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{{Expand English|Dirac equation|date=2023-11}} {{出典の明記|date=2017年3月7日 (火) 14:35 (UTC)}} {{場の量子論}} '''ディラック方程式'''(ディラックほうていしき、{{lang-en-short|Dirac equation}})は、[[フェルミ粒子]]を記述する[[ディラック場]]が従う[[基礎方程式]]である。[[ポール・ディラック]]により[[相対論的量子力学]]として導入され、[[場の量子論]]に受け継がれている。 == 歴史 == 非相対論的な[[シュレーディンガー方程式]]を、[[相対性理論|相対論]]へ対応するための拡張として、最初[[クライン-ゴルドン方程式]]が考案された。これは負のエネルギー解と負の[[確率密度]]の問題が生じた(この問題は、その後の[[場の量子論]]においては回避される)。また、クライン-ゴルドン方程式には[[スピン角運動量|スピン]]が出てこない問題もあった(これはクライン-ゴルドン方程式に従う[[スカラー場]]がスピンを持たない粒子を記述する為である)。 [[ポール・ディラック]]は[[1928年]]に'''ディラック方程式'''を基礎方程式とする(特殊)相対論的量子力学を見出した。ディラック方程式からは負の確率密度は生じず、スピンの概念が自然に現れる。 しかしディラック方程式からは、自然界には存在しないような負のエネルギーの状態が現れるという問題があった。[[オスカル・クライン]]は、ある種の強いポテンシャルのもとで正エネルギーの電子が負エネルギー状態へ遷移しうることを示して、理論から負エネルギー状態を完全に排除することが困難であることを指摘した。 [[1930年]]にディラックは「真空とは、負エネルギーの電子が完全に満たされた状態である」とする'''[[ディラックの海]]'''の概念('''空孔理論'''、{{en|hole theory}})を考案した。ディラックの海では負エネルギーの電子が取り除かれた「空孔」が生じることがあるが、ディラックは当初この空孔による粒子を[[陽子]]であると考えた。後に空孔は[[陽電子]]であることが指摘された([[ヘルマン・ワイル]]、[[ロバート・オッペンハイマー]]による)。ディラックの海の空孔は正のエネルギーを持ち、[[反粒子]]に対応する。光による電子と陽電子の生成は、真空中の負エネルギー電子が光を吸収して正エネルギー状態へ遷移し、あとに空孔を残す現象として説明される。[[1932年]]の[[カール・デイヴィッド・アンダーソン|デヴィッド・アンダーソン]]による陽電子の発見により、ディラックの海は現実の現象を説明する優れた理論とされた。 その後、[[リチャード・P・ファインマン]]等により拡張、解釈の見直しが図られた(相対論的な場の量子論)。その結果、ディラックの海を考えなくとも、電子と陽電子を対称に扱うことができるようになった。 {{main|量子電磁力学}} == ディラック方程式 == ディラック方程式は <math>\hbar=1,c=1</math> とする[[自然単位系]]では {{Indent| <math>i\gamma^\mu\partial_\mu\psi(x) -m\psi(x)=0</math> }} と表される。ψ は4成分[[スピノル]]の場([[ディラック場]])である。 {{Indent| <math> \psi(x) = \begin{pmatrix} \psi_1(x)\\ \psi_2(x)\\ \psi_3(x)\\ \psi_4(x)\\ \end{pmatrix} </math> }} m は ψ の[[質量]]である。μ=0,1,2,3 については[[アインシュタインの縮約記法]]を用いる。微分<math>\partial_\mu</math> は {{Indent| <math>\partial_\mu =\frac{\partial}{\partial x^\mu} =\left( \frac{\partial}{\partial t}, \nabla \right)</math> }} である。 <math>\gamma^\mu</math> は'''[[ガンマ行列]]'''(ディラック行列)と呼ばれる 4×4行列で {{Indent| <math>\{ \gamma^\mu, \gamma^\nu \} \equiv \gamma^\mu\gamma^\nu + \gamma^\nu\gamma^\mu =2\eta^{\mu\nu}</math> }} を満たす。<math>\eta_{\mu\nu}=\mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1)</math> は[[ミンコフスキー空間]]の[[計量テンソル]]である。ディラック方程式は3次元的に書けば {{Indent| <math>i\gamma^0\frac{\partial\psi}{\partial t} +i\boldsymbol{\gamma}\cdot\nabla\psi -m\psi=0</math> }} となる。移項して左から <math>\gamma^0</math> を掛ければ {{Indent| <math>i\frac{\partial\psi}{\partial{}t} =H\psi =-i\boldsymbol{\alpha}\cdot\nabla\psi +\beta m\psi</math> }} と表すことができる。 ただし <math>\alpha^j=\gamma^0\gamma^j, \beta=\gamma^0</math> である。ここで<math>H=-i\boldsymbol{\alpha}\cdot\nabla+\beta m</math> はディラックの[[ハミルトニアン]]と呼ばれる。 == ディラックの着想 == 相対論的な量子力学の基礎方程式として考案された[[クライン-ゴルドン方程式]] {{Indent| <math>-\frac{\partial^2\psi}{\partial t^2} =-\nabla^2\psi(t,\boldsymbol{x}) +m^2\psi(t,\boldsymbol{x})</math> }} は、時間について2階の微分方程式であることから負の確率密度を生じ、確率解釈が困難となる問題を抱えていた。これを時間について1階の微分方程式 {{Indent| <math>i\frac{\partial\psi}{\partial t} =-i\boldsymbol{\alpha}\cdot\nabla\psi(t,\boldsymbol{x}) +\beta m\psi(t,\boldsymbol{x})</math> }} に帰着させるべく、ディラックは空間成分についての2階微分を1階微分に分解した関係式 {{Indent| <math>( -i\boldsymbol{\alpha}\cdot\nabla +\beta m)^2 =-\nabla^2+ m^2</math> }} を満たすように4つの係数 '''α'''=(α<sub>1</sub>, α<sub>2</sub>, α<sub>3</sub>)、β を与えることを考えた。このとき、α<sub>i</sub>(i=1,2,3)、βに要求される代数関係は {{Indent| <math>\{ \alpha_i, \alpha_j \}=0\quad i\neq j,</math> }} {{Indent| <math>\{ \alpha_i, \beta \}=0,~ (\alpha_i)^2 = \beta^2 =1</math> }} となるが、こうした性質を満たすには係数は行列でなくてはならない。 == ローレンツ共変性 == ディラック方程式は相対論的な方程式であり、ローレンツ共変性を持つ。 即ち、[[ローレンツ変換]] :<math>x^\mu \rightarrow x'^\mu = \Lambda^\mu{}_\nu x^\nu</math> :<math>\psi_a(x) \rightarrow \psi'_a(x) = [D(\Lambda)]_a{}^b\,\psi_b(\Lambda^{-1}x)</math> (μ,ν=0,1,2,3は時空の4成分、a, b = 1,2,3,4 はスピノルの4成分)に対して、 :<math>(i\gamma^\mu\partial_\mu-m)\psi'(x)=0</math> となる。ディラックスピノルの変換性をあらわす4×4行列 D(Λ) は :<math>[D(\Lambda)]_a{}^c \,[\gamma^\mu]_c{}^d \,[D(\Lambda)^{-1}]_d{}^b = (\Lambda^{-1})^\mu{}_\nu[\gamma^\nu]_a{}^b </math> によって定まる。 ワイル表示においては行列式 1 の2×2行列 M を用いて :<math>D(\Lambda) = \begin{pmatrix} M & \mathbf{0} \\ \mathbf{0} & (M^\dagger)^{-1} \\ \end{pmatrix} </math> :<math>M \sigma^\mu M^\dagger = (\Lambda^{-1})^\mu{}_\nu\sigma^\nu</math> と書くことができる。例えば、z-方向のブーストの場合は :<math>\Lambda^\mu{}_\nu = \begin{pmatrix} \cosh\beta & 0 & 0 & \sinh\beta \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ \sinh\beta & 0 & 0 & \cosh\beta \\ \end{pmatrix} </math> :<math>M = \begin{pmatrix} e^{-\beta/2} & 0 \\ 0 & e^{\beta/2} \\ \end{pmatrix} </math> となる。 ==参考文献== ;原論文 * {{cite journal|author=P.A.M. Dirac|authorlink=ポール・ディラック|url=http://rspa.royalsocietypublishing.org/content/117/778/610|title=The Quantum Theory of the Electron|journal=Proc. R. Soc. A|date=1928|volume=117|issue=778|pages=610-624|doi=10.1098/rspa.1928.0023}} ==関連項目== *[[相対性理論]] *[[量子力学]] *[[場の量子論]] *[[運動方程式]] **[[クライン=ゴルドン方程式]] - スピン0の相対論的ボース粒子。スカラー場。 <!-- **[[ディラック方程式]] - スピン1/2の相対論的フェルミ粒子。スピノル場。 --> **[[マクスウェル方程式]] - スピン1、質量0の相対論的ボース粒子。ベクトル場。 **[[プロカ方程式]] - スピン1、質量が0でない相対論的ボース粒子。ベクトル場。 **[[ラリタ=シュウィンガー方程式]] - スピン3/2。ベクトル・スピノル場('''ラリタ=シュウィンガー場''')。 **[[アインシュタイン方程式]] - スピン2。 **[[マクシモン]] - [[修正ディラック方程式]] {{量子力学}} {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:ていらつくほうていしき}} [[Category:相対論的量子力学]] [[Category:場の量子論]] [[Category:スピノル]] [[Category:微分方程式]] [[Category:物理学の方程式]] [[Category:ポール・ディラック]] [[Category:人名を冠した数式]] [[Category:数学に関する記事]]
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