バナッハ＝アラオグルの定理のソースを表示

{{Pathnav|[[数学]]|[[関数解析学]]|[[弱位相|＊弱位相]]|frame=1}}'''バナッハ＝アラオグルの定理'''（バナッハ＝アラオグルのていり、{{Lang-en-short|Banach–Alaoglu theorem}}）あるいは'''アラオグルの定理'''として知られる定理は、[[ノルム線型空間|ノルム空間]]{{Mvar|V}}の[[双対空間|共役空間]]{{Mvar|V{{sup|*}}}}の[[閉集合|閉]][[球体|単位球]]が[[弱位相|＊弱位相]]関して[[コンパクト空間|コンパクト]]になるという定理である<ref>{{harvnb|Rudin|1991}}, section 3.15.</ref>。

この定理の背景を簡単に述べると、関数解析学では無限次元のノルム空間{{Mvar|V}}を多用し、{{Mvar|V}}やその共役空間{{Mvar|V{{sup|*}}}}の元は何らかの集合上の実数値ないし複素数値の関数のなすベクトル空間である事が多い。しかし{{Mvar|V}}が無限次元の場合、{{Mvar|V}}や{{Mvar|V{{sup|*}}}}の閉単位球はノルム位相に関してはコンパクトにならない事が知られており、これが原因で有限次元とは異なり、{{Mvar|V}}や{{Mvar|V{{sup|*}}}}上の有界な点列が（ノルム位相に関して）収束部分列を持つことが保証されない。これは例えば微分方程式をノルムに関して近似する解{{Mvar|f{{sub|ε}}}}を求めた上で{{Math|''ε''→''0''}}とした場合、その極限（すなわち微分方程式の解そのもの）が存在する事が保証されない事を意味する。微分方程式の振る舞いの記述を主たる適用先とする関数解析学において、これは致命的である。

しかしバナッハ＝アラオグルの定理は閉単位球が＊弱位相に関してコンパクトである事を保証しているので、弱位相の意味での近似解{{Mvar|f{{sub|ε}}}}を求めれば、<math>(f_{\varepsilon})_{\varepsilon>0}</math>が収束部分列を持つ事が保証され、その収束部分列の極限が微分方程式の解になっている事を証明する道が開かれる。

この定理は、[[観測可能量|オブザーバブル]]の代数の状態の集合を表現するときに物理学的に応用される。すなわち、任意の状態はいわゆる純粋状態の凸線型結合として表現される{{要出典|date=2021年3月}}。

この定理は[[可分空間|可分]]な場合に対して1932年に[[ステファン・バナフ]]によって示され、一般の場合は1940年に{{仮リンク|レオニダス・アラオグル|en|Leonidas Alaoglu}}により示された{{要出典|date=2021年3月}}。

== 定理 ==
以下、ベクトル空間の係数体{{Mvar|K}}は<math>\mathbb{R}</math>もしくは<math>\mathbb{C}</math>であるとする。

=== 準備 ===
本節ではバナッハ＝アラオグルの定理の記述に必要な概念を定義する。
{{math theorem|
{{Mvar|K}}上ノルム空間<math>(V,\|\cdot\|_V)</math>の'''共役空間'''（{{lang-en-short|dual space}}。'''双対空間'''とも訳される）{{Mvar|V{{sup|*}}}}は{{Mvar|V}}上の{{Mvar|K}}値[[有界線形作用素]]全体
: <math>V^*=\{\alpha~\colon V\to K \mid \alpha </math>は{{Mvar|K}}上の有界線形作用素<math>\}</math>
に関数としての定数倍および和に関してベクトル空間とみなしたものである。{{Mvar|V{{sup|*}}}}には'''[[作用素ノルム]]'''
: <math>\|\alpha\|_{V^*} = \sup_{x\in V\setminus \{0\} } {|\alpha(x)| \over \|x\|_{V}}</math>
によりノルムが入る。
|name=定義|note='''[[ノルム線型空間|ノルム空間]]の[[双対空間|共役空間]]'''}}{{Mvar|V{{sup|*}}}}の'''閉単位球'''{{Mvar|B{{sup|*}}}}は上述の作用素ノルム<math>\|\cdot\|_{V^*}</math>に対して定義される：
:<math>B^*:=\{\alpha\in V^*\mid \|\alpha\|_{V^*}\le 1\}</math>

