ガウシアンビームのソースを表示

[[ファイル:Gaussian_beam_w40mm_lambda30mm.png|right|thumb|ある瞬間におけるガウシアンビームの強度分布。]]
[[ファイル:Green_laser_pointer_TEM00_profile.JPG|right|thumb|出力 5 mW の緑色レーザーポインタの強度分布。TEM<sub>00</sub> モードの分布を示している。]]
[[光学]]において、 '''ガウシアンビーム'''（{{Lang-en-short|''Gaussian beam''}}）とは、{{仮リンク|横モード|en|Transverse mode}}の[[電場]]および強度（[[放射照度]]）分布が近似的に[[ガウス分布]]とみなせる[[電磁波]]をいう。多くの[[レーザー]]はその[[光軸]]への垂直面内の強度分布がガウス分布に近いビームを発しており、このようなレーザーでは[[光共振器|共振器]]が基本横モード、または「TEM<sub>00</sub> モード」で発振しているという。[[回折限界]]の[[レンズ]]で[[屈折]]させたとき、ガウシアンビームは別の（パラメータの違う）ガウシアンビームへと変換されるため数学的に取り扱いやすく、レーザー光学における[[数理モデル]]として広く採用されている。

ガウシアンビームが[[ヘルムホルツ方程式]]の[[近軸近似]]の下での解であることは数学的に示すことができる。この解は[[ガウス関数]]の形をとっており、ビームの電場の[[複素数|複素]]振幅を表わす。この形のビームの大きな特質として、電場と[[磁場]]が[[電磁波]]として一体となり伝播するため、電場と磁場のどちらか片方のみによってビームの特徴を記述できることが挙げられる。

ガウシアンビームが伝播するときの特徴は、スポットサイズと曲率半径、グイ位相というわずかなパラメータで記述できる{{sfn|Svelto|2010|pp=153-5}}。

近軸近似の下でのヘルムホルツ方程式には別の解も存在する。[[直交座標系|デカルト座標]]を用いて方程式を解くと、[[#エルミート・ガウシアンモード|エルミート・ガウシアンモード]]と呼ばれる一連の解が得られ、[[極座標系|円筒座標系]]を用いて解くと[[#ラゲール・ガウシアンモード|ラゲール・ガウシアンモード]]と呼ばれる一連の解が得られる{{sfn|Siegman|1986|p=642}}{{sfn|Goubau|Schwering|1961|ps=が恐らく初出。}}。どちらの解に対しても、最低次の解はガウシアンビームを表わし、高次の解は共振器の高次の横モードに対応する。
[[ファイル:Laser_gaussian_profile.svg|right|thumb|上図は紙面に垂直に伝播するガウシアンビームの二次元的照度分布を表わす。下図青線はビーム中心からの距離の関数としての電場強度を表わす。また、黒線は対応する照度関数を表わす。]]

== 数学的形式 ==
ガウシアンビームは{{仮リンク|横モード|en|Transverse mode|label=TEMモード}}の一つである{{sfn|Svelto|2010|p=158}}。このモードの複素電場強度の数学的表式は[[ヘルムホルツ方程式|近軸ヘルムホルツ方程式]]を解くことで得られ、以下のような表式を得る{{sfn|Svelto|2010|pp=153-5}}。
{{Indent|<math>E(r,z) = E_0 \frac{w_0}{w(z)} \exp \left( \frac{-r^2}{w(z)^2} -ikz -ik \frac{r^2}{2R(z)} +i \zeta(z) \right)</math>}}
ここに、変数は以下のように定義する{{sfn|Svelto|2010|pp=153-5}}。
: {{Mvar|r}} はビームの中心軸からの距離
: {{Mvar|z}} はビーム径の最も収束している点（ビームウェスト）からの中心軸方向の距離
: {{Mvar|i}} は[[虚数単位]] ({{Math|1 = {{Mvar|i}}{{Sup|2}} = -1}})
: {{Math|1 = {{Mvar|k}} = 2{{Mvar|&pi;}}/{{Mvar|&lambda;}}}} は[[波数]]（単位はラジアン毎メートル）
: {{Math|1 = {{Mvar|E}}{{Sub|0}} = {{Mabs|{{Mvar|E}}(0,0)}}}}
: {{Math|{{Mvar|w}}({{Mvar|z}})}} はスポットサイズ（電界強度および放射照度が中心軸上の値からそれぞれ 1/''e'' および 1/''e''<sup>2</sup> になる半径）
: {{Math|1 = {{Mvar|w}}{{Sub|0}} = {{Mvar|w}}(0)}} はビームウェストでのスポットサイズ
: {{Math|{{Mvar|R}}({{Mvar|z}})}}は[[波面]]の[[曲率半径]]
: {{Math|{{Mvar|&zeta;}}({{Mvar|z}})}} はガウシアンビームに見られる特別な寄与である[[#グイ位相|グイ位相]]シフト
厳密には時間依存因子 {{Math|{{Mvar|e}}{{Sup|{{Mvar|i&omega;t}}}}}} もかかっているが、上の式では省略されている。

