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'''マイヤーの関係式'''(マイヤーのかんけいしき、{{lang-en|Mayer's relation}})とは、[[理想気体]]の2つの[[熱容量]]の関係を与える式である。[[ドイツ人]][[物理学者]][[ユリウス・ロベルト・フォン・マイヤー]]が、1842年に[[熱の仕事当量]]を初めて発表した際に用いた{{sfnp|山本|2009|pp=328-334}}。 マイヤーの関係式は[[理想気体の状態方程式]]から導かれる関係式であり、理想気体や半理想気体では厳密に成り立つが、[[実在気体]]では近似的にのみ成り立つ。 マイヤーの関係式によると、気体の[[熱容量#定積熱容量|定積熱容量]] {{mvar|C{{sub|V}}}} と[[熱容量#定圧熱容量|定圧熱容量]] {{mvar|C{{sub|p}}}} の間には {{Indent| <math>C_p=C_V+nR</math> }} の関係が成立する<ref name=Prigodine27>『[[#化学熱力学|化学熱力学]]』p. 27.</ref>。ここで {{mvar|n}} は気体の[[物質量]]であり、{{mvar|R}} は[[気体定数|モル気体定数]]である。この式の両辺を {{mvar|n}} で割ると、気体の[[定積モル熱容量]] {{math|''C''{{sub|''V'',m}}}} と[[定圧モル熱容量]] {{math|''C''{{sub|''p'',m}}}} の間の関係式 {{Indent| <math>C_{p,\text{m}}=C_{V,\text{m}}+R</math> }} が得られる<ref name=物理学辞典>「マイヤーの関係」『物理学辞典』三訂版, 培風館.</ref>。この式の両辺をさらに気体の[[モル質量]] {{mvar|M}} で割ると、気体の[[定積比熱]] {{mvar|c{{sub|v}}}} と[[定圧比熱]] {{mvar|c{{sub|p}}}} の間の関係式 {{Indent| <math>c_p=c_v+R_\text{s}</math> }} が得られる<ref name=理化学辞典>「比熱」『岩波理化学辞典』第5版 CD-ROM版, 岩波書店.</ref>。ここで {{math|''R''{{sub|s}}}} は比気体定数である。 == 2つの熱容量 == 物体の温度を1℃上げるのに必要な熱量を、その物体の[[熱容量]]という。同じ物体でも、一定の圧力のもとで加熱したときと、物体の体積を一定に保って加熱したときとでは、温度を1℃上げるのに必要な熱量が異なる。一定の圧力下での熱容量を[[熱容量#定圧熱容量|定圧熱容量]]と呼び、記号 {{mvar|C<sub>p</sub>}} で表す。体積を一定に保ったときの熱容量を[[熱容量#定積熱容量|定積熱容量]]と呼び、記号 {{mvar|C<sub>V</sub>}} で表す。気体・液体・固体のいずれの場合でも、[[#一般の場合|不等式 {{math|''C<sub>p</sub>'' ≥ ''C<sub>V</sub>'' }}]] が常に成り立つことが知られている{{sfnp|高林|1999|p=184}}。この不等式は、一定圧力のもとで物体の温度を1℃上げるには、体積一定で1℃上げるときよりも熱を余計に加えなければならないことを示している。物体の[[熱膨張率]]をゼロとみなせる特別な場合に限って、この「余計な熱」が不要になる。熱膨張率がゼロなら、圧力一定で加熱したときに体積もまた一定に保たれるので {{math|1=''C<sub>p</sub>'' = ''C<sub>V</sub>'' }} となるからである。極低温の固体や、4℃付近の水がこの場合に相当する{{sfnp|原島|1978|p=72}}。 気体の場合には、圧力一定で加熱したときの「余計な熱」はほとんど全て、気体の熱膨張に伴う[[仕事 (熱力学)|仕事]]に変換される<ref name=物理学辞典 />。というのは、気体の[[内部エネルギー]] {{mvar|U}} は、温度が同じであれば体積・圧力が変わってもほとんど変化しないからである<ref name=Moore48>『[[#ムーア物理化学|ムーア物理化学]]』p. 48.</ref>。[[熱力学第一法則]]により、ある過程における内部エネルギーの変化量 {{mvar|ΔU}} は、その過程で物体が得た熱量 {{mvar|Q}} からその物体がした仕事 {{mvar|W}} を引いたものに等しい。気体の場合は、始状態と終状態の温度が同じであれば、[[定圧過程]]でも[[定積過程]]でも {{mvar|ΔU}} はほとんど同じになる。よって、定圧過程で気体に加えなければならない熱 {{mvar|Q<sub>p</sub>}} は、定積過程で同じだけ温度を上げるのに必要な熱 {{mvar|Q<sub>V</sub>}} に、定圧過程で気体がする仕事 {{mvar|W<sub>p</sub>}} を加えたものにほぼ等しい。 [[理想気体]]の場合は、始状態と終状態の温度が同じであれば、定圧過程と定積過程の {{mvar|ΔU}} は正確に一致する([[ジュールの法則]])。