なお、{{Mvar|V{{sup|*}}}}上の作用素ノルム<math>\|\cdot\|_{V^*}</math>は{{Mvar|V{{sup|*}}}}に'''ノルム位相'''（=ノルムが定める距離から定まる位相）を定めるが、バナッハ＝アラオグルの定理はノルム位相ではなく以下で述べる＊弱位相に関する定理である：{{math theorem|
{{Mvar|V{{sup|*}}}}上の'''＊弱位相'''とは{{Math|''x'' ∈ ''V''}}に対し、
: <math>\mu_x\colon\alpha\in V^* \mapsto \alpha(x)\in K</math>
とするとき、{{Mvar|μ{{sub|x}}}}が全て連続になる{{Mvar|V{{sup|*}}}}上の最弱の位相の事である。
|name=定義|note=[[弱位相|'''＊弱位相''']]}}

最後に位相空間の[[コンパクト空間|コンパクト性]]は以下のように定義される：{{math theorem|位相空間{{mvar|X}}に関して以下の2条件は同値であり、これら2条件の少なくとも一方（したがって両方）を満たすとき{{mvar|X}}は'''コンパクト'''であるという<ref name="Kelly135-136">[[コンパクト空間#Kelly|#Kelly]] pp.135-136.</ref>。
* {{mvar|X}}上の任意の[[有向点族]]<math>(x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}</math>に対し、<math>(x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}</math>のある部分有向点族<math>(x_{\lambda_{\gamma}})_{\gamma\in\Gamma}</math>と{{math|''x''∈''X''}}が存在し、<math>(x_{\lambda_{\gamma}})_{\gamma\in\Gamma}</math>は{{math|''x''∈''X''}}に収束する
* {{mvar|X}}の任意の開被覆<math>\mathcal{S}</math>に対し、<math>\mathcal{S}</math>のある有限部分集合<math>\mathcal{T}</math>が存在し、<math>\mathcal{T}</math>は{{mvar|X}}を被覆する。ここで{{mvar|X}}の開被覆<math>\mathcal{S}</math>とは、{{mvar|X}}の開集合の族で<math>\cup_{O\in \mathcal{S}}O=X</math>を満たすものを指す。|name=定義・定理|note='''[[位相空間]]の[[コンパクト空間|コンパクト性]]'''}}

ノルム位相に対しては[[リースの補題]]から直接的に次の事実が従う：{{math theorem|<math>\mathbb{R}</math>もしくは<math>\mathbb{C}</math>上の[[ノルム線形空間|ノルム空間]]{{mvar|V}}の閉単位球がノルム位相に関してコンパクトである必要十分条件は{{mvar|V}}が有限次元である事である。|name=命題}}
したがって無限次元の場合、{{Mvar|V{{sup|*}}}}の閉単位球はノルム位相に関してコンパクトではない。

=== 定理の記述 ===
これに対し、{{Mvar|V{{sup|*}}}}の閉単位球は＊弱位相に関してはコンパクトになるというのがバナッハ・アラオグルの定理の主張である：{{math theorem|name=定理|1=
{{mvar|K}}を<math>\mathbb{R}</math>もしくは<math>\mathbb{C}</math>とする。このとき{{mvar|K}}上のノルム空間<math>(V,\|\cdot\|_{V})</math>の[[双対空間|共役空間]]<math>(V^*,\|\cdot\|_{V^*})</math>に＊弱位相を入れると、{{mvar|V{{sup|*}}}}の閉単位球は
: <math>B^*=\{\alpha\in V^*\mid \|\alpha\|_{V^*}\le 1\}</math>
はコンパクトである。
|note='''バナッハ＝アラオグルの定理'''}}この定理は[[チコノフの定理]]に基づいて非構成的に示せる<ref>[[#Schlumprecht]] p.7.</ref>。なおノルム空間{{Mvar|V}}が（ノルム位相に関して）[[可分空間|可分]]な場合には、可分なノルム空間の共役空間の閉単位球が＊弱位相に関して距離化可能である事<ref name=":0">[[#Semmes]] pp.15, 20-21</ref>を利用してより直接的にに証明可能である<ref name=":0" />。