対応する時間平均強度分布は以下のように表わされる。
{{Indent|<math>I(r,z) =  { |E(r,z)|^2  \over  2 \eta   }  = I_0 \left( \frac{w_0}{w(z)} \right)^2 \exp \left( \frac{-2r^2}{w^2(z)} \right)</math>}}
ここで {{Math|1 = {{Mvar|I}}{{Sub|0}} = {{Mvar|I}}(0,0)}} はビームウェストの中心における放射照度であり、定数 {{Mvar|&eta;}} はビームの伝播している媒質の特性インピーダンスである。自由空間においては、 {{Math|1 = {{Mvar|&eta;}} = {{Mvar|&eta;}}{{Sub|0}} = {{Sqrt|{{Mvar|&mu;}}{{Sub|0}}/{{Mvar|&epsilon;}}{{Sub|0}} }}= 1/({{Mvar|c}}{{Mvar|&epsilon;}}{{Sub|0}}) &asymp; 376.7 &Omega;}} となる。

== ビームパラメータ ==
ガウシアンビームのふるまいと形状は以下にしめす一連の'''ビームパラメータ'''により記述される。

=== ビーム幅またはスポットサイズ ===
自由空間を伝播するガウシアンビームにおいては、スポットサイズ（半径） {{Math|''w''(''z'')}} は''ビームウェスト''とよばれる光軸上のある点で最小値 {{Math|''w''<sub>0</sub>}} をとる。波長 {{Mvar|λ}} のビームの、ビームウェストから光軸にそって距離 {{Mvar|z}} の点におけるスポットサイズは以下のように与えられる{{sfn|Svelto|2010|pp=153-5}}。
{{Indent|<math>w(z) = w_0 \, \sqrt{ 1+ {\left( \frac{z}{z_\mathrm{R}} \right)}^2 }</math>}}
ここで {{Mvar|z}}-軸の原点はビームウェストと一致するようにとることとし{{sfn|Svelto|2010|pp=153-5}}、
{{Indent|<math>z_\mathrm{R} = \frac{\pi w_0^2}{\lambda}</math>}}
は[[レイリー範囲]]と呼ばれる量である。

=== レイリー範囲と共焦点パラメータ ===
ビームウェストからレイリー範囲 {{Math|''z''<sub>R</sub>}} だけ離れた点ではビーム幅 {{Mvar|w}} は以下のように与えられる{{sfn|Svelto|2010|pp=153-5}}。
{{Indent|<math> w(\pm z_\mathrm{R}) = \sqrt{2} w_0</math>}}
この二つの点の間の距離は「共焦点パラメータ」もしくはビームの「焦点深度」と呼ばれる。
{{Indent|<math>b = 2 z_\mathrm{R} = \frac{2 \pi w_0^2}{\lambda}</math>}}

=== 曲率半径 ===
{{Math|''R''(''z'')}} はビームを構成する波面の「{{仮リンク|曲率半径 (光学)|label=曲率半径|en|Radius of curvature (optics)}}」であり、以下のような位置の関数として与えられる{{sfn|Svelto|2010|pp=153-5}}。
{{Indent|<math>R(z) = z \left[{ 1+ {\left( \frac{z_\mathrm{R}}{z} \right)}^2 } \right]</math>}}

