モジュラー曲線のソースを表示

'''モジュラー曲線'''（モジュラーきょくせん）とは複素[[上半平面]] H の合同部分群 Γ の[[群作用|作用]]による商として定義される[[リーマン面]]のことである。合同部分群 Γ とは、整数の 2 × 2 の行列 SL(2,&nbsp;'''Z''') のある部分群のことである。モジュラー曲線はコンパクトとは限らないが、有限個の '''Γ のカスプ'''と呼ばれる点を加えることで'''コンパクト化されたモジュラー曲線''' X(Γ) を定めることができる。モジュラー曲線の点は、[[楕円曲線]]とそれに付随する群 Γ に関係するある構造をもったものの同型類の集合とみなすことができ、モジュラー曲線を代数幾何的に、また[[有理数|有理数体]] '''Q''' や[[円分体]]の上でモジュラー曲線を定義することもできる。このことからモジュラー曲線は整数論で重要な対象である。

== 解析的定義 ==
モジュラー群 SL(2,&nbsp;'''Z''') は上半平面上に[[一次分数変換]]<!--英語版では、メビウス変換と一次分数変換とは別の記事となっている-->として作用する。SL(2,&nbsp;'''Z''') の合同部分群 Γ をとは、ある正の整数 N に対し、{{仮リンク|主合同部分群|label=レベル N の主合同部分群|en|principal congruence subgroup}}(principal congruence subgroup of level N)を含むような部分群のことである。ここで主合同部分群 Γ(N) とは
:<math>\Gamma(N)=\left\{
\begin{pmatrix}
a & b\\
c & d\\
\end{pmatrix}  : \ a, d \equiv \pm 1 \mod N \text{ and } b, c \equiv0 \mod N \right\}</math>
なる群をあらわす。

そのような N の最小の値を'''Γ のレベル'''という。この群による商 Γ\H に[[複素多様体|複素構造]]を定めたものを[[コンパクト空間|非コンパクト]]なモジュラー曲線<math>Y \left( \Gamma \right) := \Gamma \backslash \mathcal{H}</math>という。これは[[リーマン面]] である。


=== コンパクト化されたモジュラー曲線 ===
Y(Γ) のコンパクト化は、Γ のカスプと呼ばれる有限個の点を加えることにより得られる。特に、このコンパクト化は、'''拡張された複素上半平面''' '''H'''*&nbsp;=&nbsp;{{nowrap|'''H''' ∪ '''Q''' ∪ {∞}}} 上の Γ の作用を考えることにより得られる。'''H'''* に次を開基とする位相を定める。
* '''H''' の上のすべての開集合
* すべての r > 0 に対し、集合 <math>\{\infty\}\cup\{\tau\in \mathbf{H} \mid\text{Im}(\tau)>r\}</math>
* すべての[[互いに素 (整数論)|互いに素]]な整数 a, c と m, n は an + cm = 1 となる整数 m, n と、すべての r > 0 に対し、作用
::<math>\begin{pmatrix}a & -m\\c & n\end{pmatrix}</math> 
:の下で、<math>\{\infty\}\cup\{\tau\in \mathbf{H} \mid\text{Im}(\tau)>r\}</math> の像

これは、 '''H'''* を[[リーマン球面]] '''P'''<sup>1</sup>('''C''') の部分集合へ変える。群 Γ は部分集合 {{nowrap|'''Q''' ∪ {∞}}} 上へ作用し、'''Γ のカスプ'''と呼ばれる有限個の[[群作用#軌道と等方部分群|軌道]]へ分解する。特に Γ が {{nowrap|'''Q''' ∪ {∞}}} 上に推移的に作用すると、空間 Γ\'''H'''* は Γ\'''H''' の一点コンパクト化となる。この [[カスプ]]({{lang|en|cusp}}、尖点)を加えてコンパクト化したリーマン面{{Sfn|Diamond|Schurman|2005|p=58}}を<math>X \left(\Gamma \right):= \Gamma  \backslash \mathcal{H}^{*}</math>と書く。X(Γ) は Y(Γ) の空間のコンパクト化である<ref>{{citation|last=Serre|first= Jean-Pierre|title=Cours d'arithmétique|edition=2nd|series= Le Mathématicien|volume= 2|publisher= Presses Universitaires de France|year= 1977}}</ref>。

