テンソル積

提供: testwiki
ナビゲーションに移動 検索に移動

テンプレート:出典の明記 数学におけるテンソル積(テンソルせき、テンプレート:Lang-en-short)は、線型代数学多重線型性を扱うための線型化を担う概念で、既知のベクトル空間・加群など様々な対象から新たな対象を作り出す操作の一つである。そのようないずれの対象に関しても、テンソル積は最もテンプレート:仮リンク双線型乗法である。

原型はハスラー・ホイットニーによる1938年の論文"Tensor products of Abelian groups."が初出である。

共通の テンプレート:Mvar 上の二つの ベクトル空間 テンプレート:Mvar のテンソル積 テンプレート:Math(基礎の体 テンプレート:Mvar が明らかな時には テンプレート:Math とも書く)はふたたびベクトル空間を成す。ベクトル空間のテンソル積を繰り返して得られるテンソル空間は物理的なテンソルを数学的に定式化する。テンソル空間に種々の積を入れてさまざまな多重線型代数クリフォード代数が定式化されるが、その基本となる演算がテンソル積である。

定義

基底を用いた定義

共通の テンプレート:Mvar 上のベクトル空間 テンプレート:Mvar に対して、テンプレート:Mvar の基底 テンプレート:Math および テンプレート:Mvar の基底 テンプレート:Math をとるとき、これらの直積 テンプレート:Math生成する テンプレート:Mvar-次元の自由ベクトル空間

VFW(=VW):=spanF((ξi,ηj)1in,1jm)

テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar との テンプレート:Mvar 上のテンソル積と呼ぶ。テンプレート:Math の元としての順序対 テンプレート:Math は記号 "テンプレート:Math" を用いて テンプレート:Math と書くことにすれば、テンプレート:Mvar の任意の元は適当な有限個のスカラー テンプレート:Mvar を用いて

i,jcij(ξiηj)

の形の有限和に表される。これにより、任意のベクトル テンプレート:Math および テンプレート:Math のテンソル積 テンプレート:Math が定義できる。実際、基底ベクトル テンプレート:Mathテンプレート:Math のテンソル積 テンプレート:Math は与えられているから、任意のベクトルの積はこれを双線型な仕方で拡張して得られる。すなわち

v=iaiξi,w=jbjηj

に対して、これらのテンソル積は

vw:=i,jaibj(ξiηj)

と定められる。ベクトルのテンソル積は以下の性質を満たす: ベクトル テンプレート:Math および テンプレート:Math とスカラー テンプレート:Math に対して テンプレート:Numblk テンプレート:Numblk テンプレート:Numblk

すなわち、写像 テンプレート:Mathテンプレート:Mvar-双線型写像である。これらの性質は、テンソル積がベクトルの和に対して分配的であり、スカラー倍に対して結合的であるように捉えることができる(これらが「積」と呼ぶ由縁である)。

ベクトルのテンソル積は一般には可換でない。実際、テンプレート:Mvar のとき テンプレート:Math に対して、それらのテンソル積は テンプレート:Math および テンプレート:Math で属する空間自体が異なる。また テンプレート:Math のときでも テンプレート:Mathテンプレート:Math は一般には異なる。

商としての定義

一般に、体 テンプレート:Mvar 上のベクトル空間 テンプレート:Mvar が与えられたとき、それらのテンソル積 テンプレート:Math は、デカルト積 テンプレート:Math の生成する テンプレート:Mvar-上の自由線型空間 テンプレート:Math の、

(v1,w)+(v2,w)(v1+v2,w)(v,w1)+(v,w2)(v,w1+w2)c(v,w)(cv,w)(v,cw)(v,v1,v2V;w,w1,w2W;cK)

で与えられる同値関係 テンプレート:Math によるとして定義することができる。これは テンプレート:Math における演算から誘導される演算によりベクトル空間を成す。言葉を変えれば、テンソル積空間 テンプレート:Math は上記の同値関係に関する零ベクトルの属する同値類を テンプレート:Mvar とするときの商線型空間 テンプレート:Math である。より具体的に書けば、部分空間 テンプレート:Mvar は 適当な テンプレート:Math を用いて

の何れかの形に書ける テンプレート:Math の元全体から生成される。商を取れば テンプレート:Mvar の元は零ベクトルに写されるから、テンプレート:Math と書けば、この場合もやはり

(v1w1)+(v2w1)=(v1+v2)w1,(v1w1)+(v1w2)=v1(w1+w2),c(v1w1)=(cv1)w1=v1(cw1)

