ヨウ素

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テンプレート:Redirect テンプレート:Elementbox ヨウ素(ヨウそ、沃素、テンプレート:Lang-en-short)は、原子番号 53、原子量 126.9 の元素である。元素記号I。あるいは分子式が I2 と表される二原子分子であるヨウ素の単体の呼称。

ハロゲン元素の一つ。分子量は253.8。融点は113.6 ℃で、常温、常圧では固体であるが、昇華性がある。固体の結晶系は紫黒色の斜方晶系で、反応性(酸化力)はフッ素塩素臭素より小さい。にはあまり溶けないが、エタノールやヨウ化カリウム水溶液にはよく溶ける。これは下式のように、ヨウ化物イオンとの反応が起こることによる。

I-+IA2IA3A

単体のヨウ素は、日本毒物及び劇物取締法により医薬用外劇物に指定されている。

名称

ヨード(沃度)ともいう。気体がすみれ色であることから、すみれ色を意味するテンプレート:Lang-el(テンプレート:Unicode)をもとにフランス語でiodeと命名された[1][2]英語では iodine と呼ばれている。

発見史

ベルナール・クールトアによって1811年海藻から発見された[3]。彼の友人テンプレート:仮リンクニコラ・クレマンジョゼフ・ルイ・ゲイ=リュサックアンドレ=マリ・アンペールにサンプルを送ったうえで1813年11月29日に発表した。

ゲイ=リュサックは12月6日にこの物質が元素もしくは酸化物であると発表した。アンペールからサンプルを提供されたハンフリー・デーヴィーは実験によりこの物質が塩素の性質に類似することを発見し、王立協会宛の12月10日付の手紙で、この物質が元素であることを発表した。

地球上での分布

現在の地球上には 8.7 × 10テンプレート:Sup トンが存在し、その約70%が海底堆積物に含まれていると考えられている。[4]

地球表層でのヨウ素の分布[5]
地球上での分布
海水 7.0×10テンプレート:Supt (0.8%)
海底堆積物 5.9×10テンプレート:Supt (68.2%)
海洋地殻 5.4×10テンプレート:Supt (0.6%)
堆積岩 2.4×10テンプレート:Supt (27.7%)
火成岩及び変成岩 2.3×10テンプレート:Supt (2.7%)

地球が誕生してから大気中の遊離酸素が増加するまでの期間のヨウ素は -1価のヨウ化物イオン(IA)として存在していたと考えられている。その後、大気中の遊離酸素濃度が増加すると有機ヨウ素や +5価のヨウ素酸イオン(IOA3A)として存在している。

海洋と大気中には揮発性有機ヨウ素(ヨードメタンCHA3I )として広く分布している[6] が、どのようなバクテリアが関わっているのかは十分に解明されていない[5][6]

用途

分析化学

ヨウ素溶液にデンプンを加えると、ヨウ素デンプン反応を起こして藍色を呈する(デンプンは微量でも鋭敏に反応する。ヨウ素デンプン反応を参照)。この反応はヨウ素滴定(ヨードメトリー)に利用される。また、小学校中学校理科実験においては、デンプンを簡易的に検出できる試薬として多用されている。

さらに、ヨウ素デンプン反応を応用して、蒸留水にヨウ化カリウム、可溶性のデンプンを溶かしそれにろ紙を浸したヨウ化カリウムデンプン紙が、酸化剤の検出にも用いられる[7]。ヨウ化カリウムデンプン紙と似たものに過酸化物価試験紙(POV試験紙)があり、こちらは色の変化によって過酸化物価を調べることができる[8]。どちらも、ヨウ化カリウムの酸化により遊離したヨウ素がデンプンと反応することで、色が変化している[8]

分析化学では、脂質などの有機化合物に含まれる炭素-炭素二重結合の量の指標としてヨウ素価が用いられる。また試料中の水分量を決定するための方法としてカール・フィッシャー滴定が知られている。

消毒薬

ヨウ素は消毒薬としてもよく用いられる。ヨウ素のアルコール溶液がヨードチンキである。ヨウ素とヨウ化カリウムグリセリン溶液がルゴール液である。ヨウ素とポリビニルピロリドンの錯化合物はポビドンヨードとして知られる。