== 例 ==
最も知られている例は、曲線 X(N), X<sub>0</sub>(N) と X<sub>1</sub>(N) であり、それぞれ合同部分群 Γ(N), Γ<sub>0</sub>(N) と Γ<sub>1</sub>(N) から定まるものである。

モジュラー曲線 X(5) は種数 0 を持ち、[[正二十面体]]の頂点に 12個のカスプを持つリーマン球面である。被覆 X(5) → X(1) はリーマン球面上の{{仮リンク|20面体対称性|label=20面体群|en|icosahedral symmetry}}(icosahedral group)の作用による商である。この群は位数 60 の単純群で、対称群 A<sub>5</sub> および PSL(2,&nbsp;5) とに同型である。

モジュラー曲線 X(7) は、カスプを 24個持つ種数 3 の{{仮リンク|クライン四次曲線|en|Klein quartic}}(Klein quartic)である。これは3つのハンドルつきの曲面を 24 個の七角形でタイリングし、各々の面の中心にカスプを持っていると解釈することができる。これらのタイリングは、[[:en:dessins d'enfants|dessins d'enfants]]<ref>[[:fr:dessins d'enfants|dessins d'enfants]]はフランス語で「子供のお絵かき」というような意味であろうが、現在は数学に固有な万国共通の単語といってもよいかも知れない。グラフの描き方のトポロジカルなパターンを意味し、リーマン面の研究や、絶対ガロア群の作用の組み合わせ的研究に使われる。</ref> や{{仮リンク|ベルイ函数|en|Belyi function}}(Belyi function)を通して理解することができる。カスプは、無限遠点 ∞ 上にある（赤い点）、一方、頂点と辺の中心にある（黒と白の点）カスプは、0 と 1 にある。被覆 X(7)&nbsp;→&nbsp;X(1) のガロア群は、[[:en:PSL(2,7)|PSL(2,&nbsp;7)]] に同型な位数 168 の単純群である。

X<sub>0</sub>(N) には、明確な古典モデルである[[古典的モジュラー曲線]]が存在し、これを「モジュラー曲線」という場合もある。Γ(N) の定義は次のように言い直すこともできる。Γ(N) は、法 N 還元 SL<sub>2</sub>(Z) → SL<sub>2</sub>(Z/NZ) の核である。Γ<sub>0</sub>(N) は法 N 還元して上三角行列になるもの全体のなす部分群

:<math>\Gamma_0(N)=\left \{ \begin{pmatrix} a & b \\ c & d\end{pmatrix}  : \ c\equiv 0 \mod N \right \}</math>

であり、Γ<sub>1</sub>(N) はこのふたつの中間にある群であり、

:<math>\Gamma_1(N)=\left \{ \begin{pmatrix} a & b \\ c & d\end{pmatrix}  : \ a\equiv 1\mod N, c\equiv 0 \mod N \right \}</math>

で定義される。

これらの曲線は、'''レベル構造'''つき[[楕円曲線]]の[[モジュライ空間]]として解釈される。このため、モジュラー曲線は{{仮リンク|数論幾何|en|arithmetic geometry}}(arithmetic geometry)で重要な役割を果たす。レベル N のモジュラー曲線 X(N) は、楕円曲線とそのN-等分点の基底の組のモジュライ空間である。X<sub>0</sub>(N) と X<sub>1</sub>(N) の付加構造は、それぞれ、位数 N の巡回部分群、位数 N の点である。これらの曲線は、非常に詳しく研究されており、特に、X<sub>0</sub>(N) は有理数体上で定義することができる。

モジュラ曲線を定義する方程式は、{{仮リンク|モジュラー方程式|en|modular equation}}(modular equation)の最も良く知られた例である。この「最良のモデル」は[[楕円函数]]論から直接得られる理論とは非常に異なっている。[[ヘッケ作用素]]は、二つのモジュラー曲線の間の[[対応 (数学)|対応]]として幾何学的に研究される。

'''注意''': コンパクトな H の商は、モジュラ群の部分群以外に、{{仮リンク|フックス群|en|Fuchsian group}}(Fuchsian group) Γ に対し発生する。これは、[[四元数]]からくる構成されるこれらのクラスは、数論でも興味がもたれている。

== 種数 ==
被覆 X(N) → X(1) はガロア群 SL(2, N)/{1, −1} を持つガロア被覆であり、N が素数であればこのガロア群は PSL(2,&nbsp;N) と同じになる。[[リーマン・フルヴィッツの公式]]と[[ガウス・ボネの定理]]を適用すると、X(N) の種数を計算することができる。レベルが素数 p ≥ 5 であれば、

