行列の階数
テンプレート:出典の明記 線型代数学における行列の階数(かいすう、テンプレート:Lang; ランク)は、行列の最も基本的な特性数 (characteristic) の一つで、その行列が表す線型方程式系および線型変換がどのくらい「非退化」であるかを示すものである。行列の階数を定義する方法は同値なものがいくつもある。
例えば、行列 テンプレート:Mvar の階数 テンプレート:Math(あるいは テンプレート:Math または丸括弧を落として テンプレート:Math)は、テンプレート:Mvar の列空間(列ベクトルの張るベクトル空間)の次元[1]に等しく、また テンプレート:Mvar の行空間の次元[2]とも等しい。行列の階数は、対応する線型写像の階数である。
行列の階数の概念はジェームス・ジョセフ・シルベスターが考えた[3]。
定義
任意の行列 テンプレート:Mvar について、以下はいずれも同値である。
- テンプレート:Mvar の列ベクトルの線型独立なものの最大個数(テンプレート:Mvar の列空間の次元)
- テンプレート:Mvar の行ベクトルの線型独立なものの最大個数(テンプレート:Mvar の行空間の次元)
- テンプレート:Mvar に基本変形を施して階段行列 テンプレート:Mvar を得たとする。このときの テンプレート:Mvar の零ベクトルでない行(または列)の個数(階段の段数とも表現される)
- 表現行列 テンプレート:Mvar の線型写像の像空間の次元。詳しくは#線型写像の階数を参照。
- テンプレート:Mvar の 0 でないような小行列式の最大サイズ
- テンプレート:Mvar の特異値の数
文献により、上記の条件のいずれかを以って行列 テンプレート:Mvar の階数は定義される。
注意
いま テンプレート:Mvar の列空間の次元を「列階数」、行空間の次元を「行階数」と呼べば、線型代数学における基本的な結果の一つとして、列階数と行階数は常に一致するという事実が成立するから、それらを単に テンプレート:Mvar の階数と呼ぶことができる。これについて、テンプレート:Harvtxt[4] はベクトルの線型結合の基本性質に基づく四文証明を与えた(これは任意の体上で有効である)。また、テンプレート:Harvtxt [2]は実数体上の行列に対して有効な、直交性を用いたエレガントな別証明を与えている。両証明とも教科書 テンプレート:Harvtxt [5]に出ている。
性質
テンプレート:Mvar を テンプレート:Math 行列とする。また、 テンプレート:Mvar を表現行列 テンプレート:Mvar の線型写像とする。
一般の体上
- テンプレート:Math 行列の階数は非負整数で、テンプレート:Mvar の何れも超えない。すなわち テンプレート:Math が成り立つ。特に テンプレート:Math のとき、テンプレート:Mvar は最大階数(full rank; フルランク; 充足階数、完全階数)を持つとかフルランク行列などといい、さもなくばテンプレート:Mvar はテンプレート:Ill2 (rank deficient; 階数不足) であるという。
- テンプレート:Mvar が零行列のときかつその時に限り テンプレート:Math.
- テンプレート:Mvar が単射となるための必要十分条件は、テンプレート:Math(これを テンプレート:Mvar は列充足階数を持つという)となることである。
- テンプレート:Mvar が全射となるための必要十分条件は、テンプレート:Math となる(テンプレート:Mvar が行充足階数を持つ)ことである。
- テンプレート:Mvar が正方行列(つまり テンプレート:Math)のとき、テンプレート:Mvar が正則であるための必要十分条件は、テンプレート:Mvar(テンプレート:Mvar が充足階数)となることである。
- テンプレート:Mvar を任意の テンプレート:Math 行列として テンプレート:Math が成り立つ。
- テンプレート:Mvar が行充足階数 テンプレート:Math 行列ならば テンプレート:Math が成り立つ。
- テンプレート:Mvar が列充足階数 テンプレート:Math 行列ならば テンプレート:Math が成り立つ。
- テンプレート:Math となるための必要十分条件は、テンプレート:Math 正則行列 テンプレート:Mvar と テンプレート:Math 正則行列 テンプレート:Mvar が存在して が成立することである。ただし テンプレート:Mvar は テンプレート:Math 単位行列である。右辺の行列は テンプレート:Mvar の階数標準形と呼ばれる。
- テンプレート:Math( テンプレート:Math は転置行列)
- 階数・退化次数の定理が成立
- シルベスターの階数不等式
