セルバーグ跡公式

提供: testwiki
ナビゲーションに移動 検索に移動

テンプレート:要改訳 セルバーグ跡公式(セルバーグせきこうしき、Selberg trace formula)とは、テンプレート:Harvtxt で導入された、二乗可積分函数の空間 L2(G/Γ) 上の Gユニタリ表現の指標の表現である。ここに Gリー群で Γ は余有限 (cofinite) な離散群とする。指標は、G 上のある函数のトレースにより与えられる。

Γ がテンプレート:仮リンクな場合とは、離散的な和へ表現が分解するときのことを言う。ここで、跡公式とは、有限群の誘導表現の指標のテンプレート:仮リンク(Frobenius formula)の拡張である。Γ が実数 G=R の余コンパクト部分群 Z のときには、セルバーグ跡公式は本質的にポアソン和公式である。

G/Γ がコンパクトでないときは、アイゼンシュタイン級数を使い記述された連続スペクトルとなり、より難しくなる。セルバーグは、G が群 SL2(R) の非コンパクトの場合に結果をもたらし、さらに高いランクの群への拡張がテンプレート:仮リンク(Arthur-Selberg trace formula)である。

Γ がリーマン面基本群のとき、セルバーグ跡公式は、リーマン面の測地線の長さを意味する幾何学的データの項にラプラシアンのような微分作用素のスペクトルを書き表す。この場合にはセルバーグ跡公式は、リーマンの明示公式に似た形となり、素数のリーマンゼータ函数のゼロ点に関係し、ゼータのゼロ点はラプラシアンの固有値に対応し、素数は測地線に対応する。この類似に動機を得て、セルバーグはリーマン面のセルバーグゼータ函数を導入し、解析的な性質は、このセルバーグ跡公式にエンコードされる。

概要

セルバーグの跡公式は位相群上の関数空間に作用する積分作用素を二通りの方法で計算することで得られる[1]。有限次元ベクトル空間作用する線形作用素、つまり行列の場合、対角成分の和と固有値の和はともに行列の跡に等しいので

対角成分の和 = 固有値の和

が成り立つのであった。簡単にいうとこの等式の積分作用素版がセルバーグの跡公式である。

基本的な議論

セルバーグの跡公式は次のような議論を経て導出される。テンプレート:Mvar位相群テンプレート:Mvar をその離散部分群テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar 上の関数とする。テンプレート:Mvar 上の関数 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Mvar 上の関数 テンプレート:Math

(R(f)ϕ)(x)=Gf(y)ϕ(xy)dy

で定義する。テンプレート:Math は関数空間に作用する線形作用素である。テンプレート:Mvar が左からの テンプレート:Mvar 作用で不変であれば テンプレート:Math もそうである。さらに テンプレート:Mvarテンプレート:Math 上の二乗可積分関数であるとき テンプレート:Math もそうなるのであれば テンプレート:Mathヒルベルト空間 テンプレート:Math の線形作用素を定める。この跡を二通りの方法で計算する。

まず、スペクトル・サイドと呼ばれる方の計算をする。行列の例えでいうとこれは固有値の和の方である。テンプレート:Mathテンプレート:Math の作用で不変な部分空間 テンプレート:Mathテンプレート:Mvar は添字)達のヒルベルト直和に分解し、テンプレート:Math とかけたとする。このとき、跡の性質から

tr(R(f))=πtr(R(f)|π)

が成り立つ。ここで テンプレート:Mathテンプレート:Math を不変部分空間 テンプレート:Math の線形作用素とみたときの跡である。これがスペクトル・サイドと呼ばれる方の計算結果である。セルバーグの跡公式といったとき、 テンプレート:Math の分解としてはこの空間を テンプレート:Mvar右正則表現の空間と見立てて既約表現への分解を考えることが多い。もともとのセルバーグの論文ではラプラシアン固有空間への分解を考えていた。より荒く連続スペクトラム離散スペクトラムへの分解でもよい。

