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[[解析学]]における'''リプシッツ連続性'''(リプシッツれんぞくせい、{{lang-en-short|''Lipschitz continuity''}})は、[[ルドルフ・リプシッツ]]に名を因む、[[函数]]のより強い形の[[一様連続性]]である。直観的には、リプシッツ連続函数は変化の速さが制限される。即ち、適当な有限値の実数が存在して、その函数のグラフ上の任意の二点を結ぶ直線の傾きの絶対値はその実数を超えない。この上界をその函数の「リプシッツ定数」(あるいは{{仮リンク|一様連続度|en|modulus of continuity}})と呼ぶ。例えば一階微分が有界な任意の函数はリプシッツである<ref>{{citation|last=Sohrab |first= H. H. |year=2003| title= Basic real analysis |vol=231|publisher= Birkhäuser. |url={{google books|plainurl=yes|id=gBPI_oYZoMMC|page=142|text=lipschitz}}}}</ref>。 [[微分方程式]]論において、リプシッツ連続性は[[初期値問題]]の解の存在と一意性を保証する[[ピカール–リンデレフの定理]]の中心的な条件である。リプシッツ連続性の特別な場合で、[[縮小写像|縮小性]]は[[バナッハの不動点定理]]において用いられる。 実数直線の有界閉集合上で定義される函数に関して、以下のような包含関係の鎖が知られている<ref>{{citation|url=https://wiki.math.ntnu.no/_media/tma4225/2014h/compactness.pdf |title=Compactness|format=PDF}}</ref>: : {{math|size=100%|'''[[連続的微分可能]]''' ⊆ '''リプシッツ連続''' ⊆ '''α-[[ヘルダー連続]]''' (0 < α ≤1) ⊆ '''[[一様連続]]''' ⊆ '''[[連続函数]]'''.}} また、 : {{math|size=100%|'''リプシッツ連続''' ⊆ '''[[絶対連続]]''' ⊆ '''[[有界変動函数|有界変動]]''' ⊆ '''[[殆ど至る所]][[微分可能]]'''}} も成り立つ。 == 定義 == [[file:Lipschitz continuity.png|thumb|リプシッツ連続函数に対し、適当な双錐 (白) が存在して、双錐の頂点が函数のグラフ上を移動するように双錐を平行移動するとき、常にそのグラフが双錐の外側 (緑) にあるようにできる。]] {{mvar|d{{msub|X}}}} は集合 {{mvar|X}} 上の[[距離函数]]、{{mvar|d{{msub|Y}}}} は集合 {{mvar|Y}} 上の距離函数として二つの[[距離空間]] {{math|(''X'', ''d''<sub>''X''</sub>)}} と {{math|(''Y'', ''d''{{msub|''Y''}})}} が与えられたとき(例えば、{{mvar|Y}} を[[実数]]全体の成す集合 {{math|'''R'''}} に距離函数 {{math|''d''{{msub|''Y''}}(''x'', ''y'') {{=}} {{abs|''x'' − ''y''}}}} を入れたもの、および {{mvar|X}} を {{math|'''R'''}} の部分集合とすることができる)。このとき、写像 {{math|''f'': ''X'' → ''Y''}} が'''リプシッツ連続'''(あるいは単にリプシッツ)であるとは、実定数 {{math|''K'' ≥ 0}} が存在して : <math> d_Y(f(x_1), f(x_2)) \le K\, d_X(x_1, x_2)\quad (\forall x_1, x_2 \in X)</math> を満たすときに言う。このような {{mvar|K}}, あるいはそのうち最小のものを、関数 {{mvar|f}} の'''リプシッツ定数'''と呼ぶ。{{math|''K'' {{=}} 1}} ととることができるとき、その関数は'''{{仮リンク|非拡大写像|en|short map}}'''と呼ばれ、{{math|''K'' < 1}} なら'''[[縮小写像]]'''と呼ばれる。 この不等式は {{math|''x''{{ind|1}} {{=}} ''x''{{ind|2}}}} のとき(自明な意味で)成り立つ。これを除けば、写像がリプシッツ連続であることの同値な別定義として、定数 {{math|''K'' ≥ 0}} が存在して、 : <math>\frac{d_Y(f(x_1),f(x_2))}{d_X(x_1,x_2)}\le K\quad (\forall x_1,x_2\in X)</math> を満たすこととすることもできる。実多変数の実数値函数に対して、これが成り立つのは、任意の割線の傾きの絶対値が {{mvar|K}} で抑えられるときであり、かつそのときに限る。函数のグラフ上の一点を通る傾き {{mvar|K}} の直線全体の成す集合は円錐を成すから、したがって函数がリプシッツ連続であるための必要十分条件は、その函数のグラフが至る所この錐のまったく外側にあることである。 