セルバーグ跡公式のソースを表示

{{要改訳}}
'''セルバーグ跡公式'''（セルバーグせきこうしき、Selberg trace formula）とは、{{harvtxt|Selberg|1956}} で導入された、[[自乗可積分函数|二乗可積分函数]]の空間 ''L''<sup>2</sup>(''G''/Γ) 上の ''G'' の[[ユニタリ表現]]の指標の表現である。ここに ''G'' は[[リー群]]で Γ は余有限 (cofinite) な[[離散群]]とする。指標は、''G'' 上のある函数のトレースにより与えられる。

Γ が{{仮リンク|余コンパクト|en|cocompact}}な場合とは、離散的な和へ表現が分解するときのことを言う。ここで、跡公式とは、有限群の[[群の表現#誘導表現|誘導表現]]の指標の{{仮リンク|フロベニウス公式|en|Induced representation#Alternate formulations}}(Frobenius formula)の拡張である。Γ が実数 ''G''='''R''' の余コンパクト部分群 '''Z''' のときには、セルバーグ跡公式は本質的に[[ポアソン和公式]]である。

G/Γ がコンパクトでないときは、[[アイゼンシュタイン級数]]を使い記述された[[連続スペクトル]]となり、より難しくなる。セルバーグは、G が群 SL<sub>2</sub>('''R''') の非コンパクトの場合に結果をもたらし、さらに高いランクの群への拡張が{{仮リンク|アーサー・セルバーグ跡公式|en|Arthur-Selberg trace formula}}(Arthur-Selberg trace formula)である。

Γ が[[リーマン面]]の[[ホモトピー|基本群]]のとき、セルバーグ跡公式は、リーマン面の[[測地線]]の長さを意味する幾何学的データの項に[[ラプラス作用素|ラプラシアン]]のような微分作用素のスペクトルを書き表す。この場合にはセルバーグ跡公式は、リーマンの[[明示公式]]に似た形となり、素数の[[リーマンゼータ函数]]のゼロ点に関係し、ゼータのゼロ点はラプラシアンの固有値に対応し、素数は測地線に対応する。この類似に動機を得て、セルバーグはリーマン面の[[セルバーグゼータ函数]]を導入し、解析的な性質は、このセルバーグ跡公式にエンコードされる。
<!---In [[mathematics]], the '''Selberg trace formula''', introduced by  {{harvtxt|Selberg|1956}}, is an expression for the character of the [[unitary representation]] of ''G'' on the space ''L''<sup>2</sup>(''G''/Γ) of [[square-integrable function]]s, where ''G'' is a [[Lie group]] and Γ a cofinite [[discrete group]]. The character is given by the trace of certain functions on ''G''.

The simplest case is when Γ is [[cocompact]], when the representation breaks up into discrete summands. Here the trace formula is an extension of the [[Induced representation#Alternate formulations|Frobenius formula]] for the character of an [[induced representation]] of finite groups. When Γ is the cocompact subgroup '''Z''' of the real numbers ''G''='''R''', the Selberg trace formula is essentially the [[Poisson summation formula]].

The case when ''G''/Γ is not compact is harder, because there is a [[continuous spectrum]], described using [[Eisenstein series]]. Selberg worked out the non-compact case when ''G'' is the group SL<sub>2</sub>('''R'''); the extension to higher rank groups is the [[Arthur-Selberg trace formula]].

When Γ is the fundamental group of a [[Riemann surface]], the Selberg trace formula describes the spectrum of differential operators such as the [[Laplacian]] in terms of geometric data involving the lengths of geodesics on the Riemann surface. In this case the Selberg trace formula is formally similar to the [[Explicit formulae (L-function)|explicit formulas]] relating the zeros of the [[Riemann zeta function]] to prime numbers, with the zeta zeros corresponding to eigenvalues of the Laplacian, and the primes corresponding to geodesics. Motivated by the analogy, Selberg introduced the [[Selberg zeta function]] of a Riemann surface, whose analytic properties are encoded by the Selberg trace formula.-->

