ロトカ・ヴォルテラの競争方程式のソースを表示

{{Otheruses|[[競争 (生物)|競争関係]]のロトカ・ヴォルテラの方程式|[[捕食-被食関係]]|ロトカ・ヴォルテラの方程式|[[KEYTALK]]の楽曲、シングル|ロトカ・ヴォルテラ}}
'''ロトカ・ヴォルテラの競争方程式'''（ロトカ・ヴォルテラのきょうそうほうていしき）は、[[競争 (生物)|競争関係]]にある生物の個体数の変動を表す[[数理モデル]]の一種である{{Sfn|寺本|1997|pp=76&ndash;77}}。2つの種AとBが食料や生息場所などを巡って競争するとき、種Aの存在は、種Bの繁殖を阻害する。種Aにとっても、種Bの存在は繁殖を邪魔する。このような、お互いの存在がそれぞれの個体数増殖に相互にマイナスの影響を与える点を含め、2種の個体数の時間変化を表したモデルがロトカ・ヴォルテラの競争方程式である。

名称は[[アルフレッド・ロトカ]]と[[ヴィト・ヴォルテラ]]に由来する{{Sfn|巌佐|2015|p=31}}。競争方程式以外に'''競争式'''や'''競争系'''、'''競争モデル'''、単に'''ロトカ・ヴォルテラ方程式'''などとも呼ばれる{{Sfn|日本生態学会（編）|2004|p=133}}{{Sfn|巌佐|1990|p=13}}{{Sfn|寺本|1997|p=77}}<ref>{{Cite web |author=浅川伸一 |url=http://www.cis.twcu.ac.jp/~asakawa/MathBio2010/lesson03/ |title=ロトカ・ヴォルテラ方程式 |accessdate=2016-08-10}}</ref>。英語では Lotka-Volterra competition model や Lotka-Volterra equations などと呼ばれる{{Sfn|寺本|1997|p=77}}{{Sfn|Silvertown|1992|p=175}}。

==導出==
モデルを導出する過程には様々なものがあるが、典型的にはロトカ・ヴォルテラの競争方程式は[[ロジスティック方程式]]の拡張として導入できる{{Sfn|ハーバーマン|1992|p=130}}。簡単な状況から始めるために、2種ではなく、他の種と[[生物間相互作用]]を持たない1種のみが環境内に存在する場合を考える。種が1つであっても、各個体は限られた資源（食料や生息場所）を競い合う。そのため、個体数が増えるほど個体数増加は落ち着いていき、ある程度の個体数で飽和すると考えられる。それを簡潔に表したのがロジスティック方程式で
:<math>\frac{dN}{dt} = r N \left({1-\frac{N}{K}}\right)</math>
という[[常微分方程式]]で表される{{Sfn|巌佐|2015|p=19}}。ここで、''t'' は[[時間]]、''N'' は個体数、{{Sfrac|''dN''|''dt''}} は ''N'' の時間微分で個体数増加率を示す。''r'' は[[内的自然増加率]]と呼ばれる、''K'' は[[環境収容力]]と呼ばれる正の[[定数]]である。右辺の (1 &minus; {{Sfrac|''N''|''K''}}) が個体数が増えるほど個体数増加率を抑える効果を与えている{{Sfn|ハーバーマン|1992|p=35}}。

ここにもう一種が加わり、元からいた種と限られた資源を巡って競争する状況が考えられる。それぞれの種を「種1」「種2」と呼ぶとする。種1の存在は、種2の繁殖を阻害する。種1にとっても、種2の存在は繁殖を邪魔する。このように、[[競争 (生物)|競争関係]]にある2つの種が存在するとき、お互いの存在がそれぞれの個体数増殖に相互にマイナスの影響を与える{{Sfn|マレー|2014|p=65}}。この点を含め、2種の個体数の時間変化を表したモデルがロトカ・ヴォルテラの競争方程式である。

