ヤングの定理のソースを表示

'''ヤングの定理'''（ヤングのていり、{{lang-en-short|Young's theorem}}<ref>http://are.berkeley.edu/courses/ARE210/fall2005/lecture_notes/Young%27s-Theorem.pdf</ref>）は、ある条件の下で多変数関数に対する偏微分の順序を交換できることを述べる定理である（下記参照）。ヤングの定理はしばしば'''二階導関数の対称性'''（{{lang-en-short|symmetry of second derivatives}}）、または'''混合微分の等価性'''（{{lang-en-short|equality of mixed partials}}）とも呼ばれる。{{mvar|n}} 変数の関数 {{math|''f''&thinsp;(''x''<sub>1</sub>, ''x''<sub>2</sub>, ..., ''x<sub>n</sub>'')}} について、{{mvar|x<sub>i</sub>}} に関する偏導関数を {{mvar|f<sub>i</sub>}} のように下付きの添え字 {{mvar|i}} で表せば、二階導関数の対称性とは、二階の偏導関数 {{mvar|f<sub>ij</sub>}} とは、関数 {{mvar|f}} が

:<math>f_{ij}=f_{ji}</math>

を満たすことをいう。このとき関数 {{mvar|f}} の二階導関数 {{mvar|f<sub>ij</sub>}} が成す[[行列]]（[[ヘッセ行列]]）は {{mvar|n}} 次[[対称行列]]を成す。

[[偏微分方程式]]の文脈では、それは'''シュワルツの[[微分方程式系の可積分条件|可積分]]条件'''（{{lang-en-short|Schwarz integrability condition}}）と呼ばれる。<!-- In physics, however, it is important
for the understanding of many phenomena in nature to remove this restrictions and allow functions to violate the 
Schwarz integrability criterion, which makes them multivalued.
The simplest example is the function
<math>\arctan\; y/x</math>. At first one defines this with a cut 
in the complex 
<math>(x,y)</math>-plane running from 0 to infinity.
The cut makes the function single-valued. In complex analysis, however, one thinks of this function as having several 'sheets' (forming a [[Riemann surface]]).
 It is useless until they explain where and how the function violates Schwarz integrability condition -->

==ヘッセ行列==

{{mvar|f}} の二階偏導関数からなる {{math|''n''&thinsp;&times;&thinsp;''n''}} の行列 {{mvar|f<sub>ij</sub>}} は {{mvar|f}} の'''[[ヘッセ行列]]'''と呼ばれる。[[主対角線]]を除いた成分は'''混合導関数'''（{{lang-en-short|mixed derivative}}）である。つまり、異なる変数に関する逐次導関数である。

大抵の「実生活の」状況においてはヘッセ行列は[[対称行列|対称]]である。しかしながら、対称性を持たない関数の例はとても多く、[[解析学]]は、関数 {{mvar|f}} にこの対称性を仮定することが、単に {{mvar|f}} の二階導関数が特定の点で存在することよりも強い要求であることを明らかにする。[[#シュワルツの定理|シュワルツの定理]]はこれが起こる {{mvar|f}} についての十分条件を与える。

==形式的表現==
二階偏導関数の対称性はたとえば、記号的には、

:<math>\frac {\partial}{\partial x} \left( \frac { \partial f }{ \partial y} \right) =
       \frac {\partial}{\partial y} \left( \frac { \partial f }{ \partial x} \right)</math>

であると言い表せる。この等式は

:<math>\partial_x \partial_y f = \partial_y \partial_x f</math>

とも書ける。あるいは、対称性は {{mvar|x<sub>i</sub>}} についての偏導関数を取る[[微分作用素]] {{mvar|D<sub>i</sub>}} に関する代数的ステートメントとしても書ける：

:<math>D_i \cdot D_j = D_j \cdot D_i.</math>

この関係から {{mvar|D<sub>i</sub>}} によって生成される[[定数係数]]を持つ微分作用素の[[環 (数学)|環]]が[[可換]]であることが従う。しかしもちろんこれらの作用素の定義域を明確にしなければならない。[[単項式]]が対称性を持つことを確認するのは容易であり、したがって定義域として {{mvar|x<sub>i</sub>}} たちの[[多項式]]を取ることができる。実際には[[滑らかな関数]]を定義域にとることが可能である。