:<math>-\pi\chi(X(p)) = |G|\cdot D</math>

である。ここに χ = 2 − 2g は[[オイラー標数]]、|G| = (p + 1)p(p − 1)/2 は群 PSL(2, ''p'') の位数、D = π − π/2 − π/3 − π/p は球状の (2,3,p) の三角形の{{仮リンク|欠陥 (幾何学)|label=角度欠陥|en|defect (geometry)}}(angular defect)である。このことから、公式

:<math>g = \tfrac{1}{24}(p+2)(p-3)(p-5)</math>

が導かれる。

このようにして、X(5) は種数 0 であり、X(7) は種数 3 であり、X(11) は種数26 であることがわかる。p = 2 あるいは 3 に対しは分岐を考えに入れる、つまり、PSL(2, '''Z''') には位数 p の元が存在し、PSL(2, 2) は位数 3 というよりも位数 6 であることを考慮する必要がある。N を因子として含むレベル N のモジュラー曲線の種数についてのより複雑な公式がある。

===種数 0===
一般に、'''モジュラー函数体'''とは、モジュラー曲線（あるいは既約であるような他のモジュライ空間）の[[代数多様体の函数体|函数体]]である。[[種数]]が 0 であることは、そのような函数体が唯一の[[超越函数]]を生成元として持っていることを意味し、たとえば、[[J-不変量|j-函数]]は <math>X(1) = PSL(2, \mathbb{Z})\backslash\mathbb{H}</math> の函数体を生成する。この生成元は[[メビウス変換]]で移りあう函数を同一視すると一意となり、適切に正規化することができ、そのような函数を '''Hauptmodul''' (あるいは'''主モジュラー函数'''(principal modular function)と呼ぶ。

空間 X<sub>1</sub>(n) は n&nbsp;=&nbsp;1, ..., 10 と n = 12 に対して、種数 0 である。これらの曲線は、'''Q''' 上で定義されているので、そのような曲線上には無限に多くの有理点が存在し、よって、これらの n の値に対し n-捩れを持つ有理数体上定義された楕円曲線が無限に存在する。n がこれらの値のときのみ、逆のステートメントが成り立ち、これが[[ファルティングスの定理#メイザーの捩れ定理|メイザーの捩れ定理]]である。

== 体上のモデル ==

{{mvar|Γ}}
を合同部分群とする。複素数体
{{math|'''C'''}}
の部分環
{{mvar|''R''}}
に対して、{{mvar|''R''}}
上の[[概型|スキーム]]
{{mvar|V}}
と複素解析的同型
{{math|''φ'': ''Γ''&thinsp;⧵'''H''' → ''V''('''C''')}}
の組
{{math|(''V'', ''φ'')}}
であって、{{mvar|V}} が {{mvar|''R''}} 上1次元ファイバーを持つものをモジュラー曲線
{{math|''Γ''&thinsp;⧵'''H'''}}
の
{{mvar|''R''}}
上のモデルという{{Sfn|Diamond|Im|1995|p=68}}。この定義において
{{math|''Γ''&thinsp;⧵'''H'''}}
を
{{math|''Γ''&thinsp;⧵'''H'''{{sup|*}}}}
に置き換えたものもモデルという{{Sfn|Shimura|1971|p=152}}{{Efn|モデルという言葉の定義は著者によって揺れがある。}}。例えば整数環
{{math|'''Z'''}}
上のアフィン直線
{{math|Spec('''Z'''[''j''])}}
と [[j-不変量|{{mvar|j}} 関数]]の組は
{{math|SL{{sub|2}}('''Z''')⧵'''H'''}}
の整数環
{{math|'''Z'''}}
上のモデルである{{Sfn|Diamond|Im|1995|p=68}}。