ロジスティック方程式では、自らの個体数増加による個体数増加率への抑制効果を (1 &minus; {{Sfrac|''N''|''K''}}) で表していた。同じように、他方の種の個体数が多いほど、一方の種の個体数増加率は抑制されると考えられる。そのため2種の場合は、種1に対する抑制の効果を (1 &minus; {{Sfrac|''N''<sub>1</sub> + ''&alpha;''<sub>12</sub> ''N''<sub>2</sub>|''K''<sub>1</sub>}}) で表すことが考えられる{{Sfn|大串|1994|pp=65&ndash;66}}。ここで、''N''<sub>1</sub>, ''N''<sub>2</sub> は種1と2のそれぞれの個体数である。''&alpha;''<sub>12</sub> が種2の個体数が種1の個体数増加率に与える影響の大きさを与える正の定数である{{Sfn|北原（編）|2003|p=249}}。このようなモデリングによって、種1と種2についてのロトカ・ヴォルテラの競争方程式は、以下のような2変数の連立常微分方程式で表される{{Sfn|日本生態学会（編）|2004|pp=134&ndash;135}}。

:<math>\begin{align}
\frac{dN_1}{dt} &= r_1 N_1 \left({1-\frac{N_1+\alpha_{12} N_2}{K_1}}\right),\\
\frac{d N_2}{dt} &= r_2 N_2 \left({1-\frac{N_2+\alpha_{21} N_1}{K_2}}\right).
\end{align}</math>
ここで、''r''<sub>1</sub>, ''r''<sub>2</sub> は種1と種2のそれぞれの内的自然増加率、''K''<sub>1</sub>, ''K''<sub>2</sub> は種1と2それぞれの環境収容力である。''&alpha;''<sub>12</sub> が種2の個体数が種1の個体数増加率に与える影響の大きさを、''&alpha;''<sub>21</sub> が種1の個体数が種2の個体数増加率に与える影響の大きさを表している。''&alpha;''<sub>12</sub> と ''&alpha;''<sub>21</sub> は'''競争係数'''と呼ばれる{{Sfn|大串|1994|p=65}}{{Sfn|日本生態学会（編）|2004|p=134}}。

同じモデルは
:<math>\begin{align}
\frac{d N_1}{dt} &= N_1 (r_1 - \beta_1 N_1 - \gamma_{12} N_2),\\
\frac{d N_2}{dt} &= N_2 (r_2 - \beta_2 N_2 - \gamma_{21} N_1)
\end{align}</math>
という形式でも表され、使われる{{Sfn|重定|1993|p=7}}{{Sfn|ハーバーマン|1992|p=130}}。''&beta;''<sub>1</sub>, ''&beta;''<sub>2</sub> は'''種内競争係数'''と呼ばれ、''&gamma;''<sub>1</sub>, ''&gamma;''<sub>2</sub> は'''種間競争係数'''あるいは単に'''競争係数'''と呼ばれる{{Sfn|日本数理生物学会（編）|2008|p=17}}。上のモデルの係数との関係は ''K''<sub>1</sub> = {{Sfrac|''r''<sub>1</sub>|''&beta;''<sub>1</sub>}}, ''K''<sub>2</sub> = {{Sfrac|''r''<sub>2</sub>|''&beta;''<sub>2</sub>}}, ''&alpha;''<sub>12</sub> = {{Sfrac|''&gamma;''<sub>12</sub>|''&beta;''<sub>1</sub>}} , ''&alpha;''<sub>21</sub> = {{Sfrac|''&gamma;''<sub>21</sub>|''&beta;''<sub>2</sub>}} となっている{{Sfn|寺本|1997|pp=76&ndash;77}}。よって、''&alpha;'' の値は種間競争の強さと種内競争の強さの相対値ともいえる{{Sfn|巌佐|2015|p=35}}。