=== 発散角 ===
パラメータ {{Math|''w''(''z'')}} は {{Math|''z'' ≫ ''z''<sub>R</sub>}} のときには {{Mvar|z}} に比例するものと見なせる。このことは、ビームウェストから離れればビームは[[円錐]]形とみなせることを意味する。直線 {{Math|1=''r'' = ''w''(''z'')}} とビームの中心軸 {{Math|1=''r'' = 0}} との成す角度は、ビームの「発散角」と呼ばれ、以下のように与えられる{{sfn|Svelto|2010|pp=153-5}}。
{{Indent|<math>\theta \simeq \frac{\lambda}{\pi w_0}</math>}}
ここで、{{Mvar|&theta;}}の単位はラジアンである。

ビームウェストから遠いときのビームの拡がり角は以下のように与えられる。
{{Indent|<math>\Theta = 2 \theta</math>}}
発散角はビームウェストサイズ {{Math|''w''<sub>0</sub>}} に反比例するため、より焦点サイズの小さいガウシアンビームは伝播するにつれてより速く拡がっていくことになる。逆に言えば、レーザービームの平行性を高く保つためには、半径は大きくしなければならない。このビーム幅と発散角との間の関係は[[回折]]に起因する。非ガウシアンビームでもこの効果はみられるが、ガウシアンビームはビーム幅と発散角との積が可能な限り小さい特殊例である。

ガウシアンビームモデルは近軸近似に基いているため、波面がおよそ 30°以上傾いた場合には適用できなくなる{{sfn|Siegman|1986|p=630}}。上の発散角についての式より、ガウシアンビームモデルが {{Math|2{{Mvar|&lambda;}}/{{Mvar|&pi;}}}} より大きなビームウェストサイズを持つときのみに適用できることになる。

{{仮リンク|レーザービームの品質|en|Laser beam quality}}はビームパラメータ積 (beam parameter product, BPP) により評価できる。ガウシアンビームについては、 BPP は発散角とビームウェストサイズ {{Math|''w''<sub>0</sub>}} の積である。実際のビームの BPP はビームの最小直径と遠地点における発散角を実測して積をとることにより求められる。実際のビームの BPP と、同波長の理想的なガウシアンビームにおける BPP の比は {{Math|{{Mvar|M}}{{Sup|2}}}} と呼ばれる。ガウシアンビームにおいては、 {{Math|{{Mvar|M}}{{Sup|2}}}} の値は1である。実際のビームはかならず1より大きい {{Math|{{Mvar|M}}{{Sup|2}}}} 値を持つが、高品質なビームでは非常に1に近い値となる。

ガウシアンビームの[[開口数]]は {{Math|1 = NA = {{Mvar|n}}sin{{Mvar|&theta;}}}} で定義される。ここで、 {{Mvar|n}} はビームの伝播する媒質の[[屈折率]]である。この定義式より、レイリー散乱は開口数により次の式で表わすことができることが導かれる。
{{Indent|<math>z_\mathrm{R} = w_0 / \mathrm{NA}</math>}}

=== グイ位相 ===
光軸上の「縦位相の遅れ」、もしくはグイ位相シフトは以下のように表わされる{{sfn|Svelto|2010|pp=153-5}}。
{{Indent|<math>\zeta(z) = \arctan \left( \frac{z}{ z_\mathrm{R} } \right)</math>}}
グイ位相シフトはガウシアンビームがビームウェストから離れた片側からもう片側に伝播するとき、平面波と同じ通常の位相シフト {{Math|{{Mvar|e}}{{Sup|{{Mvar|ikz}}}}}} の他に {{Mvar|&pi;}} だけ位相がずれることを示している{{sfn|Svelto|2010|pp=153-5}}{{Sfn|Paschotta}}。

=== 複素ビームパラメータ ===
ガウシアンビームのスポットサイズと曲率半径についての情報を次の一つの複素ビームパラメータ {{Math|{{Mvar|q}}({{Mvar|z}})}} により表わすことができる{{Sfn|Siegman|1986|pp=638-40}}{{Sfn|Garg|2012|pp=165-168}}。
{{Indent|<math> q(z) =  z + q_0  = z + iz_\mathrm{R}</math>}}
この逆数 {{Math|1/{{Mvar|q}}({{Mvar|z}})}} をとると、以下の式のように {{Math|{{Mvar|q}}({{Mvar|z}})}} と {{Math|{{Mvar|w}}({{Mvar|z}})}}, {{Math|{{Mvar|R}}({{Mvar|z}})}} との関係が顕わに示される{{Sfn|Siegman|1986|pp=638-40}}。
{{Indent|<math>  { 1 \over q(z) }   =   { 1 \over z + iz_\mathrm{R} } =   { z \over z^2 + z_\mathrm{R}^2  }  -  i  { z_\mathrm{R} \over z^2 + z_\mathrm{R}^2  } = {1 \over R(z) } - i {\lambda \over \pi w^2(z)}</math>}}
複素ビームパラメータはガウシアンビームの解析において、特に{{仮リンク|転送行列|label=転送行列|en|Ray transfer matrix analysis}}を用いた[[光共振器]]の解析において重要である。