{{math proof|
各{{Math|''x'' ∈ ''V''}}に対し{{Mvar|K{{sub|x}}}}を{{Mvar|K}}のコピーとするとき、{{Mvar|V{{sup|*}}}}上の＊弱位相は
: <math>\alpha\in V^* \mapsto \alpha(x)\in K_x</math>
を全て連続になる{{Mvar|V{{sup|*}}}}上の最弱の位相であるので、
: <math>K^V:=\prod_{x\in V}K_x</math>
と定義すると、直積位相の定義より、＊弱位相は写像
: <math>\mu~\colon~V^*\to K^V, ~~\alpha \mapsto (\alpha(x))_{x\in V}</math>
を連続にする最弱の位相と一致する。すなわち{{Mvar|μ}}は中への同相写像である。したがって{{Mvar|V{{sup|*}}}}の閉単位球{{Mvar|B{{sup|*}}}}のコンパクト性を示すには、{{Math|''μ''(''B''{{sup|*}})}}のコンパクト性を示せば良い。


これを示すため、<math>K^V</math>は{{Mvar|V}}から{{Mvar|K}}への（線形とは限らない）写像全体の集合{{Math|''F''(''V'', ''K'')}}と自然に同一視できるという事実を使う：
: <math>K^V \approx F(V,K)</math>
両者が同一視できるのは以下の理由による。<math>K^V</math>の任意の元<math>\nu=(\nu_x)_{x\in V}</math>から（線形とは限らない）写像<math>x\in V \mapsto \nu_x\in K</math>を定める事ができ、逆に{{Mvar|V}}から{{Mvar|K}}への(線形とは限らない)に<math>\zeta~:~V \to K</math>対して<math>(\zeta(x))_{x\in V}\in K^V</math>が対応する。

上記の同一視を行った場合、<math>K^V</math>の位相（直積位相）は{{Math|''F''(''V'', ''K'')}}の各点収束位相と一致する。


{{Math|''μ''(''B''{{sup|*}})}}のコンパクト性を示す為、<math>D_x \subset K_x</math>を
: <math>D_x =\{\xi\in K_x \mid |\xi|\le \|x\|_{V}\}</math>
により定義し、
: <math>D^V:=\prod_{x\in V}D_x</math> 
すると、定義より
: <math>\mu(B^*)\subset D^V \subset K^V \approx F(V,K)</math>
である。{{Mvar|D{{sub|x}}}}は{{Mvar|K{{sub|x}}{{=}}}}<math>\mathbb{R}</math> or <math>\mathbb{C}</math>の閉単位球なのでコンパクトである。よって[[チコノフの定理]]より、<math>D^V=\prod_{x\in V}D_x </math>は<math>F(V,K)</math>のコンパクト部分集合である。<math>F(V,K)</math>は明らかにハウスドルフなので、コンパクトな集合<math>D^V</math>の部分集合{{Math|''μ''(''B''{{sup|*}})}}がコンパクトである必要十分条件は{{Math|''μ''(''B''{{sup|*}})}}が閉集合な事である。


以上の事から{{Mvar|B{{sup|*}}}}のコンパクト性を示すには、{{Math|''μ''(''B''{{sup|*}})}}が<math>D^V\subset F(V,K) </math>で閉集合な事を示せば良い。これを示すために{{Math|''μ''(''B''{{sup|*}})}}と<math>D^V</math>の関係を調べる。<math>D^V</math>を（線形とは限らない）写像の集合<math>F(V,K)</math>の部分集合とみなしたとき、
: <math>\nu \in D^V=\prod_{x\in V}D_x \iff \forall x\in V ~:~ |\nu(x)| \le \|x\|_{V} \iff \sup_{x\in V\setminus\{0\}}{|\nu(x)|\over \|x\|_{V}} \le 1 \text{ and }\nu(0)=0</math>
なので、作用素ノルム<math>\|\cdot\|_{V^*}</math>の定義より、
: <math>\mu(B^*)= \bigg\{ \nu \in D^V \bigg|\nu</math>は線形<math>\bigg\}</math>

