跡 (線型代数学)

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数学線型代数学において、正方行列(せき、テンプレート:Lang-en-short; トレーステンプレート:Lang-de-short; シュプール)あるいは対角和(たいかくわ)とは、主対角成分総和である。つまり

tr[a1,1a1,2a1,na2,1a2,2a2,nan,1an,2an,n]=a1,1+a2,2++an,n

を指す。それは基底変換に関して不変であり、また固有値の総和(固有値和)に等しい。ゆえに、行列の跡は行列の相似に関する不変量であり、そこから、行列に対応する線型写像の跡として定義することができる。

行列の跡は、正方行列に対してのみ定義されることに注意せよ。この語は(この同じ数学的対象を意味する)ドイツ語のSpurからの翻訳借用である。

定義

座標に依らない定義
係数体 テンプレート:Mvar 上有限次元ベクトル空間 テンプレート:Mvar 上の自己線型作用素全体の成す空間 テンプレート:Mathテンプレート:Mvar双対空間とのテンソル積
V*V(V,V);hv(wh(w)v)

によって同一視することができる。このとき、標準的な双線型写像

t:V*×VF;t(w*,v)=w*(v)(w*V*,vV)

から(テンソル積の普遍性により)導かれるテンソル積空間上の線型写像 テンプレート:Math2 を跡(トレース)と呼ぶ。

座標を用いた定義
テンプレート:Mvar 上のベクトル空間 テンプレート:Mvar 上の線形写像 テンプレート:Mvar が有限次元の像を持つとき、テンプレート:Mvar の有限個の元 テンプレート:Math2双対空間 テンプレート:Math の元 テンプレート:Math2 が存在して テンプレート:Math2 となっている。このとき、テンプレート:Mathテンプレート:Math2テンプレート:Math2 の選び方によらず テンプレート:Mvar のみによって定まる量となり、テンプレート:Mvar の跡あるいは指標 (distribution character) tr(f) とよばれる。
行列の跡
テンプレート:Mvar が有限次元のとき、基底 テンプレート:Math} とその双対基底 テンプレート:Math} を取れば、テンプレート:Math は線型写像のこの基底に関する表現行列の[[行列要素| テンプレート:Math-成分]]であり、任意の行列 テンプレート:Mvar
A=i,jai,jeiej

と書ける。したがってこの跡

tr(A)=i,jaijtr(eiej)=i,jaijδij=i=1naii

は対角線に沿った成分の和である(ここで、テンプレート:Mvarクロネッカーのデルタ)。

性質

基本性質

以下、テンプレート:Math2 は適当なサイズの正方行列とする。

これらの性質はトレースを以下の意味で普遍性を持つものとして特徴づける:

不変性

固有値との関係

これは、トレースの相似不変性と、任意の行列がジョルダン標準形に相似であること、およびジョルダン標準形の対角成分に代数重複度を込めた固有値が全て並ぶことから明らかである。またこれと対照的に、行列式は固有値の積 detX=i=1nλi である。

同じ理由により、自然数 テンプレート:Mvar に対して trXk=i=1nλik が成り立つことが分かる。

その他の性質

リー環上の写像として

跡は行列式の微分と対応付けられる。即ち、リー群における行列式のリー環における対応物が跡である。それを示すのが行列式の微分に対するヤコビの公式である。

特に、「単位元 テンプレート:Mvar における微分係数」という特別の場合には

det(I+A)=1+tr(A)+o(A)

テンプレート:Mvarランダウの記号)という意味で行列式の微分がちょうど跡になる(tr=det'I)。このことから、リー環の間の跡写像とリー環からリー群への指数写像(あるいは具体的に行列の指数函数)との間の関係を

det(exp(A))=exp(tr(A))

と書くことができる。

ベクトル空間 テンプレート:Mvar の次元が テンプレート:Mvar であるとき、跡写像は テンプレート:Mvar 上の線型写像の空間としての行列リー環 テンプレート:Math からスカラーのリー環(自明なリー括弧積を持つ可換リー環と見て得られる)テンプレート:Mvar への写像と見ることができる。これは即ち、交換子括弧のトレースが消える:

tr([A,B])=0

という意味に他ならない。跡写像のはトレース テンプレート:Math の行列からなるが、そのような行列はしばしば跡が無い (テンプレート:Visible anchor, テンプレート:Visible anchor) と言い、それら行列は単純リー環 テンプレート:Math を成す。テンプレート:Math は行列式 テンプレート:Math の行列の成す特殊線型群 テンプレート:Math のリー環である。テンプレート:Math に属する行列が体積を変えない変換であることに類比して、テンプレート:Math の元は無限小体積を変えない行列である。

