ヨウ素のソースを表示

{{redirect|ヨード|ヘブライ文字|ヨッド (ヘブライ文字)}}
{{Elementbox
|name=iodine
|number=53
|symbol=I
|pronounce={{IPAc-en|ˈ|aɪ|.|ɵ|d|aɪ|n}} {{respell|EYE|o-dyne}}<br />{{IPAc-en|ˈ|aɪ|.|ɵ|d|ɨ|n}} {{respell|EYE|o-dən}}<br />{{IPAc-en|ˈ|aɪ|.|ɵ|d|iː|n}} {{respell|EYE|o-deen}}
|left=[[テルル]]
|right=[[キセノン]]
|above=[[臭素|Br]]
|below=[[アスタチン|At]]
|series=ハロゲン
|group=17
|period=5
|block=p
|image name=Iodinecrystals.JPG
|appearance=[[金属光沢]]のある黒色[[固体]]、気体は紫色
|atomic mass=126.90447
|electron configuration=&#91;[[クリプトン|Kr]]&#93; 4d<sup>10</sup> 5s<sup>2</sup> 5p<sup>5</sup>
|electrons per shell=2, 8, 18, 18, 7
|phase=固体
|density gpcm3nrt=4.933
|melting point K=386.85
|melting point C=113.7
|melting point F=236.66
|boiling point K=457.4
|boiling point C=184.3
|boiling point F=363.7
|triple point K=386.65
|triple point kPa=12.1
|critical point K=819
|critical point MPa=11.7
|heat fusion=(I<sub>2</sub>) 15.52
|heat vaporization=(I<sub>2</sub>) 41.57
|heat capacity=(I<sub>2</sub>) 54.44
|vapor pressure 1=260
|vapor pressure 10=282
|vapor pressure 100=309
|vapor pressure 1 k=342
|vapor pressure 10 k=381
|vapor pressure 100 k=457
|vapor pressure comment=（[[斜方晶系]]）
|crystal structure=orthorhombic
|japanese crystal structure=[[斜方晶系]]
|oxidation states='''7''', 5, 3, 1, -1（強[[酸性酸化物]]）
|electronegativity=2.66
|number of ionization energies=3
|1st ionization energy=1008.4
|2nd ionization energy=1845.9
|3rd ionization energy=3180
|atomic radius=[[1 E-10 m|140]]
|covalent radius=[[1 E-10 m|139±3]]
|Van der Waals radius=[[1 E-10 m|198]]
|magnetic ordering=[[反磁性]]<ref>[http://www-d0.fnal.gov/hardware/cal/lvps_info/engineering/elementmagn.pdf Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20120112012253/http://www-d0.fnal.gov/hardware/cal/lvps_info/engineering/elementmagn.pdf |date=2012年1月12日 }}, in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.</ref>
|electrical resistivity at 0=1.3×10<sup>7</sup>
|thermal conductivity=0.449
|Bulk modulus=7.7
|CAS number=7553-56-2
|isotopes=
{{Elementbox_isotopes_decay | mn=[[ヨウ素123|123]] | sym=I
 | na=[[人工放射性同位体|syn]] | hl=[[1 E4 s|13 h]]
 | dm=[[電子捕獲|ε]]/[[ガンマ崩壊|γ]] | de=0.16 | pn=[[テルル123|123]] | ps=[[テルル|Te]]}}
{{Elementbox_isotopes_stable | mn=[[ヨウ素127|127]] | sym=I | na=100 % | n=74}}
{{Elementbox_isotopes_decay | mn=[[ヨウ素129|129]] | sym=I
 | na=[[微量放射性同位体|trace]] | hl=[[1 E14 s|15.7×10<sup>6</sup> y]]
 | dm=[[ベータ崩壊|β<sup>-</sup>]] | de=0.194 | pn=[[キセノン129|129]] | ps=[[キセノン|Xe]]}}
{{Elementbox_isotopes_decay | mn=[[ヨウ素131|131]] | sym=I
 | na=[[人工放射性同位体|syn]] | hl=[[1 E5 s|8.02070 d]]
 | dm=[[ベータ崩壊|β<sup>-</sup>]]/[[ガンマ崩壊|γ]] | de=0.971 | pn=[[キセノン131|131]] | ps=[[キセノン|Xe]]}}
|isotopes comment=
}}
'''ヨウ素'''（ヨウそ、沃素、{{lang-en-short|iodine}}）は、[[原子番号]] 53、[[原子量]] 126.9 の[[元素]]である。[[元素記号]]は '''I'''。あるいは[[分子式]]が I<sub>2</sub> と表される[[二原子分子]]であるヨウ素の単体の呼称。