- テンプレート:Math 行列 テンプレート:Mvar と テンプレート:Math 行列 テンプレート:Mvar に対し が成り立つ。テンプレート:Efn
- フロベニウスの不等式
- 行列の積 テンプレート:Mvar がいずれも定義されるとき、 が成り立つ。テンプレート:Efn
- 劣加法性
- テンプレート:Mvar は同じ型の行列として が成り立つ。この帰結として、テンプレート:Nowrap の行列はテンプレート:Nowrap の行列 テンプレート:Mvar 個の和に書くことができ、また テンプレート:Mvar 個より少ないテンプレート:Nowrap-行列の和には書けない。
特定の体上
- テンプレート:Mvar が実数体上の行列であるとき、テンプレート:Mvar の階数は対応するグラム行列の階数に等しい。すなわち、実行列 テンプレート:Mvar に対し が成り立つ。これは各々の核空間が等しいことを見れば示される。グラム行列の核は テンプレート:Math となるベクトル テンプレート:Mvar からなる。このときさらに テンプレート:Math も成り立つ[6]。
- テンプレート:Mvar が複素数体上の行列であるとき、テンプレート:Mvar の複素共軛行列を テンプレート:Mvar, 共軛転置行列を テンプレート:Mvar と書けば、 が成り立つ。
階数の計算
例えば、行列
は、基本変形を行うことによって
と書けるから、テンプレート:Mvar の階数は テンプレート:Math である。実際、[第 2 行] = [第 1 行] + [第 3 行] であるから、2 行目の行ベクトルは線型独立でない。ここで、1 行目と 3行目は明らかに線型独立であるから、テンプレート:Math である。
浮動小数点を用いたコンピューター上の数値計算においては、この基本変形を用いたりLU分解を用いることで階数を求める方法は、精度が落ちることもあり用いられない。替わりに、特異値分解(SVD)やQR分解を用いて求められる。
線型写像の階数
テンプレート:Mvar をベクトル空間とし、線型写像 テンプレート:Math が与えられたとき、テンプレート:Mvar の像 テンプレート:Math の次元を線型写像 テンプレート:Mvar の階数と呼び、テンプレート:Math や テンプレート:Math などで表す。テンプレート:Mvar や テンプレート:Mvar は一般に無限次元であっても、像の次元 テンプレート:Math が有限であれば線型写像の階数の概念は意味を持つ。とくに階数有限なる線型写像にはトレースが定義できて、古典群の表現論などで重要な役割を果たす。
テンプレート:Mvar や テンプレート:Mvar が有限次元ならば、行列表現によって テンプレート:Mvar は表現行列 テンプレート:Mvar の共軛類が対応する。このとき、線型写像の階数と行列の階数との間には テンプレート:Math という関係が成り立つが、行列の階数が正則行列を掛けることに関して不変であることから、この等式の成立は表現行列 テンプレート:Mvar のとり方に依らない。
ベクトル空間 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Mvar が テンプレート:Mvar 次元とすれば、線型写像 テンプレート:Math の階数は テンプレート:Mvar 以下である。実際に、テンプレート:Math となるとき、線型写像 テンプレート:Mvar は非退化(ひたいか、テンプレート:En)であるという。そうでないときには、像 テンプレート:Math は テンプレート:Mvar で テンプレート:Math へ写される元の分だけ「つぶれている」と考えられ、線型写像 テンプレート:Mvar の核
の次元 テンプレート:Math を テンプレート:Mvar の退化次数と呼ぶ。テンプレート:Mvar の退化次数を テンプレート:Math や テンプレート:Math などで表すことがある。次の公式
が成立し、階数と退化次数の関係式あるいは簡単に階数・退化次数公式などと呼ばれる。
脚注
注釈
出典
外部リンク
- テンプレート:高校数学の美しい物語
- テンプレート:MathWorld
- テンプレート:MathWorld
- テンプレート:PlanetMath
- テンプレート:PlanetMath
- テンプレート:PlanetMath
- テンプレート:PlanetMath
- テンプレート:ProofWiki
- ↑ Bourbaki, Algebra, ch. II, §10.12, p. 359
- ↑ 2.0 2.1 テンプレート:Citation
- ↑ テンプレート:Cite
- ↑ テンプレート:Citation
- ↑ テンプレート:Citation
- ↑ テンプレート:Cite book