潜在的に楕円の、または[[非点収差]]をもつビームの振幅 {{Mvar|u}} は次のように二つの関数の積として表わせる。
{{Indent|<math>{u}(x,y,z) = {u}(x,z)\, {u}(y,z)</math>}}
ここで、 
{{Indent|<math>{u}(x,z) = \frac{1}{\sqrt{{q}_x(z)}} \exp\left(-i k \frac{x^2}{2 {q}_x(z)}\right)</math>}}
{{Indent|<math>{u}(y,z) = \frac{1}{\sqrt{{q}_y(z)}} \exp\left(-i k \frac{y^2}{2 {q}_y(z)}\right)</math>}}
: {{Math|{{Mvar|q}}{{Sub|{{Mvar|x}}}}({{Mvar|z}})}}, {{Math|{{Mvar|q}}{{Sub|{{Mvar|y}}}}({{Mvar|z}})}} はそれぞれ {{Mvar|x}}, {{Mvar|y}} 方向の複素ビームパラメータである。
通常の{{仮リンク|円対称|en|Circular symmetry}}の場合、 {{Math|1 = {{Mvar|q}}{{Sub|{{Mvar|x}}}}({{Mvar|z}}) = {{Mvar|q}}{{Sub|{{Mvar|x}}}}({{Mvar|z}}) = {{Mvar|q}}}} が成り立ち、 {{Math|1 = {{Mvar|x}}{{Sup|2}} + {{Mvar|y}}{{Sup|2}} = {{Mvar|r}}{{Sup|2}}}} とすれば下の式を得る{{Sfn|Siegman|1986|p=639}}。

{{Indent|<math>
{u}(r,z) = \frac{1}{{q}(z)}\exp\left( -i k\frac{r^2}{2 {q}(z)}\right)
</math>
}}

== パワーと放射照度 ==
=== 開口を通るパワー ===
位置 {{Mvar|z}} の光軸に垂直な面上の半径 {{Mvar|r}} をもつ円を通過する[[仕事率|パワー]] {{Mvar|P}} は以下のように表わされる{{Sfn|Melles&nbsp;Griot|Newport}}。
{{Indent|<math>  P(r,z) =  P_0 \left[ 1 - e^{-2r^2 / w^2(z)} \right]</math>}}
ここで、
{{Indent|<math> P_0 = { 1 \over 2 } \pi I_0 w_0^2 </math>}}
はビームの運ぶパワーの総計である。

円の半径が {{Math|1 = {{Mvar|r}} = {{Mvar|w}}({{Mvar|z}})}} のとき、この円を通過するパワーの全体に占める比率は以下の定数である。
{{Indent|<math>{ P(z) \over P_0 } = 1 - e^{-2} \approx 0.865</math>}}
同じように、パワー全体の90%は半径 {{Math|1 = {{Mvar|r}} = 1.07{{Mvar|w}}({{Mvar|z}})}} の円を通過し、95%が半径 {{Math|1 = {{Mvar|r}} = 1.224{{Mvar|w}}({{Mvar|z}})}} の円、99%が半径 {{Math|1 = {{Mvar|r}} = 1.52{{Mvar|w}}({{Mvar|z}})}} の円を通過する{{Sfn|Melles&nbsp;Griot|Newport}}。