==解の振る舞い==
===アイソクライン===
{{see also|ロトカ・ヴォルテラの方程式#アイソクライン法による概略}}
ロトカ・ヴォルテラの競争方程式の陽な解は求まっていない{{Sfn|重定|1993|p=7}}。アイソクライン法によって解の大域的な振る舞いを知ることができる{{Sfn|北原（編）|2003|p=249}}。''N''<sub>1</sub>-''N''<sub>2</sub>平面上のアイソクラインは
:<math>0 = r_1 N_1 \left({1-\frac{N_1+\alpha_{12} N_2}{K_1}}\right)</math>
または
:<math>0 = r_2 N_2 \left({1-\frac{N_2+\alpha_{21} N_1}{K_2}}\right)</math>
を満たす曲線である。この条件を満たす曲線は
:直線1：<math> N_1 = 0 </math>
:直線2：<math> N_2 = 0</math>
:直線3：<math> K_1-N_1-\alpha_{12} N_2= 0</math>
:直線4：<math> K_2-N_2-\alpha_{21} N_1 = 0</math>
という4つの直線である{{Sfn|北原（編）|2003|pp=249&ndash;250}}。1番目は ''N''<sub>2</sub> 軸と一致する直線である。2番目は ''N''<sub>1</sub> 軸と一致する直線である。3番目は''N''<sub>1</sub>[[切片 (数学)|切片]]が ''K''<sub>1</sub>、''N''<sub>2</sub>切片が {{Sfrac|''K''<sub>1</sub>|''&alpha;''<sub>12</sub>}} の直線である。4番目は''N''<sub>1</sub>[[切片 (数学)|切片]]が {{Sfrac|''K''<sub>2</sub>|''&alpha;''<sub>21</sub>}}、''N''<sub>2</sub>切片が ''K''<sub>2</sub> の直線である。これらの直線を境界にして、それぞれの個体数増加率の正負が切り替わる。現実の生物個体数は正の値であるから、特に関係するのは3番目と4番目の直線である。3番目の直線上では、{{Sfrac|''dN''<sub>1</sub>|''dt''}} = 0 であるから、この直線を通る解は平面上を上下方向（''N''<sub>2</sub>軸方向）にだけ動く。そのため、このアイソクライン直線を'''傾き無限大のアイソクライン'''と呼ぶ{{Sfn|巌佐|2005|p=33}}。一方、4番目の直線上では、{{Sfrac|''dN''<sub>2</sub>|''dt''}} = 0 であるから、この直線を通る解は平面上を左右方向（''N''<sub>1</sub>軸方向）にだけ動く。そのため、このアイソクライン直線を'''傾き0のアイソクライン'''と呼ぶ{{Sfn|巌佐|2005|p=33}}。

===定性的な挙動===
{{multiple image
 | align     = center
 | direction = horizontal
 | width     = 220
 | image1    = Lotka-Volterra competition model, isocline 1.svg
 | caption1  = 1) 直線3（''K''<sub>1</sub> &minus; ''N''<sub>1</sub> &minus; ''&alpha;''<sub>12</sub> ''N''<sub>2</sub> = 0）と、このアイソクラインから分かる個体数変化の方向
 | image2    = Lotka-Volterra competition model, isocline 2.svg
 | caption2  = 2) 直線4（''K''<sub>2</sub> &minus; ''N''<sub>2</sub> &minus; ''&alpha;''<sub>21</sub> ''N''<sub>1</sub> = 0）と、このアイソクラインから分かる個体数変化の方向
}}
アイソクラインを使って、解（時間が経過したときのそれぞれの個体数の変化）の定性的な挙動を知ることができる。すなわち、''N''<sub>1</sub>-''N''<sub>2</sub>相平面上の点（各個体数）がアイソクライン直線の内側、外側、あるいは直線上にあるかどうかに注目すれば、個体数増加率の値そのものは不明でも、個体数増加率の正負は知ることができる{{Sfn|日本生態学会（編）|2004|pp=134&ndash;135}}。直線3の場合は
*直線内側（''K''<sub>1</sub> &minus; ''N''<sub>1</sub> &minus; ''&alpha;''<sub>12</sub>''N''<sub>2</sub> > 0）のとき： {{Sfrac|''dN''<sub>1</sub>|''dt''}} > 0
*直線外側（''K''<sub>1</sub> &minus; ''N''<sub>1</sub> &minus; ''&alpha;''<sub>12</sub>''N''<sub>2</sub> < 0）のとき： {{Sfrac|''dN''<sub>1</sub>|''dt''}} < 0
*直線上（''K''<sub>1</sub> &minus; ''N''<sub>1</sub> &minus; ''&alpha;''<sub>12</sub> ''N''<sub>2</sub> = 0）のとき：{{Sfrac|''dN''<sub>1</sub>|''dt''}} = 0 
なので、内側では ''N''<sub>1</sub> は増加する方向、外側では ''N''<sub>1</sub> は減少する方向、直線上では ''N''<sub>1</sub> は増減しないことがわかる（上図）。直線4の場合も同様に、内側では ''N''<sub>2</sub> は増加する方向、外側では ''N''<sub>2</sub> は減少する方向、直線上では ''N''<sub>2</sub> は増減しないことがわかる{{Sfn|日本生態学会（編）|2004|pp=134&ndash;135}}{{Sfn|巌佐|1990|p=14}}。