[[ハロゲン元素]]の一つ。[[分子量]]は253.8。[[融点]]は113.6 ℃で、常温、常圧では[[固体]]であるが、[[昇華 (化学)|昇華]]性がある。固体の[[結晶]]系は紫黒色の[[斜方晶系]]で、反応性（酸化力）は[[フッ素]]、[[塩素]]、[[臭素]]より小さい。[[水]]にはあまり溶けないが、エタノールや[[ヨウ化カリウム]]水溶液にはよく溶ける。これは下式のように、[[ヨウ化物イオン]]との反応が起こることによる。
: <chem>{I^-} + I2 -> I3^-</chem>

単体のヨウ素は、[[日本]]の[[毒物及び劇物取締法]]により[[医薬用外劇物]]に指定されている。

== 名称 ==
'''ヨード'''（沃度）ともいう。気体が[[すみれ色]]であることから、すみれ色を意味する{{lang-el|[[wikt:en:ιώδης|ιώδης]]}}({{unicode|iôdês}})をもとに[[フランス語]]でiodeと命名された<ref>{{cite journal|url=https://books.google.com/books?id=YGwri-w7sMAC&pg=RA2-PA304|author=M. B. Courtois|title=Découverte d'une substance nouvelle dans le Vareck|journal=Anales de chimie|volume=88|year=1813|page=305|quote=La substance nouvelle, que depuis on a nommée ''iode'' à cause de la belle couleur violette de sa vapeur, a bien tout l'aspect d'un métal.}}</ref><ref>{{cite book|chapter=IODE|title=Le petit Robert 1|year=1982|origyear=1967|publisher=S.N.L. - Le Robert|isbn=285036066X|page=1031|quote=1812; gr. ''iôdês'' « violet »}}</ref>。
[[英語]]では iodine と呼ばれている。

== 発見史 ==
[[ベルナール・クールトア]]によって[[1811年]]に[[海藻]][[灰]]から発見された<ref name="sakurai">{{Cite |和書 |author =[[桜井弘]]|||title = 元素111の新知識|date = 1998| pages = 240|publisher =[[講談社]][[ブルーバックス]]| series = |isbn=4-06-257192-7 |ref = harv }}</ref>。彼の友人{{仮リンク|シャルル・ベルナール・デゾルム|en|Charles Bernard Desormes|label=シャルル・デゾルム}}と[[ニコラ・クレマン]]が[[ジョゼフ・ルイ・ゲイ＝リュサック]]と[[アンドレ＝マリ・アンペール]]にサンプルを送ったうえで[[1813年]][[11月29日]]に発表した。

ゲイ＝リュサックは[[12月6日]]にこの[[物質]]が元素もしくは[[酸化物]]であると発表した。アンペールからサンプルを提供された[[ハンフリー・デービー|ハンフリー・デーヴィー]]は実験によりこの物質が[[塩素]]の性質に類似することを発見し、[[王立協会]]宛の[[12月10日]]付の手紙で、この物質が元素であることを発表した。

== 地球上での分布 ==
現在の[[地球]]上には 8.7 × 10{{sup|12}} トンが存在し、その約70%が[[海底]][[堆積物]]に含まれていると考えられている。<ref>村松康行「{{PDFlink|[http://www.u-presscenter.jp/uploads/photos/914.pdf ヨウ素を通して見た地球・環境・生物]}}」『Isotope News』2005/5</ref>
; 地球表層でのヨウ素の分布<ref name=Okabe>岡部宣章「海水・地下流体におけるヨウ素の化学形態及び同位体比に関する地球化学的研究」[[学習院大学]][[大学院]] [[博士]]論文 甲第244号、{{hdl|10959/3692}}</ref>
{|
|+ 地球上での分布
| 海水 || 7.0×10{{sup|10}}t || (0.8%)
|-
| 海底堆積物 || 5.9×10{{sup|12}}t || (68.2%)
|-
| 海洋[[地殻]] || 5.4×10{{sup|10}}t || (0.6%)
|-
| [[堆積岩]] || 2.4×10{{sup|12}}t || (27.7%)
|-
| [[火成岩]]及び[[変成岩]] || 2.3×10{{sup|11}}t || (2.7%)
|}

