レーザー媒質のソースを表示

{{翻訳直後|1=[https://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Active_laser_medium&oldid=744071241 英語版 "Active laser medium" 23:19, 12 October 2016 (UTC)]|date=2016年10月}}
'''レーザー媒質''' (レーザーばいしつ {{lang-en-short|laser medium, lasing medium}}、'''活性媒質''' {{lang|en|active medium}}、'''利得媒質''' {{lang|en|gain medium}} とも）とは、[[レーザー]]の発振において、[[吸光]]を上回る速度で[[誘導放出]]を起こすことにより、光を増幅する物質を指す。

== 概要 ==
レーザーを発振させるためには、レーザー媒質の電子が、[[反転分布]]と呼ばれるエネルギー分布になっている必要がある。反転分布の状態になるためには、レーザー媒質が外部からエネルギーの供給（{{仮リンク|レーザーポンピング|en|Laser pumping}}）を受ける必要がある。ポンピングには、電流（例: [[半導体レーザー]]や、[[気体レーザー]]における[[放電|高圧放電]]）や光（[[放電灯]]や別のレーザー光源（半導体レーザー）によるもの）を用いる。より馴染みのないものとしては、高エネルギー電子線（[[自由電子レーザー]]）<ref>[[#Encyclopedia of Laser Physics and Technology]]</ref>などもポンピングに用いられる。

== 例 ==
レーザー媒質の例としては次のようなものが挙げられる。

* [[気体]]：[[ヘリウム]]・[[ネオン]]混合気 (HeNe)、[[窒素]]、[[アルゴン]]、[[一酸化炭素]]、[[二酸化炭素]] 、金属蒸気{{Sfn|Hecht|1992|p=|loc=Chapter 7&ndash;15}}。

*[[結晶]]：典型的には[[希土類元素|希土類]][[イオン (化学)|イオン]]（例: [[ネオジム]]、[[イッテルビウム]]、[[エルビウム]]）もしくは[[遷移元素|遷移金属]]イオンを含む。最もよく使われるのは[[イットリウム・アルミニウム・ガーネット]] ({{Chem|[[イットリウム|Y]]|3|[[アルミニウム|Al]]|5|[[酸素|O]]|12}})、{{仮リンク|オルトバナジン酸イットリウム|en|Yttrium orthovanadate}} ({{Chem|Y[[バナジウム|V]]O|4}})、 [[サファイア]] ({{Chem|Al|2|O|3}}){{Sfn|Hecht|1992|loc=Chapter 22}} 、{{仮リンク|臭化セシウムカドミウム|en|Caesium cadmium bromide}} ({{Chem|[[セシウム|Cs]][[カドミウム|Cd]][[臭素|Br]]|3}}) である。
*[[半導体]]：[[ヒ化ガリウム|ガリウム砒素]] ({{Chem|[[ガリウム|Ga]]|[[ヒ素|As]]}})、[[ヒ化インジウムガリウム|インジウムガリウム砒素]] ({{Chem|[[インジウム|In]]GaAs}})、[[窒化ガリウム]] ({{Chem|Ga[[窒素|N]]}}){{Sfn|Hecht|1992|p=|loc=Chapter 18&ndash;21}}。
* 液体：[[色素レーザー]]において色素の溶液が用いられる{{sfn|Duarte|Hillman|1990}}。
*[[ガラス]]：レーザー活性イオンをドープしたケイ酸ガラスおよびリン酸ガラス{{Sfn|Hecht|1992|loc=Chapter 22}}。

== レーザー媒質のモデルの例 ==
[[ファイル:LaserLevels1.png|右|サムネイル|303x303ピクセル|図1: 簡略化したレーザー媒質のエネルギー準位図。]]
全ての種類のレーザーについてあてはまる普遍的なモデルは存在しない{{sfn|Siegman|1986}}。もっとも単純なモデルとしては、高エネルギー準位群と低エネルギー準位群の二つからなる系が挙げられる。この二つの準位群の内部では、準位間の高速な遷移により速やかな熱的平衡の達成が保証されているため、準位群内では励起は[[ボルツマン分布|マクスウェル・ボルツマン統計]]に従う（図1）。高エネルギー準位群は[[準安定状態|準安定]]であると仮定し、かつ利得と[[屈折率]]は特定の励起の仕方によらないものとする。

レーザー媒質が性能を発揮するためには、準位群間の隔たりが動作温度よりも大きく、ポンプ周波数 {{Math|''&omega;''<sub>p</sub>}} では吸収が支配的でなくてはならない。