が従う。よって{{Math|''μ''(''B''{{sup|*}})}}が閉集合である事を示すには収束する任意の[[有向点族]]<math>(\alpha_{\lambda})_{\lambda\in \Lambda}\subset B^*</math>に対し、その極限{{Mvar|α{{sub|∞}}}}が{{Math|''α''{{sub|∞}} ∈ ''B''{{sub|*}}}}を満たす事を示せばよい。そこで{{Math|''x'', ''y'' ∈ ''V''}}、{{Math|''a'', ''b'' ∈ ''K''}}を任意に取ると、
: <math>\alpha_{\infty}(ax+by)
=(\lim_{\lambda\to\infty}\alpha_{\lambda})(ax+by)
\underset{\text{(1)}}{=}\mu_{ax+by}(\lim_{\lambda\to\infty}\alpha_{\lambda})
</math><math>\underset{\text{(2)}}{=}
\lim_{\lambda\to\infty}\mu_{ax+by}(\alpha_{\lambda})
\underset{\text{(3)}}{=}
a\lim_{\lambda\to\infty}\alpha_{\lambda}(x)+b\lim_{\lambda\to\infty}\alpha_{\lambda}(y)
</math><math>=a\alpha_{\infty}(x)+b\alpha_{\infty}(y)</math>

が成立する。ここで

* (1)は<math>\mu_{x}
</math>の定義から従う。
* (2)は＊弱位相が<math>(\mu_{x})_{x\in V}
</math>を全て連続にする最弱の位相である事から従う。
* (3)は<math>\mu_{x}
</math>の定義、および{{Mvar|K}}における和や定数倍の連続性から従う。

よって{{Math|''α''{{sub|∞}} ∈ ''B''{{sub|*}}}}が示され、定理が証明された。
|title=一般の場合の証明|drop=yes}}
{{math proof|
可分なノルム空間{{Mvar|V}}の共役空間{{Mvar|V{{sup|*}}}}の閉単位球{{mvar|B{{sup|*}}}}は＊弱位相に関して距離化可能な事が知られており<ref name=":0" />、距離化可能空間では{{mvar|B{{sup|*}}}}のコンパクト性は点列コンパクト性と同値であるので、任意に点列<math>(\alpha_n)_{n\in\mathbb{N}}\subset B^*</math>を選んで固定し、<math>(\alpha_n)_{n\in\mathbb{N}}</math>が{{mvar|B{{sup|*}}}}内に収束する部分列を持つ事を示せば良い。


{{mvar|V}}は可分なので、{{mvar|V}}の稠密部分集合<math>(x_i)_{i\in\mathbb{N}}\subset V</math>が存在する。今、
:<math>\alpha_n \in B^*\Rightarrow   \|\alpha_n\|_{V^*}\le 1 \Rightarrow |\alpha_n(x_i)|\le |x_i|</math>
が成立するので、各{{mvar|i}}に対し、数列<math>(\alpha_n(x_i))_{n\in\mathbb{N}}\subset K</math>は{{mvar|K}}上有界であり、したがって収束部分列を持つ。


よって各{{mvar|i}}に対して順に<math>(\alpha_n)_{n\in\mathbb{N}}</math>の部分列を取っていくことで任意の{{mvar|i}}に対して<math>(\alpha_{n_m}(x_i))_{m\in\mathbb{N}}</math>が{{math|''m''→∞}}に関して収束するような<math>(\alpha_{n_m})_{m\in\mathbb{N}}</math>を選ぶ事ができる。


次に我々は、<math>(x_i)_{i\in\mathbb{N}}\subset V</math>が{{mvar|V}}で稠密な事を利用して、任意の{{math|''x'' ∈ ''V''}}に対し<math>(\alpha_{n_m}(x))_{m\in\mathbb{N}}</math>が[[コーシー列]]である事を示す。{{mvar|V{{sup|*}}}}は（{{mvar|V}}が完備であるかどうかによらず）必ず完備なので、これにより<math>(\alpha_{n_m}(x))_{m\in\mathbb{N}}</math>の収束性が従う。