が満足されることがわかる。

記法について

テンソル積空間 テンプレート:Math の元はしばしばテンソルと呼ばれる(ただし、テンソルという用語はこれと関連のあるさまざまな概念に対しても用いられるテンプレート:Efn)。テンプレート:Mathテンプレート:Math に対し、テンプレート:Math の属する同値類を テンプレート:Math と書いて テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar のテンソル積と呼ぶ。物理学や工学では、記号 テンプレート:Math二項積直積)に対して用いるが、得られる二項積 テンプレート:Math は同値類としての テンプレート:Math を表現する標準的な方法の一つであるテンプレート:Efnテンプレート:Math の元のうち テンプレート:Math の形に書けるものは、基本テンソルあるいはテンプレート:仮リンクと呼ばれる。一般に、テンソル積空間の元は単純テンソルだけでなく、それらの有限線型結合も含まれる。例えば、テンプレート:Math が線型独立かつ テンプレート:Math が線型独立のとき テンプレート:Math は単純テンソルに書くことはできない。テンソル積空間の元に対し、それを書き表すのに必要な単純テンソルの数を、テンソルの階数という(テンソルの次数と混同してはならない)。線型写像や行列を テンプレート:Math-型テンソルと看做したときの、テンソルの階数は行列の階数の概念に一致する。

普遍性

テンソル積の普遍性を表す可換図式

テンソル積は普遍性を用いて定義することもできる。この文脈では、テンソル積は同型を除いて一意的に定義される。ベクトル空間のテンソル積は以下の普遍性を満たす:

テンソル積の普遍性
双線型写像 テンプレート:Math が存在して、任意のベクトル空間 テンプレート:Mvar と双線型写像 テンプレート:Math が与えられるとき、テンプレート:Math を満足する線型写像 テンプレート:Math が一意に存在する。

この意味において、テンプレート:Mvarテンプレート:Math から作られる最も一般の双線型写像になっている。特に、これにより(一意的に定義される)テンソル積を持つ任意の空間の集まりがテンプレート:仮リンクの例となることが導かれる。テンソル積の一意性は、上記の性質を満たす任意の双線型写像 テンプレート:Math に対し、同型写像 テンプレート:Math が存在して テンプレート:Math を満足することを言う。

この特徴付けを用いるとテンソル積に関する主張を簡明に示すことができる。例えば、テンソル積が対称であること、すなわち自然同型

VWWV

が存在すること。左辺から右辺への写像を構成するには、普遍性により、適当な双線型写像 テンプレート:Math を与えることが十分である。ここでは、テンプレート:Mathテンプレート:Math に写す写像を与えればよい。反対方向の写像も同様に定義して、それら二つの線型写像 テンプレート:Mathテンプレート:Math が互いに他方の逆写像となっていることを確認して証明は完成する。

同様にしてテンソル積の結合性、すなわち自然同型

V1(V2V3)(V1V2)V3

の存在も証明できる。これにより、この互いに同型な空間を、括弧を落として テンプレート:Math のようにも書く。

線型写像のテンソル積

ベクトル空間の間の線型写像にもテンソル積を定義することができる。具体的に二つの線型写像 テンプレート:Math および テンプレート:Math が与えられたとき、テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar とのテンソル積 テンプレート:Math

(ST)(vw)=S(v)T(w)

で与えられる。これによりテンソル積構成はベクトル空間の圏からそれ自身へのテンプレート:仮リンクとなり、これは各引数に関してともに共変である[1]

線型写像 テンプレート:Mvar がともに単射、全射または連続ならば、テンソル積 テンプレート:Math もそれぞれ単射、全射または連続となる。

現れるベクトル空間にそれぞれ基底をとれば、線型写像 テンプレート:Mvar はそれぞれ行列で表現され、さらにテンソル積 テンプレート:Math を表現する行列は、テンプレート:Mvar を表す行列のクロネッカー積で与えられる。具体的に書けば、線型写像 テンプレート:Mvar および テンプレート:Mvar がそれぞれ行列 テンプレート:Math および テンプレート:Mvar で表されるとき、テンプレート:Math区分行列

AB:=(aijB)=(a11Ba12Ba21Ba22B)

で表される。

より一般に、多重線型写像 テンプレート:Math に対して、それらのテンソル積は

(fg)(x1,,xk+m)=f(x1,,xk)g(xk+1,,xk+m)

なる多重線型写像として与えられる。

双対空間との関係

また、テンプレート:Mvar 上のベクトル空間 テンプレート:Mvar から テンプレート:Mvar への テンプレート:Mvar-線型写像の全体 テンプレート:Math双対空間 テンプレート:Mvar を用いれば

V*WL(V,W);(f,w)f()w

なる線型同型によってテンソル積で書き表せる。もっと一般に、テンプレート:Mvar 個のベクトル空間 テンプレート:Math のテンソル積はこれらの双対空間からの テンプレート:Mvar 重線型形式の空間 テンプレート:Math とのあいだに同型

W1WnL(W1*,,Wn*;K)

を持つことによって特徴付けられる。

テンプレート:Mvar とその双対空間 テンプレート:Mvar に対して、自然な「評価」写像

VV*K

が単純テンソルの上では

vff(v)

を満たすものとして普遍性により定義される。他方 テンプレート:Math が「有限次元」ならば逆向きの写像(余評価写像)