== 概要 ==
セルバーグの跡公式は[[位相群]]上の[[関数空間]]に作用する[[積分作用素]]の[[跡 (線型代数学)|跡]]を二通りの方法で計算することで得られる<ref>{{Cite journal|和書|author=小山信也 |date=1998-07 |url=https://hdl.handle.net/2433/96411 |title=数論から見た跡公式(量子論と古典論,ハミルトン力学系とカオス,研究会報告) |journal=物性研究 |ISSN=0525-2997 |publisher=物性研究刊行会 |volume=70 |issue=4 |pages=481-489 |naid=110006409019 |hdl=2433/96411}}</ref>。有限次元[[ベクトル空間]]に[[作用 (数学)|作用]]する[[線形作用素]]、つまり[[行列]]の場合、[[対角成分]]の和と[[固有値]]の和はともに行列の跡に等しいので

: 対角成分の和 ＝ 固有値の和

が成り立つのであった。簡単にいうとこの等式の積分作用素版がセルバーグの跡公式である。

=== 基本的な議論 ===

セルバーグの跡公式は次のような議論を経て導出される。{{mvar|G}}
を[[位相群]]、{{mvar|Γ}}
をその[[離散部分群]]、{{mvar|f}}
を
{{mvar|G}}
上の関数とする。{{mvar|G}}
上の関数
{{mvar|φ}}
に対して
{{mvar|G}}
上の関数
{{math|''R''( ''f'' )''φ''}}
を

: <math>
(R(f)\phi)(x) = \int_G f(y)\phi(xy) \mathrm{d}y
</math>

で定義する。{{math|''R''( ''f'' )}}
は関数空間に作用する線形作用素である。{{mvar|φ}}
が左からの
{{mvar|Γ}}
作用で不変であれば
{{math|''R''( ''f'' )''φ''}}
もそうである。さらに
{{mvar|φ}}
が
{{math|''Γ''&thinsp;⧵''G''}}
上の[[二乗可積分関数]]であるとき
{{math|''R''( ''f'' )''φ''}}
もそうなるのであれば
{{math|''R''( ''f'' )}}
は[[ヒルベルト空間]]
{{math|''L''{{sup|2}}(''Γ''&thinsp;⧵''G'')}}
の線形作用素を定める。この跡を二通りの方法で計算する。

まず、スペクトル・サイドと呼ばれる方の計算をする。行列の例えでいうとこれは固有値の和の方である。{{math|''L''{{sup|2}}(''Γ''&thinsp;⧵''G'')}}
が
{{math|''R''( ''f'' )}}
の作用で不変な部分空間
{{math|''V''{{sub|''π''}}}}
（{{mvar|π}} は添字）達の[[ヒルベルト直和]]に分解し、{{math|1=''L''{{sup|2}}(''Γ''&thinsp;⧵''G'') = ⨁{{sub|''π''}}&thinsp;''V''{{sub|''π''}}}}
とかけたとする。このとき、跡の性質から

: <math>
\operatorname{tr}(R(f)) = \sum_\pi \operatorname{tr}(R(f)|_\pi)
</math>

が成り立つ。ここで
{{math|tr(''R''( ''f'' ){{!}}{{sub|''π''}})}}
は
{{math|''R''( ''f'' )}}
を不変部分空間
{{math|''V''{{sub|''π''}}}}
の線形作用素とみたときの跡である。これがスペクトル・サイドと呼ばれる方の計算結果である。セルバーグの跡公式といったとき、
{{math|''L''{{sup|2}}(''Γ''&thinsp;⧵''G'')}} の分解としてはこの空間を
{{mvar|G}}
の[[右正則表現]]の空間と見立てて[[既約表現]]への分解を考えることが多い。もともとのセルバーグの論文では[[ラプラシアン]]の[[固有空間]]への分解を考えていた。より荒く[[連続スペクトラム]]と[[離散スペクトラム]]への分解でもよい。

次に幾何サイドと呼ばれる方の計算をする。行列の例えでいうとこれは対角成分の和の方である。まず
{{math|''R''( ''f'' )}}
の定義から簡単な計算により