直線3と直線4を重ね合わせることで、各個体数が変化する方向が判明する。''N''<sub>1</sub>-''N''<sub>2</sub>相平面上で直線3と直線4の相対的な位置関係は、係数の値によって次のように4種類ある{{Sfn|重定|1993|p=8}}。
:(1)　''K''<sub>2</sub> < {{Sfrac|''K''<sub>1</sub>|''&alpha;''<sub>12</sub>}} かつ ''K''<sub>1</sub> > {{Sfrac|''K''<sub>2</sub>|''&alpha;''<sub>21</sub>}} のとき
:(2)　''K''<sub>2</sub> > {{Sfrac|''K''<sub>1</sub>|''&alpha;''<sub>12</sub>}} かつ ''K''<sub>1</sub> < {{Sfrac|''K''<sub>2</sub>|''&alpha;''<sub>21</sub>}} のとき
:(3)　''K''<sub>2</sub> > {{Sfrac|''K''<sub>1</sub>|''&alpha;''<sub>12</sub>}} かつ ''K''<sub>1</sub> > {{Sfrac|''K''<sub>2</sub>|''&alpha;''<sub>21</sub>}} のとき
:(4)　''K''<sub>2</sub> < {{Sfrac|''K''<sub>1</sub>|''&alpha;''<sub>12</sub>}} かつ ''K''<sub>1</sub> < {{Sfrac|''K''<sub>2</sub>|''&alpha;''<sub>21</sub>}} のとき
したがって、それぞれの場合ごとに解の大局的な挙動が異なり、下図のようになる{{Sfn|寺本|1997|p=78}}{{Sfn|大串|1994|p=67}}。

{| class="wikitable"  style="margin:0 auto"
|+アイソクライン直線の4つの組み合わせとそれぞれの場合における個体数 ''N''<sub>1</sub>, ''N''<sub>2</sub> が変化する方向
|-
| [[ファイル:Lotka-Volterra competition model, possible outcome 1.svg|220px]]
| [[ファイル:Lotka-Volterra competition model, possible outcome 2.svg|220px]]
|-
| style="text-align:center" |(1)のとき
| style="text-align:center" |(2)のとき
|-
| [[ファイル:Lotka-Volterra competition model, possible outcome 3.svg|220px]]
|[[ファイル:Lotka-Volterra competition model, possible outcome 4.svg|220px]]
|-
| style="text-align:center" |(3)のとき
| style="text-align:center" |(4)のとき
|}

