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{{Pathnavbox| * {{Pathnav|[[数学]]|[[幾何学]]、[[群論]]|[[リー群]]}} * {{Pathnav|[[数学]]|[[解析学]]|[[微分積分学の基本定理]]}}}} '''ダルブー導関数'''{{Refnest|ダルブー導関数を説明した日本語の文献が見つからなかったので、本項の専門用語はいずれも本項執筆者が暫定的に訳したものである。|group=注}}({{Lang-en-short|Darboux derivative}})とは、[[リー群]]に値を取る関数に対する[[導関数]]概念であり、(意味のある)「[[微分積分学の基本定理]]」の概念を定式化できる。 以下本項では特に断りがない限り、単に「関数」、「多様体」等といった場合はすべて{{Mvar|C{{sup|∞}}}}級のものをあらわすとする。 == 動機 == 文献<ref>[[#Sharpe]] p.115.</ref>を参考にダルブー導関数を定義する動機を述べる。実数体上の関数<math>f~:~\mathbb{R} \to \mathbb{R}</math>の導関数<math>f'</math>は{{Mvar|f}}それ自身と同じく<math>\mathbb{R}</math>から<math>\mathbb{R}</math>への関数なので、<math>f'</math>から{{Mvar|f}}を求める問題、すなわち<blockquote>与えられた関数<math>g ~:~ \mathbb{R} \to \mathbb{R}</math>に対し、<math>f'=g</math>となる関数<math>f~:~\mathbb{R} \to \mathbb{R}</math>を求めよ</blockquote>という問題は意味を持ち、[[微分積分学の基本定理]]を使って解を求める事ができる。 それに対し、[[多様体]]から多様体への写像<math>f~:~M \to N </math>に対し、導関数<math>f_*~:~TM \to TN</math>から{{Mvar|f}}を求める問題は自明なものになってしまう。 なぜなら<math>f_*</math>の定義式の中に{{Mvar|f}}それ自身の情報が「埋め込まれて」おり、接ベクトル<math>v_P \in T_PM</math>の<math>f_*</math>による像<math>f_*(v_P)</math>は<math>T_{f(P)}N</math>の元であるので、<math>f_*(v_P)</math>がどの点の接ベクトルなのかを調べる事で{{Mvar|P}}の像<math>f(P)</math>が再現できてしまうからである。 実数体上の関数<math>f~:~\mathbb{R} \to \mathbb{R}</math>に対してこの問題が意味を持つのは<math>f_*~:~TM \to TN</math>による{{mvar|v{{sub|P}}}}の像<math>f_*(v_P)</math>を原点<math>0 \in \mathbb{R}</math>まで移動したものを導関数<math>f'</math>としているので、{{Mvar|f}}それ自身の情報が消し去られているからである。 ダルブー導関数は、{{Mvar|f}}の値域がリー群である場合に、実数体の場合と同様<math>f_*</math>の像を単位元<math>e \in G</math>まで移動する事で、<math>f_*</math>に埋め込まれている{{Mvar|f}}の情報を消し去った導関数概念である。すなわち、 : <math>f~:~ M \to G</math> を多様体{{Mvar|M}}からリー群{{Mvar|G}}への写像とするとき、{{Mvar|f}}の導関数<math>f_*~:~ TM \to TG</math>による像に{{Mvar|G}}の元をかける事で<math>f_*</math>の像が単位元{{Mvar|e}}における接ベクトル空間<math>T_eG</math>(これは{{Mvar|G}}の[[リー代数]]<math>\mathfrak{g}</math>に等しい)に移動したものを : <math>\omega_f~:~ TM \to \mathfrak{g} </math> と書き、{{Mvar|f}}の'''ダルブー導関数'''と呼ぶ。ダルブー導関数では<math>f_*(v_P)</math>を<math>\mathfrak{g}=T_eG</math>に移動する事で{{Mvar|f}}の情報を消し去っているので、<blockquote>与えられた<math>\omega ~:~ M \to \mathfrak{g}</math>に対し、<math>\omega_f = \omega</math>となる関数<math>f~:~ M \to G</math>を求めよ</blockquote>という問題は非自明である。