生体とヨウ素

体内で甲状腺ホルモンを合成するのに必要なため、ヨウ素はヒトにとって必須元素である。人体に摂取、吸収されると、ヨウ素は血液中から甲状腺に集まり、蓄積される。なお、このヨウ素の吸収はゴイトロゲンと呼ばれる食品群や化学物質などにより阻害されることに注意が必要である。

欠乏と過剰

日本での摂取状況

海藻類はヨウ素を海水から濃縮しており、海に囲まれた日本では食生活の中で海藻などから自然にヨウ素の摂取が行われている。また、日本ではヨウ素を含有することをうたった鶏卵が売られている。

厚生労働省が発表した『日本人の食事摂取基準』(2020年版)によると、ヨウ素の推奨量は成人で130 µg/日、ヨウ素の耐容上限量は日本では3.0 mg/日、米国では約1.1 mg/日としている。日本において妊婦は更に110 µgの付加量、授乳婦は140 µgの付加量が推奨されている[10][11]コンブは大量にヨウ素を含み、素干しコンブわずか1gでヨウ素の耐容上限量約2.2 mg/日に達する。北海道での海岸性甲状腺腫はヨウ素の過剰摂取が原因であると考えられている。半面、ヨウ素の抗腫瘍作用を利用するため少なくとも3 mg/日を摂取すべきとの説も存在する[12]

日本ではダイエット目的で昆布を過剰摂取してヨウ素過剰に陥ってしまうケースも多い[13]

ヨウ素制限食を必要とする際には、逆に昆布、ワカメなど海藻の摂取を控えなくてはならない。

食品1グラムあたりのヨウ素含有量[14]
食品 含有量 (µg/g)
昆布(素干し) 2100-2400
昆布(刻み昆布) 2300
ひじき 470
昆布(佃煮) 110
カットわかめ 85
昆布だし(液体) 19-82[14][15]
焼きのり 21
わかめ(生) 16
ヨード卵 10-20[15]
しめさば 4.3
めかぶ(生) 3.9
ビーフカレー
(レトルト)
3.7
鱈(まだら) 3.5
ポテトチップス 2.6
たらこ(生) 1.3
塩さば 1.1
ヨウ素推奨摂取量(米国FNB)[16]
(日本の推奨量は 日本人の食事摂取基準(2020年版) を参照)
年齢/性別など 推奨量 RDA
(µg/日)
上限 UL
(µg/日)
幼児(0-1歳) 110-130 未定義
子供(1-8歳) 90 200-300
子供(9-13歳) 120 600
成人(14歳以上) 150 900-1100
成人女子(妊娠期) 220 900-1100
成人女子(授乳期) 290 900-1100

海外での摂取状況

大陸の中央部にあっては、ヨウ素を摂取する機会がほとんどないことから、ヨード欠乏症による甲状腺異常が多く発生した。アメリカではアメリカ食品医薬品局(FDA)の規定により食塩の中に一定量のヨウ化ナトリウムが混入させてある。また、モンゴルでは日本からの援助で国民にヨウ素剤を服用させた結果、甲状腺異常の患者を激減させた。アメリカのほかにスイスカナダ中国などでは食塩にヨウ素の添加を義務付けている[17]

貿易上の課題

一方で、食習慣の違いなどで、オーストラリアでは日本から輸入された高濃度のヨウ素(昆布エキス)を含む食品による健康被害も報告されており[18]、提訴に至るケースもある[19]。反対に、日本では食品衛生法上ヨウ素を添加することが認められておらず、日本産の粉ミルク香港で、製品内に含まれるべきヨウ素の量が国際食品規格委員会(CODEX)基準に達していないと指摘されたことがある[20]

放射性ヨウ素

チェルノブイリ原子力発電所事故では、核分裂生成物131I放射性同位体)が多量に放出されたが、これが甲状腺に蓄積したため、住民に甲状腺ガンが多発した。放射能汚染が起きた場合、放射性でないヨウ素の大量摂取により、あらかじめ甲状腺をヨウ素で飽和させる防護策が必要である(ヨウ化カリウム#用途ヨウ素剤参照)。そのため、日本は国民保護法に基づく国民の保護に関する基本指針により、核攻撃等の武力攻撃が発生した場合に武力攻撃事態等対策本部長又は都道府県知事が、安定ヨウ素剤を服用する時期を指示することになっている。なお、独立行政法人放射線医学総合研究所は、たとえヨウ素を含んでいてもうがい薬や消毒剤など、内服薬でないものは「安定ヨウ素剤」の代わりに飲んだりしないようにとしている[21][22]