== シュワルツの定理{{anchors|クレローの定理}} ==
[[解析学]]において、'''シュワルツの定理'''（{{lang-en-short|Schwarz' theorem}}）または'''クレローの定理'''（{{lang-en-short|Clairaut's theorem}}{{sfn|James|1966}}）とは、[[ヘルマン・アマンドゥス・シュワルツ|ヘルマン・シュワルツ]] {{de|(Hermann Schwarz)}} と[[アレクシス・クレロー]] {{fr|(Alexis Clairaut)}} に因む定理で、次のことを述べる：

:<math>f \colon \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}</math>

が {{math|'''R'''<sup>''n''</sup>}} 上の与えられた任意の点 {{math|(''a''<sub>1</sub>, ..., ''a<sub>n</sub>'')}} で[[連続関数|連続]]な二階[[偏導関数]]を持つなら、それらの偏導関数は以下の関係を満たす。

:<math>\frac{\partial^2 f}{\partial x_i\, \partial x_j}(a_1, \dots, a_n) 
= \frac{\partial^2 f}{\partial x_j\, \partial x_i}(a_1, \dots, a_n)
\qquad \forall i, j \in \{ 1,2,\ldots, n\}.\,\!</math>

すなわち、この関数の偏微分は点 {{math|(''a''<sub>1</sub>, ..., ''a<sub>n</sub>'')}} で{{仮リンク|可換な操作|label=可換|en|commutative operation}}である。（{{math|''n'' {{=}} 2, ''i'' {{=}} 1, ''j'' {{=}} 2}} の場合に、これから直ちに一般の結果が従うが）この定理を証明する簡単な方法として、1 つには[[グリーンの定理]]を {{mvar|f}} の[[勾配 (数学)|勾配]]に適用する方法がある。

== 超関数による定式化 ==

[[シュワルツ超函数|シュワルツの超関数]]の理論は対称性の解析的問題を除去する。任意の[[可積分]]関数の導関数は超関数として定義でき、この意味で、混偏導関数の対称性は常に成り立つ。超関数の微分は形式的な[[部分積分]]によって定義され、偏導関数の対称性の問題は[[テスト関数]]の対称性に帰着するが、テスト関数は滑らかであり確かにこの対称性を満たす。より詳細には、{{mvar|f}} をテスト関数上の作用素として書かれた超関数、{{mvar|&phi;}} をテスト関数として、
: <math> (D_1D_2f)[\phi] = -(D_2f)[D_1\phi] = f[D_2D_1\phi] = f[D_1D_2\phi] = -(D_1f)[D_2\phi] = (D_2D_1f)[\phi] .</math>

別のアプローチとして、関数の[[フーリエ変換]]を定義する方法がある。そのような変換の下では、偏微分は[[乗算作用素]]になり、それらは明らかに交換する。

==連続性の要求==
関数が[[#クレローの定理|クレローの定理]]の仮定を満たさない場合、例えば導関数が[[連続関数|連続]]でないとき、偏導関数の対称性は成り立たないことがある。