{{Mvar|M}}と{{Mvar|ω}}が十分性質がよければ上記の問題は解を持つ事が知られており、これはダルブー導関数に対する「微分積分学の基本定理」であると解釈できる。 == 準備 == ダルブー導関数について述べるための準備として、モーレー・カルタン形式を導入する。{{math theorem|定義|{{mvar|G}}をリー群とし、<math>\mathfrak{g}</math>をそのリー代数とするとき、{{mvar|G}}の各点{{mvar|g}}に対し{{mvar|G}}上の<math>\mathfrak{g}</math>値1-形式<math>\omega^G{}_g</math>を : <math>\omega^G{}_g~:v\in ~T_gG \mapsto L_{g^{-1}}{}_*(v) \in \mathfrak{g}</math> により定義し、{{mvar|ω{{sup|G}}{{sub|g}}}}を{{mvar|G}}の{{mvar|g}}における'''モーレー・カルタン形式'''という。 ここで<math>L_{g^{-1}}{}_*</math>は群の左作用<math>L_{g^{-1}}~:~h\in G~~ \mapsto g^{-1}h</math>が誘導する写像である。|note=[[モーレー・カルタン形式]]}}モーレー・カルタン形式は以下を満たす<ref name="Tu198">[[#Tu]] p.198.</ref>:{{math theorem|定理| * <math>(R_g)^*\omega^G = \mathrm{Ad}(g^{-1})\omega^G</math> * <math>d\omega^G + {1 \over 2}[\omega^G,\omega^G]=0 </math>}}ここで<math>[\cdot,\cdot]</math>は<math>\mathfrak{g}</math>上のリー括弧であり、<math>\mathfrak{g}</math>-値1-形式{{Mvar|α}}、{{Mvar|β}}に対し、<math>[\alpha,\beta](X,Y) := [\alpha(X),\beta(Y)]-[\alpha(Y),\beta(X)]</math>である。 上記の2式のうち下のものを'''モーレー・カルタンの方程式'''{{refn|{{cite web|url=https://www.math.tsukuba.ac.jp/~tasaki/lecture/ln1997/cho97.pdf|accessdate=2023/06/27|title=中央大学大学院理工学研究科 数学特別講義第三 微分形式の可積分性|page=50}}}}({{lang-en-short|Maurer-Cartan equation}})、もしくはリー群{{mvar|G}}の'''構造方程式'''{{refn|[[#小林]] p.59.}}({{lang-en-short|structure equation}})という。 == 定義 == 本節ではダルブー導関数を具体的に定式化する。 すでに述べたように<math>f~:~ M \to G</math>のダルブー導関数とは、<math>f_*~:~ TM \to TG</math>の像を群の元をかけることで<math>\mathfrak{g}=T_eG</math>まで移動したものである。具体的には<math>P \in M</math>、<math>v_P \in T_PM</math>に対し、<math>f_*(v_P)</math>は<math>T_{f(P)}G </math>の元なので、<math>f(P)^{-1}</math>を左からかける演算<math>L_{f(P)^{-1}}</math>の導関数<math>L_{f(P)^{-1}}{}_* </math>を作用させた : <math>\omega_f|_P :=L_{f(P)^{-1}}{}_*(f_*(v_P)) </math> が{{Mvar|f}}のダルブー導関数である。この事実とモーレー・カルタン形式の定義を照らし合わせる事で、ダルブー導関数を以下のように定式化できる事がわかる: {{math theorem|定義| <math>f~:~ M \to G</math>の'''(左)ダルブー導関数'''({{Lang-en-short|(left) Darboux derivative}})とは{{Mvar|M}}上の<math>\mathfrak{g}</math>-値[[微分形式|1-形式]] : <math>\omega_f :=f^*(\omega^G) </math> の事である<ref name=Sharpe115>[[#Sharpe]] p.115.</ref>。 |note=ダルブー導関数}} モーレー・カルタン形式が構造方程式を満たすことから、以下が成立する事がわかる: {{math theorem|定理|ダルブー導関数は以下を満たす<ref name=Sharpe115 />: : <math>d\omega_f + {1\over 2}[\omega_f,\omega_f]=0</math> }} == 微分積分学の基本定理{{Anchors|微分積分学の基本定理の章}} == 本節の目標は{{mvar|ω}}をダルブー導関数に持つ関数が存在する条件を記述する事である。 そのための準備として、まず「発展」という概念と「モノドロミー」という概念を定義する。 === 発展 === {{Mvar|f}}の定義域が区間<math>I=[a,b]</math>の場合は、「微分積分学の基本定理」が成り立つ: {{math theorem|定理|{{mvar|ω}}を区間<math>I=[a,b]</math>上の<math>\mathfrak{g}</math>-値1-形式とし、{{mvar|g}}を{{mvar|G}}の元とする。このとき、関数<math>f~:~I \to G</math>で :<math>\omega_f =\omega</math>、<math>f(a) = g </math> を満たすものが一意に存在する<ref name="Sharpe119">[[#Sharpe]] pp.119-120.</ref>。 }} 上記の定理を多様体{{mvar|M}}上の曲線に対して用いる事で以下の定義が得られる: {{math theorem|定理・定義|{{mvar|ω}}を多様体{{mvar|M}}上の<math>\mathfrak{g}</math>-値1-形式とし、<math>c~:~[a,b] \to M</math>を{{mvar|M}}上の曲線とし、{{mvar|g}}を{{mvar|G}}の元とし、<math>c^*(\omega)</math>を{{mvar|ω}}の{{mvar|c}}による<math>[a,b]</math>への引き戻しとする。このとき、<math>\tilde{c}~:~I \to G</math>で : <math>\omega_{\tilde{c}} =c^*(\omega)</math>、<math>\tilde{c}(a) = g </math> を満たすものが存在する。 <math>\tilde{c}</math>を{{mvar|g}}からの{{mvar|c}}に沿った{{mvar|ω}}の'''発展'''({{lang-en-short|development of {{mvar|ω}} along {{mvar|c}} starting at {{mvar|g}}}})という<ref name="Sharpe119" />。 |note=曲線の発展}} === モノドロミー === {{Mvar|ω}}が構造方程式を満たせば、発展の終点は[[ホモトピー]]不変である: {{math theorem|定理|{{mvar|ω}}を多様体{{mvar|M}}上の<math>\mathfrak{g}</math>-値1-形式で : <math>d\omega+{1\over 2}[\omega,\omega]=0</math> を満たすものとする。さらに<math>c_0, c_1~:~[a,b] \to M</math>を{{mvar|M}}上の2つの曲線で{{mvar|c{{sub|0}}}}の始点、終点がそれぞれ{{mvar|c{{sub|1}}}}の始点、終点に一致するものとし、さらに{{mvar|g}}を元{{mvar|G}}の元とする。 このとき、{{mvar|c{{sub|0}}}}と{{mvar|c{{sub|1}}}}が(始点と終点を固定した)[[ホモトピー|ホモトープ]]であれば、{{mvar|c{{sub|0}}}}の{{mvar|g}}からの発展<math>\tilde{c}_0~:~I \to G</math>の終点と{{mvar|c{{sub|1}}}}の{{mvar|g}}からの発展<math>\tilde{c}_1~:~I \to G</math>の終点は等しい<ref name="Sharpe121">[[#Sharpe]] p.121-123.</ref>。 }} よって{{mvar|M}}の点{{mvar|P{{sub|0}}}}における{{mvar|M}}の[[基本群]]<math>\pi_1(M,P_0)</math>を考えると、<math>[c] \in \pi_1(M,P_0)</math>に{{mvar|c}}の発展<math>\tilde{c}</math>の終点<math>\in G</math>を対応させる写像は代表元{{mvar|c}}の取り方によらず[[well-defined]]である。 {{math theorem|定理・定義|記号を上述のように取るとき、写像 : <math> \Phi_{\omega}~:~[c] \in \pi_1(M,P_0) \mapsto ( </math>単位元{{mvar|e}}からの<math>c</math>の発展<math>\tilde{c}</math>の終点)<math>\in G</math> は準同型になる。