=== 放射照度のピーク値と平均値 ===
光軸上のビームウェストから距離 {{Mvar|z}} の点におけるピーク放射照度は、半径 {{Mvar|r}} の円を通るパワーを {{Math|{{Mvar|&pi;r}}{{Sup|2}}}} で割ったものの極限を[[ロピタルの定理]]を用いて計算すれば以下のように求めることができる。
{{Indent|<math>I(0,z) =\lim_{r\to 0} \frac {P_0 \left[ 1 - e^{-2r^2 / w^2(z)} \right]} {\pi r^2} 
         = \frac{P_0}{\pi} \lim_{r\to 0} \frac { \left[ -(-2)(2r) e^{-2r^2 / w^2(z)} \right]} {w^2(z)(2r)} 
         = {2P_0 \over \pi w^2(z)}</math>}}
よって、放射照度のピーク値は、半径 {{Math|{{Mvar|w}}({{Mvar|z}})}} の円の面積でパワーの総計値を割って求められる、「平均強度」のちょうど2倍である。

== 導出 ==
ガウシアンビームの数学的形式は、以下に示す自由空間または一様な誘電率をもつ媒質における{{仮リンク|電磁波の波動方程式|en|Electromagnetic wave equation}}を基礎とする{{Sfn|Svelto|2010|p=148}}。
{{Indent|<math> \nabla^2 U = \frac{1}{c^2} \frac{\partial^2 U}{\partial t^2}</math>}}
{{Mvar|U}} は <math>E_x</math>, <math>E_y</math>, <math>E_z</math>, <math>B_x</math>, <math>B_y</math>, <math>B_z</math> の六つの成分のうちどれかを表わす。ガウシアンビームの数式を導出するために、この方程式の解を次のように書き下す{{Sfn|Svelto|2010|p=148}}。
{{Indent|<math> U(x,y,z,t) = u(x,y,z) e^{-i(kz-\omega t)}</math>}}
ここで、ビームは十分に{{仮リンク|label=コリメート|コリメート光|en|Collimated light}}されている、すなわち {{Mvar|z}} 軸に対して十分平行であるため、{{Math|&PartialD;<sup>2</sup>''u''/&PartialD;''z''<sup>2</sup>}} は無視できるものと仮定している。この解を上の波動方程式に代入すると、下に示す[[ヘルムホルツ方程式|近軸近似の下での波動方程式]]が得られる{{Sfn|Svelto|2010|p=148}}。
{{Indent|<math>\frac{\partial^2 u}{\partial x^2} + \frac{\partial^2 u}{\partial y^2} = 2ik \frac{\partial u}{\partial z}</math>}}
この微分方程式は無限の解関数を持つが、ガウシアンビームはそれらのうち最も低次のモードである。

== 高次のモード ==
ガウシアンビームは近軸近似の下であり得る無数のモードのうちの一つにすぎない。これらの互いに[[直交]]するモードもレーザービームのモデリングに用いられる。一般に、[[基底 (線型代数学)|基底]]系が完全であれば、その線形結合をとることによってあらゆる実際のレーザービームを記述することができる。レーザーの設計によって、どのモードがそのレーザービームのモデルに適しているかが決まる。出力されるレーザーがある一つの高次モードによりよく近似されることもありうる。 多くのレーザー系はビームの伝播方向に直交する面での反転対称性をもつため、エルミート・ガウシアンモードが特によく用いられる。

=== エルミート・ガウシアンモード ===
[[ファイル:Hermite-gaussian.png|right|thumb|250x250px|エルミート・ガウシアンモードの例]]
エルミート・ガウシアンモードは共振器が回転対称でなく、水平方向と鉛直方向が同等でない場合の出力レーザーの記述に便利である。上に定義した複素パラメータ {{Mvar|q}} を用いると、 {{Mvar|x}}-面内の振幅分布は以下の関数に比例する。
{{Indent|<math>
{u}_n(x,z) = \left(\frac{2}{\pi}\right)^{1/4} \left(\frac{1}{2^n n! w_0}\right)^{1/2} \left( \frac{{q}_0}{{q}(z)}\right)^{1/2} \left[\frac{{q}_0}{{q}_0^\ast} \frac{{q}^\ast(z)}{{q}(z)}\right]^{n/2} H_n\left(\frac{\sqrt{2}x}{w(z)}\right) \exp\left[-i \frac{k x^2}{2 {q}(z)}\right]
</math>}}
ここで、 {{Math|{{Mvar|H{{Sub|n}}}}({{Mvar|x}})}} は {{Mvar|n}} 次の[[エルミート多項式]]と呼ばれる関数（ここでは物理学者の定式を用いる。すなわち、 {{Math|1 = {{Mvar|H{{Sub|1}}}}({{Mvar|x}}) = 2{{Mvar|x}}}} とする）で、アスタリスクは[[複素共役]]を示す。{{Math|1 = {{Mvar|n}} = 0}} の場合がガウシアンモードの分布と対応する。