地球が誕生してから[[地球の大気|大気]]中の遊離[[酸素]]が増加するまでの期間のヨウ素は -1価のヨウ化物イオン(<chem>I^-</chem>)として存在していたと考えられている。その後、大気中の遊離酸素濃度が増加すると有機ヨウ素や +5価のヨウ素酸イオン(<chem>IO3^-</chem>)として存在している。

海洋と大気中には[[揮発]]性有機ヨウ素（[[ヨードメタン]]<chem>CH3I</chem> ）として広く分布している<ref name=chikyukagaku.47.209>天知誠吾「[https://doi.org/10.14934/chikyukagaku.47.209 ヨウ素の地球化学と微生物 : ヨウ素の揮発、濃縮、酸化、還元、吸着、脱ハロゲン化反応を触媒するバクテリア] 」『地球化学』Vol.47 (2013) No.4 p.209-219, {{doi|10.14934/chikyukagaku.47.209}}</ref> が、どのような[[バクテリア]]が関わっているのかは十分に解明されていない<ref name=Okabe /><ref name=chikyukagaku.47.209 />。

== 用途 ==
=== 分析化学 ===
ヨウ素溶液に[[デンプン]]を加えると、ヨウ素デンプン反応を起こして藍色を呈する（デンプンは微量でも鋭敏に反応する。[[デンプン#ヨウ素デンプン反応|ヨウ素デンプン反応]]を参照）。この反応はヨウ素滴定（ヨードメトリー）に利用される。また、[[小学校]]、[[中学校]]の[[理科]]実験においては、デンプンを簡易的に検出できる[[試薬]]として多用されている。

さらに、ヨウ素デンプン反応を応用して、[[蒸留水]]にヨウ化カリウム、可溶性のデンプンを溶かしそれに[[ろ紙]]を浸したヨウ化カリウムデンプン紙が、[[酸化剤]]の検出にも用いられる<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.iri-tokyo.jp/site/archives/complaint-shiken-sankakenshutsu.html |title=ヨウ化カリウムでんぷん紙による酸化剤の検出 |accessdate=2022-07-01 |publisher=地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター |date=2016-12-19}}</ref>。ヨウ化カリウムデンプン紙と似たものに過酸化物価試験紙（POV試験紙）があり、こちらは色の変化によって[[過酸化物価]]を調べることができる<ref name=":0">{{Cite web|和書|url=https://www.sibata.co.jp/faq/faq-28039/ |title=POV試験紙 FAQ |accessdate=2022-07-01 |publisher=柴田科学株式会社}}</ref>。どちらも、ヨウ化カリウムの酸化により[[遊離]]したヨウ素がデンプンと反応することで、色が変化している<ref name=":0" />。

[[分析化学]]では、[[脂質]]などの[[有機化合物]]に含まれる[[炭素]]-炭素[[二重結合]]の量の指標として[[ヨウ素価]]が用いられる。また試料中の水分量を決定するための方法として[[カール・フィッシャー滴定]]が知られている。

=== 消毒薬 ===
ヨウ素は[[消毒薬]]としてもよく用いられる。ヨウ素の[[アルコール]]溶液が[[ヨードチンキ]]である。ヨウ素と[[ヨウ化カリウム]]の[[グリセリン]]溶液が[[ルゴール液]]である。ヨウ素と[[ポリビニルピロリドン]]の錯化合物は[[ポビドンヨード]]として知られる。

== 生体とヨウ素 ==
体内で[[甲状腺ホルモン]]を合成するのに必要なため、ヨウ素は[[ヒト]]にとって[[必須元素]]である。人体に摂取、吸収されると、ヨウ素は血液中から[[甲状腺]]に集まり、蓄積される。なお、このヨウ素の吸収は[[ゴイトロゲン]]と呼ばれる食品群や化学物質などにより阻害されることに注意が必要である。