: <math>
(R(f)\phi)(x) = \int_{\Gamma \backslash G}
\left(
\sum_{\gamma \in \Gamma}
f(x^{-1}\gamma y)
\right)
\phi(y) \mathrm{d}y
</math>

がわかる{{Sfn|Arthur|2005|p=8}}。よって
{{math|''R''( ''f'' )}}
は[[積分核]]

: <math>
K(x, y) = \sum_{\gamma \in \Gamma} f(x^{-1} \gamma y)
</math>

によって定義される[[積分作用素]]である。積分核によって定義される作用素の跡は、核関数の対角集合に沿っての積分と等しくなることが知られている{{Efn|
どのような条件のもとでこれが成り立つかについては、例えば
{{harvtxt|権|2011|p=4}}
やそこで引用されている
{{harvtxt|Brislawn|1991|p=237}} などを参照。最後の文献によれば、作用素が跡族かつ核関数が対角線集合上でほとんどいたるところ連続であれば成り立つようである。
}}。つまり

: <math>
\operatorname{tr}(R(f)) = \int_{\Gamma \backslash G} K(x, x) \mathrm{d}x
</math>

が成り立つ。右辺の {{mvar|K}} を {{mvar|f}} に戻して計算を進めると

: <math>
\operatorname{tr}(R(f)) = \sum_{\gamma \in \{\Gamma\}}
\operatorname{vol}(\Gamma_\gamma \backslash G_\gamma)
\int_{G_\gamma \backslash G} f(x^{-1}\gamma x) \mathrm{d}x
</math>

が成り立つことがわかる{{Sfn|Arthur|2005|p=9}}。ここで
{{math|{{Mset|''Γ''}}}}
は
{{mvar|Γ}}
の[[共役類]]の[[代表元]]全体の集合、
{{math|''G''{{sub|''γ''}}}}
と
{{math|''Γ''{{sub|''γ''}}}}
はそれぞれ
{{mvar|G}}
および
{{mvar|Γ}}
における
{{mvar|γ}}
の[[中心化群]]である。これが幾何サイドと呼ばれる方の計算結果である。

以上の
{{math|''R''( ''f'' )}}
の跡の二通りの計算から

: <math>
\sum_{\gamma \in \{\Gamma\}}
\operatorname{vol}(\Gamma_\gamma \backslash G_\gamma)
\int_{G_\gamma \backslash G} f(x^{-1}\gamma x) \mathrm{d}x
=
\sum_\pi \operatorname{tr}(R(f)|_\pi)
</math>

が成り立つことがわかった。これがセルバーグの跡公式である。もちろん、以上の議論は跡の存在や無限和の収束について何も仮定を置いていない形式的なものなので、これだけでは何も証明できていない。実際に成立する等式を得るためには状況に応じて適切な前提を置き厳密な議論を行わねばならない。

=== ポアソンの和公式 ===

簡単な場合として
{{math|1=''G'' = '''R'''}}、{{math|1=''Γ'' = '''Z'''}}
の場合を考える。この場合、
{{math|1={{Mset|''Γ''}} = '''Z'''}}、
{{math|1=''Γ''{{sub|''γ''}} = '''Z'''}}、
{{math|1=''G''{{sub|''γ''}} = '''R'''}}
などに注意すれば幾何サイドは
{{math|{{sum|''γ'' ∈ '''Z'''}} ''f''&thinsp;(''γ'')}}
と計算できる。スペクトル・サイドを計算するために
{{math|1=''L''{{sup|2}}('''Z'''&thinsp;⧵'''R''') = ⨁{{sub|''n'' ∈ '''Z'''}}&thinsp;'''C''' ''e''{{sup|&minus;2''πin''・}} }}
という分解をとる。簡単に分かるように
{{math|1='''C''' ''e''{{sup|&minus;2''πin''・}} }}
は
{{math|''R''( ''f'' )}}
の不変部分空間になっており、この空間での
{{math|''R''( ''f'' )}}
の跡は
{{math|1={{hat|''f''}}&thinsp;(''n'')}}
である。ここで
{{math|1={{hat|''f''}}}}
は
{{mvar|f}}
の[[フーリエ変換]]である。したがってスペクトル・サイドは
{{math|{{sum|''γ'' ∈ '''Z'''}} {{hat|''f''}}&thinsp;(''γ'')}}
となるので、この場合の跡公式は