===平衡点と最終結果===
解の[[平衡点]]は {{Sfrac|''dN''<sub>1</sub>|''dt''}} = 0 かつ {{Sfrac|''dN''<sub>2</sub>|''dt''}} = 0 を満たす点である{{Sfn|マレー|2014|p=79}}。それらは、
:平衡点1：<math>(0,\ 0)</math>
:平衡点2：<math>(K_1,\ 0)</math>
:平衡点3：<math>(0,\ K_2)</math>
:平衡点4：<math>\left(\frac{K_1-\alpha_{12} K_2}{1-\alpha_{12}\alpha_{21}},\ \frac{K_2-\alpha_{21} K_1}{1-\alpha_{12}\alpha_{21}} \right)</math>
という4点である{{Sfn|巌佐|1990|p=15}}。これらの平衡点の安定性は、競争係数と環境収容力の値によって次のように決まる{{Sfn|寺本|1997|pp=78&ndash;80}}。
:(1)　''K''<sub>2</sub> < {{Sfrac|''K''<sub>1</sub>|''&alpha;''<sub>12</sub>}} かつ ''K''<sub>1</sub> > {{Sfrac|''K''<sub>2</sub>|''&alpha;''<sub>21</sub>}} のとき：平衡点4は第1象限に存在せず、平衡点1, 3は不安定、平衡点2が大域的に安定
:(2)　''K''<sub>2</sub> > {{Sfrac|''K''<sub>1</sub>|''&alpha;''<sub>12</sub>}} かつ ''K''<sub>1</sub> < {{Sfrac|''K''<sub>2</sub>|''&alpha;''<sub>21</sub>}} のとき：平衡点4は第1象限に存在せず、平衡点1, 2は不安定、平衡点3が大域的に安定
:(3)　''K''<sub>2</sub> > {{Sfrac|''K''<sub>1</sub>|''&alpha;''<sub>12</sub>}} かつ ''K''<sub>1</sub> > {{Sfrac|''K''<sub>2</sub>|''&alpha;''<sub>21</sub>}} のとき：平衡点1, 4は不安定、平衡点2, 3が局所的に安定
:(4)　''K''<sub>2</sub> < {{Sfrac|''K''<sub>1</sub>|''&alpha;''<sub>12</sub>}} かつ ''K''<sub>1</sub> < {{Sfrac|''K''<sub>2</sub>|''&alpha;''<sub>21</sub>}} のとき：平衡点1, 2, 3は不安定、平衡点4が大域的に安定

これらの結果を具体的に言い換えると、十分な時間経過後、それぞれの個体数は次のような結果になるといえる。
:(1)　種2は絶滅して種1が残る。種1の個体数は ''K''<sub>1</sub> の値に収束する。
:(2)　種1は絶滅して種2が残る。種2の個体数は ''K''<sub>2</sub> の値に収束する。
:(3)　種2は絶滅して種1が残るか、種1は絶滅して種2が残るか、初期の個体数によってどちらかの結果となる。個体数は ''K''<sub>1</sub> または ''K''<sub>2</sub> の値に収束する。
:(4)　種1と種2が共存して残る。それぞれの個体数は {{Sfrac|''K''<sub>1</sub> &minus; ''&alpha;''<sub>12</sub> ''K''<sub>2</sub>|1 &minus; ''&alpha;''<sub>12</sub>''&alpha;''<sub>21</sub>}} と {{Sfrac|''K''<sub>2</sub> &minus; ''&alpha;''<sub>21</sub> ''K''<sub>1</sub>|1 &minus; ''&alpha;''<sub>12</sub>''&alpha;''<sub>21</sub>}} の値に収束する。