以下、{{mvar|N}} は正整数とする。

=== {{math|''X''{{sub|0}}(''N'')}} ===

{{math|''j''{{sub|''N''}}}}
を
{{math|1=''j''{{sub|''N''}}(''τ'') = ''j''(''Nτ'')}}
で定義される上半平面上の関数とする{{Sfn|Diamond|Schurman|2005|p={{Google books quote|id=d8JS2Ui8iT8C|page=279|279}}}}。{{math|'''Q'''(''j'', ''j{{sub|N}}'')}}
は有理数体 {{math|'''Q'''}} 上の超越次元が1の体で、この体に含まれる
{{math|'''Q'''}}
上代数的な元は
{{math|'''Q'''}}
の元のみである{{Sfn|Diamond|Schurman|2005|p={{Google books quote|id=d8JS2Ui8iT8C|page=290|290}}}}。よって関数体と非特異射影代数曲線の対応により
{{math|'''Q'''}}
上のある非特異射影代数曲線
{{math|''X''{{sub|0}}(''N'')}}
であってその関数体がこれになるものが存在する{{Sfn|Diamond|Schurman|2005|p={{Google books quote|id=d8JS2Ui8iT8C|page=264|264}}}}。これは
{{math|''Γ''{{sub|0}}(''N'')&thinsp;⧵'''H'''{{sup|*}}}}
の
{{math|'''Q'''}}
上のモデルになっている{{Sfn|Diamond|Schurman|2005|p={{Google books quote|id=d8JS2Ui8iT8C|page=291|291}}}}。

=== {{math|''X''{{sub|0}}(''N'')}} とモジュラー方程式 ===

モジュラー方程式と呼ばれる、次の性質を持つ整数係数2変数多項式
{{math|Φ{{sub|''N''}}(''X'', ''Y'')}}
が存在する{{Sfn|Milne|2017|p=88}}{{Sfn|Edixhoven|1997|p=14}}。

* {{math|Φ{{sub|''N''}}(''j'', ''Y'')}} を {{math|'''C'''(''j'')[Y]}} の元と見たとき、これは {{math|''j''{{sub|''N''}}}} の最小多項式である。
* {{math|Φ{{sub|''N''}}(''X'', ''Y'')}} は既約多項式である。

例えば {{math|1=''N'' = 2}} に対しては　

: <math>
\Phi_2(X, Y) = X^3 + Y^3 -X^2Y^2 + 1488XY(X+Y) - 162000(X^2+Y^2) + 40773375XY + 8748000000(X+Y) - 157464000000000
</math>

である{{Sfn|Milne|2017|p=90}}。この例からもわかるように {{math|Φ{{sub|''N''}}(''X'', ''Y'')}} は対称多項式である。この方程式で定義される有理数体上の代数曲線の[[特異点解消|特異点を解消]]し完備化したものが
{{math|''X''{{sub|0}}(''N'')}}
と同型である{{Sfn|Milne|2017|p=95}}{{Sfn|Edixhoven|1997|p=14}}。

=== {{math|''X''{{sub|1}}(''N'')}} ===

上半平面 {{math|'''H'''}} 上の関数
{{math|''f''{{sub|1}}}}
を次で定義する{{Sfn|Diamond|Schurman|2005|p={{Google books quote|id=d8JS2Ui8iT8C|page=279|279}}}}。

: <math>
f_1(\tau) = \frac{g_2(\tau)}{g_3(\tau)} \wp_\tau \left( \frac{1}{N} \right)
</math>

ここで
{{math|1=℘{{sub|τ}}(''z'') = ℘(''z''; ''τ'', 1)}}
は[[ヴァイエルシュトラスの楕円函数]]、{{math|''g''{{sub|2}}(''τ'')}}
と
{{math|''g''{{sub|3}}(''τ'')}}
は
{{math|1=(℘{{sub|τ}}&prime;(''z'')){{sup|2}} = 4℘{{sub|''τ''}}(''z''){{sup|3}} &minus; ''g''{{sub|2}}(''τ'')℘{{sub|''τ''}}(''z'') &minus; ''g''{{sub|3}}(''τ'')}}
が成り立つ関数である{{Sfn|Diamond|Schurman|2005|p={{Google books quote|id=d8JS2Ui8iT8C|page=31|31f}}}}{{Sfn|Diamond|Schurman|2005|p={{Google books quote|id=d8JS2Ui8iT8C|page=26|26}}}}。{{math|''f''&thinsp;{{sub|1}}}}
は
{{math|''Γ''{{sub|1}}(''N'')}}
についてのモジュラー関数である{{Sfn|Diamond|Schurman|2005|p={{Google books quote|id=d8JS2Ui8iT8C|page=42|42}}}}{{Sfn|Diamond|Schurman|2005|p={{Google books quote|id=d8JS2Ui8iT8C|page=279|279}}}}。体
{{math|'''Q'''( ''j'', ''f''{{sub|1}})}}
を関数体に持つ
{{math|'''Q'''}}
上の非特異射影代数曲線を
{{math|''X''{{sub|1}}(''N'')}}
とすると、これが
{{math|''Γ''{{sub|1}}(''N'')&thinsp;⧵'''H'''{{sup|*}}}}
のモデルになる{{Sfn|Diamond|Schurman|2005|p={{Google books quote|id=d8JS2Ui8iT8C|page=290|290f}}}}。