=== 欠乏と過剰 ===
* 欠乏 - [[ヨード欠乏症]]として[[甲状腺腫]]、[[甲状腺機能低下症]]等を発症する<ref name=eiyogakuzashi.51.195>宮井潔「[https://doi.org/10.5264/eiyogakuzashi.51.195 ヨウ素と甲状腺]」『栄養学雑誌』Vol.51 (1993) No.4 P.195-206, {{doi|10.5264/eiyogakuzashi.51.195}}</ref>。
* 過剰 - 医療用[[造影剤]]や[[ポビドンヨード]]（外用[[消毒薬]]）の使用により[[甲状腺機能亢進症]]、甲状腺機能低下症を発症することがある<ref name=eiyogakuzashi.51.195 />。

=== 日本での摂取状況 ===
[[海藻]]類はヨウ素を[[海水]]から[[生物濃縮|濃縮]]しており、海に囲まれた日本では食生活の中で海藻などから自然にヨウ素の摂取が行われている。また、[[日本]]ではヨウ素を含有することをうたった[[鶏卵]]が売られている。

[[厚生労働省]]が発表した『日本人の食事摂取基準』（2020年版）によると、ヨウ素の推奨量は成人で130 µg/日、ヨウ素の耐容上限量は日本では3.0&nbsp;mg/日、[[アメリカ合衆国|米国]]では約1.1&nbsp;mg/日としている。日本において妊婦は更に110 µgの付加量、授乳婦は140 µgの付加量が推奨されている<ref>{{PDF|[https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf 『日本人の食事摂取基準』（2020年版）ヨウ素]}} 厚生労働省</ref><ref>[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK222323/ Iodine], Dietary Reference Intakes for Vitamin A, Vitamin K, Arsenic, Boron, Chromium, Copper, Iodine, Iron, Manganese, Molybdenum, Nickel, Silicon, Vanadium, and Zinc</ref>。[[コンブ]]は大量にヨウ素を含み、素干しコンブわずか1gでヨウ素の耐容上限量約2.2&nbsp;mg/日に達する。[[北海道]]での海岸性甲状腺腫はヨウ素の過剰摂取が原因であると考えられている。半面、ヨウ素の抗[[腫瘍]]作用を利用するため少なくとも3 mg/日を摂取すべきとの説も存在する<ref>布施 養善「[https://doi.org/10.11299/brte.24.117 ヨウ素をめぐる医学的諸問題－日本人のヨウ素栄養の特異性]」『Biomedical Research on Trace Elements』Vol.24 (2013) No.3 p.117-152</ref>。

日本ではダイエット目的で昆布を過剰摂取してヨウ素過剰に陥ってしまうケースも多い<ref>日経プラスワン2010年10月2日付</ref>。

ヨウ素制限食を必要とする際には、逆に昆布、[[ワカメ]]など海藻の摂取を控えなくてはならない。
{| class="wikitable floatright" style="text-align:center"
|+ 食品1グラムあたりのヨウ素含有量<ref name="ranking">
{{Cite web|和書
 |url=http://fooddb.mext.go.jp/ranking/ranking.html
 |title=食品成分ランキング
 |accessdate = 2016-03-02}}</ref>
! 食品 !! 含有量 (µg/g)
|-
| 昆布（素干し） || 2100-2400
|-
| 昆布（刻み昆布） || 2300
|-
| [[ヒジキ|ひじき]] || 470
|-
| 昆布([[佃煮]]) || 110
|-
| カットわかめ || 85
|-
| 昆布[[出汁|だし]]（液体） || 19-82<ref name="ranking"/><ref name="日衛誌"/>
|-
| 焼き[[海苔|のり]] || 21
|-
| わかめ（生） || 16
|-
| ヨード卵 || 10-20<ref name="日衛誌">
{{Cite web|和書
 |url=http://www.e-lactancia.org/media/papers/Algas-Yodo-2008.pdf
 |title=日本で市販されている食品中のヨウ素含有量
 |publisher=日本衛生学雑誌
 |volume=63
 |page=729
 |date=2008/09
 |accessdate = 2016-03-04}}</ref>
|-
| [[サバ|しめさば]]       || 4.3
|-
| [[メカブ|めかぶ]]（生）   || 3.9
|-
| ビーフ[[カレー]]<br />(レトルト) || 3.7
|-
| 鱈([[マダラ|まだら]])     || 3.5
|-
| [[ポテトチップス]] || 2.6
|-
| [[たらこ]](生)     || 1.3
|-
| 塩さば         || 1.1
|}