{| class="wikitable"  style="margin:0 auto"
|+4つの場合における解曲線の例
|-
| [[ファイル:Lotka-Volterra competition model, flow 1.png|240px]]
| [[ファイル:Lotka-Volterra competition model, flow 2.png|240px]]
|-
| style="text-align:center" |(1)のとき 
| style="text-align:center" |(2)のとき
|-
| [[ファイル:Lotka-Volterra competition model, flow 3.png|240px]]
|[[ファイル:Lotka-Volterra competition model, flow 4.png|240px]]
|-
| style="text-align:center" |(3)のとき
| style="text-align:center" |(4)のとき
|}
==競争排除則==
{{main|競争排除則}}
モデルから得られた結果は、(1), (2), (3) のケースでは片方の種はもう一方の種によって排除されるということであった{{Sfn|マレー|2014|p=82}}。この結果は多くの場合に共存は不可能ということを示唆している{{Sfn|寺本|1997|p=80}}。ロシアの生態学者[[ゲオルギー・ガウゼ]]は、ロトカ・ヴォルテラの競争方程式が示す種間の排他性の存在を[[ゾウリムシ]]や[[イースト菌]]を用いた実験で確認した{{Sfn|寺本|1997|p=81}}。この結果をもとにガウゼは、同じ[[ニッチ]]にある複数の種は平衡状態で長期的に共存できないという原則を提唱し、今日では[[競争排除則]]と呼ばれる{{Sfn|日本生態学会（編）|2004|pp=132&ndash;133}}{{Sfn|寺本|1997|p=81}}。

==名称==
名称については、競争方程式以外に、'''競争式'''や'''競争系'''、'''競争モデル'''などとも呼ばれる{{Sfn|日本生態学会（編）|2004|p=133}}{{Sfn|巌佐|1990|p=13}}{{Sfn|寺本|1997|p=77}}。表記揺れとしてヴォルテラではなく'''ボルテラ'''とも記される{{Sfn|巌佐|1990|p=13}}。他にロトカとヴォルテラの名を冠した生物の個体数のモデルとして、[[ロトカ・ヴォルテラの方程式]]がある。こちらは競争関係ではなく捕食・被食関係にある2種の個体数変動を表すモデルである。ただし、本記事で説明してきた競争関係を表すモデル（方程式）についても単に「ロトカ・ヴォルテラの方程式」と呼ぶことも多い<ref name="Kingsland"/>。

ロトカ・ヴォルテラの競争方程式はアメリカの数学者[[アルフレッド・ロトカ]]とイタリアの数学者[[ヴィト・ヴォルテラ]]に由来する。方程式の初出として、ロトカの1925年の著作、ヴォルテラの1926年あるいは1931年の論文・著作がしばし引用される{{Sfn|大串|1994|pp=65, 96, 98}}<ref>{{cite journal |last=Gause |first=G. F. |year=1932 |title=Experimental Studies on the Struggle for Existence |url=http://jeb.biologists.org/content/9/4/389 |journal=Journal of Experimental Biology |publisher=The Company of Biologists Ltd |volume=9 |issue=4 |pages=389-402 |issn=1477-9145}}</ref>。一方で、科学技術史研究者のシャロン・キングスランドは、ロトカは捕食・被食モデルの方には重点的に取り組んでいたものの、競争モデルへの関心は比較的薄く、競争モデル自体の論文を提出したのは1932年の1つだけであることを指摘している<ref name="Kingsland"/>。それに対してヴォルテラは競争モデルに積極的に取り組み、ゲオルギー・ガウゼはヴォルテラの結論を前述のように実験的に検証した<ref name="Kingsland"/>。そのためキングスランドは、[[ジョージ・イヴリン・ハッチンソン]]が呼んでいたように、'''Volterra-Gause equations'''（ヴォルテラ・ガウゼの方程式）と呼ぶ方がより正確だろうと述べている<ref name="Kingsland">{{Cite journal|author =Sharon Kingsland |title =Alfred J. Lotka and the origins of theoretical population ecology  |date =2015-08-04 |journal =PNAS |volume =112 |issue =31 |doi =10.1073/pnas.1512317112 |pages =9493&ndash;9495 }}</ref>。