したがって {{Indent| <math>Q_p=Q_V+W_p</math> }} が厳密に成り立つ。 == 気体の熱容量 == 物質1[[モル]]当たりの熱容量を、モル熱容量という。[[定積モル熱容量]]を記号 {{math|''C''<sub>''V'',m</sub>}} で、[[定圧モル熱容量]]を記号 {{math|''C''<sub>''p'',m</sub>}} で表す。気体のモル熱容量は、気体の種類により異なる。例えば、[[ヘリウム]]の {{math|''C''<sub>''p'',m</sub>}} は {{nowrap|20.8 J·K<sup>−1</sup>mol<sup>−1</sup>}} であり、[[ブタン]]の {{math|''C''<sub>''p'',m</sub>}} は室温で {{nowrap|100 J·K<sup>−1</sup>mol<sup>−1</sup>}} 程度である<ref name=NIST>特記ない限り本文中の熱容量は次のサイトに依る: {{Cite web|url=http://webbook.nist.gov/chemistry/fluid/|title=Thermophysical Properties of Fluid Systems|publisher=[[NIST]]|accessdate=2018-7-8}}</ref>。より複雑な化合物の蒸気の {{math|''C''<sub>''p'',m</sub>}} はさらに大きい。また、[[単原子気体]]などのいくつかの例外を除けば、モル熱容量は温度により変化する。例えば[[二酸化炭素]]の {{math|''C''<sub>''p'',m</sub>}} は100℃で {{nowrap|40.5 J·K<sup>−1</sup>mol<sup>−1</sup>}} であり、0℃での値 {{nowrap|36.4 J·K<sup>−1</sup>mol<sup>−1</sup>}} から10%くらい変わる。 マイヤーの関係式 {{Indent| <math>C_{p\text{,m}}=C_{V\text{,m}}+R</math> }} は、気体の定圧モル熱容量と定積モル熱容量の差 {{math|''C''<sub>''p'',m</sub> − ''C''<sub>''V'',m</sub>}} が *気体の種類には依らないこと *温度にも依らないこと を表している。気体の種類にも温度にも依らない定数 {{mvar|R}} は、[[理想気体の状態方程式]]に現れる、[[気体定数]]である。{{math|''C''<sub>''p'',m</sub>}} が気体の種類や温度によって変わるにもかかわらず、 {{math|''C''<sub>''p'',m</sub> − ''C''<sub>''V'',m</sub>}} が定数になるのは、定圧過程で気体1モルのする仕事が気体の種類や温度に依らず、加熱前後の温度差だけで決まるからである<ref name=物理学辞典 />。このことは、理想気体の状態方程式から導かれる。したがって、 {{math|1=''pV'' = ''nRT''}} が近似的に成り立つ気体では、マイヤーの関係式もまた近似的に成り立つ<ref name=Barrow256>『[[#バーロー物理化学|バーロー物理化学]]』p. 256.</ref>。理想気体では、マイヤーの関係式が厳密に成り立つ<ref name=Barrow157>『[[#バーロー物理化学|バーロー物理化学]]』p. 157.</ref>。 == 導出 == === 導出例1 === 理想気体の温度、体積、圧力が、{{math|(''T'', ''V'', ''p'')}} から {{math|(''T'' + ''ΔT'', ''V'' + ''ΔV'', ''p'')}} に変化する過程を考える。無数の過程を考えることができるが、[[熱力学第一法則]]によれば、この気体が得た[[熱|熱量]] {{mvar|Q}} から気体がした[[仕事 (熱力学)|仕事]] {{mvar|W}} を引いたものは、どの過程でも同じになる。この節では以下の2つの過程を考え、この2つの過程で {{math|''Q'' − ''W''}} が等しくなることから、マイヤーの関係式を導く。 簡単のため、まずは理想気体の熱容量が温度によらない場合を考える。 ;準静的な[[定圧過程]]:圧力 {{mvar|p}} を一定に保ったまま、温度が {{mvar|ΔT}} 上昇するまで[[準静的過程|ゆっくりと]]加熱したとき、この理想気体の得た熱量は {{math|1=''Q'' = ''C<sub>p</sub>ΔT''}} と表される。このとき理想気体のした仕事は、状態方程式 {{math|1=''pV'' = ''nRT''}} を用いると {{math|1=''W'' = ''pΔV'' = ''nRΔT''}} と表される。したがってこの過程では ::<math>Q - W = C_p\Delta T - nR\Delta T</math> :である。 ;[[定積過程]]、次いで断熱自由膨張:体積 {{mvar|V}} を一定に保って温度が {{mvar|ΔT}} 上昇するまで加熱したときは、この理想気体の得た熱量は {{math|1=''Q'' = ''C<sub>V</sub>ΔT''}} と表され、仕事はゼロである。引き続いて {{mvar|ΔV}} だけ気体を断熱自由膨張させる。[[ジュールの法則]]<ref group=注>[[ジェームズ・プレスコット・ジュール]]が気体の断熱自由膨張についての実験を行ったのは、マイヤーの発表の後である。マイヤー自身は19世紀初頭に行われた[[ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサック]]の実験を引用している。</ref>より、断熱自由膨張では理想気体の温度は変わらないので{{sfnp|原島|1978|p=27}}、膨張後の気体の温度は、膨張前の温度 {{math|''T'' + ''ΔT''}} に等しい。断熱自由膨張では {{math|1=''Q'' = ''W'' = 0}} だから、この過程では ::<math>Q - W = C_V\Delta T</math> :である。 始状態と終状態が同じなので、熱力学第一法則より、この2つの過程の {{math|''Q'' − ''W''}} は等しい。 {{Indent| <math>C_p\Delta T - nR\Delta T=C_V\Delta T</math> }} 両辺を {{mvar|ΔT}} で割るとマイヤーの関係式 {{Indent| <math>C_p-nR=C_V</math> }} が導かれる。 理想気体の熱容量が温度によって変わる場合は、温度 {{mvar|T}} における定積熱容量を {{math|''C<sub>V</sub>''(''T'')}}、定圧熱容量を {{math|''C<sub>p</sub>''(''T'')}} とすれば {{Indent| <math>\int_T^{T+\Delta T}C_p(T')\,\mathrm dT' -nR\Delta T=\int_T^{T+\Delta T}C_V(T')\,\mathrm dT'</math> }} となる。この式で {{math|''ΔT'' → 0}} の極限を取れば、マイヤーの関係式 {{Indent| <math>C_p(T)-nR=C_V(T)</math> }} が導かれる。 === 導出例2 === この節では、定積熱容量と定圧熱容量の間に成り立つ、一般的な関係式をまず導く。そして、この関係式を理想気体に適用してマイヤーの関係式を導く。 定積熱容量および定圧熱容量は系の[[内部エネルギー]] {{mvar|U}}、あるいは[[エンタルピー]] {{mvar|H}} の偏微分として {{Indent| <math>C_V = \left( \frac{\partial U}{\partial T} \right)_V,~ C_p = \left( \frac{\partial H}{\partial T} \right)_p</math> }} で与えられる。エンタルピーは、体積 {{mvar|V}} と圧力 {{mvar|p}} により {{Indent| <math>H = U + pV</math> }} で定義される。 従って、偏微分の[[連鎖律]]を用いると {{Indent| <math>\begin{align} \left( \frac{\partial H}{\partial T} \right)_p &= \left( \frac{\partial U}{\partial T} \right)_p + p\left( \frac{\partial V}{\partial T} \right)_p \\ &= \left( \frac{\partial U}{\partial T} \right)_V + \left( \frac{\partial U}{\partial V} \right)_T \left( \frac{\partial V}{\partial T} \right)_p + p\left( \frac{\partial V}{\partial T} \right)_p \\ &= \left( \frac{\partial U}{\partial T} \right)_V +\left[ \left( \frac{\partial U}{\partial V} \right)_T +p \right] \left( \frac{\partial V}{\partial T} \right)_p \\ \end{align}</math> }} となり、関係式 {{Indent| <math>C_p - C_V =\left[ \left( \frac{\partial U}{\partial V} \right)_T +p \right] \left( \frac{\partial V}{\partial T} \right)_p</math> }} が得られる<ref name=Barrow156>『[[#バーロー物理化学|バーロー物理化学]]』p. 156.</ref>。