ガウシアンビーム

光学において、 ガウシアンビーム(テンプレート:Lang-en-short)とは、テンプレート:仮リンクの電場および強度(放射照度)分布が近似的にガウス分布とみなせる電磁波をいう。多くのレーザーはその光軸への垂直面内の強度分布がガウス分布に近いビームを発しており、このようなレーザーでは共振器が基本横モード、または「TEM00 モード」で発振しているという。回折限界のレンズで屈折させたとき、ガウシアンビームは別の(パラメータの違う)ガウシアンビームへと変換されるため数学的に取り扱いやすく、レーザー光学における数理モデルとして広く採用されている。
ガウシアンビームがヘルムホルツ方程式の近軸近似の下での解であることは数学的に示すことができる。この解はガウス関数の形をとっており、ビームの電場の複素振幅を表わす。この形のビームの大きな特質として、電場と磁場が電磁波として一体となり伝播するため、電場と磁場のどちらか片方のみによってビームの特徴を記述できることが挙げられる。
ガウシアンビームが伝播するときの特徴は、スポットサイズと曲率半径、グイ位相というわずかなパラメータで記述できるテンプレート:Sfn。
近軸近似の下でのヘルムホルツ方程式には別の解も存在する。デカルト座標を用いて方程式を解くと、エルミート・ガウシアンモードと呼ばれる一連の解が得られ、円筒座標系を用いて解くとラゲール・ガウシアンモードと呼ばれる一連の解が得られるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。どちらの解に対しても、最低次の解はガウシアンビームを表わし、高次の解は共振器の高次の横モードに対応する。

数学的形式
ガウシアンビームはテンプレート:仮リンクの一つであるテンプレート:Sfn。このモードの複素電場強度の数学的表式は近軸ヘルムホルツ方程式を解くことで得られ、以下のような表式を得るテンプレート:Sfn。 テンプレート:Indent ここに、変数は以下のように定義するテンプレート:Sfn。
- テンプレート:Mvar はビームの中心軸からの距離
- テンプレート:Mvar はビーム径の最も収束している点(ビームウェスト)からの中心軸方向の距離
- テンプレート:Mvar は虚数単位 (テンプレート:Math)
- テンプレート:Math は波数(単位はラジアン毎メートル)
- テンプレート:Math
- テンプレート:Math はスポットサイズ(電界強度および放射照度が中心軸上の値からそれぞれ 1/e および 1/e2 になる半径)
- テンプレート:Math はビームウェストでのスポットサイズ
- テンプレート:Mathは波面の曲率半径
- テンプレート:Math はガウシアンビームに見られる特別な寄与であるグイ位相シフト
厳密には時間依存因子 テンプレート:Math もかかっているが、上の式では省略されている。
対応する時間平均強度分布は以下のように表わされる。 テンプレート:Indent ここで テンプレート:Math はビームウェストの中心における放射照度であり、定数 テンプレート:Mvar はビームの伝播している媒質の特性インピーダンスである。自由空間においては、 テンプレート:Math となる。
ビームパラメータ
ガウシアンビームのふるまいと形状は以下にしめす一連のビームパラメータにより記述される。
ビーム幅またはスポットサイズ
自由空間を伝播するガウシアンビームにおいては、スポットサイズ(半径) テンプレート:Math はビームウェストとよばれる光軸上のある点で最小値 テンプレート:Math をとる。波長 テンプレート:Mvar のビームの、ビームウェストから光軸にそって距離 テンプレート:Mvar の点におけるスポットサイズは以下のように与えられるテンプレート:Sfn。 テンプレート:Indent ここで テンプレート:Mvar-軸の原点はビームウェストと一致するようにとることとしテンプレート:Sfn、 テンプレート:Indent はレイリー範囲と呼ばれる量である。
レイリー範囲と共焦点パラメータ
ビームウェストからレイリー範囲 テンプレート:Math だけ離れた点ではビーム幅 テンプレート:Mvar は以下のように与えられるテンプレート:Sfn。 テンプレート:Indent この二つの点の間の距離は「共焦点パラメータ」もしくはビームの「焦点深度」と呼ばれる。 テンプレート:Indent
曲率半径
テンプレート:Math はビームを構成する波面の「テンプレート:仮リンク」であり、以下のような位置の関数として与えられるテンプレート:Sfn。 テンプレート:Indent
発散角
パラメータ テンプレート:Math は テンプレート:Math のときには テンプレート:Mvar に比例するものと見なせる。このことは、ビームウェストから離れればビームは円錐形とみなせることを意味する。直線 テンプレート:Math とビームの中心軸 テンプレート:Math との成す角度は、ビームの「発散角」と呼ばれ、以下のように与えられるテンプレート:Sfn。 テンプレート:Indent ここで、テンプレート:Mvarの単位はラジアンである。
ビームウェストから遠いときのビームの拡がり角は以下のように与えられる。 テンプレート:Indent 発散角はビームウェストサイズ テンプレート:Math に反比例するため、より焦点サイズの小さいガウシアンビームは伝播するにつれてより速く拡がっていくことになる。逆に言えば、レーザービームの平行性を高く保つためには、半径は大きくしなければならない。このビーム幅と発散角との間の関係は回折に起因する。非ガウシアンビームでもこの効果はみられるが、ガウシアンビームはビーム幅と発散角との積が可能な限り小さい特殊例である。
