][[反応中間体|中間体]]が安定になるため)。 == 反応速度を決める因子 == S<sub>N</sub>2反応の反応速度を決める因子は4つある<ref>{{March6th}}</ref>。 === 基質 === 基質が[[反応速度]]を決めるのに最も大きな役割を果たしている。これは求核剤が基質を後ろから攻撃し、脱離基との[[化学結合|結合]]を切断して求核剤との結合を作るためである。ゆえに、S<sub>N</sub>2反応の反応速度を最大にするためには、基質の後ろ側の立体障害ができるだけ少なくなるようにしなければならない。これは、メチル基の炭素や一級の炭素が反応する場合最も速度が速く、二級の炭素が反応する場合はそれより遅くなる。三級の炭素では立体障害が大きいためS<sub>N</sub>2反応は起こらない。脱離基が抜けることで[[共鳴理論|共鳴安定化]]などにより安定なカルボカチオンが生成する場合、S<sub>N</sub>2反応の代わりにS<sub>N</sub>1反応が起こる。 === 求核剤 === 基質と同様に、求核剤の強さも立体障害の度合いに依存する。例えば{{仮リンク|メトキシド|en|Methoxide}}[[アニオン]]は[[強塩基]]であり、かつメチル基が立体的に混み合っていないため、強い求核剤となる。一方[[カリウム tert-ブトキシド|''tert''-ブトキシド]]は、[[強塩基]]でありながら中心の炭素に[[メチル基]]が3つ結合しているため弱い求核剤である。また、求核剤の強さは[[電気陰性度]]や電荷にも依存する。負電荷が大きく、電気陰性度が小さい物質を強い求核剤と呼ぶ。例えば、[[水酸化物|OH<sup>−</sup>]]は水よりも強い求核剤で、[[ヨウ化物|I<sup>−</sup>]]は[[臭化物|Br<sup>−</sup>]]より強い求核剤である([[極性溶媒]]において)。[[プロトン性溶媒|非プロトン性極性溶媒]]中では、溶媒と求核剤の間で[[水素結合]]が生成しないため求核剤は[[周期表]]上で上に行くほど強くなる。この場合、求核剤の強さは[[塩基]]としての強さに比例する。したがって、この場合I<sup>−</sup>はBr<sup>−</sup>より塩基としては弱いため、弱い求核剤となる。つまり、強い求核剤や、陰イオン性の求核剤は[[求核置換反応]]ではS<sub>N</sub>2反応を起こしやすいということである。 === 溶媒 === 溶媒も、求核剤の周りに大量にあり、結合しようとする炭素原子に求核剤が接近するのを妨げるか妨げないかに影響するので、反応速度に影響を及ぼす。[[テトラヒドロフラン]](THF)のような非プロトン性極性溶媒は[[プロトン性溶媒]]よりも溶媒として好ましい。それは、プロトン性溶媒は求核剤と[[水素結合]]を形成し、脱離基と結合している炭素を攻撃するのを妨げるからである。[[比誘電率]]が低く、[[分子間力]]の小さい非プロトン性極性溶媒は、求核置換反応ではS<sub>N</sub>2反応を起こしやすい。このような溶媒には、[[ジメチルスルホキシド|DMSO]]や[[ジメチルホルムアミド|DMF]]、[[アセトン]]などがある。非プロトン性極性溶媒中では、求核剤の強さはその塩基としての強さに対応している。 === 脱離基 === 脱離基のアニオンとしての安定性や、炭素原子との結合の強さも反応速度に影響する。脱離基の[[共役塩基]]が安定であるほど、結合の[[共有電子対]]を持って行きやすい。ゆえに、脱離基の共役塩基が弱く、それに対応する[[酸]]が強いほど、好ましい脱離基であると考えられる。ゆえに、よい脱離基の例としては[[ハロゲン化物]](炭素との結合が強すぎる[[フッ素]]を除く)や[[トシル基|トシル]]塩がある。しかし、HO<sup>−</sup>や[[アミン|H<sub>2</sub>N<sup>−</sup>]]などはよい脱離基とはいえない。 == 反応速度論 == S<sub>N</sub>2反応は[[反応次数|二次反応]]であり、[[律速段階]]の反応速度 ''r'' は求核剤の濃度 <chem>[Nu^-]</chem> と基質の濃度 <chem>[RX]</chem> によって決まる。 : <chem>r = </chem>[[速度定数|k]]<chem>[RX][Nu^-]</chem> これがS<sub>N</sub>1反応とS<sub>N</sub>2反応の決定的な違いである。S<sub>N</sub>1反応は律速段階が終了してから求核攻撃が始まるのに対し、S<sub>N</sub>2反応では求核剤が炭素に結合するのと同時に脱離基を押し出すのが律速段階となる。言い換えれば、S<sub>N</sub>1反応の速度は基質の濃度だけで決まるのに対し、S<sub>N</sub>2反応の速度は基質と求核剤の両方の濃度に依存する。どちらの反応も起きうる場合(反応する炭素が二級の場合)は、どちらがどのくらい起きるかは溶媒、温度、求核剤の濃度、脱離基によって決まる。 S<sub>N</sub>2反応は一般的に一級[[ハロゲン化アルキル]]において、もしくは二級ハロゲン化アルキルが非プロトン性溶媒中にあるときに起こりやすい。この反応は三級ハロゲン化アルキルでは立体障害のため無視できる程度しか起こらない。 また、α-{{仮リンク|ハロケトン|en|Haloketone}}ではハロゲン化アルキルより速い速度で反応が進行する<ref>{{cite journal|title= フェナシルクロリドとアルコキシドイオンとの反応における生成物比への置換基効果|author=笹川 慶太、山高 博|journal=第20回基礎有機化学討論会(第39回構造有機化学討論会・第59回有機反応化学討論会)|year=2009|doi=10.11494/kisoyuki.2009.0.187.0}}</ref>。これは隣接する[[アシル基]]によって反応が加速されるためである<ref>{{cite journal|title=シルクロロメタン類のS<sub>N</sub>2反応の経路に関する実験的研究|author=片山 美佳、山高 博|journal=第18回基礎有機化学連合討論会|doi=10.11494/kisoyuki.18.0.245.0|year=2006}}</ref>。 == E2反応との競合 == S<sub>N</sub>2反応と同時に起こる{{仮リンク|副反応 (化学)|en|side reaction|label=副反応}}としては[[脱離反応|E2反応]]がある。