光信号の[[増幅回路|増幅]]が起こる場合には、レーザー周波数が「信号周波数」と呼ばれる。しかし、同じ用語がレーザー[[振動|発振器]]について、増幅された光が情報ではなくエネルギーを輸送するような場合でも用いられる。下に記述するモデルはほとんどの[[光ポンピング]][[固体レーザー]]についてあてはまる。

=== 断面積 ===
単純な媒質は、周波数 {{Math|''&omega;''<sub>p</sub>}} における[[吸光]]と周波数 {{Math|''&omega;''<sub>s</sub>}} における[[放出スペクトル|発光]]の[[反応断面積|実効断面積]]によって特徴づけられる。
* {{Mvar|N}} を固体レーザーの活性中心の濃度とする。
* {{Math|''N''<sub>1</sub>}} を基底状態にある活性中心の濃度とする。
* {{Math|''N''<sub>2</sub>}} を励起状態にある活性中心の濃度とする。
* {{Math|1=''N''<sub>1</sub> + ''N''<sub>2</sub> = ''N''}} とする。
また、相対的濃度を次のように定義する。

<math>~n_1=N_1/N~</math>, <math>~n_2=N_2/N~</math>

活性中心の基底状態から励起状態への遷移速度は次のように書ける。
:<math>~ W_{\rm u}=
\frac{I_{\rm p}\sigma_{\rm ap}}{ \hbar \omega_{\rm p} }+\frac{I_{\rm s}\sigma_{\rm as}}{ \hbar \omega_{\rm s} } ~</math>
また、基底状態にもどる遷移速度は次のように書ける。
:<math>~W_{\rm d}=\frac{ I_{\rm p} \sigma_{\rm ep}}{ \hbar \omega_{\rm p} }+\frac{I_{\rm s}\sigma_{\rm es}}{ \hbar \omega_{\rm s} } +\frac{1}{\tau}~</math>
ここで、 {{Math|''&sigma;''<sub>as</sub>}} および {{Math|''&sigma;''<sub>ap</sub>}} はそれぞれ信号光とポンプ光の周波数における、実効{{仮リンク|吸光断面積|en|Absorption cross section}}、{{Math|''&sigma;''<sub>es</sub>}} および {{Math|''&sigma;''<sub>ep</sub>}} は、誘導放射の実効断面積、{{Math|''&tau;''{{sup|&minus;1}}}} は高エネルギー準位の自発放射速度である。

すると、相対濃度の速度論方程式は次のように書ける。
: <math>\frac
{{\rm d}n_2}
{{\rm d}t}
=
W_{\rm u} n_1 -
W_{\rm d} n_2
</math>, <math>
\frac{{\rm d}n_1}{{\rm d}t}=-W_{\rm u} n_1 + W_{\rm d} n_2
</math>
これらの方程式は {{Math|1=''n''<sub>1</sub> + ''n''<sub>2</sub> = 1}} を保つ。

ポンプ光周波数における吸光 {{Mvar|A}} と信号光周波数における利得 {{Mvar|G}} はそれぞれ次のように書ける。
:<math>A = N_1\sigma_{\rm pa} -N_2\sigma_{\rm pe}</math>, <math>G = N_2\sigma_{\rm se} -N_1\sigma_{\rm sa} ~</math>
=== 定常状態解 ===
多くの場合、レーザー媒質は連続波もしくは{{仮リンク|label=準連続|準連続関数|en|Quasi-continuous function}}波形式で動作するので、濃度の時間[[微分]]は無視することができる。
:<math>~
W_{\rm u} n_1 -
W_{\rm d} n_2 = 0
~</math>,<math>~ 
-W_{\rm u} n_1 + W_{\rm d} n_2 = 0
~</math>
したがって、定常状態解は次のように書ける。
:<math>~ n_2=\frac{W_{\rm u}}{W_{\rm u}+W_{\rm d}} ~</math>, <math>~ n_1=\frac{W_{\rm d}}{W_{\rm u}+W_{\rm d}}</math>
動的飽和強度は次のように定義する。
:<math>~ I_{\rm po}=\frac{\hbar \omega_{\rm p}}{(\sigma_{\rm ap}+\sigma_{\rm ep})\tau} ~</math>, <math>~ I_{\rm so}=\frac{\hbar \omega_{\rm s}}{(\sigma_{\rm as}+\sigma_{\rm es})\tau} ~</math>
強い信号におけるの吸光は次のようになる。
:<math>~ A_0=\frac{ND}{\sigma_{\rm as}+\sigma_{\rm es}}~</math>
強い信号における利得は次のようになる。
:<math>~ G_0=\frac{ND}{\sigma_{\rm ap}+\sigma_{\rm ep}}~</math>
ここで、 <math>~ D=
\sigma_{\rm pa}
\sigma_{\rm se}
-
\sigma_{\rm pe}
\sigma_{\rm sa}
~</math> は断面積の行列式である。

