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ド・ラームコホモロジー
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{{otheruses||グロタンディークの代数的ド・ラームコホモロジー|{{仮リンク|Crystalline cohomology|en|Crystalline cohomology}}}} [[File:Irrotationalfield.svg|thumb|320px|閉じてはいるが完全ではない{{仮リンク|穴あき平面|en|punctured plane}}(punctured plane)上の微分形式に対応するベクトル場、この空間のド・ラームコホモロジーが非自明であることを示している。]] '''ド・ラームコホモロジー'''({{lang-en-short|de Rham cohomology}})とは[[可微分多様体]]のひとつの不変量で、多様体上の[[微分形式]]を用いて定まる[[ベクトル空間]]である。多様体の位相不変量である[[特異コホモロジー]]とド・ラームコホモロジーは同型になるという'''ド・ラームの定理'''がある。 == 簡単な例 == 多様体上の[[微分形式]] {{mvar|ω}} が {{math|1=''dω'' = 0}} となるとき'''[[閉形式]]'''、{{math|1=''ω'' = ''dη''}} となる {{mvar|η}} が存在するとき'''[[完全形式]]'''と呼ぶ。[[ユークリッド空間]]においては[[ポアンカレの補題]]によれば、閉形式はいつでも完全形式である。つまり {{mvar|k}} 次微分形式 {{mvar|ω}} が {{math|1=''dω'' = 0}} ならある {{math|1=''k'' − 1}} 次微分形式 {{mvar|η}} が存在して{{math|1=''ω'' = ''dη''}} となる。 しかし円周において角測度に対応する {{math|1}} 次微分形式 {{mvar|ω}} を考える。円周は {{math|1}} 次元の多様体であるから {{math|1=''dω'' = 0}} である、すなわち閉形式である。一方で {{math|1=''ω'' = ''df''}} となるような円周上全体で定義された[[微分可能関数]] {{mvar|f}} は存在しない。なぜならそのような関数にたいし {{mvar|df}} を円周上で積分すると[[微積分学の基本定理]]から {{math|0}} になるが {{mvar|ω}} を円周上で積分すると {{math|2π}} になるからである。このことから {{mvar|ω}} は閉形式であるが完全形式ではないことがわかる。 このように一般の多様体においては閉形式が完全形式であるとはかぎらない。閉形式の空間と完全形式の空間の差をはかるのがド・ラームコホモロジーである。 ==定義== {{mvar|M}} を微分可能多様体とし {{math|Ω<sup>0</sup>(''M'')}} を {{mvar|M}} 上の[[滑らかな函数]]の空間、{{math|Ω<sup>''k''</sup>(''M'')}} を {{mvar|M}} 上の {{mvar|k}} 次[[微分形式]]の空間とする。{{math|''d{{msup|k}}'': Ω{{msup|''k''}}(''M'') → Ω{{msup|''k''+1}}(''M'')}} で[[外微分]]をあらわし、上で述べたように {{math|ker ''d{{msup|k}}''}} の元を閉形式、{{math|Im ''d{{msup|k}}''}} の元を完全形式と呼ぶ。{{math|1=''d''{{msup|''k''+1}}''d''{{msup|''k''}} = 0}} をみたすことから次の系列 :<math>0 \to \Omega^0(M)\,\xrightarrow{\,d^0\,}\,\Omega^1(M)\,\xrightarrow{\,d^1\,}\,\Omega^2(M)\,\xrightarrow{\,d^2\,}\,\Omega^3(M) \to \cdots</math> は[[鎖複体|複体]]であり、これを'''ド・ラーム複体'''と呼ぶ。この複体のコホモロジーが'''ド・ラームコホモロジー'''である。すなわち、閉形式の空間を完全形式の空間でわった商 :<math>H^k_{\mathrm{dR}}(M)=\operatorname{Ker} d_k/\operatorname{Im} d_{k-1}</math> が {{mvar|k}} 次ド・ラームコホモロジー群である。 定義からわかるように {{math|{{subsup|H|dR|''k''|s=0}} {{=}} 0}} であることと任意の {{mvar|k}} 次閉形式が完全形式であることが同値である。 ==計算例== {{mvar|n}} 個の[[連結空間|連結成分]]からなる任意の多様体 {{mvar|M}} に対し、 :<math>H^{0}_{\mathrm{dR}}(M) \cong \mathbf{R}^n </math> が成り立つ。