さらに[[熱力学的状態方程式]] {{Indent| <math>\left( \frac{\partial U}{\partial V} \right)_T =T \left( \frac{\partial p}{\partial T} \right)_V -p</math> }} を用いれば {{Indent| <math>C_p -C_V =T \left( \frac{\partial p}{\partial T} \right)_V \left( \frac{\partial V}{\partial T} \right)_p</math> }} となる。 [[理想気体の状態方程式]] {{math|1=''p'' = ''nRT''/''V''}} を {{math|''T'', ''V''}} を独立変数として {{mvar|T}} で偏微分すれば {{Indent| <math>\left( \frac{\partial p}{\partial T} \right)_V =\frac{nR}{V}</math> }} であり、{{math|1=''V'' = ''nRT''/''p''}} を {{math|''T'', ''p''}} を独立変数として {{mvar|T}} で偏微分すれば {{Indent| <math>\left( \frac{\partial V}{\partial T} \right)_p =\frac{nR}{p}</math> }} であるので、これらを用いれば {{Indent| <math>C_p -C_V =nR </math> }} が導かれる。 == 関係式の一般化 == [[#導出例2|導出例2]]で得られた関係式 {{Indent| <math>C_p - C_V =\left[ \left( \frac{\partial U}{\partial V} \right)_T +p \right] \left( \frac{\partial V}{\partial T} \right)_p</math> }} および {{Indent| <math>C_p -C_V =T \left( \frac{\partial p}{\partial T} \right)_V \left( \frac{\partial V}{\partial T} \right)_p</math> }} は理想気体の性質を用いておらず、実在気体や液体、固体を問わず温度、圧力、体積を状態変数として表される系であれば成り立つ関係式である。 気体の場合は良い精度で {{math|{{abs|(∂''U''/∂''V''){{sub|''T''}}}} ≪ ''p''}} とみなせるので、この関係式の右辺は、気体が外部になす仕事に帰せられる<ref name=Moore48 />。これに対して凝縮系である液体や固体の場合は {{math|(∂''U''/∂''V''){{sub|''T''}}}} が {{mvar|p}} と比べて無視できないほど大きいので、関係式の右辺は物体が外部になす仕事とは無関係になる{{sfnp|高林|1999|p=184}}。 さらに[[熱膨張係数]] {{mvar|α}} と[[圧縮率|等温圧縮率]] {{mvar|κ{{sub|T}}}} を用いれば、偏微分がそれぞれ {{Indent| <math>\left( \frac{\partial p}{\partial T} \right)_V =\frac{\alpha}{\kappa_T},~ \left( \frac{\partial V}{\partial T} \right)_p =V\alpha</math> }} と表わされるので {{Indent| <math>C_p -C_V =\frac{TV\alpha^2}{\kappa_T}</math> }} が得られる{{sfnp|原島|1978|p=71}}。 この関係式の右辺の {{mvar|T, V, κ{{sub|T}}}} はいずれも正の値をとるため、{{math|1=''α'' = 0}} のとき {{math|1=''C{{sub|p}}'' = ''C{{sub|V}}''}} であり、{{math|''α'' ≠ 0}} のとき {{math|''C{{sub|p}}'' > ''C{{sub|V}}''}} であることが分かる。 === ファン・デル・ワールス気体 === [[実在気体]]のモデルとしてファン・デル・ワールス気体を考える。