{| class="wikitable floatright" style="text-align:center"
|+ ヨウ素推奨摂取量(米国FNB)<ref>
{{cite web
 |url=https://ods.od.nih.gov/factsheets/Iodine-HealthProfessional/
 |title=Iodine
 |accessdate = 2016年3月2日}}</ref><br><small>(日本の推奨量は [https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf 日本人の食事摂取基準(2020年版)] を参照)</small>
! 年齢／性別など !! 推奨量 RDA <br />(µg/日)!! 上限 UL <br />(µg/日)
|-
! 幼児（0-1歳）
| 110-130 || 未定義
|-
! 子供（1-8歳）
| 90 || 200-300
|-
! 子供（9-13歳）
| 120 || 600
|-
! 成人（14歳以上）
| 150 || 900-1100
|-
! 成人女子（[[妊娠]]期）
| 220 || 900-1100
|-
! 成人女子（[[授乳]]期）
| 290 || 900-1100
|}

=== 海外での摂取状況 ===
[[大陸]]の中央部にあっては、ヨウ素を摂取する機会がほとんどないことから、[[ヨード欠乏症]]による[[甲状腺機能低下症|甲状腺異常]]が多く発生した。[[アメリカ合衆国|アメリカ]]では[[アメリカ食品医薬品局]]（FDA）の規定により[[食塩]]の中に一定量の[[ヨウ化ナトリウム]]が混入させてある。また、[[モンゴル]]では日本からの援助で国民にヨウ素剤を服用させた結果、甲状腺異常の患者を激減させた。アメリカのほかに[[スイス]]、[[カナダ]]、[[中国]]などでは食塩にヨウ素の添加を義務付けている<ref>山田洋介 [https://www.excite.co.jp/news/article/Sinkan_index_1916/ 「ヨウ素添加を義務付けている国（新刊JP）」][[エキサイト]]ニュース（2011年4月27日）2020年2月11日閲覧</ref>。

=== 貿易上の課題 ===
一方で、食習慣の違いなどで、[[オーストラリア]]では日本から輸入された高濃度のヨウ素(昆布エキス)を含む食品による健康被害も報告されており<ref>{{Cite web|和書
 | authors = 厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長
 | title = 高濃度のヨウ素を含有する豆乳製品について
 | work = 食安監発0204第5号
 | publisher = 厚生労働省
 | date = 2000-02-04
 | url = https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/gyousei/dl/100204_01.pdf
 | format = pdf
 | accessdate = 2016-03-02}}</ref>、提訴に至るケースもある<ref>[https://web.archive.org/web/20130123205942/http://sankei.jp.msn.com/life/news/130123/trd13012307570002-n1.htm 「昆布ヨウ素 豪で健康被害の集団提訴」]{{リンク切れ|date=2020年2月}}[[産経新聞|MSN産経ニュース]]（2013年1月23日）</ref>。反対に、日本では[[食品衛生法]]上ヨウ素を添加することが認められておらず、日本産の[[粉ミルク]]が[[香港]]で、製品内に含まれるべきヨウ素の量が[[国際食品規格委員会]]（CODEX）基準に達していないと指摘されたことがある<ref>{{Cite web|和書
 | authors = 食品安全委員会
 | title = 香港食物環境衛生署食物安全センター、「乳幼児用調製粉乳中のヨウ素」の専用ページを開設
 | work = 食品安全総合情報システム
 | date = 2012-08-10
 | url = https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu03651060482
 | format = html
 | accessdate = 2016-03-05}}</ref>。