ガウシアンビームモデルは近軸近似に基いているため、波面がおよそ 30°以上傾いた場合には適用できなくなるテンプレート:Sfn。上の発散角についての式より、ガウシアンビームモデルが テンプレート:Math より大きなビームウェストサイズを持つときのみに適用できることになる。
テンプレート:仮リンクはビームパラメータ積 (beam parameter product, BPP) により評価できる。ガウシアンビームについては、 BPP は発散角とビームウェストサイズ テンプレート:Math の積である。実際のビームの BPP はビームの最小直径と遠地点における発散角を実測して積をとることにより求められる。実際のビームの BPP と、同波長の理想的なガウシアンビームにおける BPP の比は テンプレート:Math と呼ばれる。ガウシアンビームにおいては、 テンプレート:Math の値は1である。実際のビームはかならず1より大きい テンプレート:Math 値を持つが、高品質なビームでは非常に1に近い値となる。
ガウシアンビームの開口数は テンプレート:Math で定義される。ここで、 テンプレート:Mvar はビームの伝播する媒質の屈折率である。この定義式より、レイリー散乱は開口数により次の式で表わすことができることが導かれる。 テンプレート:Indent
グイ位相
光軸上の「縦位相の遅れ」、もしくはグイ位相シフトは以下のように表わされるテンプレート:Sfn。 テンプレート:Indent グイ位相シフトはガウシアンビームがビームウェストから離れた片側からもう片側に伝播するとき、平面波と同じ通常の位相シフト テンプレート:Math の他に テンプレート:Mvar だけ位相がずれることを示しているテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。
複素ビームパラメータ
ガウシアンビームのスポットサイズと曲率半径についての情報を次の一つの複素ビームパラメータ テンプレート:Math により表わすことができるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。 テンプレート:Indent この逆数 テンプレート:Math をとると、以下の式のように テンプレート:Math と テンプレート:Math, テンプレート:Math との関係が顕わに示されるテンプレート:Sfn。 テンプレート:Indent 複素ビームパラメータはガウシアンビームの解析において、特にテンプレート:仮リンクを用いた光共振器の解析において重要である。
潜在的に楕円の、または非点収差をもつビームの振幅 テンプレート:Mvar は次のように二つの関数の積として表わせる。 テンプレート:Indent ここで、 テンプレート:Indent テンプレート:Indent
- テンプレート:Math, テンプレート:Math はそれぞれ テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar 方向の複素ビームパラメータである。
通常のテンプレート:仮リンクの場合、 テンプレート:Math が成り立ち、 テンプレート:Math とすれば下の式を得るテンプレート:Sfn。
パワーと放射照度
開口を通るパワー
位置 テンプレート:Mvar の光軸に垂直な面上の半径 テンプレート:Mvar をもつ円を通過するパワー テンプレート:Mvar は以下のように表わされるテンプレート:Sfn。 テンプレート:Indent ここで、 テンプレート:Indent はビームの運ぶパワーの総計である。
円の半径が テンプレート:Math のとき、この円を通過するパワーの全体に占める比率は以下の定数である。 テンプレート:Indent 同じように、パワー全体の90%は半径 テンプレート:Math の円を通過し、95%が半径 テンプレート:Math の円、99%が半径 テンプレート:Math の円を通過するテンプレート:Sfn。
放射照度のピーク値と平均値
光軸上のビームウェストから距離 テンプレート:Mvar の点におけるピーク放射照度は、半径 テンプレート:Mvar の円を通るパワーを テンプレート:Math で割ったものの極限をロピタルの定理を用いて計算すれば以下のように求めることができる。 テンプレート:Indent よって、放射照度のピーク値は、半径 テンプレート:Math の円の面積でパワーの総計値を割って求められる、「平均強度」のちょうど2倍である。
導出
ガウシアンビームの数学的形式は、以下に示す自由空間または一様な誘電率をもつ媒質におけるテンプレート:仮リンクを基礎とするテンプレート:Sfn。 テンプレート:Indent テンプレート:Mvar は , , , , , の六つの成分のうちどれかを表わす。ガウシアンビームの数式を導出するために、この方程式の解を次のように書き下すテンプレート:Sfn。 テンプレート:Indent ここで、ビームは十分にテンプレート:仮リンクされている、すなわち テンプレート:Mvar 軸に対して十分平行であるため、テンプレート:Math は無視できるものと仮定している。この解を上の波動方程式に代入すると、下に示す近軸近似の下での波動方程式が得られるテンプレート:Sfn。 テンプレート:Indent この微分方程式は無限の解関数を持つが、ガウシアンビームはそれらのうち最も低次のモードである。
高次のモード
ガウシアンビームは近軸近似の下であり得る無数のモードのうちの一つにすぎない。これらの互いに直交するモードもレーザービームのモデリングに用いられる。一般に、基底系が完全であれば、その線形結合をとることによってあらゆる実際のレーザービームを記述することができる。レーザーの設計によって、どのモードがそのレーザービームのモデルに適しているかが決まる。出力されるレーザーがある一つの高次モードによりよく近似されることもありうる。 多くのレーザー系はビームの伝播方向に直交する面での反転対称性をもつため、エルミート・ガウシアンモードが特によく用いられる。