利得が <math>~G_0~</math>を超えることはなく、吸光が <math>~A_0  U~</math>を超えることもない。

ポンプ光と信号光の強度を {{Math|''I''<sub>p</sub>, ''I''<sub>s</sub>}} とすると、利得と吸光は次のように書ける。
:<math>~A=A_0\frac{U+s}{1+p+s}~</math>,<math>~G=G_0\frac{p-V}{1+p+s}~</math>
ここで、 {{Math|1=''p'' = ''I''<sub>p</sub>/''I''<sub>po</sub>}}, {{Math|1=''s'' = ''I''<sub>s</sub>/''I''<sub>so</sub>}},
:<math>~U=\frac{(\sigma_{\rm as}+\sigma_{\rm es})\sigma_{\rm ap}}{D}~</math>, <math>~V=\frac{(\sigma_{\rm ap}+\sigma_{\rm ep})\sigma_{\rm as}}{D}~</math>
とする。

=== 恒等式 ===
次の恒等式{{sfn|Kouznetsov|2005}}が成りたつ。
:<math>U-V=1 ~ </math>, <math>~ A/A_0 +G/G_0=1 </math>
レーザー媒質の状態は、高エネルギー準位の割合、利得、吸光のどれか一つのパラメータで特徴づけることができる。

=== レーザー媒質の効率 ===
レーザー媒質の効率は次のように定義できる。
:<math>~ E =\frac{I_{\rm s} G}{I_{\rm p}A}~</math>
このモデルの中では、 効率は次のように書くこともできる。
:<math>~E =\frac{\omega_{\rm s}}{\omega_{\rm p}} \frac{1-V/p}{1+U/s}~</math>
効率的な運用のためには、ポンプ光と信号光が飽和強度を超える必要がある。
:<math>~\frac{p}{V}\gg 1~</math>, <math>~\frac{s}{U}\gg 1~</math>
上述の推定は媒質が均一な信号光とポンプ光により満たされている場合に有効である。ある領域ではポンプ光が強いものの信号光への変換が対向する光との干渉の節のために効率良く行えないために起こる現象、[[空間的ホールバーニング]]により効率が下がることもある。

== 関連項目 ==
* [[反転分布]]
* [[レーザー科学]]

== 参考文献 ==
* {{Cite book|ref=harv|last=Hecht|first=Jeff|title=The Laser Guidebook|edition=Second|year=1992|publisher=McGraw-Hill}}
* {{Cite book|ref=harv|editor-last=Duarte|editor-first=F. J.|title=Dye Laser Principles|year=1990|publisher=Academic|location=New York|editor2-last=Hillman|editor2-first=L. W.}}
* {{Cite book|ref=harv|editor-last=Schäfer|editor-first=F. P.|title=Dye Lasers|edition=2nd|year=1990|publisher=Springer-Verlag|location=Berlin}}
* {{Cite book|ref=harv|last=Siegman|first=A. E.|title=Lasers|url=http://www.uscibooks.com/siegman.htm|year=1986|publisher=University Science Books|ISBN=0-935702-11-3}}

=== 論文 ===
* {{Cite journal|last=Kouznetsov|first=D|year=2005|title=Single-mode solid-state laser with short wide unstable cavity|url=http://josab.osa.org/abstract.cfm?id=84730|journal=[[:en:Journal of the Optical Society of America|Journal of the Optical Society of America]]|volume=22|issue=8|page=|pages=1605–1619|bibcode=2005JOSAB..22.1605K|doi=10.1364/JOSAB.22.001605}}

== 出典 ==
{{reflist|colwidth=25em}}

== 外部リンク ==
* {{Cite web|url=http://www.rp-photonics.com/gain_media.html|title=Gain media|accessdate=2016-10-26|publisher=Encyclopedia of Laser Physics and Technology|ref=Encyclopedia of Laser Physics and Technology}}
* {{Cite web|url=http://www.ilt.fraunhofer.de/en/studies/laser-tutorial/active-medium.html|title=Active Medium|accessdate=2016-10-26|publisher=Fraunhofer Institute for Laser Technology ILT}}
* [http://www.femto.com.ua/articles/part_1/1892.html] Physics Encyclopedia online [in Russian]

{{レーザー}}

{{デフォルトソート:れさはいしつ}}
[[Category:レーザー|はいしつ]]