二次元[[直交座標系]]においては、{{Math|1 = {{Mvar|u{{Sub|mn}}}}({{Mvar|x}},{{Mvar|y}},{{Mvar|z}}) = {{Mvar|u{{Sub|m}}}}({{Mvar|x}},{{Mvar|z}}){{Mvar|u{{Sub|n}}}}({{Mvar|y}},{{Mvar|z}})}} のように関数を二つにわけることができる。ここで、 {{Math|{{Mvar|u{{Sub|n}}}}({{Mvar|y}},{{Mvar|z}})}} は {{Math|{{Mvar|u{{Sub|m}}}}({{Mvar|x}},{{Mvar|z}})}} と同じ形式を持つ。数学的には、この性質は 直交座標系における[[ヘルムホルツ方程式]]が[[変数分離]]できることに起因する{{Sfn|Siegman|1986|p=645|ps= , eq. 54}}。

エルミート・ガウシアンモードは通常「TEM<sub>''mn''</sub>」のように表記される。ここで、 {{Mvar|m}}, {{Mvar|n}} はそれぞれ {{Mvar|x}}, {{Mvar|y}} 方向の多項式の次数である。よって、ガウシアンモードは TEM{{Sub|00}} と表記される。

TEM{{Sub|{{Mvar|mn}}}} モードのグイ位相は TEM{{Sub|00}} モードの場合よりも強く、 {{Math|1 + {{Mvar|n}} + {{Mvar|m}}}} 倍になる{{Sfn|Paschotta}}。軸上以外の位相シフトも異なる{{Sfn|Wang|Sun|Cui|Ye|2013}}。

=== ラゲール・ガウシアンモード ===
[[ファイル:LG-wiki.jpg|right|thumb|ラゲール・ガウシアンモードの強度分布の例。]]
円筒対称性のある場合、近軸波動方程式の自然な解はラゲール・ガウシアンモードを与える{{sfn|Goubau|Schwering|1961|ps=が恐らく初出。}}。このモードは、円筒座標系と[[ラゲールの陪多項式|ラゲール多項式]]を用いて以下のように書ける。
{{Indent|<math>{u}(r,\phi,z)=\frac{C^\mathrm{LG}_{lp}}{w(z)}\left(\frac{r \sqrt{2}}{w(z)}\right)^{|l|}\exp\left(-\frac{r^2}{w^2(z)}\right)L_p^{|l|} \left(\frac{2r^2}{w^2(z)}\right) 
\exp\left( - i k \frac{r^2}{2 R(z)}\right)\exp(i l \phi)\exp\left[i(2p+|l|+1)\zeta(z)\right]
</math>}}{{sfn|Allen|1992}}
ここで、 {{Math|''L''{{su|b=''p''|p=''l''}}}} は動径指数 {{Math|''p'' &ge; 0}} 、偏角指数 {{Mvar|l}} の[[ラゲールの陪多項式|一般化ラゲール関数]]である。 {{Math|''C''{{su|b=''lp''|p=LG}}}} は適当な正規化因子、{{Math|''w''(''z''), ''R''(''z''), ''&zeta;''(''z'')}}  は[[#ビームパラメータ|前述]]のビームパラメータである。