エルミート・ガウシアンモード

エルミート・ガウシアンモードは共振器が回転対称でなく、水平方向と鉛直方向が同等でない場合の出力レーザーの記述に便利である。上に定義した複素パラメータ テンプレート:Mvar を用いると、 テンプレート:Mvar-面内の振幅分布は以下の関数に比例する。 テンプレート:Indent ここで、 テンプレート:Math は テンプレート:Mvar 次のエルミート多項式と呼ばれる関数(ここでは物理学者の定式を用いる。すなわち、 テンプレート:Math とする)で、アスタリスクは複素共役を示す。テンプレート:Math の場合がガウシアンモードの分布と対応する。
二次元直交座標系においては、テンプレート:Math のように関数を二つにわけることができる。ここで、 テンプレート:Math は テンプレート:Math と同じ形式を持つ。数学的には、この性質は 直交座標系におけるヘルムホルツ方程式が変数分離できることに起因するテンプレート:Sfn。
エルミート・ガウシアンモードは通常「TEMmn」のように表記される。ここで、 テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar はそれぞれ テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar 方向の多項式の次数である。よって、ガウシアンモードは TEMテンプレート:Sub と表記される。
TEMテンプレート:Sub モードのグイ位相は TEMテンプレート:Sub モードの場合よりも強く、 テンプレート:Math 倍になるテンプレート:Sfn。軸上以外の位相シフトも異なるテンプレート:Sfn。
ラゲール・ガウシアンモード

円筒対称性のある場合、近軸波動方程式の自然な解はラゲール・ガウシアンモードを与えるテンプレート:Sfn。このモードは、円筒座標系とラゲール多項式を用いて以下のように書ける。 テンプレート:Indentテンプレート:Sfn ここで、 テンプレート:Math は動径指数 テンプレート:Math 、偏角指数 テンプレート:Mvar の一般化ラゲール関数である。 テンプレート:Math は適当な正規化因子、テンプレート:Math は前述のビームパラメータである。
インス・ガウシアンモード
テンプレート:仮リンクにおいては、高次のモードはテンプレート:仮リンクを用いて書き下せる。偶数および奇数インス・ガウシアンモードは以下のように与えられるテンプレート:Sfn。 テンプレート:Indent ここで、 テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar はそれぞれ楕円座標系の動径座標と偏角座標であり、以下のように定義される。 テンプレート:Indent テンプレート:Indent は次数 テンプレート:Mvar 、度数 テンプレート:Mvar の偶数インス多項式であり、 テンプレート:Mvar は楕円度パラメータである。エルミート・ガウシアンモードとラゲール・ガウシアンモードはインス・ガウシアンモードのそれぞれ テンプレート:Math および テンプレート:Math の場合に相当する。
超幾何ガウシアンモード
近軸モードには、他にも極座標系において複素振幅がテンプレート:仮リンクに比例する一連のモードがある。
これらのモードは位相特異点をもち、テンプレート:仮リンクの固有関数である。強度分布は中心に振幅がゼロとなる特異点を持つ、単一の明いリング状になる。振幅は正規化された無次元の動径座標 テンプレート:Math と縦座標 テンプレート:Math を用いて以下のように書き下される。テンプレート:Sfn テンプレート:Indent ここで テンプレート:Mvar は整数、 テンプレート:Math は実数、 テンプレート:Math はガンマ関数、テンプレート:Math は合流型超幾何関数である。
超幾何ガウシアン (テンプレート:Lang-en-short, HyGG) モードの部分集合として、ベッセル・ガウシアンモード、修正指数ガウシアンモード、修正ラゲール・ガウシアンモードがある。
超幾何ガウシアンモードは過完備基底系を成し、直交基底系ではない。このモードは全体としては複雑な分布を持つが、瞳面 (テンプレート:Math) においては非常に単純な分布を示す。 テンプレート:Indent
脚注
参考文献
- テンプレート:Cite journal
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite journal
- テンプレート:Cite journal
- テンプレート:Cite book Chapter 5, "Optical Beams," pp. 267.
- テンプレート:Cite arXiv
- テンプレート:Cite book Chapter 3, "Beam Optics," pp. 80–107.
- テンプレート:Cite book Chapter 16.
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite web
- テンプレート:Cite journal
- テンプレート:Cite web
- テンプレート:Cite journal
関連項目
外部リンク
- Gaussian Beam Propagation - IDEX Optics & Photonics Technical Guide
- Gaussian Beam Optics Tutorial, Newport