ロトカ・ヴォルテラの競争方程式

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テンプレート:Otheruses ロトカ・ヴォルテラの競争方程式(ロトカ・ヴォルテラのきょうそうほうていしき)は、競争関係にある生物の個体数の変動を表す数理モデルの一種であるテンプレート:Sfn。2つの種AとBが食料や生息場所などを巡って競争するとき、種Aの存在は、種Bの繁殖を阻害する。種Aにとっても、種Bの存在は繁殖を邪魔する。このような、お互いの存在がそれぞれの個体数増殖に相互にマイナスの影響を与える点を含め、2種の個体数の時間変化を表したモデルがロトカ・ヴォルテラの競争方程式である。

名称はアルフレッド・ロトカヴィト・ヴォルテラに由来するテンプレート:Sfn。競争方程式以外に競争式競争系競争モデル、単にロトカ・ヴォルテラ方程式などとも呼ばれるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn[1]。英語では Lotka-Volterra competition model や Lotka-Volterra equations などと呼ばれるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn

導出

モデルを導出する過程には様々なものがあるが、典型的にはロトカ・ヴォルテラの競争方程式はロジスティック方程式の拡張として導入できるテンプレート:Sfn。簡単な状況から始めるために、2種ではなく、他の種と生物間相互作用を持たない1種のみが環境内に存在する場合を考える。種が1つであっても、各個体は限られた資源(食料や生息場所)を競い合う。そのため、個体数が増えるほど個体数増加は落ち着いていき、ある程度の個体数で飽和すると考えられる。それを簡潔に表したのがロジスティック方程式で

dNdt=rN(1NK)

という常微分方程式で表されるテンプレート:Sfn。ここで、t時間N は個体数、テンプレート:SfracN の時間微分で個体数増加率を示す。r内的自然増加率と呼ばれる、K環境収容力と呼ばれる正の定数である。右辺の (1 − テンプレート:Sfrac) が個体数が増えるほど個体数増加率を抑える効果を与えているテンプレート:Sfn

ここにもう一種が加わり、元からいた種と限られた資源を巡って競争する状況が考えられる。それぞれの種を「種1」「種2」と呼ぶとする。種1の存在は、種2の繁殖を阻害する。種1にとっても、種2の存在は繁殖を邪魔する。このように、競争関係にある2つの種が存在するとき、お互いの存在がそれぞれの個体数増殖に相互にマイナスの影響を与えるテンプレート:Sfn。この点を含め、2種の個体数の時間変化を表したモデルがロトカ・ヴォルテラの競争方程式である。

ロジスティック方程式では、自らの個体数増加による個体数増加率への抑制効果を (1 − テンプレート:Sfrac) で表していた。同じように、他方の種の個体数が多いほど、一方の種の個体数増加率は抑制されると考えられる。そのため2種の場合は、種1に対する抑制の効果を (1 − テンプレート:Sfrac) で表すことが考えられるテンプレート:Sfn。ここで、N1, N2 は種1と2のそれぞれの個体数である。α12 が種2の個体数が種1の個体数増加率に与える影響の大きさを与える正の定数であるテンプレート:Sfn。このようなモデリングによって、種1と種2についてのロトカ・ヴォルテラの競争方程式は、以下のような2変数の連立常微分方程式で表されるテンプレート:Sfn

dN1dt=r1N1(1N1+α12N2K1),dN2dt=r2N2(1N2+α21N1K2).