=== インス・ガウシアンモード ===
{{仮リンク|楕円座標系|en|Elliptic_coordinate_system}}においては、高次のモードは{{仮リンク|インス方程式|en|Ince equation|label = インス多項式}}を用いて書き下せる。偶数および奇数インス・ガウシアンモードは以下のように与えられる{{sfn|Bandres|Gutierrez-Vega|2004}}。
{{Indent|<math>
u_\varepsilon \left( \xi ,\eta ,z\right) = \frac{w_{0}}{w\left(
z\right) }\mathrm{C}_{p}^{m}\left( i\xi ,\varepsilon \right) \mathrm{C}
_{p}^{m}\left( \eta ,\varepsilon \right) \exp \left[ -ik\frac{r^{2}}{
2q\left( z\right) }-\left( p+1\right) \zeta\left( z\right) \right]
</math>}}
ここで、 {{Mvar|&xi;}}, {{Mvar|&eta;}} はそれぞれ楕円座標系の動径座標と偏角座標であり、以下のように定義される。
{{Indent|<math>
x = \sqrt{\varepsilon /2}w\left( z\right) \cosh \xi \cos \eta
</math>}}
{{Indent|<math>
y = \sqrt{\varepsilon /2}w\left( z\right) \sinh \xi \sin \eta
</math>}}
<math>{C}_{p}^{m}\left( \eta ,\varepsilon \right)</math> は次数 {{Mvar|p}} 、度数 {{Mvar|m}} の偶数インス多項式であり、 {{Mvar|&epsilon;}} は楕円度パラメータである。エルミート・ガウシアンモードとラゲール・ガウシアンモードはインス・ガウシアンモードのそれぞれ {{Math|1 = {{Mvar|&epsilon;}} = &infin;}} および {{Math|1 = {{Mvar|&epsilon;}} = 0}}  の場合に相当する。

=== 超幾何ガウシアンモード ===
近軸モードには、他にも[[極座標系]]において[[フェーザ表示|複素振幅]]が{{仮リンク|合流型超幾何関数|en|Confluent_hypergeometric_function}}に比例する一連のモードがある。

これらのモードは位相[[特異点 (数学)|特異点]]をもち、{{仮リンク|光子の軌道角運動量|en|Orbital angular momentum of light}}の固有関数である。強度分布は中心に振幅がゼロとなる特異点を持つ、単一の明いリング状になる。振幅は正規化された無次元の動径座標 {{Math|1=''&rho;'' = ''r''/''w''<sub>0</sub>}} と縦座標 {{Math|1=&Zeta; = ''z''/''z''<sub>R</sub>}} を用いて以下のように書き下される。{{Sfn|Karimi|Zito|Piccirillo|Marrucci|2007}}
{{Indent|<math>
u_{pm}(\rho,\theta;\Zeta)=
     \sqrt{\frac{2^{p+|m|+1}}{\pi\Gamma(p+|m|+1)}} \frac{\Gamma(1+|m|+\frac{p}{2})}{\Gamma(|m|+1)}
    \,\,i^{|m|+1}\Zeta^{\frac{p}{2}}(\Zeta+i)^{-(1+|m|+\frac{p}{2})}\rho^{|m|}e^{-\frac{i\rho^2}{(\Zeta+i)}}e^{im\phi}{}_{1}F_{1}\left(-\frac{p}{2}, |m|+1;\frac{r^2}{\Zeta(\Zeta+i)}\right)
</math>}}
ここで {{Mvar|m}} は整数、 {{math|''p'' &ge; &minus;{{mabs|''m''}}}} は実数、 {{math|&Gamma;(''x'')}} はガンマ関数、{{math|<sub>1</sub>''F''<sub>1</sub>(''a'', ''b''; ''x'')}}  は合流型超幾何関数である。

超幾何ガウシアン ({{Lang-en-short|hypergeometric-Gaussian}}, HyGG) モードの部分集合として、ベッセル・ガウシアンモード、修正指数ガウシアンモード、修正ラゲール・ガウシアンモードがある。

超幾何ガウシアンモードは過完備基底系を成し、直交基底系ではない。このモードは全体としては複雑な分布を持つが、瞳面 ({{Math|1 = {{Mvar|Z}} = 0}}) においては非常に単純な分布を示す。
{{Indent|<math>  
u(\rho,\phi,0) \propto \rho^{p+|m|}e^{-\rho^2+im\phi}
</math>}}