=== 放射性ヨウ素 ===
[[チェルノブイリ原子力発電所]]の[[原子力事故|事故]]では、[[核分裂反応#核分裂生成物|核分裂生成物]]の [[ヨウ素131|<sup>131</sup>I]]（[[放射性同位体]]）が多量に放出されたが、これが甲状腺に蓄積したため、住民に[[甲状腺ガン]]が多発した。[[放射能汚染]]が起きた場合、[[放射性]]でないヨウ素の大量摂取により、あらかじめ甲状腺をヨウ素で[[飽和]]させる防護策が必要である（[[ヨウ化カリウム#用途]]、[[ヨウ素剤]]参照）。そのため、日本は[[武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律|国民保護法]]に基づく[[国民保護|国民の保護]]に関する基本指針により、核攻撃等の武力攻撃が発生した場合に武力攻撃事態等対策本部長又は[[都道府県知事]]が、[[安定ヨウ素剤]]を服用する時期を指示することになっている。なお、[[独立行政法人]][[放射線医学総合研究所]]は、たとえヨウ素を含んでいても[[うがい]]薬や消毒剤など、内服薬でないものは「安定ヨウ素剤」の代わりに飲んだりしないようにとしている<ref>{{PDF|[http://www.nirs.go.jp/data/youso-1.pdf ヨウ素を含む消毒剤などを飲んではいけません -インターネット等に流れている根拠のない情報に注意]}} 放射線医学総合研究所</ref><ref>[http://www.remnet.jp/kakudai/11/kichou.html 「安定ヨウ素剤予防服用の考え方と実際」]{{リンク切れ|date=2020年2月}}</ref>。

[[世界保健機関]] (WHO) の飲料水中の放射性[[核種]]のガイダンスレベルは平常時の値は10 [[ベクレル|Bq]]/Lで原子力危機時の誘導介入レベル（介入レベルを超えないように環境汚染物質や汚染食品の摂取、流通を制限するため、二次的に設定される制限レベル、「暫定規制値」とも言う）であり、[[国際原子力機関]]は介入レベル（敷地外の一般公衆が、過度の被曝を生ずる恐れのある場合は、実行可能な限り、被曝低減のための対策をとることが必要となる。その判断の基礎となる[[線量]]）を3,000 Bq/Lとしているが、平常時の値や誘導介入レベルは定めていない<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.who.or.jp/index_files/FAQ_Drinking_tapwater_JP.pdf|title=水道水汚染について|author=世界保健機関|date=2011-03-31|format=pdf|accessdate=2011-04-04}}</ref>。日本では一定の基準はなくWHOの基準相当<ref>{{Cite web|和書|url=http://whqlibdoc.who.int/publications/2004/9241546387_jpn.pdf|title=WHO飲料水水質ガイドライン|author=世界保健機関|date=2004年|format=pdf|accessdate=2011-03-29}}</ref> を守っていた。しかし[[東北地方太平洋沖地震|2011年東北地方太平洋沖地震]]における[[福島第一原子力発電所事故の影響]]から、放射性ヨウ素の[[飲料水]]中及び[[牛乳]]・[[乳製品]]中の暫定規制値を300 Bq/kgと定めた<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r9852000001559v.pdf|title=放射能汚染された食品の取り扱いについて|author=厚生労働省|date=2011-03-17|format=pdf|accessdate=2011-03-29}}</ref><ref>{{Cite web|和書
|date= 2010年12月
|url= https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_09-03-03-06.html
|title= 飲食物摂取制限
|format= HTML
|work= 原子力百科事典 (ATOMICA)
|publisher= 財団法人 高度情報科学技術研究機構
|accessdate= 2011-04-04
}}</ref>。

または、ヨウ素が甲状腺に集まる性質は、画像診断法の一つである甲状腺[[シンチグラフィ]]に利用される。甲状腺シンチグラフィではヨウ素の同位体のうち<sup>123</sup>I などを用いる。

== 資源 ==
ヨウ素は海水中に0.05 [[ppm]] (0.000005 %) 含まれ、推定資源量は3億4千万[[トン]]である。ヨウ素は[[生物濃縮]]される元素で、海藻の灰から抽出され0.45 %以上のヨウ素が含有される。かつては海藻を原料に工業的に生産されたが、1959年以降は工業的には[[天然ガス]]<ref>亀井玄人「[https://doi.org/10.11456/shigenchishitsu1992.51.145 茂原ガス田の地下水に含まれるヨウ素の起源と挙動]『資源地質』Vol.51 (2001) No.2 P.145-151, {{doi|10.11456/shigenchishitsu1992.51.145}}</ref>、[[チリ硝石]]、[[石油]]の副産物として生産されている。