: <math>
\sum_{n \in \mathbb{Z}} f(n)
=
\sum_{n \in \mathbb{Z}} \hat{f}(n)
</math>

となる。この等式は実際に
{{mvar|f}}
が[[急減少関数]]であるときなどに成立し、[[ポアソン和公式]]と呼ばれている{{Sfn|権|2011|p=4}}。これから、セルバーグの跡公式とはポアソンの和公式の非可換な位相群への一般化であるとも言える。

=== 余コンパクトな場合 ===
{{math|''Γ''&thinsp;⧵''G''}}
がコンパクトな場合、{{math|''L''{{sup|2}}(''Γ''&thinsp;⧵''G'')}}
は既約部分空間の直和に分解し、各既約表現の重複度は有限であることが知られている{{Sfn|織田|1990|p=7}}。記号で書くと
{{math|1=''L''{{sup|2}}(''Γ''&thinsp;⧵''G'') = ⨁{{sub|''π'' ∈ {{hat|''G''}}}}&thinsp;''m''(''π'')''π'' }}
となる。ここで
{{math|{{hat|''G''}}}}
は既約ユニタリ表現のユニタリ同値類である。

この分解を使ってスペクトル・サイドを計算すると、セルバーグの跡公式は

: <math>
\sum_{\gamma \in \{\Gamma\}}
\operatorname{vol}(\Gamma_\gamma \backslash G_\gamma)
\int_{G_\gamma \backslash G} f(x^{-1}\gamma x) \mathrm{d}x
=
\sum_{\pi \in \hat{G}} m(\pi) \operatorname{tr}(\pi(f))
</math>

となる。右辺の
{{math|''π''( ''f'' )}}
は
{{math|{{intmath|int|G}} ''f''&thinsp;(''g'') ''π''(''g'') d''g''}}
である。

=== 非コンパクトな場合 ===
{{math|''Γ''&thinsp;⧵''G''}}
が非コンパクトな場合、たとえば
{{math|1=''G'' = SL{{sub|2}}('''R''')}}
で
{{math|1=''Γ'' = SL{{sub|2}}('''Z''')}}
の場合、{{mvar|''f''}}
がコンパクト台であっても
{{math|''R''( ''f'' )}}
の"跡"は発散してしまいそもそも跡が定義できない{{Sfn|権|2011|p=10}}。
それに対応するかのように、跡公式の幾何サイドにおいてもスペクトル・サイドにおいても発散する項が現れる。この場合には、これらの発散する項を相殺させることで跡公式が得られる{{Sfn|権|2011|p=10}}。

==初期の歴史==

{{仮リンク|コンパクトなリーマン面|en|compact Riemann surface}} S の場合は、特に興味をもたれている場合である。1956年に[[アトル・セルバーグ]](Atle Selberg)が最初に論文を出したときは、[[ラプラス作用素|ラプラス]]微分作用素とそのベキがこの場合を扱った。ラプラシアンのベキのトレースは、[[セルバーグゼータ函数]]を使い定義することができる。この場合の興味は、得られた公式と[[素数]]の理論の [[L-函数]]の[[明示公式]]との関係である。そこでは S 上の閉じた[[測地線]]が素数の役割を担う。
<!---Cases of particular interest include those for which the space is a [[compact Riemann surface]] ''S''. The initial publication in 1956 of [[Atle Selberg]] dealt with this case, its [[Laplacian]] differential operator and its powers. The traces of powers of a Laplacian can be used to define the  [[Selberg zeta function]]. The  interest of this case was the  analogy between the formula obtained, and the [[explicit formula (L-function)|explicit formulae]] of [[prime number]] theory. Here the [[closed geodesic]]s on ''S'' play the role of prime numbers.-->