KVV*;λiλvivi*

が存在する。ただし、テンプレート:Mathテンプレート:Mvar の基底、テンプレート:Math はその双対基底である。この評価写像と余評価写像との間に成り立つ関係は無限次元ベクトル空間をその基底に言及することなく特徴づけることができる(テンプレート:仮リンクの項を参照)。

テンソル積と Hom の随伴性

ベクトル空間 テンプレート:Math, テンプレート:Math, テンプレート:Math に対して、テンソル積と全線型変換の空間とは

Hom(UV,W)Hom(U,Hom(V,W))

で表される関係を持つ。ここに テンプレート:Math は線型変換全体の成す空間である。これは随伴対の例であり、テンソル積函手 テンプレート:MathHom-函手の「左随伴」であると言い表すことができる。

種々のテンソル積

テンソル積の最も一般の形はモノイド圏におけるモノイド積 (monoidal product) として定式化することができる。

応用

係数拡大

テンプレート:Main テンプレート:Mvar 上のベクトル空間 テンプレート:Mvar と、テンプレート:Mvar拡大体 テンプレート:Mvar をとれば、テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar-ベクトル空間と見てのテンソル積

VL:=VKL

が定義できて、テンプレート:Mvar の作用を

λ(vμ):=v(λμ)(vV,λ,μL)

で定めると、テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar 上のベクトル空間になる。ベクトル空間 テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar 上の次元は テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar 上の次元に等しい。これは テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar 上の基底 テンプレート:Mvar に対して、集合

{b1bB}

テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar 上の基底を与えることから分かる。

表現のテンソル積

テンプレート:Mvar の同じ体上のベクトル空間 テンプレート:Mvar における表現

ρi:GGL(Vi)(i=1,,n)

が与えられたとき

ρ1(g)v1ρn(g)vn(gG,viVi)

に対してテンソル積の普遍性を適用することにより、表現のテンソル積

ρ1ρn:GGL(V1Vn)

が誘導される。

テンソル冪

テンプレート:Main 非負整数 テンプレート:Math に対し、ベクトル空間 テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar-次テンソル冪とは テンプレート:Mvar 自身の テンプレート:Mvar-重テンソル積

Vn=defVVn factors

を言う。テンプレート:Mvar-次テンソル冪を斉 テンプレート:Mvar-次成分に持つ次数付き線型空間 テンプレート:Math はテンソル積を乗法としてテンソル代数と呼ばれる次数付き代数を成す。

テンソル空間

テンプレート:Main

非負整数 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math-型テンソル空間

Tsr(V)=VrV*s

テンプレート:Mvar に関する無限直和(二重次数付き線型空間)としてのテンソル空間において、テンソル積は自然な同型

Tqp(V)Tsr(V)Tq+sp+r(V)

の意味で次数付き双線型な乗法を定める。

ベクトル テンプレート:Mvar と線型形式 テンプレート:Mvar に関して、テンプレート:Math は双線型であるから、テンソル積の普遍性によってテンソルの縮約と呼ばれる線型写像

Tqp(V)Tq1p1(V)

が一意的に引き起こされる。これは成分でみれば、上下に現れる同じ添字の打ち消しを行うことに等しい。これはまた テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar との双対性

Tp(V)=(V*)p(Vp)*=(Tp(V))*

を導く。

対称積・交代積

テンプレート:Main テンプレート:Seealso 集合 テンプレート:Math置換 テンプレート:Mvar は、ベクトル空間 テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar-次デカルト冪に対する写像

σ:VnVn;(v1,v2,,vn)σ(v1,v2,,vn)=(vσ1,vσ2,,vσn)

を誘導する。テンプレート:Mvar-次デカルト冪から テンプレート:Mvar-次テンソル冪への自然な多重線型埋め込み

φ:VnVn

に対してテンソル積の普遍性を適用すれば、一意的な同型

τσ:VnVn s.t. φσ=τσφ

が得られる。同型写像 テンプレート:Mvar は置換 テンプレート:Mvar に付随する組み紐写像 (braiding map) または置換作用素[2]と呼ばれる。置換作用素から導かれるテンソル代数 テンプレート:Math 上の対称化作用素 テンプレート:Math および交代化作用素 テンプレート:Math は、斉次成分 テンプレート:Math 上で

Symn:=1n!σ𝔖nτσ,Altn:=1n!σ𝔖nsgn(σ)τσ

を満たすものとすれば、テンプレート:Mvar-階テンソル テンプレート:Mvar および テンプレート:Mvar-階テンソル テンプレート:Mvar に対して

tt=Symk+k(tt),tt=Altk+k(tt)

と置いたものは、それぞれ対称テンソル空間 テンプレート:Math および反対称テンソル空間 テンプレート:Math 上の双線型な乗法を与え、それぞれ対称(テンソル)交代(テンソル)と呼ばれる(交代積は外積あるいはグラスマン積とも呼ばれる)。 テンプレート:Seealso

テンプレート:脚注ヘルプ

注釈

テンプレート:Notelist

出典

テンプレート:Reflist

参考文献

外部リンク

テンプレート:Tensors