写像 {{mvar|f}} が'''局所リプシッツ連続'''であるとは、任意の {{mvar|''x'' ∈ ''X''}} に対して {{mvar|x}} の[[近傍 (数学)|近傍]] {{mvar|U}} を適当に選べば {{mvar|f}} の {{mvar|U}} への[[制限 (数学)|制限]] がリプシッツ連続であるときに言う。あるいは同じことだが、{{mvar|X}} が[[局所コンパクト空間|局所コンパクト]]距離空間ならば、{{mvar|f}} が局所リプシッツであるための必要十分条件は {{mvar|X}} の任意の[[コンパクト空間|コンパクト部分集合]]上でリプシッツ連続となることである。局所コンパクトでないときには、これは必要だが十分でない。 より一般に、{{mvar|X}} 上で定義された関数 {{mvar|f}} が'''ヘルダー連続'''である、または {{mvar|X}} 上で次数 {{math|α > 0}} の'''[[ヘルダー条件]]'''を満足するとは、定数 {{mvar|''M'' > 0}} が存在して :<math>d_Y(f(x), f(y)) < M\, d_X(x, y)^{\alpha}\quad (\forall x,y\in X)</math> が成立するときにいう。次数 {{math|α > 0}} のヘルダー条件を次数 {{mvar|α}} の'''一様リプシッツ条件'''とも呼ぶ。 {{math|''K'' ≥ 1}} が存在して :<math>\frac{1}{K}\,d_X(x_1,x_2) \le d_Y(f(x_1), f(x_2)) \le K\,d_X(x_1, x_2)</math> が成り立つならば、{{mvar|f}} は'''双リプシッツ連続'''あるいは単に双リプシッツ (bilipshitz) であると言う。双リプシッツ連続写像は[[単射]]であり、また実はその[[像 (数学)|像]]の[[全射|上への]][[同相写像]]である。双リプシッツ連続であることは、その(像の上で定義される)[[逆写像]]もリプシッツであるような単射リプシッツ連続写像であることと同じである。全射な双リプシッツ連続写像は、ちょうど距離空間の間の[[同型写像]]になる。 == 例 == ; リプシッツ連続函数 :* 実数全体で定義された函数 {{math|''f''(''x'') {{=}} {{radic|''x''{{exp|2}} + 5}}}} はリプシッツ定数 {{math|''K'' {{=}} 1}} を持つリプシッツ函数である。実際これは至る所[[微分可能]]で、その一階導函数の絶対値は {{math|1}} で抑えられる(後述の[[#性質]]節最初の項目を参照)。 :* 同様に[[正弦函数]] {{math|sin(''x'')}} もリプシッツ連続である。これもその導函数(つまり余弦函数 {{math|cos(''x'')}} )が絶対値に関して {{math|1}} で抑えられることによる。 :* 実数全体で定義された函数 {{math|''f''(''x'') {{=}} {{abs|''x''}}}} はリプシッツ定数 {{math|1}} のリプシッツ連続函数である([[逆三角不等式|逆向きの三角不等式]]による)。これは微分可能でないリプシッツ連続函数の例である。より一般に、ベクトル空間上で定義された[[ノルム]]は、付随する距離函数に関するリプシッツ連続函数(リプシッツ定数 {{math|1}})である。 ; リプシッツ連続だが至る所微分可能とはならない例 :* {{math|''f''(''x'') {{=}} {{abs|''x''}}}}(上記参照) ; 連続だが(大域的)リプシッツ連続でない :* [[閉区間]] {{math|[0, 1]}} 上定義された函数 {{math|''f''(''x'') {{=}} {{radic|''x''}} }}はリプシッツ連続でない。この函数は {{mvar|''x'' → 0}} の極限で、導函数が無限大に発散するから、いくらでも傾きが急になる。にも拘らずこの函数は一様連続<ref>{{Citation | last1=Robbin | first1=Joel W. | title=Continuity and Uniform Continuity | url=http://www.math.wisc.edu/~robbin/521dir/cont.pdf |format=PDF}}</ref>であり、かつ {{math|α ≤ 1/2}} に対して {{math|''C''{{msup|0,α}}}}-級[[ヘルダー連続]]である。 ; 可微分だが(大域)リプシッツ連続でない :* 函数 {{math|''f''(''x'') {{=}} ''x''{{exp|3/2}}sin(1/''x'') (''x'' ≠ 0)}} かつ {{math|''f''(0) {{=}} 0}} を閉区間 {{math|[0, 1]}} へ制限したものは、コンパクト集合上微分可能だが局所リプシッツでない函数の例を与える。実際、その導函数は有界でない。 ; 解析的だが(大域)リプシッツでない :* [[指数函数]]は {{math|''x'' → ∞}} でいくらでも傾きがおおきくなるから、大域リプシッツ函数とはならないが、それにもかかわらず[[解析函数]]になる。 :* 実数全体で定義された函数 {{math|''f''(''x'') {{=}} ''x''{{exp|2}}}} はリプシッツでない({{math|''x'' → ∞}} でいくらでも傾きが大きくなる)。しかしこれは局所リプシッツである。 == 性質 == * 至る所微分可能な函数 {{math|''g'': '''R''' → '''R'''}} がリプシッツ連続(リプシッツ定数 {{math|''K'' {{=}} sup{{abs|''g{{'}}''(''x'')}}}} を持つ)であるための必要十分条件は、それが[[有界函数|有界]]な一階[[導函数]]を持つことである。一方の含意は[[平均値の定理]]から従う。特に、任意の連続的微分可能な函数は局所リプシッツである(連続函数は局所有界だから、その連続な導函数も局所有界である)。 * リプシッツ函数 {{math|''g'': '''R''' → '''R'''}} は[[絶対連続]]であり、したがって[[殆ど至る所]]微分可能(つまり[[ルベーグ測度]] {{math|0}} の集合の外側の任意の点で微分可能)である。その導函数は絶対値がリプシッツ定数を本質的上界として{{仮リンク|本質的有界|en|essentially bounded}}である。また、{{math|''a'' < ''b''}} に対して、差分 {{math|''g''(''b'') − ''g''(''a'')}} は導函数 {{math|''g{{'}}''}} の区間 {{math|{{bracket|''a'', ''b''}}}} 上の積分に等しい。 ** 逆に、{{math|''f'': ''I'' → '''R'''}} が絶対連続、従って殆ど至る所微分可能であるとし、{{math|{{abs|''f{{'}}''(''x'')}} ≤ ''K'' (a.a. ''x'' ∈ ''I'')}} を満たすならば、{{mvar|f}} はリプシッツ定数が高々 {{mvar|K}} のリプシッツ連続である。 ** より一般に[[ラーデマッハーの定理]]は、この結果をユークリッド空間の間のリプシッツ写像に対して拡張する。{{mvar|U}} を {{math|'''R'''{{msup|''n''}}}} の開集合として、リプシッツ写像 {{math|''f'': ''U'' → '''R'''{{msup|''m''}}}} が殆ど至る所微分可能とする。さらに {{mvar|K}} が {{mvar|f}} の最小のリプシッツ定数とすれば、[[全微分]] {{mvar|Df}} が存在する限り {{math|{{norm|''Df''}} ≤ ''K''}} が成立する。 * 可微分リプシッツ写像 {{math|''f'': ''U'' → '''R'''<sup>''m''</sup>}} に対し、不等式 {{math|{{norm|''Df''}}{{msub|∞,''U''}} ≤ ''K''}} が {{mvar|f}} の最小リプシッツ定数 {{mvar|K}} について成り立つ。さらに、{{mvar|U}} が凸ならば等号が成り立つ。 * 二つの距離空間の間のリプシッツ連続写像の[[列 (数学)|列]] {{math|(''f{{ind|n}}'')}} は、各 {{mvar|f{{msub|n}}}} が適当な定数 {{mvar|K}} で抑えられるリプシッツ定数を持つものとする。{{mvar|f{{msub|n}}}} が写像 {{mvar|f}} に[[一様収束]]するならば {{mvar|f}} もまた同じ定数 {{mvar|K}} で抑えられるリプシッツ定数を持つリプシッツ連続写像になる。特にここから、コンパクト距離空間上定義される実数値函数でリプシッツ定数が特定の値で抑えられるもの全体の成す集合が、連続函数全体の成す[[バナハ空間]]の閉凸部分集合となることが導かれる。しかし、「非有界」なリプシッツ定数を持つ函数列に対してはこの結果は成り立たない。実は、コンパクト距離空間上のリプシッツ函数全体の成す空間は連続函数全体の成すバナッハ空間において稠密である([[ストーン–ヴァイヤストラスの定理]]からの初等的な帰結)。 * 任意のリプシッツ連続写像は[[一様連続]]であり、したがって{{仮リンク|ア・フォルティオリ|en|a fortiori|label=より強い意味で}}[[連続写像|連続]]である。より一般に、有界なリプシッツ定数を持つ函数の集合は[[同程度連続]]な函数の集合を成す。{{math|(''f{{ind|n}}'')}} が有界なリプシッツ定数を持つ[[一様有界]]列ならば収束する部分列を持つことが[[アルツェラ–アスコリの定理]]から従う。前段落の結果から、この列の極限函数もまたリプシッツであり、そのリプシッツ定数は同じ定数を上界に持つ。特に、コンパクト距離空間 {{mvar|X}} 上で定義されたリプシッツ定数 {{math|≤ ''K''}} を持つ実数値リプシッツ函数全体の成す集合は、連続函数全体の成すバナハ空間 {{math|''C''(''X'')}} の[[局所コンパクト空間|局所コンパクト]]凸部分集合になる。 * 共通のリプシッツ定数を持つリプシッツ連続函数の[[族 (数学)|族]] {{math|''f''{{ind|α}}}} に対し、函数 {{math|{{underset|2=sup|1=α}} ''f''{{msub|α}}}} および {{math|{{underset|2=inf|α}} ''f''{{msub|α}}}} は、それが少なくとも一点において有限な値をとるならば、また同じリプシッツ定数を持つリプシッツ連続函数となる。 * {{mvar|U}} は距離空間 {{mvar|M}} の部分集合で、{{math|''f'': ''U'' → '''R'''}} はリプシッツ連続とするとき、{{mvar|f}} の延長となるリプシッツ連続写像 {{math|''M'' → '''R'''}} が必ず存在して、{{mvar|f}} と同じリプシッツ定数を持つ({{仮リンク|Kirszbraunの定理|en|Kirszbraun theorem}}も参照)。くだんの延長は、{{mvar|f}} の {{mvar|U}} 上でのリプシッツ定数を {{mvar|k}} として {{math|1=''{{tilde|f}}''(''x'') := {{underset|2=inf|''u''∈''U''}}{{mset|''f''(''u'') + ''kd''(''x'',''u'')}}}} で与えられる。 == リプシッツ多様体 == {{mvar|U, V}} は {{math|'''R'''<sup>''n''</sup>}} の二つの開集合とする。写像 {{math|''T'': ''U'' → ''V''}} が'''双リプシッツ''' (''bi-Lipschitz'') とは、それが像の上へのリプシッツ同相写像であり、かつその逆写像もまたリプシッツとなるときにいう。 双リプシッツ写像を用いると、双リプシッツ同相写像に関する{{仮リンク|擬群|en|pseudogroup}} (pseudogroup) 構造が存在するから、{{仮リンク|位相多様体|en|topological manifold|preserve=1}}の上に'''リプシッツ構造'''を定義することができる。この構造は{{仮リンク|PL多様体|en|piecewise-linear manifold}}と[[可微分多様体|滑らかな多様体]]の構造の中間である。実はPL構造は一意的なリプシッツ構造を生じる<ref>{{SpringerEOM|title=Topology of manifolds|urlname=Topology_of_manifolds}}</ref>から、その意味でリプシッツ構造は可微分構造のほうに「近い」。 == 片側リプシッツ連続 == {{math|''F''(''x'')}} は変数 {{mvar|x}} に関する[[半連続|上半連続写像]]で、{{math|{''F''(''x'')} }}は閉凸集合とする。このとき、適当な定数 {{mvar|C}} に対して :<math>(x_1-x_2)^T(F(x_1)-F(x_2))\leq C\Vert x_1-x_2\Vert^2\quad (\forall x_1,x_2)</math> を満たすならば、{{mvar|F}} は片側リプシッツ (one-sided Lipschitz)<ref>{{cite journal |last=Donchev |first=Tzanko |last2=Farkhi |first2=Elza |year=1998 |title=Stability and Euler Approximation of One-sided Lipschitz Differential Inclusions |journal=SIAM Journal on Control and Optimization |volume=36 |issue=2 |pages=780–796 |doi=10.1137/S0363012995293694 }}</ref> である。 このような写像 {{mvar|F}} が、非常に大きなリプシッツ定数 {{mvar|K}} を持つが片側リプシッツ定数 {{mvar|C}} は穏当な大きさあるいは負にさえなる、というようなことも起こり得る。そのような函数の例として : <math>F\colon \mathbf{R}^2\to\mathbf{R};\; F(x,y)=-50(y-\cos(x))</math> はリプシッツ定数 {{math|''K'' {{=}} 50}} および片側リプシッツ定数 {{math|''C'' {{=}} 0}} を持つ。片側リプシッツだがリプシッツでないような例は {{math|''F''(''x'') {{=}} ''e''{{exp|−''x''}}}} ({{math|''C'' {{=}} 0)}} で与えられる。 == 関連項目 == * {{仮リンク|ディニ連続性|en|Dini continuity}} * {{仮リンク|連続度|en|Modulus of continuity}} == 参考文献 == {{reflist}} {{DEFAULTSORT:りふりつつれんそく}} [[Category:リプシッツ写像|*]] [[Category:多様体上の構造]] [[Category:数学に関する記事]] [[Category:数学のエポニム]]
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