そこで{{math|''ε''>0}}と{{math|''x'' ∈ ''V''}}を任意に固定すると、<math>(x_i)_{i\in\mathbb{N}}</math>は{{mvar|V}}の稠密性より、
: <math>\|x-x_i\|\le \varepsilon</math>
を満たす{{mvar|x{{sub|i}}}}が存在する。よって任意の{{mvar|m}}、<math>\ell\in \mathbb{N}</math>に対し、
: <math>
\begin{align}
&|\alpha_{n_m}(x)-\alpha_{n_\ell}(x)|\\
&\le |\alpha_{n_m}(x)-\alpha_{n_m}(x_i)|+|\alpha_{n_m}(x_i)-\alpha_{n_\ell}(x_i)|+|\alpha_{n_\ell}(x_i)-\alpha_{n_\ell}(x)|\\
&\le \|\alpha_{n_m}\|_{V^*}\|x_i-x\|_{V}+|\alpha_{n_m}(x_i)-\alpha_{n_\ell}(x_i)|+\|\alpha_{n_\ell}\|_{V^*}\|x_i-x\|_{V}\\
&\le |\alpha_{n_m}(x_i)-\alpha_{n_\ell}(x_i)|+2\varepsilon
\end{align}
</math>
が成立する。最後の不等式は<math>\alpha_{n_m},\alpha_{n_\ell}\in B^*</math>と<math>\|x-x_i\|_{V}\le \varepsilon</math>を用いた。


各固定された{{mvar|i}}に対し<math>(\alpha_{n_m}(x_i))_{m\in\mathbb{N}}</math>は収束列であり、したがってコーシー列であるので、上記の事から、
:<math>0\le \overline{\lim}_{m,\ell\to\infty}|\alpha_{n_m}(x)-\alpha_{n_\ell}(x)|\le 2\varepsilon</math>
が成立する。よって{{math|''ε''>0}}の任意性より、
:<math>\lim_{m,\ell\to\infty}|\alpha_{n_m}(x)-\alpha_{n_\ell}(x)|=0</math>
が任意の{{math|''x'' ∈ ''V''}}に対して成立する。よって任意の{{math|''x'' ∈ ''V''}}に対し<math>(\alpha_{n_m}(x))_{m\in\mathbb{N}}</math>はコーシー列であり、したがって{{mvar|V{{sup|*}}}}の完備性より収束列である。


最後に、
:<math>\alpha~:~V\to K</math>
を、{{math|''x'' ∈ ''V''}}に<math>(\alpha_{n_m}(x))_{m\in\mathbb{N}}</math>の収束先を対応させる写像とする。この写像{{mvar|α}}が{{mvar|V{{sup|*}}}}の元であり、しかも<math>(\alpha_{n_m})_{m\in\mathbb{N}}</math>の収束先である事を示せば、定理が証明される。

{{mvar|α}}が{{mvar|V{{sup|*}}}}の元である事を示すため、{{mvar|V{{sup|*}}}}の条件を順に示す。まず<math>\alpha_{n_m}</math>の線形性より<math>\alpha</math>の線形性が従う。しかも任意の{{math|''ε''>0}}と任意の{{math|''x'' ∈ ''V''}}に対し、ある<math>m_0\in\mathbb{N}</math>以上の{{mvar|m}}に対して
: <math>|\alpha(x)|\le |\alpha(x)-\alpha_{n_m}(x)|+|\alpha_{n_m}(x)|\le \varepsilon + |x|</math>
が<math>\alpha_{n_m}\in B^*</math>から従うので、{{math|''ε''>0}}の任意性から <math>|\alpha(x)|\le  |x|</math>、すなわち<math>\alpha\in B^*\subset V^*</math>が従う。

{{mvar|α}}の定義より、<math>\lim_{m\to\infty}|\alpha_{n_m}(x)-\alpha(x)|=0</math>が任意の{{math|''x'' ∈ ''V''}}に対して従い、これは<math>(\alpha_{n_m})_{m\in\mathbb{N}}</math>が{{mvar|α}}に＊弱収束する事を意味する。
|title=可分な場合の別証明|drop=yes}}


バナッハ＝アラオグルの定理は半径1の閉球に対するものだが、任意の半径の閉球もコンパクトになる事が容易に示せる。また＊弱位相はハウスドルフ性を満たす事が知られており、コンパクトな空間の閉部分集合はコンパクトなので、以下の系が成立する：{{math theorem|name=系|1=
{{mvar|V*}}に＊弱位相を入れた空間の有界閉集合はコンパクト
}}なお、{{Mvar|V}}が[[回帰的空間|回帰的]]（すなわち{{Math|1=''V''{{sup|**}}=''V''}}が成立する空間）であれば{{Mvar|V}}上の＊弱位相と[[弱位相]]は同一になるので、下記の系が従う：{{math theorem|name=系|1=
{{mvar|V}}が回帰的なノルム空間であれば、{{mvar|V}}に弱位相を入れた空間の有界閉集合はコンパクト
}}{{Math|''1'' < ''p'' < ∞}}に対し[[Lp空間|L<sup>p</sup>空間]]や[[数列空間|&#8467;<sup>p</sup>空間]]は回帰的なので、上記の定理が適用できる。しかし回帰的でない場合には上述の定理に反例があり、例えば{{mvar|0}}に収束する複素数列全体に&#8467;<sup>∞</sup>ノルムを入れた空間{{mvar|c{{sub|0}}}}の閉単位球は弱位相に関してコンパクトではない<ref>[[コンパクト空間#Heil|#Heil]] p.361.</ref>。