== 整モデル ==

{{mvar|N}} を正整数、{{mvar|i}} を0もしくは1とする。{{math|''Γ{{sub|i}}''(''N'')⧵'''H'''}}
には
{{math|''Y{{sub|i}}''(''N''){{sub|'''Z'''}}}}
と書かれる
{{math|'''Z'''}}
上のモデルが存在し次の性質を持っている{{Efn|
以下で引用している文献
{{harvtxt|津嶋|2003}}
には
{{math|''Y{{sub|i}}''(''N''){{sub|'''Z'''}}}}
が
{{math|''Γ{{sub|i}}''(''N'')⧵'''H'''}}
のモデルとは書かれていないが、そのことは
{{math|''Y{{sub|i}}''(''N''){{sub|'''Z'''}}}}
に
{{math|⊗{{sub|Spec('''Z''')}}Spec('''Z'''[1/''N''])}}
したものが
{{harvtxt|Diamond|Im|1995|loc=§8}}
における
{{math|''𝒴{{sub|i}}''(''N'')}}
と粗モジュライの一意性より一致することから分かる。
}}。

* {{math|''Y{{sub|i}}''(''N''){{sub|'''Z'''}}}} は[[アフィンスキーム|アフィン・スキーム]]である{{Sfn|津嶋|2003|p=87}}。
* {{math|''Y{{sub|i}}''(''N''){{sub|'''Z'''}}}} は[[代数幾何学用語一覧#連結|連結]]である{{Sfn|津嶋|2003|p=87}}。
* {{math|''Y{{sub|i}}''(''N''){{sub|'''Z'''}}}} は{{仮リンク|正規スキーム|en|Normal scheme}} である{{Sfn|津嶋|2003|p=88}}。
* {{math|''Y''{{sub|0}}(''N''){{sub|'''Z'''}}}} は、{{mvar|N}} を一回だけ割る素数 {{mvar|p}} において[[安定曲線|準安定]]である{{Sfn|津嶋|2003|p=88}}。
* {{math|''Y{{sub|i}}''(''N''){{sub|'''Z'''[''N''{{sup|&minus;1}}]}}}} は {{math|'''Z'''[''N''{{sup|&minus;1}}]}} 上[[滑らかな射|滑らか]]である{{Sfn|津嶋|2003|pp=95-96}}。
*{{math|'''Z'''}} 上の[[概型|スキーム]]の[[圏 (数学)|圏]]から[[集合]]の圏への[[関手]] {{math|''ℳ''{{sub|0}}(''N''){{sub|'''Z'''}}}} を、スキーム {{mvar|T}} に対して {{math|''ℳ''{{sub|0}}(''N''){{sub|'''Z'''}}(''T'')}} を {{mvar|T}} 上の楕円曲線 {{mvar|E}} とその位数 {{mvar|N}} の巡回部分群スキーム {{mvar|C}} の組 {{math|(''E'', ''C'')}} の同型類の集合とすることにより定義する{{Sfn|津嶋|2003|p=91}}。{{math|''Y''{{sub|0}}(''N''){{sub|'''Z'''}}}} はこの関手の粗[[モジュライ空間|モジュライ]]である{{Sfn|津嶋|2003|p=95}}。特に、任意の[[代数閉体]] {{mvar|k}} に対して {{math|''Y''{{sub|0}}(''N''){{sub|'''Z'''}}(''k'')}} は {{mvar|k}} 上の楕円曲線 {{mvar|E}} とその位数 {{mvar|N}} の巡回部分群スキーム {{mvar|C}} の組 {{math|(''E'', ''C'')}} の同型類と自然に一対一対応する{{Sfn|津嶋|2003|p=79}}。
* {{math|'''Z'''}} 上のスキームの圏から集合の圏への関手 {{math|''ℳ''{{sub|1}}(''N''){{sub|'''Z'''}}}} を、スキーム {{mvar|T}} に対して {{math|''ℳ''{{sub|1}}(''N''){{sub|'''Z'''}}(''T'')}} を {{mvar|T}} 上の楕円曲線 {{mvar|E}} とその位数がちょうど {{mvar|N}} の切断 {{math|''P'':''T'' → ''E''}} の組 {{math|(''E'', ''P'')}} の同型類の集合とすることにより定義する{{Sfn|津嶋|2003|p=91}}。{{math|''Y''{{sub|1}}(''N''){{sub|'''Z'''}}}} はこの関手の粗[[モジュライ空間|モジュライ]]である{{Sfn|津嶋|2003|p=96}}。特に、任意の代数閉体 {{mvar|k}} に対して {{math|''Y''{{sub|1}}(''N''){{sub|'''Z'''}}(''k'')}} は {{mvar|k}} 上の楕円曲線 {{mvar|E}} とその位数がちょうど {{mvar|N}} の切断 {{math|''P'':Spec(''k'') → ''E''}} の組 {{math|(''E'', ''P'')}} の同型類の集合と自然に一対一対応する{{Sfn|津嶋|2003|p=79}}。