同時に、[[ヘッケ作用素]]のトレースも、セルバーグと{{仮リンク|マルティン・アイヒラー|en|Martin Eichler}}(Martin Eichler)の'''アイヒラー・セルバーグ跡公式'''(Eichler-Selberg trace formula)と関連していて、ヘッケ作用素は与えられたウェイトの[[モジュラー群]]の{{仮リンク|合同部分群|en|congruence subgroup}}に対し[[カスプ形式]]のベクトル空間の上に作用する。ここに、同一視する作用素のトレースは、ベクトル空間の次元、すなわち、与えられたモジュラー形式の空間の次元であり、[[リーマン・ロッホの定理]]により伝統的な方法の計算で求めることができる。
<!---At the same time, interest in the traces of [[Hecke operator]]s was linked to the '''Eichler-Selberg trace formula''', of Selberg and [[Martin Eichler]], for a Hecke operator acting on a vector space of [[cusp form]]s of a given weight, for a given [[congruence subgroup]] of the [[modular group]]. Here the trace of the identity operator is the dimension of the vector space, i.e. the dimension of the space of modular forms of a given type: a quantity traditionally calculated by means of the [[Riemann-Roch theorem]].-->

==応用==

跡公式は{{仮リンク|数論幾何|en|arithmetic geometry}}や[[数論]]へ応用される。例えば、[[アイヒラー・志村同型|アイヒラー・志村の定理]]を使い、[[モジュラー曲線]]の{[[ハッセ・ヴェイユのL-函数]]を計算する。[[志村五郎]]の解析を使う方法は、跡公式を使うことを意味している。[[アイヒラーコホモロジー]]（放物コホモロジーとも言う）の発展は、純粋に{{仮リンク|群コホモロジー|en|group cohomology}}の設定に基礎を持つ代数的設定を与えるので、非コンパクトなリーマン面やモジュラ曲線の[[カスプ形式|カスプ]]を考えることができるようになった。
<!---The trace formula has applications to [[arithmetic geometry]] and [[number theory]].  For instance, using the trace theorem [[Eichler-Shimura theorem|Eichler and Shimura]] calculated the [[Hasse-Weil L-function]]s associated to [[modular curve]]s; [[Goro Shimura]]'s methods by-passed the analysis involved in the trace formula. The development of [[parabolic cohomology]] (from [[Eichler cohomology]]) provided a purely algebraic setting based on [[group cohomology]], taking account of the [[cusp form|cusps]] characteristic of non-compact Riemann surfaces and modular curves.-->

また、跡公式は純粋に[[微分幾何学]]への応用も持っている。例えば、ブーサー(Buser)の結果により、[[リーマン面]]の{{仮リンク|長さスペクトル|en|length spectrum}}(length spectrum)は、本質的には跡公式により、同じスペクトルを持つ不変量である。
<!---The trace formula also has purely [[differential geometry|differential-geometric]] applications.  For instance, by a result of Buser, the [[length spectrum]] of a [[Riemann surface]] is an isospectral invariant, essentially by the trace formula.-->

==後期の仕事==
[[アイゼンシュタイン級数]]の一般論は、非コンパクトな場合の特徴である[[連続スペクトル]]を分離するための要求に、大きな動機を持っている。

跡公式は、しばしば、リー群というよりも[[アデール環|アデール]]上の[[代数群]]の上で使われる。理由は、跡公式が対応する離散部分群 &Gamma; を、それ以前に開発されたテクニックのより容易な体の上の代数群の上に置き換えるからである。
<!---The general theory of [[Eisenstein series]] was largely motivated by the requirement to separate out the [[continuous spectrum]], which is characteristic of the non-compact case.