[[ファンデルワールスの状態方程式]] {{Indent| <math>p =\frac{RT}{V_\text{m}-b} -\frac{a}{{V_\text{m}}^2}</math> }} から偏微分が {{Indent| <math>\left( \frac{\partial p}{\partial T} \right)_V =\frac{R}{V_\text{m}-b}</math> }} {{Indent| <math>\left( \frac{\partial V}{\partial T} \right)_p =\frac{V_\text{m}-b}{T} \bigg/ \left[ 1-\frac{2a}{RTV_\text{m}}\cdot \left(1-\frac{b}{V_\text{m}} \right)^2 \right]</math> }} と得られるので、ファン・デル・ワールス気体では熱容量の差に対して {{Indent| <math>C_{p,\text{m}} - C_{V,\text{m}} =\frac{R}{1-\frac{2a}{RTV_\text{m}}\cdot \left(1-\frac{b}{V_\text{m}} \right)^2} \approx \frac{R}{1-\frac{2a}{RTV_\text{m}}}</math> }} が成り立つ<ref>『[[#ゾンマーフェルト理論物理学講座|ゾンマーフェルト理論物理学講座]]』p. 60</ref>。圧力 {{mvar|p}} の1次の項までの近似では最右辺で {{math|1=''V''<sub>m</sub> = ''RT''/''p''}} としてよいから {{Indent| <math>C_{p,\text{m}} - C_{V,\text{m}} =R\left(1+\frac{2a}{R^2 T^2}p\right)</math> }} となる<ref name=Barrow256 />。この式は * 実在気体では熱容量の差が、温度、圧力、気体の種類に依存すること * 低温・高圧でマイヤーの関係式からのずれが大きくなること * 分子間の引力([[ファンデルワールス力]])を表すパラメータ {{mvar|a}} が大きい気体ほど、ずれが大きいこと * 分子の大きさ(排除体積)を表すパラメータ {{mvar|b}} は、ずれにそれほど影響しないこと を表している。 === 液体および固体 === 水は1気圧・4℃で {{math|1=''α'' = 0}} となるから、4℃の水の定圧熱容量と定積熱容量は等しい。4℃より低い温度では水の熱膨張率は負 ({{math|''α'' < 0}}) であるが、熱容量の差は {{math|''α''<sup>2</sup>}} に比例するので、0℃~4℃の温度範囲でも {{math|''C<sub>p</sub>'' > ''C<sub>V</sub>'' }} である。4℃以上では温度とともに熱容量差は増大し、沸点では {{math|1=''C''<sub>''p'',m</sub> = 75.9 J·K<sup>−1</sup>mol<sup>−1</sup>}} に対し {{math|1=''C''<sub>''V'',m</sub> = 67.9 J·K<sup>−1</sup>mol<sup>−1</sup>}} となる。 多くの液体では、モル熱容量の差 {{math|''C''<sub>''p'',m</sub> − ''C''<sub>''V'',m</sub>}} は {{math|''C''<sub>''p'',m</sub>}} と比べてもかなり大きな値になる<ref name=Barrow256 />。例えば、典型的な[[有機溶剤]]である[[二硫化炭素]]、[[四塩化炭素]]、[[ベンゼン]]、[[クロロホルム]]の {{math|(''C''<sub>''p'',m</sub> − ''C''<sub>''V'',m</sub>)/''C''<sub>''p'',m</sub>}} は室温で31%ないし38%である<ref name=Barrow257>『[[#バーロー物理化学|バーロー物理化学]]』p. 257.</ref>。これらの物質が蒸気になると {{math|''C''<sub>''p'',m</sub> − ''C''<sub>''V'',m</sub>}} はずっと小さくなる。例えばベンゼンでは {{math|1=(''C''<sub>''p'',m</sub> − ''C''<sub>''V'',m</sub>)/''C''<sub>''p'',m</sub> = ''R''/''C''<sub>''p'',m</sub> = 10%}} である。 固体の場合の {{math|''C''<sub>''p'',m</sub> − ''C''<sub>''V'',m</sub>}} は液体の場合よりもずっと小さく<ref name=Barrow257 />、室温付近では高々 {{math|''C''<sub>''p'',m</sub>}} の10%程度である<ref name=理化学辞典 />。温度が低くなると {{mvar|α}} は漸近的にゼロになるので<ref>『[[#ルイスランドル熱力学|ルイスランドル熱力学]]』p. 135.</ref>、極低温では熱容量の差はゼロになる。例として[[銅]]のモル熱容量の温度依存性を表に示す。 {| class="wikitable" style="text-align:right" |+銅のモル熱容量{{sfnp|原島|1978|p=72}} |- ! {{math|''T'' / K}} !! {{math|{{sfrac|''C''<sub>''p'',m</sub>|J K<sup>−1</sup>mol<sup>−1</sup>}}}} !! {{math|{{sfrac|''C''<sub>''V'',m</sub>|J K<sup>−1</sup>mol<sup>−1</sup>}}}} |- | 50 || 5.8 || 5.8 |- | 100 ||16.2 || 16.2 |- | 200 ||22.6 || 22.3 |- | 500 ||26.2 || 24.9 |- | 800 ||28.0 || 25.7 |- | 1200 ||30.7 || 26.5 |} 表から、[[液体窒素温度]]では2つの熱容量が一致すること、高温になるほど熱容量の差が大きくなること、温度依存性は {{math|''C''<sub>''p'',m</sub>}} の方が {{math|''C''<sub>''V'',m</sub>}} よりも大きいこと、500[[ケルビン]]で {{math|1 = ''C''<sub>''V'',m</sub> ∼ 3''R''}} となること([[デュロン=プティの法則]])が分かる。 実験的には、固体の体積を一定に保って加熱するのは、固体にかかる圧力を一定に保って加熱するのに比べて、はるかに難しい{{sfnp|原島|1978|p=72}}。そのため固体の {{math|''C''<sub>''V'',m</sub>}} は、{{math|''C''<sub>''p'',m</sub>}} の実測値と[[モル体積]] {{math|''V''{{sub|m}}}}、熱膨張率 {{mvar|α}}、等温圧縮率 {{mvar|κ<sub>T</sub>}} から計算されるのが普通であり、上に示した表の {{math|''C''{{sub|''V'',m}}}} は実測値ではなく、この熱力学関係式から計算された値である。 == 脚注 == === 出典 === {{Reflist|30em}} === 注釈 === {{Reflist|group="注"}} == 参考文献 == *{{Cite book|和書 |author=山本義隆|authorlink=山本義隆 |year=2009 |title=熱学思想の史的展開2 |publisher=ちくま学芸文庫 |isbn=978-4480091826 |ref={{sfnref|山本|2009}} }} *{{Cite book|和書 |author1=[[イリヤ・プリゴジン|I. プリゴジーヌ]] |author2=R. デフェイ |title=化学熱力学 |volume=1 |publisher=[[みすず書房]] |others=妹尾 学 訳 |year=1966 |isbn=9784622024071 |ref=化学熱力学 }} *{{Cite book|和書 |author=原島鮮 |title=熱力学・統計力学 |edition=改訂版 |publisher=[[培風館]] |year=1978 |isbn=4-563-02139-3 |ref={{sfnref|原島|1978}} }} *{{Cite book|和書 |author=G. M. Barrow |title=バーロー物理化学 |publisher=東京化学同人 |edition=第5版 |volume=上 |others=藤代亮一 訳 |year=1990 |isbn=4-8079-0327-6 |ref=バーロー物理化学 }} *{{Cite book|和書 |author=W. J. ムーア |title=ムーア物理化学 |publisher=[[東京化学同人]] |edition=第4版 |volume=上 |others=藤代亮一 訳 |year=1974 |isbn=4-8079-0002-1 |ref=ムーア物理化学 }} * {{Cite book|和書 |author=[[アルノルト・ゾンマーフェルト|アーノルド・ゾンマーフェルト]] |year=1969 |title=ゾンマーフェルト理論物理学講座(5) 熱力学および統計力学 |others=大野鑑子訳 |publisher=講談社 |isbn=4061220659 |ref=ゾンマーフェルト理論物理学講座 }} *{{Cite book|和書 |author=[[高林武彦]] |title=熱学史 第2版 |publisher=海鳴社 |year=1999 |isbn=978-4875251910 |ref={{sfnref|高林|1999}} }} *{{Cite book|和書 |author1= [[ギルバート・ルイス|G.N. ルイス]] |author2= M. ランドル |year=1971 |title=熱力学 |edition= 第2版 |others=ピッツアー、ブルワー改訂 三宅彰、田所佑士訳 |publisher=岩波書店 |ncid=BN00733007 |oclc=47497925 |ref=ルイスランドル熱力学 }} {{デフォルトソート:まいやあのかんけいしき}} [[Category:比熱]] [[Category:気体の法則]] [[Category:理想気体]] [[Category:熱力学の方程式]] [[Category:人名を冠した数式]]
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