==脚注==
{{reflist|2}}

==参照文献==
*{{cite book ja-jp 
|author=重定南奈子
|chapter=第1章 数理生態学
|pages=1&ndash;26
|editor=日本数理生物学会
|title=生命・生物科学の数理
|publisher=岩波書店
|series=岩波講座 応用数学 4 [対象 8]
|year=1993
|isbn=4-00-010514-0
|ref={{Sfnref|重定|1993}}
}}
*{{cite book ja-jp 
|others=瀬野裕美（責任編集）
|editor=日本数理生物学会
|title=「数」の数理生物学
|publisher=共立出版
|series=シリーズ 数理生物学要論 巻1
|year=2008
|edition=初版 
|isbn=978-4-320-05675-6
|ref={{Sfnref|日本数理生物学会（編）|2008}}
}}
*{{cite book ja-jp
|others =三村昌泰（総監修）、瀬野裕美・河内一樹・中口悦史・三浦岳（監修）
|author=ジェームス・D・マレー
|translator =勝瀬一登・吉田雄紀・青木修一郎・宮嶋望・半田剛久・山下博司
|title=マレー数理生物学入門
|year=2014
|edition=初版
|publisher=丸善出版
|isbn =978-4-621-08674-2
|ref ={{Sfnref|マレー|2014}}
}}
*{{cite book ja-jp
|author=巌佐庸
|title=数理生物学入門―生物社会のダイナミックスを探る
|year=1990
|edition=初版
|publisher=HBJ出版局
|isbn =4-8337-6011-8
|ref ={{Sfnref|巌佐|1990}}
}}
*{{cite book ja-jp
|author=寺本英
|editor =川崎廣吉・重定南奈子・中島久男・東正彦・山村則男
|title=数理生態学
|year=1997
|edition=初版
|publisher=朝倉書店
|isbn =4-254-17100-5
|ref ={{Sfnref|寺本|1997}}
}}
*{{cite book ja-jp
|author=大串隆之
|chapter  = 3章 昆虫の個体群と群集
|pages=49&ndash;98
|title=昆虫生態学
|year=2014
|edition=初版
|publisher=朝倉書店
|isbn =978-4-254-42039-5
|ref ={{Sfnref|大串|1994}}
}}
*{{cite book ja-jp
|editor= 日本生態学会
|others=巌佐庸・舘田英典（担当編集委員）
|chapter=第3章 競争と共存
|author=巌佐庸
|title=集団生物学
|series=シリーズ 現代の生態学 1
|year=2015
|edition=初版
|publisher=共立出版
|isbn =978-4-320-05744-9
|ref ={{Sfnref|巌佐|2015}}
}}
*{{cite book ja-jp
|author=R. ハーバーマン
|translator =稲垣宣生
|title=生態系の微分方程式
|year=1992
|edition=初版
|publisher=現代数学社
|isbn =4-7687-0307-0
|ref ={{Sfnref|ハーバーマン|1992}}
}}
*{{cite book ja-jp 
|editor= 日本生態学会 
|title=生態学入門 
|year=2004 
|edition=初版 
|publisher=東京化学同人 
|isbn =4-8079-0598-8 
|ref ={{Sfnref|日本生態学会（編）|2004}}
}}
*{{cite book ja-jp
|translator= 河野昭一・高田壮典・大原雅
|author=Jonathan W. Silvertown 
|title=植物の個体群生体学 第2版 
|year=1992 
|edition=初版 
|publisher=東海大学出版会 
|isbn =4-486-01157-0 
|ref={{Sfnref|Silvertown|1992}}
}}
*{{cite book ja-jp 
|editor=北原武
|title=水産資源管理学 
|publisher=成山堂書店 
|year=2003 
|isbn=4-425-82991-3 
|ref ={{Sfnref|北原（編）|2003}}
}}

==外部リンク==
{{Commonscat}}
*{{Kotobank|ロトカ‐ヴォルテラの式|2=法則の辞典}}

{{DEFAULTSORT:ろとかうおるてらのきようそうほうていしき}}
[[Category:微分方程式]]
[[Category:力学系]]
[[Category:群集生態学]]
[[Category:個体群生態学]]
[[Category:数理生物学]]