実は テンプレート:Math内部直和分解

𝔤𝔩n=𝔰𝔩nk

が存在し、そのスカラー(行列)成分への射影はトレースを用いて

A1ntr(A)I

と書ける。きちんと述べるならば、(余単位射としての)跡写像に(単位射としての)「スカラーの包含」テンプレート:Math を合成して テンプレート:Math2 を作れば、これはスカラー行列の成す部分リー環の上への写像で、それは テンプレート:Mvar倍として作用する。この テンプレート:Mvar倍の分だけ割って射影を得れば上記の如くである。

短完全列の言葉で言えば、

0𝔰𝔩n𝔤𝔩ntrk0

がリー群の短完全列

1𝑆𝐿n𝐺𝐿ndetK*1

に対応する形で成り立つが、跡写像は(スカラーの テンプレート:Math倍を通じて)自然に分裂するから テンプレート:Math を得る。一方、行列式の分裂は行列式の テンプレート:Mvar乗根をとる必要があり、これは一般には写像を定めない。つまり、行列式は分裂せず、一般線型群も分解されない(テンプレート:Math2)。

以下の双線型形式

B(x,y)=tr(ad(x)ad(y))(ad(x)y:=[x,y]=xyyx)

キリング形式と呼ばれ、リー環の分類に用いられる。

正方行列 テンプレート:Math2 に対して定義される双線型形式

(x,y)tr(xy)

は対称かつ非退化テンプレート:Efn、さらに

tr(x[y,z])=tr([x,y]z)

が成り立つ意味で結合的である。(テンプレート:Math のような)複素単純リー環に対しては、このような任意の双線型形式は互いに他の定数倍であり、特にキリング形式として書ける。

ふたつの行列 テンプレート:Mvarトレース直交 (trace orthogonal) であるとは

tr(xy)=0

を満たすときに言う。

フロベニウス内積・ノルム

複素 テンプレート:Math2 行列 テンプレート:Mvar に対し、テンプレート:Math共軛転置とすれば、

tr(A*A)0

が成り立つ。なお、等号成立 テンプレート:Math2 である。これにより、対応

A,B=tr(B*A)

テンプレート:Math2 行列全体の成す空間における内積の性質を満たす。特に行列の場合には、

tr(XY)=tr(XY)=tr(YX)=tr(YX)=i,jXijYij

はベクトルの点乗積に類似の形であることが確認できる(行列の一列化を通じて実際にベクトルの点乗積として

tr(XY)=vec(Y)vec(X)=vec(X)vec(Y)

と記述できる)。アダマール積を使って書くこともできる。しばしばベクトルの演算を行列に対して一般化する際に積のトレースが現れるのはこのような事情による。

この内積に対応するノルムフロベニウスノルムと呼ぶ。これは実際、行列を単に長さ テンプレート:Math2 のベクトルと見做したときのユークリッドノルムである。

したがって時に テンプレート:Math2 が同じサイズの半正定値行列ならば

0tr(AB)2tr(A2)tr(B2)tr(A)2tr(B)2

が成り立つテンプレート:Efn

一般化

tr(Z)=trA(trB(Z))=trB(trA(Z)).

双対

トレースを定める写像の双対

F*=FVV*End(V)

テンプレート:Math2 を単位行列へ写すものであり、スカラーをスカラー行列へ写すという意味での包含写像である。この意味で、「トレースはスカラーの双対である」。双代数の言葉で言えば、スカラーが単位、トレースが余単位である。

合成写像

FIEnd(V)trF

は単位行列のトレースとしての テンプレート:Mvar倍写像である(この テンプレート:Mvar は考えているベクトル空間 テンプレート:Mvar の次元である)。

脚注

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注釈

テンプレート:Reflist

出典

テンプレート:Reflist

参考文献

関連項目

外部リンク

テンプレート:線形代数