反応するアニオンが求核剤としてではなく塩基として働いた場合、[[水素#ヒドロン・プロトンとヒドロニウムイオン|プロトン]]を引き抜いて[[アルケン]]を生成する。これは反応するイオンが立体的に混み合っていて、基質がプロトンを引き抜かれやすい時に起きやすい反応である。脱離反応は温度が高いと起きやすい<ref>{{cite web|url=http://www.masterorganicchemistry.com/2012/09/10/elimination-reactions-are-favored-by-heat/|title= Elimination Reactions Are Favored By Heat|publisher= Master Organic Chemistry|author=JAMES|accessdate=2017-02-21}}</ref>が、これは温度上昇に伴い[[エントロピー]]が増大するためである。これは気体状態で[[硫酸塩]]と[[ハロゲン化アルキル|臭化アルキル]]を[[質量分析法|質量分析器]]の中で反応させると観測できる<ref>{{cite journal|title=Gas Phase Studies of the Competition between Substitution and Elimination Reactions|author= Scott Gronert|journal= [[Accounts of Chemical Research|Acc. Chem. Res.]]|year=2003|volume= 36|issue=11|pages=848-857|doi=10.1021/ar020042n}}</ref><ref>これには[[エレクトロスプレーイオン化]]法が用いられており、その方法で求核剤を検出するには電荷を持った反応生成物が必要であることから、反応性が低く他のアニオンと容易に区別できる硫酸塩が加えられている。置換生成物と脱離生成物の量の比はそれらの分子のイオンの強さの比から求められる。</ref>。 :[[ファイル:SN2E2gasphasecompetition.png|400px|競合するS<sub>N</sub>2反応とE2反応]] [[ブロモエタン]]の場合は、生成物は置換生成物が優先する。[[求電子剤]]周辺の[[立体障害]]が大きくなるにつれて、例えば臭化イソ[[ブチル基|ブチル]]では脱離生成物が優先する。また、塩基性が強い場合脱離が優先する。弱い塩基である[[安息香酸]]塩が基質のとき、[[2-ブロモプロパン]]と反応すると55%が置換反応を起こす。一般に、この反応では[[溶媒効果]]のあるなしにかかわらず、気相中での反応と溶液中での反応は同じ傾向を示す。 == ラウンドアバウト機構 == 2008年、塩化物イオンと[[ヨードメタン]]を交差分子線法(''crossed molecular beam imaging'')と呼ばれる特殊な技術を使って気相中で反応させることでS<sub>N</sub>2反応の'''ラウンドアバウト機構'''(roundabout mechanism)が観測され、注目を浴びた。これは塩化物イオンを十分に加速し、衝突させて反応させたあとの[[ヨウ化物]]イオンのエネルギーが予想よりずっと低かったために発見され、実際にヨウ素原子が分子から追い出される前にメチル基の周りを1周回っているためにエネルギーが失われているということが理論化された<ref>{{cite journal|title=Imaging Nucleophilic Substitution Dynamics|author= J. Mikosch, S. Trippel, C. Eichhorn, R. Otto, U. Lourderaj, J. X. Zhang, W. L. Hase, M. Weidemüller, and R. Wester |journal=Science|year=2008|volume= 319|pages= 183-186|doi= 10.1126/science.1150238}}</ref><ref>{{cite journal|title=PERSPECTIVES CHEMISTRY: Not So Simple|author= John I. Brauman |year= 2008|journal= Science|volume= 319 |issue=5860|pages=168|doi=10.1126/science.1152387}}</ref><ref>{{cite journal|title=Surprise From S<sub>N</sub>2 Snapshots Ion velocity measurements unveil additional unforeseen mechanism|author= Carmen Drahl|journal=[[Chemical & Engineering News]]|date=2008-01-14|volume=86|issue=2|pages= 9 |url=https://pubs.acs.org/cen/news/86/i02/8602notw1.html}}</ref>。 == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} {{Reflist}} ==関連文献== *{{Cite journal |和書|author =奥山格|title =ビニル炭素におけるS<sub>N</sub>2反応|date =2006|publisher =有機合成化学協会|journal =有機合成化学協会誌|volume =64|issue =4|doi=10.5059/yukigoseikyokaishi.64.348|pages =348-358|ref = }} == 関連項目 == *[[置換反応]] *[[SN1反応|S<sub>N</sub>1反応]] *[[芳香族求核置換反応]] *[[求核アシル置換反応]] *[[フィンケルシュタイン反応]] *[[クリストファー・ケルク・インゴールド]] {{反応機構}} {{デフォルトソート:Sn2はんのう}} [[Category:化学反応]] [[Category:置換反応]]
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