これは、微分が {{math|0}} である {{mvar|M}} 上の滑らかな函数は[[局所定数関数]]であるという事実から従う。 ポアンカレの補題から[[可縮]]な多様体 {{mvar|M}} についてそのド・ラームコホモロジーは {{math|''k'' > 0}} に対し :<math>H^{k}_{\mathrm{dR}}(M) =0 </math> をみたす。 ド・ラームコホモロジーを計算する上で有用な事実は[[マイヤー・ヴィートリス完全系列]]の存在および[[ホモトピー]]不変性である。ド・ラームコホモロジーを計算した結果を以下に挙げる。 ; [[n次元球面|{{mvar|n}} 次元球面]] ({{mvar|n}}-sphere) : [[超球面|{{mvar|n}} 次元球面]] {{mvar|S{{msup|n}}}} と開区間との積を考える。{{math|''n'' > 0}}, {{math|''m'' ≥ 0}} とし、{{mvar|I}} を実数の開区間とすると、 ::<math>H_{\mathrm{dR}}^{k}(S^n \times I^m) \simeq \begin{cases} \mathbf{R} & \text{if } k = 0,n, \\ 0 & \text{if } k \ne 0,n \end{cases}</math> : が成立する。 ; [[トーラス#n-次元トーラス|{{mvar|n}} 次元トーラス]] ({{mvar|n}}-torus) : {{math|''n'' > 0}} に対し、{{mvar|T{{msup|n}}}} を {{mvar|n}} 次元トーラスとすると、 ::<math>H_{\mathrm{dR}}^{k}(T^n) \simeq \mathbf{R}^{n \choose k}</math> : となる。 ; 穴のあいたユークリッド空間 : 穴のあいたユークリッド空間とは、単に原点を取り除いた[[ユークリッド空間]]のことを言う。{{math|''n'' > 0}} に対し、次が成り立つ。 ::{| |- |<math>H_{\mathrm{dR}}^{k}(\mathbf{R}^n - \{0\})</math> |<math>\simeq H_{\mathrm{dR}}^{k}(S^{n-1})</math> |<math>\simeq \begin{cases} \mathbf{R} & \text{if } k = 0,n-1, \\ 0 & \text{if } k \ne 0,n-1. \end{cases}</math> |} ; メビウスの帯 : [[メビウスの帯]] {{mvar|M}} は円周 {{math|''S''{{msup|1}}}} と[[ホモトピー同値]]なので、ホモトピー不変性から、 ::<math>H_{\mathrm{dR}}^{k}(M) \simeq \begin{cases} \mathbf{R} & \text{if } k = 0,1, \\ 0 & \text{if } k \ne 0,1. \end{cases}</math> ==ド・ラームの定理== {{mvar|M}} を[[微分可能多様体]]とする。[[特異チェイン]] {{math|''σ'': Δ<sup>''p''</sup> → ''M''}} と {{mvar|p}} 次微分形式 {{mvar|ω}} にたいし、積分 {{math|∫{{msub|σ}} ''ω''}} を考える。[[一般化されたストークスの定理|ストークスの定理]]から閉形式 {{mvar|ω}} にたいし :<math>\int_{\sigma+\partial\tau} \omega=\int_\sigma\omega+\int_\tau d\omega=\int_\sigma\omega</math> となり、特異サイクル {{mvar|σ}} にたいし :<math>\int_\sigma \omega+d\eta=\int_\sigma\omega+\int_{\partial\sigma} \eta=\int_\sigma\omega</math> となる。このことからド・ラームコホモロジーと特異ホモロジーの間にペアリングを定める事ができ、特異ホモロジーの双対である特異コホモロジーへの線形写像 :<math>I\colon H^p_{\mathrm{dR}}(M)\to H^p(M;\mathbb{R})</math> が定義される。具体的にかくと、ド・ラームコホモロジー類 {{math|[''ω'']}} から定まる {{math|''H<sub>p</sub>''(''M'')}} 上の線形形式 {{math|''I''(''ω'')}} が、サイクル類 {{math|[''c'']}} を <math>\int_c \omega</math> にうつすものとしてあたえられる。'''ド・ラームの定理'''は、この写像 {{mvar|I}} が同型であるという定理である。 さらに微分形式の[[ウェッジ積]]と特異コホモロジーの[[カップ積]]が整合的であり、この積から定まる2つの[[コホモロジー環]]は([[次数付き環]]として)同型となることも言っている。 ==チェックコホモロジーとの比較== ド・ラームコホモロジーは、ファイバー {{math|'''R'''}} を持つ{{仮リンク|定数層|en|constant sheaf}}の{{仮リンク|チェックコホモロジー|en|Čech cohomology}}と同型である。 :<math>H^k_{\mathrm{dR}}(M)\cong \check{H}^k(M,\mathbf{R}).</math> ===証明=== {{math|Ω<sup>''k''</sup>}} で {{mvar|M}} 上の {{mvar|k}} 形式の[[層 (数学)|芽の層]]を表すとする({{math|Ω<sup>0</sup>}} を {{math|''M''}} の上の {{math|''C''<sup>''m'' + 1</sup>}} 級函数を表すとする)。[[ポアンカレの補題]]によって、次は層の完全系列となる。 :<math>0 \to \mathbf{R} \to \Omega^0 \,\xrightarrow{d}\, \Omega^1 \,\xrightarrow{d}\, \Omega^2\,\xrightarrow{d} \dots \xrightarrow{d}\, \Omega^m \to 0.</math> 上記の系列は[[短完全列]]へと分解する。 :<math>0 \to d\Omega^{k-1} \,\xrightarrow{\mathrm{incl}}\, \Omega^k \,\xrightarrow{d}\, d\Omega^k\to 0.</math> これらの各々の短完全系列は、コホモロジーの[[長完全系列]]を引き起こす。 多様体上の {{math|''C''<sup>''m'' + 1</sup>}} 級函数の層は[[1の分割]]を持っているので、{{math|''i'' > 0}} にたいし[[層係数コホモロジー]] {{math|''H''<sup>''i''</sup>(''M'', Ω<sup>''k''</sup>)}} は {{math|0}} であり、コホモロジーの長完全系列から {{math|1=''H<sup>k</sup>''(''M'', ''d''Ω<sup>''m''−''k''</sup>) = ''H''<sup>''k''−1</sup>(''M'', ''d''Ω<sup>''m''−''k''+1</sup>)}} となる。これを繰り返す事で主張の同型がえられる。 ==関連するアイデア== {{mvar|M}} がコンパクトで向き付けられた多様体でリーマン計量をもつとする。このとき {{mvar|M}} のド・ラームコホモロジーは[[ホッジ理論]]によりホッジ分解をもつ。また {{mvar|M}} が複素多様体であれば、ド・ラームコホモロジーの類似として[[ドルボーコホモロジー]]が定義される。他にも[[アティヤ・シンガーの指数定理]]など、多くの数学的なアイデアを呼び起こした。 ==関連項目== * [[ホッジ理論]] * [[ホッジ構造]] * [[ケーラー多様体]] ==参考文献== {{参照方法|date=2016年5月}} * {{Citation | last1=Bott | first1=Raoul | author1-link=Raoul Bott | last2=Tu | first2=Loring W. | title=Differential Forms in Algebraic Topology | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | isbn=978-0-387-90613-3 | year=1982}} * {{Citation | last1=Griffiths | first1=Phillip | author1-link=Phillip Griffiths | last2=Harris | first2=Joseph | author2-link=Joe Harris (mathematician) | title=Principles of algebraic geometry | publisher=[[John Wiley & Sons]] | location=New York | series=Wiley Classics Library | isbn=978-0-471-05059-9 | mr=1288523 | year=1994}} * {{Citation | last1=Warner | first1=Frank | title=Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | isbn=978-0-387-90894-6 | year=1983}} ==外部リンク== * {{springerEOM|title=De Rham cohomology|id=De_Rham_cohomology}} {{DEFAULTSORT:とらあむこほもろしい}} [[Category:コホモロジー論]] [[Category:微分形式]] [[Category:ホモロジー論]] [[Category:数学に関する記事]] [[Category:数学のエポニム]]
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