工業的には[[ヨウ化ナトリウム]]などヨウ化物イオンを含む地下水や水溶液に酸性条件下で[[塩素]]を吹き込み、酸化されたヨウ素単体を[[昇華 (化学)|昇華]]精製する。

[[アメリカ地質調査所]]の2005年版統計<ref>[http://minerals.usgs.gov/minerals/ Mineral Commodity Summaries]</ref> によると、全世界のヨウ素の生産量は約25,500トンである。その内訳は、一位の[[チリ]]が16,200トン、二位の日本国6,500トンであった。[[国連]]統計局の2002年度統計<ref>[http://unstats.un.org/unsd/default.htm Commodity Trade Statistics Database]</ref> によると、輸出量はリサイクルされたものも含めて一位のチリが$447,612,776、二位の日本国が$195,847,819であった。

2008年度の日本国内生産量は9,231トン、工業消費量は3,288トン<ref>[http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/seidou/result/ichiran/02_kagaku.html 経済産業省生産動態統計・生産・出荷・在庫統計] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20110522211442/http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/seidou/result/ichiran/02_kagaku.html |date=2011年5月22日 }} 平成20年年計による</ref>。日本のヨウ素生産量のほとんどは[[千葉県]]の水溶性天然ガス鉱床（[[南関東ガス田]]）から産出する[[地下水]]（[[鹹水]]）から生産されており<ref>[http://www.gasukai.co.jp/iodine/index4.html ヨードについて - 資源大国 ニッポン][[関東天然瓦斯開発|関東天然瓦斯開発株式会社]]（2020年2月11日閲覧）</ref>、世界シェアの3割、埋蔵量は世界の2/3ほどである。

こうした立地を生かして、[[千葉大学]]は「千葉ヨウ素資源イノベーションセンター」（CIRIC）を新設<ref>[https://www.nikkei.com/article/DGXLZO11560330R10C17A1L71000/ 千葉大、ヨウ素製品の研究拠点を新設 高付加価値化へ産官学連携]『[[日本経済新聞]]』ニュースサイト（2017年1月12日）2018年3月14日閲覧</ref>。2018年には[[伊勢化学工業]]など4社と共同研究協定を結んだ<ref>[https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26649810X00C18A2L71000/ 千葉大、ヨウ素の高度利用へ4社と連携]『日本経済新聞』ニュースサイト（2018年2月8日）2018年3月14日閲覧</ref>。

[[ファイル:ヨウ素工業統計.PNG|frame|説明図 ヨウ素の生産量と輸出量]]
{| class="wikitable"
!&nbsp;!!2002年輸出金額 ($)!!2002年生産量（トン）
|-
|チリ
|style="text-align:right"|447,612,776
|style="text-align:right"|10,500
|-
|日本
|style="text-align:right"|195,847,819
|style="text-align:right"|6,100
|-
|アメリカ合衆国
|style="text-align:right"|51,136,966
|style="text-align:right"|1,700
|-
|ベルギー
|style="text-align:right"|137,773,860
|style="text-align:center"| -
|-
|その他
|style="text-align:right"|43,569,769
|style="text-align:right"|1,300
|-
|計
|style="text-align:right"|875,941,190
|style="text-align:right"|19,600
|}

== 化合物 ==
ヨウ素と[[水素]]の化合物（[[ヨウ化水素]]）は[[強酸|強酸性]]を示す。
* [[ヨウ化銀]] (AgI) - [[人工降雨]]に使われる。またα-AgIは[[超イオン伝導体]]でもある。
* [[ヨウ化カリウム]] (KI)
* [[ヨウ化水素]] (HI)
* [[ヨウ化窒素]]（窒化ヨウ素）(I<sub>3</sub>N) - 濃[[アンモニア水]]に少量のヨウ素の結晶を投入すると、針状結晶として生じる。これは乾燥させると触ることができないほど敏感な物質で、部屋の中で手を叩く振動でさえも[[爆発]]を起こす。
* [[ヨウ化ナトリウム]] (NaI) - [[ガンマ線]]検出用単結晶（[[シンチレーション検出器]]）に用いられる。
* [[ヨウ化セシウム]] (CsI) - エックス線蛍光倍増管・ガンマ線検出用単結晶に用いられる。