The trace formula is often given for algebraic groups over the adeles rather than for Lie groups, because this makes the corresponding discrete subgroup &Gamma; into an algebraic group over a field which is technically easier to work with.-->

理論の現在の一番成功している公式は{{仮リンク|アーサー・セルバーグ跡公式|en|Arthur-Selberg trace formula}}(Arthur-Selberg trace formula)で、一般の半単純な G の場合に適用される。多くの跡公式の研究は[[ラングランズ哲学]]の中で{{仮リンク|エンドスコピー|en|endoscopy (trace formula)}}(endoscopy)というテクニックを使う。セルバーグの跡公式は、アーサー・セルバーグ跡公式から導き出すことが可能である。（パームを参照）
<!---Contemporary successors of the theory are the [[Arthur-Selberg trace formula]] applying to the case of general semisimple ''G'', and the many studies of the trace formula in the [[Langlands philosophy]] (dealing with technical issues such as [[endoscopy (trace formula)|endoscopy]]). The Selberg trace formula can be derived from the Arthur-Selberg trace formula with some effort (see Palm).-->

==コンパクトな双曲曲面のセルバーグ跡公式==

コンパクトな双曲曲面 <math>X</math> を、軌道の空間として、次のように書くことができる。

:<math>\Gamma \backslash \mathbb{H}</math>

ここに、<math> \Gamma </math> は <math>PSL(2,\mathbb{R})</math> の部分群で、<math>\mathbb{H}</math> は[[上半平面]]であり、<math>\mathbb{H}</math> へは[[メビウス変換|線型分数変換]]として作用する。

この場合のセルバーグの跡公式は、一般の場合よりも容易である。何故ならば、曲面がコンパクトであるから、連続スペクトルが存在せず、群 &Gamma; は（同一視を除き）放物型かもしくは楕円型となるからである。

すると、X 上の[[ラプラス作用素|ラプラス・ベルトラミ作用素]]のスペクトルは離散的となり、ラプラス作用素はコンパクトな[[レゾルベント]](resolvent)を持つ自己随伴作用素であるので、スペクトルは実数となる。
<!---==Selberg trace formula for compact hyperbolic surfaces==
A compact hyperbolic surface <math>X</math> can be written as the space of orbits

:<math>\Gamma \backslash \mathbb{H},</math>

where <math> \Gamma </math> is a subgroup of <math>PSL(2,\mathbb{R}),</math> and <math>\mathbb{H}</math> is the [[upper half plane]], and <math>\Gamma</math> acts on <math>\mathbb{H}</math> by [[linear fractional transformations]].

The Selberg trace formula for this case is easier than the general case because the surface is compact so there is no continuous spectrum, and the group &Gamma; has no parabolic or elliptic elements (other than the identity).-->

:<math> 0 = \mu_0 < \mu_1 \leq \mu_2 \leq \cdots </math>
ここに、固有値 <math> \mu_n </math> はラプラシアンの &Gamma;-不変な固有函数 <math> u \in C^{\infty}(\mathbb{H}) </math> である。言い換えると、

:<math>
\begin{cases}
u(\gamma z)=u(z), \ \ \forall \gamma \in \Gamma \\
y^2 \left (u_{xx} + u_{yy} \right) + \mu_{n} u = 0.
\end{cases}
</math>

変数を代入して、

:<math> \mu = s(1-s), s=\frac{1}{2}+ir </math>
とすると、固有値はラベル付けされる。

:<math> r_{n}, n \geq 0. </math>

すると'''セルバーグ跡公式'''は次のように与えられる。

:<math>
\sum_{n=0}^{\infty} h(r_n) =  \frac{\mu(F)}{4 \pi } \int_{-\infty}^{\infty} r \, h(r) \tanh(\pi r) dr  +  \sum_{ \{T\} } \frac{ \log N(T_0) }{ N(T)^{1/2} - N(T)^{-1/2} } g \left ( \log N(T) \right ).
</math>

上式の右辺は、群 &Gamma; の共役類を渡る和であり、第一項は同一視の元に対応していて、残りのほかの項は共役類 <math> \lbrace T \rbrace </math> を渡る和を構成している（この場合はすべて双曲的である）。函数 <math> h </math> は <math> \vert \Im(r) \vert \leq 1/2+\delta </math> 上で解析的であり、次を満たす。

:<math> h(-r)=h(r), \  \vert h(r) \vert \leq M \left( 1+\vert \Re(r) \vert^{-2-\delta} \right )</math>

ここに <math> \delta </math> と <math> M </math> は正の定数である。函数 <math> g </math> は <math> h </math> のフーリエ変換である。つまり、