注意しなければならないのは、＊弱位相における有界閉集合には内点が無く、有界閉集合上の点は必ず境界点になる事である。これはすなわち、たとえ閉単位球がコンパクトであっても＊弱位相をいれた{{Mvar|V{{sup|*}}}}が[[局所コンパクト空間|局所コンパクト]]にはなっていない事を意味する。

{{要出典範囲|''なお、X''<sup>&lowast;</sup> が実数直線上の有限ラドン測度の空間（したがって[[リースの表現定理]]より、<math>X = C_0({\mathbb R})</math> は無限大で消失する連続函数の空間となる）の場合、可分なノルム空間に対するバナッハ＝アラオグルの定理は[[ヘリーの選択定理]]と同値となる|date=2021年3月}}。

== 一般化：ブルバキ＝アラオグルの定理 ==

'''ブルバキ＝アラオグルの定理'''（Bourbaki-Alaoglu theorem）は、[[ニコラ・ブルバキ]]による[[局所凸空間|局所凸位相ベクトル空間]]上の[[双対位相]]へのバナッハ＝アラオグルの定理の一般化である<ref>{{harvnb|Köthe|1969}}, Theorem (4) in §20.9.</ref><ref>{{harvnb|Meise|Vogt|1997}}, Theorem 23.5.</ref>。

{{math theorem|name=定理|1=
[[双対空間|連続双対]] ''X''&nbsp;' を持つ分離された局所凸空間 ''X'' が与えられたとき、''X'' 内の任意の[[近傍 (位相空間論)|近傍]] ''U'' の[[極集合|極]] ''U''<sup>0</sup> は、''X''&nbsp;' 上の[[弱位相 (極位相)|弱位相]] σ(''X''&nbsp;',''X'') においてコンパクトである。
|note='''ブルバキ＝アラオグルの定理'''}}

ノルム線型空間の場合、近傍の極はその双対空間において閉かつノルム有界である。例えば、単位球の極はその双対において閉単位球である。したがって、ノルム位相空間（したがってバナッハ空間）に対して、ブルバキ＝アラオグルの定理はバナッハ＝アラオグルの定理と同値である。

{{math proof|
''X'' 内の任意の ''x'' に対し、

:<math>D_x=\{z\in\mathbb{C}: \left|z\right|\leq \|x\|\},</math>

と

:<math>D=\Pi_{x\in X} D_x </math>

を定める。各 ''D<sub>x</sub>'' は複素平面内のコンパクト部分集合であるため、[[チコノフの定理]]より[[積位相]]において ''D'' もまたコンパクトである。

''X*'' 内の閉単位球 ''B''<sub>1</sub>(''X*'') は、自然な方法で ''D'' の部分集合と見なすことが出来る。すなわち

:<math> f \in B_1\left(X^*\right) \mapsto (f(x))_{x \in X} \in D</math>
 
である。この写像は単射かつ連続で、''B''<sub>1</sub>(''X*'') は弱 * 位相を持ち、''D'' は積位相である。この値域上で定義される逆写像もまた連続である。