ここで、r1, r2 は種1と種2のそれぞれの内的自然増加率、K1, K2 は種1と2それぞれの環境収容力である。α12 が種2の個体数が種1の個体数増加率に与える影響の大きさを、α21 が種1の個体数が種2の個体数増加率に与える影響の大きさを表している。α12α21競争係数と呼ばれるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn

同じモデルは

dN1dt=N1(r1β1N1γ12N2),dN2dt=N2(r2β2N2γ21N1)

という形式でも表され、使われるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnβ1, β2種内競争係数と呼ばれ、γ1, γ2種間競争係数あるいは単に競争係数と呼ばれるテンプレート:Sfn。上のモデルの係数との関係は K1 = テンプレート:Sfrac, K2 = テンプレート:Sfrac, α12 = テンプレート:Sfrac , α21 = テンプレート:Sfrac となっているテンプレート:Sfn。よって、α の値は種間競争の強さと種内競争の強さの相対値ともいえるテンプレート:Sfn

解の振る舞い

アイソクライン

テンプレート:See also ロトカ・ヴォルテラの競争方程式の陽な解は求まっていないテンプレート:Sfn。アイソクライン法によって解の大域的な振る舞いを知ることができるテンプレート:SfnN1-N2平面上のアイソクラインは

0=r1N1(1N1+α12N2K1)

または

0=r2N2(1N2+α21N1K2)

を満たす曲線である。この条件を満たす曲線は

直線1:N1=0
直線2:N2=0
直線3:K1N1α12N2=0
直線4:K2N2α21N1=0

という4つの直線であるテンプレート:Sfn。1番目は N2 軸と一致する直線である。2番目は N1 軸と一致する直線である。3番目はN1切片K1N2切片が テンプレート:Sfrac の直線である。4番目はN1切片テンプレート:SfracN2切片が K2 の直線である。これらの直線を境界にして、それぞれの個体数増加率の正負が切り替わる。現実の生物個体数は正の値であるから、特に関係するのは3番目と4番目の直線である。3番目の直線上では、テンプレート:Sfrac = 0 であるから、この直線を通る解は平面上を上下方向(N2軸方向)にだけ動く。そのため、このアイソクライン直線を傾き無限大のアイソクラインと呼ぶテンプレート:Sfn。一方、4番目の直線上では、テンプレート:Sfrac = 0 であるから、この直線を通る解は平面上を左右方向(N1軸方向)にだけ動く。そのため、このアイソクライン直線を傾き0のアイソクラインと呼ぶテンプレート:Sfn

定性的な挙動

テンプレート:Multiple image アイソクラインを使って、解(時間が経過したときのそれぞれの個体数の変化)の定性的な挙動を知ることができる。すなわち、N1-N2相平面上の点(各個体数)がアイソクライン直線の内側、外側、あるいは直線上にあるかどうかに注目すれば、個体数増加率の値そのものは不明でも、個体数増加率の正負は知ることができるテンプレート:Sfn。直線3の場合は

なので、内側では N1 は増加する方向、外側では N1 は減少する方向、直線上では N1 は増減しないことがわかる(上図)。直線4の場合も同様に、内側では N2 は増加する方向、外側では N2 は減少する方向、直線上では N2 は増減しないことがわかるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn

直線3と直線4を重ね合わせることで、各個体数が変化する方向が判明する。N1-N2相平面上で直線3と直線4の相対的な位置関係は、係数の値によって次のように4種類あるテンプレート:Sfn

(1) K2 < テンプレート:Sfrac かつ K1 > テンプレート:Sfrac のとき
(2) K2 > テンプレート:Sfrac かつ K1 < テンプレート:Sfrac のとき
(3) K2 > テンプレート:Sfrac かつ K1 > テンプレート:Sfrac のとき
(4) K2 < テンプレート:Sfrac かつ K1 < テンプレート:Sfrac のとき

したがって、それぞれの場合ごとに解の大局的な挙動が異なり、下図のようになるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn

アイソクライン直線の4つの組み合わせとそれぞれの場合における個体数 N1, N2 が変化する方向
(1)のとき (2)のとき
(3)のとき (4)のとき

平衡点と最終結果

解の平衡点テンプレート:Sfrac = 0 かつ テンプレート:Sfrac = 0 を満たす点であるテンプレート:Sfn。それらは、

平衡点1:(0, 0)
平衡点2:(K1, 0)
平衡点3:(0, K2)
平衡点4:(K1α12K21α12α21, K2α21K11α12α21)