=== ヨウ素のオキソ酸 ===
ヨウ素の[[オキソ酸]]は慣用名を持つ。次にそれらを挙げる。
{| class="wikitable"
! オキソ酸の名称 !! 化学式 (酸化数) !! オキソ酸塩の名称 !! 備考
|-
| [[次亜ヨウ素酸]]<br />(hypoiodous acid) ||<chem>HIO</chem> (+I) || [[次亜ヨウ素酸塩]]<br />( - hypoiodite) ||
|-
| {{link-zh|亜ヨウ素酸|亚碘酸}}<br />(iodous acid) ||<chem>HIO2</chem> (+III) || [[亜ヨウ素酸塩]]<br />( - iodite) || 未確認
|-
| [[ヨウ素酸]]<br />(iodic acid) ||<chem>HIO3</chem> (+V) || [[ヨウ素酸塩]]<br />( - iodate) || ヨウ素酸塩は[[危険物#第1類|危険物第1類]]
|-
| [[過ヨウ素酸]]<br />(periodic acid) ||<chem>HIO4</chem> (+VII) || [[過ヨウ素酸塩]]<br />( - periodate) ||
|}
※''オキソ酸塩名称の '-' には[[カチオン]]種の名称が入る。''

== 同位体 ==
{{Main|ヨウ素の同位体}}
* <sup>131</sup>I は核分裂によって生成される。[[半減期]]は8.1日で、[[ベータ崩壊]]すると半減期11.8日の[[キセノン131m|<sup>131m</sup>Xe]]となる。なお、1日後で最初の90 %になり、8日後で50 %、30日後で1/13、60日後で1/170、90日後で1/2200となる。
* <sup>129</sup>I は半減期が1570万年である。[[宇宙線]]や[[ウラン]]の自発核分裂によって常に一定量が大気中に放出されている。
* <sup>127</sup>I は通常のヨウ素で常に海水中に一定量が存在する。
* <sup>129</sup>I/<sup>127</sup>I は[[天然存在比]]1500×10<sup>-15</sup>と推定される。生物に取り込まれたヨウ素の同位体の比率により年代を求めることが可能である。先述の千葉県の地下水に含まれるヨウ素の年代は4890万年前と推定される。[[プレート]]と共に沈み込んだ海底堆積物が上昇してきた[[付加体]]と推定される<ref>『アイソトープニュース』2002年12月号P7-11</ref><ref>『放医研ニュース』2001年12月号P1-2</ref><ref>Earth and Planetary Science Letters 192(2001)583-593</ref>。

== 参照資料 ==
* [https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/seidou/result/ichiran/08_seidou.html#menu3 統計表一覧（経済産業省生産動態統計)]

==出典==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist|2}}

== 関連項目 ==
{{Commonscat|iodine}}
* [[ヨウ化物]]
* [[ヨード欠乏症]]
* [[伊勢化学工業|伊勢化学工業株式会社]]

== 外部リンク ==
* [http://fiu-iodine.org/ ヨウ素学会]
*{{PaulingInstitute|jp/mic/minerals/iodine}}
* {{Hfnet|680|ヨウ素解説}}
* {{Hfnet|595|ヨウ素、ヨード|nolink=yes}}
* [https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4al.pdf ヨウ素 -「日本人の食事摂取基準」（2010年版 抜粋）] 厚生労働省

{{元素周期表}}
{{ヨウ素の化合物}}
{{二原子分子}}
{{ハロゲン間化合物}}
{{Normdaten}}

{{DEFAULTSORT:ようそ}}
[[Category:ヨウ素|*]]
[[Category:元素]]
[[Category:ハロゲン]]
[[Category:第5周期元素]]
[[Category:必須ミネラル]]
[[Category:染色色素]]