カオスの縁
カオスの縁(カオスのふち、テンプレート:Lang-en)とは、クリストファー・ラングトンにより発見され、ノーマン・パッカードにより名付けられた、セルオートマトンにおける概念テンプレート:Sfn。振る舞いが秩序からカオスへ移るようなシステムにおいて、秩序とカオスの境界に位置する領域テンプレート:Sfn。複雑系や人工生命、生命の進化などの研究において着目されてきたテンプレート:Sfn。理論生物学においては、スチュアート・カウフマンによる、生命の発生と進化には自然淘汰の他に自己組織化が必要であり、進化の結果、生命は「カオスの縁」で存在するという仮説がよく知られるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。
セル・オートマトン
1980年代初頭からスティーブン・ウルフラムは1次元セル・オートマトンのルール(遷移関数)ごとの挙動を調査し、その挙動を以下のように4つにクラス分けしたテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。
- クラスI:均一な一定状態に漸近する挙動
- クラスII:周期的な状態に漸近する挙動
- クラスIII:ランダムな状態を維持する挙動
- クラスIV:他のクラスほど厳密に定義されないが、上記の3クラスに当てはまらない挙動
ウルフラムはクラスIからIIIまでに対し、力学系の挙動とアナロジー的に該当するものを当て嵌めているテンプレート:Sfn。
ウルフラムによればクラスIVについては該当する力学系の挙動が存在しないテンプレート:Sfn。クラスIVでは非常に複雑な挙動が起こる。いくつかの局所的な構造が生み出され、それらはセル空間内を移動し、相互作用を起こし合うテンプレート:Sfn。また、ある初期値では全て一定状態に漸近したり、別の初期値では周期的状態に漸近したり、ランダム状態を維持したりなどの変化も見せるテンプレート:Sfn。以下の図はウルフラムのルール番号によってルール110と呼ばれるルールを採用したときのセル・オートマトンの挙動(時間発展)を示している。初期配置は黒一点のみが存在する場合である。クラスIVに分類されるテンプレート:Sfn。

クリストファー・ラングトンはクラスIVについてさらに調べるために、次のようなパラメータを導入したテンプレート:Sfn。
ここで、k は状態数、 ρ は近傍数を意味し、kρ は可能な近傍の状態数となるテンプレート:Sfn。状態数 k の内の任意な一つの状態 q を「静止状態」と呼ぶとするテンプレート:Sfn。nq は kρ の内の次の時刻に静止状態(すなわち q )となる数を示すテンプレート:Sfn。λ は静止状態とならない割合を示しており、一般には λ パラメータなどと呼ばれるテンプレート:Sfn。あるいは、ラングトン自身は λ パラメータのことを「あるレベルの挙動の複雑さに関連する統計量」と位置づけているテンプレート:Sfn。
nq の最小から最大までの範囲は、0 ≤ nq ≤ kρ なので、λ の範囲は 0 ≤ λ ≤ 1 となる。ラングトンによれば、λ = 0 で最少である複雑性は、λ の増加とともにも複雑性も増加し、λ がある値となったところで極大となり、その後は複雑性は減少していき、λ = 1 でまた最少となるテンプレート:Sfn。複雑性が極大となる臨界値は λc で表される。ウルフラムのクラスと一緒にまとめると、挙動とクラスと λ パラメータは以下のような関係の下に変化するテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。
| 挙動: | 不動点 | 周期的 | "複雑" | カオステンプレート:0 | |||
| ウルフラムのクラス: | クラス I | ⇒ | クラスII | ⇒ | クラスIV | ⇒ | クラスIIIテンプレート:0 |
| λ パラメータ: | 0 | λc |
ただし、上記の区分は k や ρ が大きな値のときは良く機能するが、小さいときはあまりうまく働かないテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。
このように、クラスIVはカオス的・ランダム的振る舞いと秩序的・静的振る舞いの境界に存在し、この領域を「カオスの縁」と呼ぶテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。