== 脚注 ==
{{Reflist|3}}

== 参考文献 ==
*{{cite journal
 | first1= Miguel A. 
 | last1=Bandres 
 |first2=Julio C. 
 |last2=Gutierrez-Vega
 | title=Ince Gaussian beams
 | journal= Opt. Lett.
 | pages = 144–146 
 | publisher = OSA
 | volume = 29 
 | year = 2004
 | url = http://www.opticsinfobase.org/abstract.cfm?URI=ol-29-2-144
 | doi= 10.1364/OL.29.000144
 | pmid= 14743992
 | issue= 2
 |bibcode = 2004OptL...29..144B
 | ref = harv
}}
*{{cite book | title = Classical Electromagnetism in a Nutshell | last = Garg | first = Anupam | publisher = Princeton University Press | location = Princeton, N.J. | year = 2012 | isbn = 0691130183 | ref = harv }}
*{{cite journal
 | last1= Goubau
 | first1= G
 | last2= Schwering
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 | title=On the guided propagation of electromagnetic wave beams
 | journal= IRE Trans.
 | volume = 9 
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 | mr = 0134166 |bibcode = 1961ITAP....9..248G 
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*{{cite journal
 | first1= E. |last1=Karimi |first2=G. |last2=Zito |first3=B. |last3=Piccirillo |first4=L. |last4=Marrucci |first5=E. |last5=Santamato
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*{{cite book | title = Optical Coherence and Quantum Optics | last1=Mandel |first1=Leonard |last2=Wolf |first2=Emil  | publisher = Cambridge University Press | location = Cambridge |  year = 1995 | isbn= 0-521-41711-2 }} Chapter 5, "Optical Beams," pp.&nbsp;267.
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*{{cite book | title = Fundamentals of Photonics | last1 = Saleh |first1=Bahaa E. A. |last2=Teich |first2=Malvin Carl  | publisher = John Wiley & Sons | location = New York |  year = 1991 | isbn= 0-471-83965-5 }} Chapter 3, "Beam Optics," pp.&nbsp;80&ndash;107.
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*{{cite book | first =Amnon | last =Yariv | year =1989 | title = Quantum Electronics| edition =3rd | publisher =Wiley | isbn =0-471-60997-8}}
* {{cite web  |title=Gouy Phase Shift |url=https://www.rp-photonics.com/gouy_phase_shift.html |work=Encyclopedia of Laser Physics and Technology |publisher=RP Photonics |first=Rüdiger |last=Paschotta |accessdate=May 2, 2014 | ref= harv}}
* {{cite journal |journal=Optics Express |volume=21 |issue=2 |pages=2337–2346 |year=2013 |doi=10.1364/OE.21.002337 |title=Complete presentation of the Gouy phase shift with the THz digital holography |first1=Xinke |last1=Wang |first2=Wenfeng |last2=Sun |first3=Ye |last3=Cui |first4=Jiasheng |last4=Ye |first5=Shengfei |last5=Feng |first6=Yan |last6=Zhang |url=http://www.opticsinfobase.org/view_article.cfm?gotourl=http%3A%2F%2Fwww.opticsinfobase.org%2FDirectPDFAccess%2F81BE495C-93D8-6B94-1855F531C2FC3F3C_248699%2Foe-21-2-2337.pdf%3Fda%3D1%26id%3D248699%26seq%3D0%26mobile%3Dno&org= |format=pdf|bibcode = 2013OExpr..21.2337W | ref=harv}}
*{{Cite web
 | title = Gaussian Beam Optics 
 | url=http://www.pa.msu.edu/courses/2010fall/phy431/PostNotes/PHY431-Notes-GaussianBeamOptics.pdf
 | publisher = Melles&nbsp;Griot and Newport
 | format = pdf
 | ref={{sfnref|Melles&nbsp;Griot|Newport}}
 | accessdate = 2015-10-03
}}
* {{cite journal |title=Orbital angular momentum of light and the transformation of Laguerre-Gaussian laser modes |journal=Physical Review A |volume=45 |issue=11 | year = 1992 |date=June 1, 1992 |page=8185 |url=http://www.science.uva.nl/research/aplp/eprints/AllBeiSpr92.pdf |first1=L. |last1=Allen |doi=10.1103/physreva.45.8185|bibcode = 1992PhRvA..45.8185A | ref = harv}}

== 関連項目 ==
* [[ベッセルビーム]]
* {{仮リンク|トップハットビーム|en|Tophat beam}}
* {{仮リンク|レーザープロファイラ|en|Laser_beam_profiler}}

== 外部リンク ==
* [http://marketplace.idexop.com/store/SupportDocuments/Gaussian_Beam_PropagationWEB.pdf Gaussian Beam Propagation] - IDEX Optics & Photonics Technical Guide
* [http://www.newport.com/Gaussian-Beam-Optics/144899/1033/content.aspx Gaussian Beam Optics Tutorial, Newport]

{{レーザー}}
{{デフォルトソート:かうしあんひいむ}}
[[Category:電磁波]]
[[Category:レーザー]]