{{math|''X{{sub|i}}''(''N''){{sub|'''Z'''}}}}
を自然な射
{{math|''j'': ''Y{{sub|i}}''(''N''){{sub|'''Z'''}} → ''Y''(1){{sub|'''Z'''}}≃'''A'''{{supsub|1|'''Z'''}}}}
に関する
{{math|'''P'''{{supsub|1|'''Z'''}}}}
の[[整閉包]]とする{{Sfn|津嶋|2003|p=98}}。{{math|''X{{sub|i}}''(''N''){{sub|'''Z'''}}}}
は次の性質を持っている。

* {{math|''X{{sub|i}}''(''N''){{sub|'''Z'''}}}} は {{math|'''Z'''}} 上の[[代数幾何学用語一覧#射影的|射影的]]かつ[[代数幾何学用語一覧#正規|正規]]な[[代数曲線]]である{{Sfn|津嶋|2003|pp=98-99}}。
* {{math|''X{{sub|i}}''(''N''){{sub|'''Z'''}}}} の各幾何的ファイバーは連結である。
* {{mvar|N}} を割らない素数 {{mvar|p}} に対して {{math|''X{{sub|i}}''(''N''){{sub|'''F'''{{sub|''p''}}}}}} は滑らかである。{{math|''X{{sub|i}}''(''N''){{sub|'''F'''{{sub|''p''}}}}}} は {{math|''Y{{sub|i}}''(''N''){{sub|'''F'''{{sub|''p''}}}}}} のスムーズコンパクト化である。
* {{math|'''Z'''}} 上のスキームの圏から集合の圏への関手 {{math|{{overline|''ℳ''}}{{sub|0}}(''N''){{sub|'''Z'''}}}} を、スキーム {{mvar|T}} に対して {{math|{{overline|''ℳ''}}{{sub|0}}(''N''){{sub|'''Z'''}}(''T'')}} を {{mvar|T}} 上の広義楕円曲線 {{mvar|E}} とその豊富な位数 {{mvar|N}} の巡回部分群スキーム {{mvar|C}} の組 {{math|(''E'', ''C'')}} の同型類の集合とすることにより定義する{{Sfn|津嶋|2003|p=100}}。{{math|''X''{{sub|0}}(''N''){{sub|'''Z'''}}}} はこの関手の粗[[モジュライ空間|モジュライ]]である{{Sfn|津嶋|2003|p=100}}。特に、任意の代数閉体 {{mvar|k}} に対して {{math|''X''{{sub|0}}(''N''){{sub|'''Z'''}}(''k'')}} は {{mvar|k}} 上の広義楕円曲線 {{mvar|E}} とその豊富な位数 {{mvar|N}} の巡回部分群スキーム {{mvar|C}} の組 {{math|(''E'', ''P'')}} の同型類の集合と自然に一対一対応する{{Sfn|津嶋|2003|p=79}}。

== モンスター群との関係 ==
{{main|モンストラス・ムーンシャイン}}
種数 0 のモジュラー曲線は[[モンストラス・ムーンシャイン]]予想との関係で非常に重要であることが判明した。モジュラー曲線の Hauptmoduln を q-展開した係数の最初のいくつかが、19世紀に既に計算されていたが、最も大きな単純散在モンスター群の表現空間の次元と同じになっていることが、非常に衝撃的である。