という4点であるテンプレート:Sfn。これらの平衡点の安定性は、競争係数と環境収容力の値によって次のように決まるテンプレート:Sfn

(1) K2 < テンプレート:Sfrac かつ K1 > テンプレート:Sfrac のとき:平衡点4は第1象限に存在せず、平衡点1, 3は不安定、平衡点2が大域的に安定
(2) K2 > テンプレート:Sfrac かつ K1 < テンプレート:Sfrac のとき:平衡点4は第1象限に存在せず、平衡点1, 2は不安定、平衡点3が大域的に安定
(3) K2 > テンプレート:Sfrac かつ K1 > テンプレート:Sfrac のとき:平衡点1, 4は不安定、平衡点2, 3が局所的に安定
(4) K2 < テンプレート:Sfrac かつ K1 < テンプレート:Sfrac のとき:平衡点1, 2, 3は不安定、平衡点4が大域的に安定

これらの結果を具体的に言い換えると、十分な時間経過後、それぞれの個体数は次のような結果になるといえる。

(1) 種2は絶滅して種1が残る。種1の個体数は K1 の値に収束する。
(2) 種1は絶滅して種2が残る。種2の個体数は K2 の値に収束する。
(3) 種2は絶滅して種1が残るか、種1は絶滅して種2が残るか、初期の個体数によってどちらかの結果となる。個体数は K1 または K2 の値に収束する。
(4) 種1と種2が共存して残る。それぞれの個体数は テンプレート:Sfracテンプレート:Sfrac の値に収束する。
4つの場合における解曲線の例
(1)のとき (2)のとき
(3)のとき (4)のとき

競争排除則

テンプレート:Main モデルから得られた結果は、(1), (2), (3) のケースでは片方の種はもう一方の種によって排除されるということであったテンプレート:Sfn。この結果は多くの場合に共存は不可能ということを示唆しているテンプレート:Sfn。ロシアの生態学者ゲオルギー・ガウゼは、ロトカ・ヴォルテラの競争方程式が示す種間の排他性の存在をゾウリムシイースト菌を用いた実験で確認したテンプレート:Sfn。この結果をもとにガウゼは、同じニッチにある複数の種は平衡状態で長期的に共存できないという原則を提唱し、今日では競争排除則と呼ばれるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn

名称

名称については、競争方程式以外に、競争式競争系競争モデルなどとも呼ばれるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。表記揺れとしてヴォルテラではなくボルテラとも記されるテンプレート:Sfn。他にロトカとヴォルテラの名を冠した生物の個体数のモデルとして、ロトカ・ヴォルテラの方程式がある。こちらは競争関係ではなく捕食・被食関係にある2種の個体数変動を表すモデルである。ただし、本記事で説明してきた競争関係を表すモデル(方程式)についても単に「ロトカ・ヴォルテラの方程式」と呼ぶことも多い[2]

ロトカ・ヴォルテラの競争方程式はアメリカの数学者アルフレッド・ロトカとイタリアの数学者ヴィト・ヴォルテラに由来する。方程式の初出として、ロトカの1925年の著作、ヴォルテラの1926年あるいは1931年の論文・著作がしばし引用されるテンプレート:Sfn[3]。一方で、科学技術史研究者のシャロン・キングスランドは、ロトカは捕食・被食モデルの方には重点的に取り組んでいたものの、競争モデルへの関心は比較的薄く、競争モデル自体の論文を提出したのは1932年の1つだけであることを指摘している[2]。それに対してヴォルテラは競争モデルに積極的に取り組み、ゲオルギー・ガウゼはヴォルテラの結論を前述のように実験的に検証した[2]。そのためキングスランドは、ジョージ・イヴリン・ハッチンソンが呼んでいたように、Volterra-Gause equations(ヴォルテラ・ガウゼの方程式)と呼ぶ方がより正確だろうと述べている[2]

脚注

テンプレート:Reflist

参照文献

外部リンク

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