<math> h(r) = \int_{-\infty}^{\infty} g(u) e^{iru} du </math>
である。
<!---Then the spectrum for the [[Laplace-Beltrami operator]] on <math>X</math> is discrete and real, since the Laplace operator is self adjoint with compact [[resolvent formalism|resolvent]]; that is

:<math> 0 = \mu_0 < \mu_1 \leq \mu_2 \leq \cdots </math>
where the eigenvalues <math> \mu_n </math> correspond to &Gamma;-invariant eigenfunctions <math> u \in C^{\infty}(\mathbb{H}) </math>  of the Laplacian; in other words

:<math>
\begin{cases}
u(\gamma z)=u(z), \ \ \forall \gamma \in \Gamma \\
y^2 \left (u_{xx} + u_{yy} \right) + \mu_{n} u = 0.
\end{cases}
</math>

Using the variable substitution

:<math> \mu = s(1-s), s=\frac{1}{2}+ir </math>
the eigenvalues are labeled

:<math> r_{n}, n \geq 0. </math>

Then the '''Selberg trace formula''' is given by

:<math>
\sum_{n=0}^{\infty} h(r_n) =  \frac{\mu(F)}{4 \pi } \int_{-\infty}^{\infty} r \, h(r) \tanh(\pi r) dr  +  \sum_{ \{T\} } \frac{ \log N(T_0) }{ N(T)^{1/2} - N(T)^{-1/2} } g \left ( \log N(T) \right ).
</math>

The right hand side is a sum over conjugacy classes of the group &Gamma;, with the first term corresponding to the identity element and the remaining terms forming a sum over the other conjugacy classes<math> \lbrace T \rbrace </math> (which are all hyperbolic in this case).
The function <math> h </math> has to be an analytic function on <math> \vert \Im(r) \vert \leq 1/2+\delta </math>, satisfy

:<math> h(-r)=h(r), \  \vert h(r) \vert \leq M \left( 1+\vert \Re(r) \vert^{-2-\delta} \right ),</math>

where the numbers <math> \delta </math> and <math> M </math> are positive constants. The function <math> g </math> is the Fourier transform of <math> h </math>, that is,

<math> h(r) = \int_{-\infty}^{\infty} g(u) e^{iru} du. </math>-->

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{notelist}}
=== 出典 ===
{{reflist}}

