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[[ファイル:VIX.png|thumb|400px|1985年~2012年のVIX指数]] [[File:CBOE Volatlity Index, VIX.png|right|thumb|400px|2004年~2020年7月のVIX指数]] '''VIX指数'''({{lang-en-short|VIX Index}})または'''CBOEボラティリティ指数'''({{lang-en-short|CBOE Volatility Index}})とは、[[シカゴ・オプション取引所]](CBOE)が、[[S&P 500]]を対象とする[[オプション取引]]の満期30日のインプライド・[[ボラティリティ]]を元に算出し、[[1993年]]より公表している[[ボラティリティ指数]]。 VIX指数は今後30日間のS&P 500の予想変動範囲を表現していて、予想変動範囲(%) = <math>\mbox{VIX} / \sqrt{12}</math> である<ref name="spindices">[https://japanese.spindices.com/vix-intro/ VIX CBOEボラティリティ指数 - S&P Dow Jones indexology]</ref>。例えばVIX指数が18の場合は予想変動範囲が5.2%である<ref name="spindices"/>。ただし現実にはS&P 500が下落する場合はVIXは上昇する傾向があり、VIXとS&P 500のパフォーマンスは負の[[相関関係]]にある<ref name="spindices"/>。その統計的傾向から俗に'''恐怖指数'''(きょうふしすう、{{lang-en-short|fear index}})とも呼ばれる。 == 2003年の改訂 == [[2003年]]よりCBOEは[[ゴールドマンサックス]]と共同して開発したより精度の高い計算方法でのVIX指数を公表するようになっている。 1993年当初のVIX指数は[[S&P 100]]に基づくものであったが、[[2003年]][[9月22日]]より[[S&P 500]]に基づく物に変更し、計算方法も修正し、元々のVIX指数を'''CBOE S&P 100ボラティリティ指数'''('''VXO指数''')に改名した<ref>[http://www.cboe.com/products/vix-index-volatility/volatility-on-stock-indexes/cboe-s-p-100-volatility-index-vxo Cboe S&P 100 Volatility Index - VXO]</ref>。2003年9月22日より前のVIX指数はVXO指数の事を指している場合がある。 == 理論的バックグラウンド == 理論的にはVIX指数は満期までのS&P 500の[[ボラティリティ]]の平均値の期待値として解釈される。満期を <math>T</math> としたVIX指数は以下の式で算出される<ref name=white_paper>[http://www.cboe.com/framed/pdfframed.aspx?content=/micro/vix/vixwhite.pdf CBOE VIX White Paper]</ref>。 :<math> VIX_{T} = 100 \times \sigma, </math> :<math> \sigma^2 = \frac{2}{T}\sum_{i}e^{RT}\frac{Q(K_{i})}{K_{i}^2}\Delta K_{i} - \frac{1}{T}\left[\frac{F - K_{0}}{K_{0}}\right]^2 </math> ここで <math>R</math> は金利であり、<math>F</math> は満期を <math>T</math> とするオプションのインデックス価格に対して望ましいレベルの[[デリバティブ#先渡取引|先渡価格]]のインデックスである。<math>K_{i}</math> はオプションの行使価格の水準を表しており、行使価格の小さい方から昇順で番号付けられていて、<math>K_{0}</math> が <math>F</math> を下回る最も大きな行使価格の値となるようになっている。<math>\Delta K_{i} </math> は <math>K_{i+1}</math> と <math>K_{i-1}</math> の差分の2分の1 <math>(K_{i+1} - K_{i-1})/2</math> である。<math>Q(K_{i})</math> は行使価格 <math>K_{i}</math>、満期 <math>T</math> のオプション価格のビットアスクスプレッドの中点となる。ただし、<math>K_{i} < K_{0} </math> ならばプットオプション、<math>K_{i} > K_{0} </math> ならばコールオプションの価格が用いられている。 第2項は補正としての意味合いが強く、VIX指数の理論的なバックグラウンドを理解する上で重要なのは第1項の総和である。そこで第2項は無視して、第1項について考えてみる。第1項は積分を離散化したもので、あらゆる水準の行使価格でのオプションが市場で取引可能であるとすれば、次の積分形式での表示が可能である。 :<math> \sigma^2 = \frac{2}{T}\left(\int_{0}^{F}e^{RT}\frac{P(K,T)}{K^2}d K + \int_{F}^{\infty}e^{RT}\frac{C(K,T)}{K^2}d K\right) </math> ここで <math>C(K,T),P(K,T)</math> はそれぞれ満期 <math>T</math>、行使価格 <math>K</math> のコールオプションとプットオプションの価格を指す。この時、[[リスク中立確率測度]]による[[期待値]]を <math>E^*</math> で表すと、リスク中立確率測度の定義から :<math> C(K,T) = E^*[e^{-RT}\max\{S(T) - K, 0\}],\quad P(K,T) = E^*[e^{-RT}\max\{K - S(T), 0\}] </math> となる。ここで <math>S(T)</math> は満期 <math>T</math> におけるオプションの原資産の価格である。よって :<math> \sigma^2 = \frac{2}{T}E^*\left[\int_{0}^{F}\frac{\max\{K - S(T), 0\}}{K^2}d K + \int_{F}^{\infty}\frac{\max\{S(T) - K, 0\}}{K^2}d K\right] </math> と表されることが分かる。ここでCarr-Madan の展開公式<ref>Carr, Peter, and Dilip Madan. "Towards a theory of volatility trading." ''Option Pricing, Interest Rates and Risk Management, Handbooks in Mathematical Finance'' (2001): 458-476.</ref>から次の式変形が可能である。 :<math> \int_{0}^{F}\frac{\max\{K - S(T), 0\}}{K^2}d K + \int_{F}^{\infty}\frac{\max\{S(T) - K, 0\}}{K^2}d K = - \log S(T) + \log F + \frac{S(T) - F}{F} </math> したがって :<math> \sigma^2 = \frac{2}{T}\left(- E^*[\log S(T)] + \log F + \frac{E^*[S(T)] - F}{F}\right) </math> となる。現時点を <math>0</math> 時点とすると先渡価格の[[無裁定価格理論|無裁定価格]]は <math> F = E^*[S(T)] = e^{RT}S(0) </math> なので次が得られる。 :<math> \sigma^2 = \frac{2}{T}\Big(RT - E^*[\log S(T) - \log S(0)]\Big) </math> ここで原資産価格 <math>S</math> のリスク中立確率測度下での価格変動が[[ボラティリティ]]が変動する[[幾何ブラウン運動]]に従うとする。つまり :<math> S(T) = S(0) + \int_{0}^{T}RS(t) dt + \int_{0}^{T}v(t)S(t)d W^*(t) </math> であるとする。ただし <math>W^*</math> はリスク中立確率測度下での[[ブラウン運動]]で、<math>v</math> は時間によって変動するボラティリティである。この時、[[伊藤の公式]]から :<math> \log S(T) = \log S(0) + \int_{0}^{T} \left(R - \frac{v^2(t)}{2}\right) dt + \int_{0}^{T}v(t)d W^*(t) = \log S(0) + RT - \frac{1}{2}\int_{0}^{T}v^2(t)dt + \int_{0}^{T}v(t)d W^*(t) </math> となる。これを <math>\sigma^2 </math> に代入し、整理すれば :<math> \sigma^2 = E^*\left[\frac{1}{T}\int_{0}^{T}v^2(t)dt\right] - \frac{2}{T}E^*\left[\int_{0}^{T}v(t)d W^*(t)\right] </math> が得られる。第2項は確率積分の期待値なので <math>v</math> に妥当な仮定を課せばその値は0である。つまり次の結果が得られる。 :<math> \sigma^2 = E^*\left[\frac{1}{T}\int_{0}^{T}v^2(t)dt\right] </math> よって :<math> VIX_{T} = 100 \times \sqrt{E^*\left[\frac{1}{T}\int_{0}^{T}v^2(t)dt\right]} </math> となる。したがってVIX指数は満期までの平均ボラティリティにリスク中立確率測度で期待値を取ったものを基準化した指数である。CBOEが発表しているVIX指数はS&P 500を原資産としたオプション価格と先渡価格から計算されるので、VIX指数はS&P 500のボラティリティに対するものとなる。