次に幾何サイドと呼ばれる方の計算をする。行列の例えでいうとこれは対角成分の和の方である。まず テンプレート:Math の定義から簡単な計算により

(R(f)ϕ)(x)=ΓG(γΓf(x1γy))ϕ(y)dy

がわかるテンプレート:Sfn。よって テンプレート:Math積分核

K(x,y)=γΓf(x1γy)

によって定義される積分作用素である。積分核によって定義される作用素の跡は、核関数の対角集合に沿っての積分と等しくなることが知られているテンプレート:Efn。つまり

tr(R(f))=ΓGK(x,x)dx

が成り立つ。右辺の テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar に戻して計算を進めると

tr(R(f))=γ{Γ}vol(ΓγGγ)GγGf(x1γx)dx

が成り立つことがわかるテンプレート:Sfn。ここで テンプレート:Mathテンプレート:Mvar共役類代表元全体の集合、 テンプレート:Mathテンプレート:Math はそれぞれ テンプレート:Mvar および テンプレート:Mvar における テンプレート:Mvar中心化群である。これが幾何サイドと呼ばれる方の計算結果である。

以上の テンプレート:Math の跡の二通りの計算から

γ{Γ}vol(ΓγGγ)GγGf(x1γx)dx=πtr(R(f)|π)

が成り立つことがわかった。これがセルバーグの跡公式である。もちろん、以上の議論は跡の存在や無限和の収束について何も仮定を置いていない形式的なものなので、これだけでは何も証明できていない。実際に成立する等式を得るためには状況に応じて適切な前提を置き厳密な議論を行わねばならない。

ポアソンの和公式

簡単な場合として テンプレート:Mathテンプレート:Math の場合を考える。この場合、 テンプレート:Mathテンプレート:Mathテンプレート:Math などに注意すれば幾何サイドは テンプレート:Math と計算できる。スペクトル・サイドを計算するために テンプレート:Math という分解をとる。簡単に分かるように テンプレート:Mathテンプレート:Math の不変部分空間になっており、この空間での テンプレート:Math の跡は テンプレート:Math である。ここで テンプレート:Mathテンプレート:Mvarフーリエ変換である。したがってスペクトル・サイドは テンプレート:Math となるので、この場合の跡公式は

nf(n)=nf^(n)

となる。この等式は実際に テンプレート:Mvar急減少関数であるときなどに成立し、ポアソン和公式と呼ばれているテンプレート:Sfn。これから、セルバーグの跡公式とはポアソンの和公式の非可換な位相群への一般化であるとも言える。

余コンパクトな場合

テンプレート:Math がコンパクトな場合、テンプレート:Math は既約部分空間の直和に分解し、各既約表現の重複度は有限であることが知られているテンプレート:Sfn。記号で書くと テンプレート:Math となる。ここで テンプレート:Math は既約ユニタリ表現のユニタリ同値類である。

この分解を使ってスペクトル・サイドを計算すると、セルバーグの跡公式は

γ{Γ}vol(ΓγGγ)GγGf(x1γx)dx=πG^m(π)tr(π(f))

となる。右辺の テンプレート:Mathテンプレート:Math である。

非コンパクトな場合

テンプレート:Math が非コンパクトな場合、たとえば テンプレート:Mathテンプレート:Math の場合、テンプレート:Mvar がコンパクト台であっても テンプレート:Math の"跡"は発散してしまいそもそも跡が定義できないテンプレート:Sfn。 それに対応するかのように、跡公式の幾何サイドにおいてもスペクトル・サイドにおいても発散する項が現れる。この場合には、これらの発散する項を相殺させることで跡公式が得られるテンプレート:Sfn

初期の歴史

テンプレート:仮リンク S の場合は、特に興味をもたれている場合である。1956年にアトル・セルバーグ(Atle Selberg)が最初に論文を出したときは、ラプラス微分作用素とそのベキがこの場合を扱った。ラプラシアンのベキのトレースは、セルバーグゼータ函数を使い定義することができる。この場合の興味は、得られた公式と素数の理論の L-函数明示公式との関係である。そこでは S 上の閉じた測地線が素数の役割を担う。