この写像の値域が閉であることが示されれば、定理は証明される。しかしそれは明らかである。''D'' 内の次のネット

:<math>(f_{\alpha}(x))_{x \in X} \rightarrow (\lambda_x)_{x \in X}</math>

を考えると、次で定義される汎函数

:<math>g(x) = \lambda_x \,</math>

は ''B''<sub>1</sub>(''X*'') に属する。
|drop=yes}}

== 帰結 ==
* ノルムについて閉じている凸集合は弱閉である（[[ハーン-バナッハの定理|ハーン=バナッハの定理]]）ため、ヒルベルト空間あるいは回帰的バナッハ空間における有界凸集合のノルム閉包は、弱コンパクトである{{要出典|date=2021年3月}}。
* ''B(H)'' における閉かつ有界集合は、[[弱作用素位相]]に関してプレコンパクトである（弱作用素位相は、[[トレースクラス]]作用素の集合 ''B(H)'' の前双対に関する弱 * 位相である{{仮リンク|超弱位相|en|ultraweak topology}}よりも弱い）。したがって、作用素の有界列は弱集積点を持つ。したがって ''B(H)'' は、弱作用素あるいは超弱位相が備えられたとき、[[ハイネ・ボレルの被覆定理|ハイネ＝ボレルの性質]]を持つ{{要出典|date=2021年3月}}。
たない。

== 関連項目 ==
* {{仮リンク|ビショップ＝フェルプスの定理|en|Bishop–Phelps theorem}}
* {{仮リンク|ゴールドスタインの定理|en|Goldstine theorem}}
* {{仮リンク|ジェームスの定理|en|James' theorem}}
* {{仮リンク|マズローの補題|en|Mazur's lemma}}
* [[クレイン＝ミルマンの定理]]

==注釈==
{{reflist}}

== 参考文献 ==
* {{Cite book  |ref=harv
  | last = Rudin
  | first = W.
  | authorlink=ウォルター・ルーディン
  | title = Functional Analysis
  | place = Boston, MA
  | publisher = McGraw-Hill
  | isbn = 0-07-054236-8
  | edition = 2nd
  | year = 1991
  | postscript = <!--None--> }} See section 3.15, p.&nbsp;68.
* {{cite book
  | last1=Meise
  | first1=Reinhold
  | last2=Vogt
  | first2=Dietmar
  | title=Introduction to Functional Analysis
  | publisher=Clarendon Press
  | location=Oxford
  | year=1997
  | isbn=0-19-851485-9
  | ref=harv}} See Theorem 23.5, p.&nbsp;264.
* {{cite book|last1=Köthe|first1=Gottfried|title=Topological Vector Spaces I|date=1969|publisher=Springer-Verlag|location=New York|ref=harv}} See §20.9.
*{{Cite web|url=https://math.rice.edu/~semmes/fun6.pdf|title=6:  Weak and weak∗ convergence|accessdate=2021/03/22|publisher=Rice University|author=Stephen Semmes|format=pdf|work=An introduction to some aspects of function alanalysis|ref=Semmes}}
*{{Cite web|url=https://people.math.gatech.edu/~heil/6338/summer08/section9f.pdf|title=Alaoglu's Theorem|accessdate=2021/03/22|publisher=Georgia Institute of Technology|author=Christopher E. Heil|work=LECTURE NOTES, MATH 6338 (Real Analysis II), Summer 2008|ref=Heil}}
*{{Cite web|url=https://www.math.tamu.edu/~thomas.schlumprecht/course_notes_7.3_and_7.4.pdf|title=CHAPTER 7.  ELEMENTS OF FUNCTIONAL ANALYSIS|accessdate=2021/03/23|format=pdf|work=Real Variables II, Math 608|publisher=Texas A&M University|author=Thomas Schlumprecht|ref=Schlumprecht}}
* {{Cite book|洋書|title=General Topology|date=1975/6/27|publisher=Springer-Verlag|author=John L. Kelly|ref=Kelly|isbn=978-0387901251|year=|pages=|series=Graduate Texts in Mathematics (27)}}
** Kindle版：ASIN : B06XGRCCJ3
** 翻訳版：{{Cite book|和書|title=位相空間論|date=1979/7/1|year=|publisher=吉岡書店|pages=|author=ジョン・L.ケリー|translator=児玉之宏|isbn=978-4842701318|series=数学叢書}}

== 関連図書 ==
* {{cite book | author = John B. Conway|authorlink=:en:John B. Conway | title = A course in functional analysis | publisher = Springer-Verlag | location = Berlin | year = 1994 | edition = 2nd | isbn = 0-387-97245-5}} See Chapter 5, section 3.
* {{cite book | author = Peter B. Lax 
|authorlink=ピーター・ラックス
| title = Functional Analysis 
| publisher = Wiley-Interscience | year = 2002 
|page=120-121| isbn = 0-471-55604-1}}


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