またCBOEが発表しているVIX指数の満期は30日である<ref name=white_paper>[http://www.cboe.com/framed/pdfframed.aspx?content=/micro/vix/vixwhite.pdf CBOE VIX White Paper]</ref>。 == VIX指数の金融派生商品 == VIX指数を原資産とした[[金融派生商品]]であるVIX先物(VX)<ref>[https://cfe.cboe.com/cfe-products/vx-cboe-volatility-index-vix-futures VX-Cboe Volatility Index (VIX) Futures]</ref>やVIXオプションも取引されている。VIX指数のボラティリティ指数(ボラティリティのボラティリティ)であるVVIX指数<ref>[http://www.cboe.com/products/vix-index-volatility/volatility-on-stock-indexes/the-cboe-vvix-index The Cboe VVIX sup SM sup Index]</ref>もCBOEは公表している。<br> 日本国内の[[証券取引所]]においては、VIX先物指数に連動する[[ETF]]や[[ETN]]が上場していたが、[[2024年]]現在は全て[[上場廃止]]となっている。<br> VIX先物取引については、[[楽天証券]]、[[GMOクリック証券]]、[[IGグループ・ホールディングス|IG証券]]が、[[差金決済取引|CFD取引]]の[[銘柄]]という形で取り扱っている。いずれの証券会社においても、買建て、売建て両方とも可能であるが、市場の変動状況によっては新規の売建てが制限される場合がある。 == バリアンススワップとバリアンスリスクプレミアム == 将来の株価の対数収益率の分散に対する[[デリバティブ#先渡取引|先渡契約]]を'''バリアンススワップ''' ({{lang-en-short|variance swap}}) と言う<ref>[https://web.archive.org/web/20130511085808/http://www.nikkei.com/money/investment/toushiyougo.aspx?g=DGXIMMVEW4004004012011000001 バリアンススワップ :きょうのキーワード :資産力UP :マネー :日本経済新聞]</ref>。またバリアンススワップにおける先渡価格をバリアンススワップレートと言い、S&P 500に対する満期が30日のバリアンススワップレートはその値が理論上はVIXと同じであるため、近似値としてVIXが使用されることがある<ref>Bollerslev, T., Gibson, M., and Zhou, H. (2011). "Dynamic estimation of volatility risk premia and investor risk aversion from option-implied and realized volatilities." ''Journal of econometrics'', 160(1), 235-245.</ref>。 また実現した株価の対数収益率の分散の平均値(実現ボラティリティ)よりVIXの方が高くなることが統計的に確かめられている<ref>Carr, P., and Wu, L. (2006). "A Tale of Two Indices." ''The Journal of Derivatives'', 13(3), 13-29.</ref>。このVIXと実現ボラティリティの差を'''バリアンスリスクプレミアム''' ({{lang-en-short|variance risk premium}}) と呼ぶ。 == 批判 == === ヒストリカル・ボラティリティとの差 === [[Image:Vix.png|400px|thumb|right|左がVIXとその後1か月の変動の標準偏差の比較で、右が過去1か月と未来1か月の変動の標準偏差の比較。rは[[相関係数]]。結果に大差がないことが分かる。データは1990年1月~2009年9月。]] VIX指数はインプライド・[[ボラティリティ]]を用いているが、インプライド・ボラティリティがオプションを利用した複雑な計算をしているにもかかわらず、過去の値動きから単純に[[標準偏差]]を計算しただけのヒストリカル・ボラティリティと結果が大差無いという批判がある<ref>{{cite journal |last=Cumby |first=R. |first2=S. |last2=Figlewski |first3=J. |last3=Hasbrouck |year=1993 |title=Forecasting Volatility and Correlations with EGARCH models |journal=Journal of Derivatives |volume=1 |issue=2 |pages=51–63 |doi=10.3905/jod.1993.407877 }}</ref><ref>{{cite journal |last=Jorion |first=P. |year=1995 |title=Predicting Volatility in Foreign Exchange Market |journal=[[Journal of Finance]] |volume=50 |issue=2 |pages=507–528 |jstor=2329417 |doi=10.1111/j.1540-6261.1995.tb04793.x}}</ref><ref>{{cite journal |last=Adhikari |first=B. |first2=J. |last2=Hilliard|year=2014|title= The VIX, VXO and realised volatility: a test of lagged and contemporaneous relationships|journal=International Journal of Financial Markets and Derivatives|volume=3 |issue=3|pages=222–240|doi=10.1504/IJFMD.2014.059637}}</ref>。 === 不正操作 === 2017年5月23日に、VIX指数の計算に使われるS&P 500のオプションは取引の少ない物が含まれていて、それを使用することでVIX指数を操作することが可能であるうえ、その対象となっているS&P 500のオプションだけ不自然に取引が多いという論文<ref>{{cite journal|author1=John M. Griffin|author2=Amin Shams|title=Manipulation in the VIX?|date=May 23, 2017|ssrn = 2972979}}</ref>が発表された。更に、2018年2月12日に実際にVIX指数を不正操作している人がいるという匿名の告発が[[証券取引委員会]]になされた<ref>[https://jp.reuters.com/article/usa-stocks-volatility-manipulation-idJPKCN1FX1X5 VIX指数に不正操作の疑い、米当局が調査開始 - ロイター]</ref><ref>[http://fis.nri.co.jp/ja-JP/knowledge/commentary/2018/20180216.html 高まるVIX指数への注目と不正操作疑惑|2018年|研究員の時事解説|ナレッジ&インサイト|NRI Financial Solutions]</ref>。 == 過去の主要な高値・低値 == === 高値 === * [[1990年]][[8月23日]] [[イラク]]軍[[クウェート]]侵攻…36.47 * [[1997年]][[10月28日]] [[アジア通貨危機]]…48.64 * [[1998年]][[10月8日]] ロシアデフォルト(LTCM破綻)…49.53 * [[2001年]][[9月21日]] [[アメリカ同時多発テロ]]…49.35 * [[2002年]][[7月24日]] [[エンロン]]不正会計事件…48.46 * [[2002年]][[8月5日]] [[ワールドコム]]破綻…45.21 * [[2003年]][[3月12日]] [[イラク戦争]]勃発…34.40 * [[2008年]][[9月18日]] [[リーマン・ブラザーズ]]破綻…42.16 * [[2008年]][[10月24日]] [[世界金融危機]]…89.53(1993年以降の最高値) * [[2010年]][[5月21日]] [[ギリシャ]]を筆頭とする[[PIIGS]]の国債懸念…48.20 * [[2011年]][[8月9日]] [[S&P]]が米国債を格下げ…47.56 * [[2011年]][[10月4日]] [[ギリシャ]]国債のデフォルト危機…46.88 * [[2015年]][[8月24日]] 中国経済失速懸念…53.29 * [[2018年]][[2月6日]] 米雇用統計での賃金上昇をきっかけとした長期金利上昇、VIXショック「変動幅は過去最大規模」…50.30 * [[2020年]][[3月18日]] [[2019新型コロナウイルス|新型コロナウイルス]]による[[パンデミック]] …85.47 * [[2024年]][[8月5日]] 米雇用統計での失業率等悪化をきっかけとした世界同時株安 …65.73 === 低値 === * [[1993年]][[12月27日]]… 8.89 * [[2006年]][[11月22日]] …9.81 * [[2007年]][[1月24日]] … 9.87 * [[2017年]][[7月26日]] …8.84 * [[2017年]][[11月3日]] …8.99 * [[2017年]][[11月24日]] …8.56(1993年以降の最低値) * [[2018年]][[1月4日]] …8.92 == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} === 出典 === {{Reflist|2}} == 外部リンク == * [https://www.cboe.com/vix Vix Index - Cboe] * [https://finance.yahoo.com/q/bc?s=%5EVIX&t=5y&l=on&z=m&q=l&c= ^VIX Interactive Stock Chart | CBOE Volatility Index Stock - Yahoo Finance] {{証券取引所}} {{DEFAULTSORT:VIXしすう}} [[Category:数理ファイナンス]] [[Category:金融派生商品]] [[Category:恐怖]]
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