世界保健機関 (WHO) の飲料水中の放射性核種のガイダンスレベルは平常時の値は10 Bq/Lで原子力危機時の誘導介入レベル(介入レベルを超えないように環境汚染物質や汚染食品の摂取、流通を制限するため、二次的に設定される制限レベル、「暫定規制値」とも言う)であり、国際原子力機関は介入レベル(敷地外の一般公衆が、過度の被曝を生ずる恐れのある場合は、実行可能な限り、被曝低減のための対策をとることが必要となる。その判断の基礎となる線量)を3,000 Bq/Lとしているが、平常時の値や誘導介入レベルは定めていない[23]。日本では一定の基準はなくWHOの基準相当[24] を守っていた。しかし2011年東北地方太平洋沖地震における福島第一原子力発電所事故の影響から、放射性ヨウ素の飲料水中及び牛乳乳製品中の暫定規制値を300 Bq/kgと定めた[25][26]

または、ヨウ素が甲状腺に集まる性質は、画像診断法の一つである甲状腺シンチグラフィに利用される。甲状腺シンチグラフィではヨウ素の同位体のうち123I などを用いる。

資源

ヨウ素は海水中に0.05 ppm (0.000005 %) 含まれ、推定資源量は3億4千万トンである。ヨウ素は生物濃縮される元素で、海藻の灰から抽出され0.45 %以上のヨウ素が含有される。かつては海藻を原料に工業的に生産されたが、1959年以降は工業的には天然ガス[27]チリ硝石石油の副産物として生産されている。

工業的にはヨウ化ナトリウムなどヨウ化物イオンを含む地下水や水溶液に酸性条件下で塩素を吹き込み、酸化されたヨウ素単体を昇華精製する。

アメリカ地質調査所の2005年版統計[28] によると、全世界のヨウ素の生産量は約25,500トンである。その内訳は、一位のチリが16,200トン、二位の日本国6,500トンであった。国連統計局の2002年度統計[29] によると、輸出量はリサイクルされたものも含めて一位のチリが$447,612,776、二位の日本国が$195,847,819であった。

2008年度の日本国内生産量は9,231トン、工業消費量は3,288トン[30]。日本のヨウ素生産量のほとんどは千葉県の水溶性天然ガス鉱床(南関東ガス田)から産出する地下水鹹水)から生産されており[31]、世界シェアの3割、埋蔵量は世界の2/3ほどである。

こうした立地を生かして、千葉大学は「千葉ヨウ素資源イノベーションセンター」(CIRIC)を新設[32]。2018年には伊勢化学工業など4社と共同研究協定を結んだ[33]

説明図 ヨウ素の生産量と輸出量
  2002年輸出金額 ($) 2002年生産量(トン)
チリ 447,612,776 10,500
日本 195,847,819 6,100
アメリカ合衆国 51,136,966 1,700
ベルギー 137,773,860 -
その他 43,569,769 1,300
875,941,190 19,600

化合物

ヨウ素と水素の化合物(ヨウ化水素)は強酸性を示す。

ヨウ素のオキソ酸

ヨウ素のオキソ酸は慣用名を持つ。次にそれらを挙げる。

オキソ酸の名称 化学式 (酸化数) オキソ酸塩の名称 備考
次亜ヨウ素酸
(hypoiodous acid)
HIO (+I) 次亜ヨウ素酸塩
( - hypoiodite)
テンプレート:Link-zh
(iodous acid)
HIOA2 (+III) 亜ヨウ素酸塩
( - iodite)
未確認
ヨウ素酸
(iodic acid)
HIOA3 (+V) ヨウ素酸塩
( - iodate)
ヨウ素酸塩は危険物第1類
過ヨウ素酸
(periodic acid)
HIOA4 (+VII) 過ヨウ素酸塩
( - periodate)