<math> \Phi_{\omega}</math>を{{mvar|ω}}の'''モノドロミー表現'''({{lang-en-short|monodromy representation}})といい、{{mvar|G}}の部分群<math>\Phi_{\omega}(\pi_1(M,P_0)) \subset G</math>を'''モノドロミー群'''({{lang-en-short|monodromy group}})もしくは'''周期群'''({{lang-en-short|period group}})という<ref name="Sharpe121" />。 |note=モノドロミー}} === 定理の記述 === モノドロミーを用いると、{{mvar|ω}}をダルブー導関数に持つ関数が存在する必要十分条件を特徴づける事ができる: {{math theorem|定理|{{mvar|G}}をリー群とし、<math>\mathfrak{g}</math>を{{mvar|G}}のリー代数とし、{{mvar|M}}を多様体とし、{{mvar|ω}}を{{mvar|M}}上の<math>\mathfrak{g}</math>-値1-形式とする。このとき、ダルブー導関数<math>\omega_f</math>が{{mvar|ω}}と一致する関数<math>f~:~M \to G</math>が存在する必要十分条件は、以下の2条件が成立する事である<ref name="Sharpe121" />: * <math>d\omega+{1\over 2}[\omega,\omega]=0</math> * モノドロミー群<math>\Phi_{\omega}(\pi_1(M,P_0)) \subset G</math>は単位元のみからなる群<math>\{e\}</math>である。 |note=微分積分学の基本定理({{lang-en-short|Fundamental theorem of calculus}}<ref name="Sharpe121" />)}} {{math theorem|定理|記号を上の定理と同様に取る。このとき、ダルブー導関数<math>\omega_f</math>が{{mvar|ω}}と一致する関数2つが存在すれば、それらの関数{{mvar|f{{sub|1}}}}、{{mvar|f{{sub|2}}}}は、ある<math>g \in G</math>が存在して :<math>\forall P \in M ~:~f_1(P)=gf_2(P)</math> を満たす<ref name="Sharpe121" />。 |note=解の実質的な一意性}} == 脚注 == === 出典 === {{reflist|20em}} === 注釈 === {{reflist|30em|group="注"}} == 参考文献 == * {{Cite book|洋書 |title=Differential Geometry: Cartan's Generalization of Klein's Erlangen Program |publisher=Sprinver |date=1997/6/12 |author=Richard Sharpe |ref=Sharpe |series=Graduate Texts in Mathematics |volume=166 |isbn=978-0387947327}} * {{Cite book|洋書 |title=Differential Geometry: Connections, Curvature, and Characteristic Classes |date=2017/6/15 |publisher=[[シュプリンガー・サイエンス・アンド・ビジネス・メディア|Springer]] |author=[[:en:Loring W. Tu|Loring W. Tu]] |series=[[Graduate Texts in Mathematics]] |volume=275 |isbn=978-3319550824 |ref=Tu}} * {{Cite book|和書 |title=接続の微分幾何とゲージ理論 |date=1989/5/15 |publisher=[[裳華房]] |author=[[小林昭七]] |isbn=978-4785310585 |ref=小林}} {{DEFAULTSORT:たるふーとうかんすう}} [[Category:数学に関する記事]] [[Category:リー群論]] [[Category:微分法]] [[Category:微分積分学]] [[Category:数学のエポニム]]
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