ジョルダン標準形

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ジョルダン標準形(ジョルダンひょうじゅんけい、テンプレート:Lang-en-short)とは、代数的閉体(例えば複素数)上の正方行列に対する標準形のことである。任意の正方行列は本質的にただ一つのジョルダン標準形と相似である。名前はカミーユ・ジョルダンに因む。

定義

行列

次の形の テンプレート:Mvar正方行列ジョルダン細胞というテンプレート:Sfn

Jn(λ)=[λ10λ1λ10λ]

代数的閉体 テンプレート:Mvar 成分の正方行列 テンプレート:Mvar に対して、ある正則行列 テンプレート:Mvar を取ると

P1AP=J=[Jn1(λ1)00Jnk(λk)]

となるテンプレート:Sfn。このとき テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar固有値である。この行列 テンプレート:Math2 のことを、行列 テンプレート:Mvarジョルダン標準形というテンプレート:Sfn

線形変換

代数的閉体 テンプレート:Mvar 上の有限次元線形空間テンプレート:Mvar とし、線形変換 テンプレート:Math2 をとる。 テンプレート:Mvar半単純 (semisimple) であるとは、線形空間 テンプレート:MvarV=Vλテンプレート:Mvar固有値 テンプレート:Math2固有空間 テンプレート:Math2直和として表せることである。 また テンプレート:Mvar冪零 (nilpotent) であるとは、ある自然数 テンプレート:Mvar が存在して テンプレート:Math2 となることである。

線形変換 テンプレート:Math2 に対して、半単純線形変換 テンプレート:Math と冪零線形変換 テンプレート:Math

f=fs+fn,fsfnfnfs=0

を満たすものが一意的に存在する。このとき テンプレート:Math のことを(加法的)ジョルダン分解といい、テンプレート:Mathテンプレート:Mvar半単純成分テンプレート:Mathテンプレート:Mvar冪零成分という。

線形空間 テンプレート:Mvar基底 {ei,ji=1,,k;j=1,,ni} が線形変換 テンプレート:Mvarジョルダン基底 であるとは、テンプレート:Math2 とおいたとき

f(ei,j)=λiei,j+ei,j1

が基底の任意の元 テンプレート:Math について成り立つことである。ジョルダン基底に関する テンプレート:Mvar の表現行列がジョルダン標準形である。

特性多項式、最小多項式との関係

正方行列 テンプレート:Mvar のジョルダン標準形 テンプレート:Math2 と、特性多項式 fA(x)=det(xIA)最小多項式 φA(x) には次のような関係がある。

なお、最小多項式とは テンプレート:Math となる多項式 テンプレート:Math のうち、次数が最小で、最高次係数が 1 のもの(モニック)を言う。テンプレート:Math となる多項式 テンプレート:Math は、多項式として φA(x) で割り切れる(多項式としての除算の余りがゼロとなる)という性質がある。ケイリー・ハミルトンの定理により テンプレート:Math2 であり、テンプレート:Math は多項式として φA(x) で割り切れる。

(1) fA(x)=det(xIA)=detP1det(xIA)detP=det(xIP1AP)=det(xIJ)=fJ(x) より、

fA(x)=fJ(x)

(2) 多項式f(x)=k=0nckxk について、f(P1XP)=k=0nck(P1XP)k=P1k=0nckXkP=P1f(X)P が言えるため、次が言える。

φA(J)=φA(P1AP)=P1φA(A)P=O よって φA(x) は、多項式として φJ(x) で割り切れる
φJ(A)=φJ(PJP1)=PφJ(J)P1=O よって φJ(x) は、多項式として φA(x) で割り切れる
最小多項式はモニックであるため φA(x)=φJ(x)

(3) 特性多項式が fA(x)=k=1m(xλk)nk と因数分解(テンプレート:Mvar は相異なる)される場合、dim(A)=k=1mnk であり、テンプレート:Mvar の対角線上には テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar個並ぶ。

(4) 最小多項式が φA(x)=k=1m(xλk)rk と因数分解(テンプレート:Mvar は相異なる)される場合、テンプレート:Mvar の固有値 テンプレート:Mvar のジョルダン細胞の中で、次数が最大のものの次数は テンプレート:Mvar である。

例1 特性多項式が (xλ1)(xλ2)、最小多項式が (xλ1)(xλ2)の場合、J=[λ100λ2]
例2 特性多項式が (xλ)2、最小多項式が (xλ)2の場合、J=[λ10λ]
例3 特性多項式が (xλ)2、最小多項式が xλ の場合、J=[λ00λ]
例4 特性多項式が (xλ)4、最小多項式が (xλ)2 の場合、J=[λ1000λ0000λ1000λ] または J=[λ1000λ0000λ0000λ]