もうひとつの関係は、SL(2, '''R''') の [[modular group Gamma0|Γ<sub>0</sub>]](p) の正規化群 Γ<sub>0</sub>(p)<sup>+</sup> から定まるモジュラー曲線が種数 0 であることと、p が 2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, 23, 29, 31, 41, 47, 59 あるいは、71 であることと同値である。さらにこれらの素数は[[モンスター群]]の位数の素因子と一致する。この Γ<sub>0</sub>(p)<sup>+</sup> についての結果は、[[ジャン＝ピエール・セール]](Jean-Pierre Serre), {{仮リンク|アンドレ・オッグ|en|Andrew Ogg}}(Andrew Ogg)と[[ジョン・G・トンプソン|ジョン・トンプソン]](John G. Thompson)が1970年代に発見し、モジュラー群とモンスター群の関係を発見したオッグは、この事実を説明したものには、[[ジャックダニエル]]（[[テネシー・ウイスキー]]）のボトルを進呈すると論文に記載した。

この関係は非常に深く、[[リチャード・ボーチャーズ]](Richard Borcherds)により示されたように、[[一般カッツ・ムーディ代数|一般カッツ・ムーディリー代数]]とも深く関係する。この分野の仕事は、至るところで正則でカスプを持つ[[モジュラー形式]]に対し、有理型でありカスプで極を持つことのできる[[モジュラー函数]]の重要性を示している。これらの仕事は、20世紀の重要な研究の対象となった。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{notelist}}
=== 出典 ===
{{reflist|2}}

== 関連項目 ==
*{{仮リンク|マーニン・ドリンフェルトの定理|en|Manin–Drinfeld theorem}}(Manin–Drinfeld theorem)
*[[モジュラー性定理]]
*[[志村多様体]]、高次元へのモジュラー曲線の一般化

==参考文献==
{{refbegin}}
*{{Citation
| last=Shimura
| first=Goro
| author-link=Goro Shimura
| title=Introduction to the arithmetic theory of automorphic functions
| publisher=[[Princeton University Press]]
| series=Publications of the Mathematical Society of Japan
| volume=11
| year=1994
| origyear=1971
| mr=1291394
| isbn=978-0-691-08092-5
| postscript=, Kanô Memorial Lectures, '''1'''
| ref = {{SfnRef|Shimura|1971}}
}}
* {{citation | url = http://eom.springer.de/M/m064410.htm
| title = Encyclopaedia of Mathematics
| isbn = 1-4020-0609-8
| chapter = Modular curve
| authorlink2 = A.N. Parshin
| first1 = A.A. | last1 = Panchishkin
| first2 = A.N. | last2 = Parshin
}}
* {{Cite book
|last1       = Diamond
|first1      = F.
|last2       = Schurman
|first2      = J.
|authorlink1 = フレッド・ダイアモンド
|year        = 2005
|title       = A First Course in Modular Forms
|url         = {{google books|d8JS2Ui8iT8C|A First Course in Modular Forms|plainurl=yes}}
|publisher   = [[Springer Verlag]]
|isbn        = 978-1441920058
|ref         = harv
}}
* {{Cite conference| pages = 39–133| last1 = Diamond| first1 = Fred| last2 = Im| first2 = John| title = Modular forms and modular curves| book-title = Seminar on Fermat’s Last Theorem, Providence, RI| date = 1995 }}
* {{Cite web
|first = B.
|last = Edixhoven
|title = The modular curve X0(N)
|work = notes of lectures at the ICTP summer school
|year = 1997
|url = https://indico.ictp.it/event/a02005/contribution/0/material/0/0.pdf
|accessdate = 2023-01-04
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}}
* {{Cite book
|first = J.S.
|last = Milne
|title = Modular Functions and Modular Forms  (v1.31)
|year = 2017
|url = https://www.jmilne.org/math/CourseNotes/MF.pdf
|accessdate = 2023-01-04
|ref = harv
}}
* {{Citation|和書
| contribution = モジュラー曲線の様々な整モデルについて
| author = 津嶋貴弘
| title = [https://sites.google.com/view/ntss2021/ モジュラー曲線と数論]
| url = https://drive.google.com/file/d/1O7EReDFdI7xbUsWV41Z6c5Cx2M36VT-I/view
| ncid = BD01010934
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| year=2023
| series=整数論サマースクール報告集
| volume=28
| ref = {{SfnRef|津嶋|2003}}
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[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:曲線]]