[[File:Graph001.png|thumb|right|方程式 {{EquationNote|1|(1)}} において示されている関数 {{math|''f''(''x'', ''y'')}} は原点において対称な二階微分を持たない。]]
非対称な関数の例：
{{NumBlk|:|
<math>f(x,y) = 
\begin{cases}
\dfrac{xy(x^2 - y^2)}{x^2+y^2} & \mbox{ for } (x, y) \ne (0, 0)\\
0                              & \mbox{ for } (x, y) = (0, 0)
\end{cases}</math>|{{EquationRef|1}}}}
この関数はいたるところで連続だが、その代数的導関数は[[原点 (数学)|原点]]において{{仮リンク|未定義 (数学)|label=未定義|en|Undefined (mathematics)}}である。{{mvar|x}} 軸に沿って {{mvar|y}} 導関数は {{math|&part;<sub>''y''</sub> ''f''&thinsp;{{!}}<sub>(''x'', 0)</sub> {{=}} ''x''}} であり、したがって：
:<math>\partial_x\partial_y f|_{(0,0)} 
= \lim_{\epsilon \to 0} \frac { \partial_y f|_{(\epsilon,0)}-\partial_y f|_{(0,0)} } \epsilon 
= 1.</math>
同様に {{mvar|y}} 軸に沿って {{mvar|x}} 導関数 は {{math|&part;<sub>''x''</sub> ''f''&thinsp;{{!}}<sub>(0, ''y'')</sub> {{=}} &minus;''y''}} であり、したがって {{math|&part;<sub>''y''</sub>&part;<sub>''x''</sub>''f''&thinsp;{{!}}<sub>(0, 0)</sub> {{=}} &minus;1}} である。つまり、{{math|(0, 0)}} においては、{{math|&part;<sub>''x''</sub>&part;<sub>''y''</sub>''f'' &ne; &part;<sub>''y''</sub>&part;<sub>''x''</sub>''f''}} であり、この関数の混偏導関数が存在し他のすべての点において対称性を持つにもかかわらず、原点では非対称である。

一般に、{{仮リンク|極限操作の交換|en|interchange of limiting operations}}は[[可換法則|可換]]であるとは限らない。{{math|(0, 0)}} の近くの二変数と、{{math|''h'' → 0}} を最初にするのに対応するのと {{math|''k'' → 0}} を最初にするのに対応する
:<math>f(h,k) - f(h,0) - f(0,k) + f(0,0)</math>
上の 2 つの極限過程が与えられると、一次の項を見て、どちらが最初に適用されるかが問題になり得る。これは二階導関数が対称でない[[病的な (数学)|病的な]]例の構成を導く。この種の例は関数の各点ごとの値が問題になる[[実解析]] ([[:en:real analysis|real analysis]]) の理論に属する。超関数と見たときには二階偏導関数の値は任意の点集合においてこれが[[ルベーグ測度]] {{math|0}} である限り変えることができる。上の例においてヘッセ行列は {{math|(0, 0)}} を除いていたるところ対称であるから、[[シュワルツ超函数|シュワルツの超関数]]と見てヘッセ行列が対称であるという事実と全く矛盾はない。

==リー代数==
一階微分作用素 {{mvar|D<sub>i</sub>}} を[[ユークリッド空間]]上の{{仮リンク|無限小作用素|en|infinitesimal operator}}と考える。つまり、{{mvar|D<sub>i</sub>}} はある意味 {{mvar|x<sub>i</sub>}} 軸に平行な[[変換 (数学)|変換]]の {{仮リンク|1-パラメータ群|en|one-parameter group}}を生成する。これらの[[群 (数学)|群]]は互いに交換し、したがって[[リー群|無限小生成元]]もそうである。[[リー代数|リーブラケット]]

:<math>\left[D_i, D_j\right] = 0</math>

はこの性質の反映である。言い換えると、別の座標に関する 1 つの座標の[[リー微分]]は {{math|0}} である。

== 出典 ==
{{Reflist}}

== 参考文献 ==
* {{cite book
 |和書
 |author=高木貞治
 |authorlink=高木貞治
 |title=解析概論
 |edition=増訂
 |publisher=岩波書店
 |year=1946
 |chapter=微分の順序
 |chapterurl=https://linesegment.web.fc2.com/books/mathematics/zouteikaisekigairon/zouteikaisekigairon_023.html
}}
* {{cite book
 |last = James
 |first = R.C. 
 |date = 1966
 |title = Advanced Calculus
 |publisher = Belmont, CA, Wadsworth
 |ref = harv}}
*{{SpringerEOM|title=Partial derivative|urlname=Partial_derivative}}

== 関連項目 ==
* [[ヘッセ行列]]
* [[滑らかな関数]]
* [[フーリエ変換]]
* [[シュワルツ超函数|シュワルツの超関数]]
* [[リー代数]]

{{DEFAULTSORT:やんくのていり}}
[[Category:超関数]]
[[Category:対称性]]
[[Category:解析学の定理]]
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:数学のエポニム]]