対角行列は次数が1のジョルダン細胞のみからなるジョルダン標準形である。

次の複素成分正方行列 テンプレート:Mvar のジョルダン標準形は次のようになる。

A=[1225],P=[11210],P1AP=[3103]

また次で定めるベクトル テンプレート:Math2テンプレート:Math2テンプレート:Math2 とを満たすので行列 テンプレート:Mvar のジョルダン基底である。

u=[11],v=[120]

この行列 テンプレート:Mvar の半単純成分 テンプレート:Mvar と冪零成分 テンプレート:Mvar への分解は次のようになる。

S=P[3003]P1=[3003],N=P[0100]P1=[2222],A=P([3003]+[0100])P1=S+N

この分解は テンプレート:Math2テンプレート:Math2 が成り立つので、 行列の指数関数冪乗の計算に役立つ。

eAt=eSt+Nt=eSteNt=eSt(I+Nt)=e3t[12t2t2t1+2t]
An=(S+N)n=Sn+nSn1N=3n1[32n2n2n3+2n]

アルゴリズム

テンプレート:Mvar正方行列 テンプレート:Mvar のジョルダン標準形は次のように計算できるテンプレート:Sfn。以下では テンプレート:Mvar単位行列テンプレート:Mvar で表す。

入力
テンプレート:Mvar次正方行列 テンプレート:Mvar
出力
テンプレート:Math がジョルダン標準形となる テンプレート:Mvar正則行列 テンプレート:Mvar
アルゴリズム
  1. 行列 テンプレート:Mvar の相異なる固有値 テンプレート:Math2 を求める
  2. テンプレート:Math2 とおく
  3. テンプレート:Math2 となる最小の自然数 テンプレート:Mvar を求める
  4. テンプレート:Math とおく
  5. 部分空間の増大列 テンプレート:Math2 に沿って テンプレート:Math基底 テンプレート:Math2 を求める[注釈 1]
  6. テンプレート:Math となる自然数 テンプレート:Math を求める
  7. 連立一次方程式 テンプレート:Math の解 テンプレート:Math を求める
  8. テンプレート:Math2 とおく
  9. テンプレート:Math2 とおく
  10. テンプレート:Math2 を出力

標準形の存在証明

定理
任意の線形変換 テンプレート:Mvar に対しジョルダン基底は存在する。

証明は線形空間の次元 n=dimV についての帰納法で、テンプレート:Math2 なら全ての基底がジョルダン基底だからOK、テンプレート:Math2 までOKとして、n=dimV とする。次の明らかな補題が証明の鍵である。

補題
{ei,j}テンプレート:Mvar のジョルダン基底なら、fλ1V のジョルダン基底でもある。ここで テンプレート:Mvar はスカラー。

この補題により rankf=r<n の場合に示せばよい。このとき V=imf, f=f|V とすると、帰納法の仮定で、テンプレート:Mvar のジョルダン基底 {eij} が取れる。番号を λ1=λ2==λs=0テンプレート:Math2 なら テンプレート:Math2 となるようにとる。e1,1,e2,1,,es,1kerf の元で線形独立だから、これらに b1,b2,,bnrs を加えて kerf の基底を作る。また テンプレート:Mvar の元 c1,c2,,csf(ci)=ei,ni となるようにとる。このとき テンプレート:Mvar 個のベクトル {ei,j}{bi}{ci} が線形独立であることは容易に分かり、これらは テンプレート:Mvar の基底である。ci=ei,ni+1, bi=ek+i,1 と番号づけると、これが テンプレート:Mvar のジョルダン基底となる。[証明終わり]

V=Knテンプレート:Mvar が行列 A=(a1,a2,,an) で表されるとき、 rankA=r なら、a1,a2,,ar が線形独立としてよい。このとき A=[A1,1A1,2A2,1A2,2] は行変形で [ErR00] と簡約化される。

命題
上のとき、a1,a2,,arテンプレート:Mvar の基底であるが、この基底に関する テンプレート:Mvar の表現行列は A1,1+RA2,1 である。

命題の証明は略するが、これを用いると上のジョルダン基底の存在証明は、同時に行列のジョルダン標準形と変換行列を求めるアルゴリズムにもなっている。

脚注

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注釈

テンプレート:Notelist

出典

テンプレート:Reflist

参考文献

関連項目

外部リンク

テンプレート:線形代数
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