オキソ酸塩名称の '-' にはカチオン種の名称が入る。

同位体

テンプレート:Main

  • 131I は核分裂によって生成される。半減期は8.1日で、ベータ崩壊すると半減期11.8日の131mXeとなる。なお、1日後で最初の90 %になり、8日後で50 %、30日後で1/13、60日後で1/170、90日後で1/2200となる。
  • 129I は半減期が1570万年である。宇宙線ウランの自発核分裂によって常に一定量が大気中に放出されている。
  • 127I は通常のヨウ素で常に海水中に一定量が存在する。
  • 129I/127I は天然存在比1500×10-15と推定される。生物に取り込まれたヨウ素の同位体の比率により年代を求めることが可能である。先述の千葉県の地下水に含まれるヨウ素の年代は4890万年前と推定される。プレートと共に沈み込んだ海底堆積物が上昇してきた付加体と推定される[34][35][36]

参照資料

出典

テンプレート:脚注ヘルプ テンプレート:Reflist

関連項目

テンプレート:Commonscat

外部リンク

テンプレート:元素周期表 テンプレート:ヨウ素の化合物 テンプレート:二原子分子 テンプレート:ハロゲン間化合物 テンプレート:Normdaten

  1. テンプレート:Cite journal
  2. テンプレート:Cite book
  3. テンプレート:Cite
  4. 村松康行「テンプレート:PDFlink」『Isotope News』2005/5
  5. 5.0 5.1 岡部宣章「海水・地下流体におけるヨウ素の化学形態及び同位体比に関する地球化学的研究」学習院大学大学院 博士論文 甲第244号、テンプレート:Hdl
  6. 6.0 6.1 天知誠吾「ヨウ素の地球化学と微生物 : ヨウ素の揮発、濃縮、酸化、還元、吸着、脱ハロゲン化反応を触媒するバクテリア 」『地球化学』Vol.47 (2013) No.4 p.209-219, テンプレート:Doi
  7. テンプレート:Cite web
  8. 8.0 8.1 テンプレート:Cite web
  9. 9.0 9.1 宮井潔「ヨウ素と甲状腺」『栄養学雑誌』Vol.51 (1993) No.4 P.195-206, テンプレート:Doi
  10. テンプレート:PDF 厚生労働省
  11. Iodine, Dietary Reference Intakes for Vitamin A, Vitamin K, Arsenic, Boron, Chromium, Copper, Iodine, Iron, Manganese, Molybdenum, Nickel, Silicon, Vanadium, and Zinc
  12. 布施 養善「ヨウ素をめぐる医学的諸問題-日本人のヨウ素栄養の特異性」『Biomedical Research on Trace Elements』Vol.24 (2013) No.3 p.117-152
  13. 日経プラスワン2010年10月2日付
  14. 14.0 14.1 テンプレート:Cite web
  15. 15.0 15.1 テンプレート:Cite web
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  17. 山田洋介 「ヨウ素添加を義務付けている国(新刊JP)」エキサイトニュース(2011年4月27日)2020年2月11日閲覧
  18. テンプレート:Cite web
  19. 「昆布ヨウ素 豪で健康被害の集団提訴」テンプレート:リンク切れMSN産経ニュース(2013年1月23日)
  20. テンプレート:Cite web
  21. テンプレート:PDF 放射線医学総合研究所
  22. 「安定ヨウ素剤予防服用の考え方と実際」テンプレート:リンク切れ
  23. テンプレート:Cite web
  24. テンプレート:Cite web
  25. テンプレート:Cite web
  26. テンプレート:Cite web
  27. 亀井玄人「茂原ガス田の地下水に含まれるヨウ素の起源と挙動『資源地質』Vol.51 (2001) No.2 P.145-151, テンプレート:Doi
  28. Mineral Commodity Summaries
  29. Commodity Trade Statistics Database
  30. 経済産業省生産動態統計・生産・出荷・在庫統計 テンプレート:Webarchive 平成20年年計による
  31. ヨードについて - 資源大国 ニッポン関東天然瓦斯開発株式会社(2020年2月11日閲覧)
  32. 千葉大、ヨウ素製品の研究拠点を新設 高付加価値化へ産官学連携日本経済新聞』ニュースサイト(2017年1月12日)2018年3月14日閲覧
  33. 千葉大、ヨウ素の高度利用へ4社と連携『日本経済新聞』ニュースサイト(2018年2月8日)2018年3月14日閲覧
  34. 『アイソトープニュース』2002年12月号P7-11
  35. 『放医研ニュース』2001年12月号P1-2
  36. Earth and Planetary Science Letters 192(2001)583-593