==参考文献==
* {{Cite journal| volume = 4| pages = 1–263| last = Arthur| first = James| title = An introduction to the trace formula| journal = Harmonic analysis, the trace formula, and Shimura varieties| year = 2005 | url = https://personal.math.ubc.ca/~cass/arthur/pdf/62.pdf | format = PDF | ref = harv}}
* {{Cite journal| issn = 0030-8730| volume = 150| issue = 2| pages = 229–240| last = Brislawn| first = Christopher| title = Traceable integral kernels on countably generated measure spaces| journal = Pacific Journal of Mathematics| year = 1991| doi = 10.2140/pjm.1991.150.229 | ref = harv}}
*{{Citation | last1=Fischer | first1=Jürgen | title=An approach to the Selberg trace formula via the Selberg zeta-function | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | series=Lecture Notes in Mathematics | isbn=978-3-540-15208-8 | doi=10.1007/BFb0077696 |mr=892317 | year=1987 | volume=1253}}
*{{Citation | author1-link=Israel Gelfand|last1=Gel'fand | first1=I. M. | last2=Graev | first2=M. I. | last3=Pyatetskii-Shapiro | first3=I. I. | title=Representation theory and automorphic functions | publisher=[[Academic Press]] | location=Boston, MA | series=Generalized Functions | isbn=978-0-12-279506-0 |mr=1071179 | year=1990 | volume=6}}
*{{Citation | author=[[Dennis Hejhal|Hejhal, Dennis A.]] | title=The Selberg trace formula and the Riemann zeta function | url=http://projecteuclid.org/euclid.dmj/1077311789 |mr=0414490 | year=1976 | journal=[[Duke Mathematical Journal]] | issn=0012-7094 | volume=43 | issue=3 | pages=441–482 | doi=10.1215/S0012-7094-76-04338-6}}
*{{Citation | last1=Hejhal | first1=Dennis A. | title=The Selberg trace formula for PSL(2,R). Vol. I | publisher=Springer-Verlag | location=Berlin, New York | series=Lecture Notes in Mathematics, Vol. 548 | doi=10.1007/BFb0079608 |mr=0439755 | year=1976 | volume=548 | isbn=978-3-540-07988-0}}
*{{Citation | last1=Hejhal | first1=Dennis A. | title=The Selberg trace formula for  PSL(2,R). Vol. 2 | publisher=Springer-Verlag | location=Berlin, New York | series=Lecture Notes in Mathematics | isbn=978-3-540-12323-1 | doi=10.1007/BFb0061302 |mr=711197 | year=1983 | volume=1001}}
*{{Citation | last1=McKean | first1=H. P. | title=Selberg's trace formula as applied to a compact Riemann surface | doi=10.1002/cpa.3160250302  |mr=0473166 | year=1972 | journal=[[Communications on Pure and Applied Mathematics]] | issn=0010-3640 | volume=25 | pages=225–246 | issue=3}}
*{{Citation | last1=Palm | first1=Marc | title=Explicit GL(2) trace formulas and uniform, mixed Weyl laws | url=http://webdoc.sub.gwdg.de/diss/2012/palm/palm.pdf | year=2012 | journal=PhD thesis}}
*{{Citation | last1=Selberg | first1=Atle | authorlink=Atle Selberg|title=Harmonic analysis and discontinuous groups in weakly symmetric Riemannian spaces with applications to Dirichlet series |mr=0088511 | year=1956 | journal=J. Indian Math. Soc. (N.S.) | volume=20 | pages=47–87}}
* [[砂田利一]],『基本群とラプラシアン』, 紀伊國屋書店
* {{Cite journal|和書| doi = 10.11429/sugaku1947.9.166| volume = 9| issue = 3| pages = 166-185| author = 久賀道郎| title = 弱対称リーマン空間における位相解析とその応用(A. Selbergの仕事[3]の紹介)| journal = 数学| date = 1958 | ref = {{SfnRef|久賀|1958}}
}}
* {{Cite web|和書
 | author = 織田孝幸
 | title = Selberg Trace Formula 入門
 | year = 1990
 | format = PDF
 | url = http://wakatsuki.w3.kanazawa-u.ac.jp/files/selberg.pdf
 | accessdate =  2022-03-20
 | ref = {{SfnRef|織田|1990}}
 }}
* {{Citation|和書
| author = 若山正人
| contribution= {{math|SL(2,'''Z''')\SL(2,'''R''')/SO(2)}} の跡公式とセルバーグゼータ関数
| title= ゼータ関数 : 報告集
| url = http://www4.math.sci.osaka-u.ac.jp/~ibukiyam/pdf/%E7%AC%AC%EF%BC%99%E5%9B%9E/9_7.pdf
| ncid = BA58837902
| format=PDF
| year=2001
| series=整数論サマースクール報告集
| volume=9
| pages=153-197
| ref = {{SfnRef|若山|2001}}
}}
* {{Citation|和書
| title= アーサー・セルバーグ跡公式入門 : 報告集
| url = http://wakatsuki.w3.kanazawa-u.ac.jp/proceedings.html
| ncid = BB05072961
| year=2011
| series=整数論サマースクール報告集
| volume=18
}}
* {{Citation|和書
| author = 権寧魯
| contribution = セルバーグ跡公式，セルバーグゼータ関数
| title = [http://wakatsuki.w3.kanazawa-u.ac.jp/proceedings.html アーサー・セルバーグ跡公式入門 : 報告集]
| url = http://wakatsuki.w3.kanazawa-u.ac.jp/files/proc/selberg-trf-zeta.pdf
| ncid = BB05072961
| format = PDF
| year = 2011
| series = 整数論サマースクール報告集
| volume = 18
| ref = {{SfnRef|権|2011}}
}}

==外部リンク==
*[http://www.maths.ex.ac.uk/~mwatkins/zeta/physics4.htm Selberg trace formula resource page]

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