同時に、ヘッケ作用素のトレースも、セルバーグとテンプレート:仮リンク(Martin Eichler)のアイヒラー・セルバーグ跡公式(Eichler-Selberg trace formula)と関連していて、ヘッケ作用素は与えられたウェイトのモジュラー群テンプレート:仮リンクに対しカスプ形式のベクトル空間の上に作用する。ここに、同一視する作用素のトレースは、ベクトル空間の次元、すなわち、与えられたモジュラー形式の空間の次元であり、リーマン・ロッホの定理により伝統的な方法の計算で求めることができる。

応用

跡公式はテンプレート:仮リンク数論へ応用される。例えば、アイヒラー・志村の定理を使い、モジュラー曲線の{ハッセ・ヴェイユのL-函数を計算する。志村五郎の解析を使う方法は、跡公式を使うことを意味している。アイヒラーコホモロジー(放物コホモロジーとも言う)の発展は、純粋にテンプレート:仮リンクの設定に基礎を持つ代数的設定を与えるので、非コンパクトなリーマン面やモジュラ曲線のカスプを考えることができるようになった。

また、跡公式は純粋に微分幾何学への応用も持っている。例えば、ブーサー(Buser)の結果により、リーマン面テンプレート:仮リンク(length spectrum)は、本質的には跡公式により、同じスペクトルを持つ不変量である。

後期の仕事

アイゼンシュタイン級数の一般論は、非コンパクトな場合の特徴である連続スペクトルを分離するための要求に、大きな動機を持っている。

跡公式は、しばしば、リー群というよりもアデール上の代数群の上で使われる。理由は、跡公式が対応する離散部分群 Γ を、それ以前に開発されたテクニックのより容易な体の上の代数群の上に置き換えるからである。

理論の現在の一番成功している公式はテンプレート:仮リンク(Arthur-Selberg trace formula)で、一般の半単純な G の場合に適用される。多くの跡公式の研究はラングランズ哲学の中でテンプレート:仮リンク(endoscopy)というテクニックを使う。セルバーグの跡公式は、アーサー・セルバーグ跡公式から導き出すことが可能である。(パームを参照)

コンパクトな双曲曲面のセルバーグ跡公式

コンパクトな双曲曲面 X を、軌道の空間として、次のように書くことができる。

Γ

ここに、ΓPSL(2,) の部分群で、上半平面であり、 へは線型分数変換として作用する。

この場合のセルバーグの跡公式は、一般の場合よりも容易である。何故ならば、曲面がコンパクトであるから、連続スペクトルが存在せず、群 Γ は(同一視を除き)放物型かもしくは楕円型となるからである。

すると、X 上のラプラス・ベルトラミ作用素のスペクトルは離散的となり、ラプラス作用素はコンパクトなレゾルベント(resolvent)を持つ自己随伴作用素であるので、スペクトルは実数となる。

0=μ0<μ1μ2

ここに、固有値 μn はラプラシアンの Γ-不変な固有函数 uC() である。言い換えると、

{u(γz)=u(z),  γΓy2(uxx+uyy)+μnu=0.

変数を代入して、

μ=s(1s),s=12+ir

とすると、固有値はラベル付けされる。

rn,n0.

するとセルバーグ跡公式は次のように与えられる。

n=0h(rn)=μ(F)4πrh(r)tanh(πr)dr+{T}logN(T0)N(T)1/2N(T)1/2g(logN(T)).

上式の右辺は、群 Γ の共役類を渡る和であり、第一項は同一視の元に対応していて、残りのほかの項は共役類 {T} を渡る和を構成している(この場合はすべて双曲的である)。函数 h|(r)|1/2+δ 上で解析的であり、次を満たす。

h(r)=h(r), |h(r)|M(1+|(r)|2δ)

ここに δM は正の定数である。函数 gh のフーリエ変換である。つまり、

h(r)=g(u)eirudu である。

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ

注釈

テンプレート:Notelist

出典

テンプレート:Reflist

参考文献

外部リンク

テンプレート:Normdaten